35) 鳥羽上皇と玉藻(白面金毛九尾の狐) | ******研修医MASAYA******

35) 鳥羽上皇と玉藻(白面金毛九尾の狐)

コーヒーブレイクの時間に彼女が質問してきた。
「先生、北条政子は駆け落ちするくらい頼朝にお熱だったのね、何がそんなに良かったのかしら。聞くところによれば、頼朝はそれほどいい男じゃないし、反逆者の子供だったのでしょう?それに、義経だってすることが人間業とは思えないし・・・。」
「そうだね、義経の行動は、五条大橋の欄干を飛んだり、一ノ谷の崖から降りる話や、屋島の奇襲、壇ノ浦の八艘飛びなど確かに普通じゃないよね」
「そうよ、普通の人間とは思えないもの」
「じゃあ、ちょっとしたエピソードを話そうか」
「うん、たまには面白いお話ししてよ」

「ちょと詳しい話になるけど・・・。頼朝と義経の父親は義朝だが、頼朝は正妻である熱田神宮大宮司藤原季範の3女由良御前の三男で、義経は愛妾常磐御前の三男なんだ。常磐御前は素性不明だが絶世の美女だった。三人の子供が今若、乙若、牛若ということは知ってるよね?」
「それくらい知ってるわ。義経がハンサムだったのは母親が美人だったのね。」
「そうかもしれないね」
「じゃあ、頼朝は大顔であまりハンサムじゃなかったのに、駆け落ちみたいなことまでした北条政子は頼朝のどこに惚れたのかしら?」
「うーん、男と女の間だからな・・、顔だけじゃなくって、いろいろあるからね。本当のことは政子に聞いてみないと判らないな・・・」
しばらく、宙を見ながら何から話そうかと考える。


「美女と言えば義経の愛妾の静御前もそうとう美人だったと言われているよ」
「知ってるわ、静御前って白拍子だったんでしょう?」
「そうだといわれているが素性は常磐御前と同じでよくわかっていないんだ」
「不思議ね、義経の周りには素性の知れない美人がよくいるのね」
「美人と言えば、伝説なんだけれど、ちょうど同じ頃玉藻の前というやはり素性の知れない美人がいたこと知ってる?」
「知らないわ」
「玉藻の前は妖力を使って鳥羽上皇に気に入られるようにし、契りを結んだ」
「Hをしたのね」興味津々の返事をしてくる。
「そう、その後から鳥羽上皇の体調が悪くなり、いっこうに良くならなかった。」
「Hばかりしていたんじゃないの?」
「そうかも知れないけど、医者がいろいろ考えたがぜんぜん判らなかった。ところが映画でも有名な陰陽師安倍晴明が登場してきて、上皇の体調不良のその原因が玉藻の前で、しかも玉藻の正体は九尾の狐であると見破った。正体を知られた玉藻の前は白面金毛九尾の狐の姿に変わり宮中から逃げ出した。」
「怖いわ・・・・・それで?」
「その後、今の栃木県にある那須野で婦女子をさらったり悪さをしているのが宮中まで伝わり、鳥羽上皇は、九尾の狐討伐軍を編成し安倍晴明も行くように命じた。一回目は失敗したけど、二回目には対策を十分に練っていたので、九尾の狐を退治できた。」
「狐さん、かわいそうね」
「そうだね、九尾の狐は鳥羽上皇のことが本当は好きだっただけなのかも知れない。それを鳥羽上皇がHばかりしすぎて体調不良になっただけ、そして安倍晴明がばらさなければ幸せだったかも知れないね」
「そうよ、鳥羽上皇がスケベだっただけよ!体調不良は自分の所為よ」
「そのあと、九尾の狐は巨大な毒石に変化し、近づく人間や動物等の命を奪ったので殺生石とよばれるようになり、それが今でも栃木県那須郡那須町湯本にあるんだ」
「ふーん、先生って変なことまで知ってるんだ。ねえ、その九尾の狐って何?」


「昔、中国やインドで美しい女性に化けて世を乱し悪行を重ねていた白面金毛九尾の狐のことで、今から八百年程前の鳥羽天皇の時代に日本に来て『玉藻の前』と名乗って日本を亡ぼそうとしたといわれているんだ」
「じゃあ、やっぱり悪い狐だったんだ」
「そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないよ」
「えー?、どうして?」
「うーん、よく解らないけど、玉藻はそんなに悪くないような気がするんだ」
「変なの!じゃあ今でも九尾の狐いるかも知れない?」
「いるかもしれないなぁ・・・・・」
「わたし、そうかも・・・」
「えっ!そんなことないよ」
「ひどいわ、私、美人じゃないの?」
「美人だよ、でも妖力ないからね。妖力あったらもっと勉強できると思う。さあ休憩はこれくらいにして、数学の勉強しよう」
「もっと、先生のお話聞きたいのに。」
「今日はこれくらいにしないと、時間が無くなっちゃうので、また今度にしよう」


なんとか、我が儘を我慢させ、その後は順調に勉強を終え自宅に帰った。
部屋に帰ると、夏風邪でも引いたのか、急に体がだるくなったので寝ることにした。
ベッドに横になり、目を閉じ今日の話を思い返す。