15) イメージチェンジ | ******研修医MASAYA******

15) イメージチェンジ

(1)


部屋に戻り、昨夜のことを思い出す。
彼女には、お世話になっているだけでなく、やはり魅力を感じるから精一杯尽くすことができ、女性を愛することで自分の存在を確認している。
女性の喜ぶ姿、表情が自分を勇気づけ頑張らせてくれる。
自分はちっぽけで弱い存在である、それを強いものへと導いてくれるような気がしてならない。
はたして、この世でどれだけの人が自分自身の存在を認識しているのだろうか?
またどのような方法・手段で、実感・認識しているのだろうか。
少なくとも自分にはまだハッキリとしたものはない。
今の自分は、女性に尽くし、女性から自分の存在を認めてもらうことしかない。
国家試験に合格し医師になれば、新しい自分を見つけられるのだろうか、まだ判らない。

気を取り直してイヤーノートを読み返し、外科と内科の過去問を解き進める。
昼食も冷蔵庫の中にあるあり合わせのもので済ませ、夕方まで勉強する。
雨宮の質問に答えられ教えることができるように、雨宮が喜んでくれる顔を想像しながら、勉強に集中する。


少し疲れたので、ベランダに出て外の空気を吸う。
暑い日が続いている。
太陽に目を向けるとクラクラした感じがする。
室内に戻り、ソファーにもたれながら瞼を閉じ、思いを巡らす。

何故か、雨宮のことが気にかかる。
この勉強も、自分のためでなく雨宮のためにしているのだろうか?
雨宮の喜ぶ顔が見たい。好きになったのかな・・・。
そんな時、いつも高校の頃の高瀬由美の顔が頭の中をよぎる。
今の自分があるのも彼女の存在が大きい。今の自分を見て、認めてもらいたかった。
教師のいった言葉は間違いない事実でしかも正しい。
娘のことを気遣う親として、開業医でPTAの会長でなくとも当然のことだろう。
端から見れば偉ぶっているようにみえるが、親の気持ちとしては偉ぶっているのではないと思う。
当時も今も同じだろう、所詮、職人風情の子では相手にしてもらえるとは思えない。
雨宮もそうだろう、医学部の同級生と言っても親が違う。
結婚となれば親同士の付き合いも出てくるだろう。
高校卒業後2年間の生活や今のアルバイトも秘密にしているので、知られた時は軽蔑されるだろう。
人は色々な経験をして成長している。
下々のことなど全く知らずに生活している人たちには到底理解されるものではない。
自分自身は決して後悔していないし、悪いことをしているとは思っていない。
女性を食い物にしていると思われるだろうが、自分は決して自分から女性には求めない。求められた時は精一杯お応えする、そして喜びと満足を与える。
それは自分の存在を再認識させ、たえず迷っている自分を勇気づけ、生きる方向を与えてくれる。
これまでの経験が今の自分を作っている。それを否定することは今の自分を否定することにもなる。それだけはしたくない。
職業や立場で人を評価するもべきではないと言われるが、人は自分のこととなると冷静に判断できなくなってしまう。
いくら説明しても、その世界を知らない人には本当のことは分かってもらえない。
次から次へとそんな思いが頭の中をかけ巡る。

思い直し
どうしようか、雨宮にはすでに素顔はばれているし、雨宮も内緒にしてくれてるしな。良い子だと思うし、我が儘だが可愛いところがあり、自分の好みの女性でもある。
どことなく高瀬由美に似たとこるもある。
本当の自分を理解してくれるような気もするが・・・。
明日は美容院へ行き、今風に染めてカットしてもらい雨宮を驚かせてみようか・・・。
そう思うと急に楽しくなってきた。
早速、電話で行きつけのBe-Beカッティングサロンに明日の予約を入れる。
急に元気が出てきた。
今夜は千香さんの病院の院長夫人(恵子さん)と同伴で出勤することになっている。
いつもの目城駅近くのホテル・リッチ東京にお迎えに行く予定。
早速、シャワーを浴び、ほかの女性の香りが残らないよう、コロンも少し多めにつけて出かけることにした。



(2)

最近は指名も増え、収入もアルバイトにしては割と多くなり、医者の給料よりも良いかもしれない。

昨夜は恵子さんのお相手で帰りが遅くなり、部屋に帰ったのが午前2時。
彼女は、ご主人に女子大生の彼女がいることを知っていた。
その悔しさもあってかベッドの中では激しく求めてくる。
私もプロ意識をもって満足するまでサービスをする。
女性の喜ぶ姿は美しい。
最近、医者よりもこちらの方が自分に合っているのではないかと思ってしまう


彼女は、ご主人を問いつめればどうなるかは十二分に解っているようで、娘のこともあり、好きにさせているらしい。
院長先生が彼女とレストランアロラブッシュ食事をしていた光景を思い出しながら、腕の中にいる恵子さんの話を聞いていた。
仕事柄余計なことは口にしないことにしている。ましてや佐東病院の知恵さんといたことも秘密である。
知香さんと恵子さんが情報交換しているかどうかは判らないが、もし情報交換しているとしたら、どんな些細なことも口には出来ない。

起きたのは10時半、遅い朝食を済ませ、明日から雨宮との勉強会の準備をする。
午後2時に予約を入れておいたBe-Beカッティングサロンへ行く。
「いつもと同じで良いですか」
「今日はいつもより明るい茶にして、カットもこの雑誌に出ている様にして下さい」
「あら、珍しいですね、どうされたのですか」
「夏休みになったものだから、ちょっと気分転換ですよ」
いろいろ世間話をしながら染めとカットをしてもらっう。
1時間半で終わり、鏡に映った自分の顔を見る。
「ちょっと格好良くなったなかな」
「とっても素敵ですよ。雰囲気が全然違い、今風で格好いいと思います。別人ですよ」
気分を良くしてBe-Beを出て自分のマンションに戻る。

明日は朝9時に犬塚駅前で雨宮と待ち合わせて、雨宮の車で軽見沢の別荘へ行くことになっている。
全身の写る鏡の前で、あれこれと服装を替え、一番無難でお洒落な組み合わせが決まった。
白の綿のジャケットに薄いベージュの綿パンと黄色の綿シャツ。
靴は白のDESMOND DUNK。
コンタクトをつけてサングラスは秘蔵のグッチ1797 にした。
そのあと、3日分の着替えと参考書・問題集をキャリーバッグに詰める。
滅多に使わないが、念のため、コンちゃんをヴィトンのサン・ルイに忍ばせておいた。
夕食も部屋で軽く済ませ、4時間ほど内科と泌尿器科の問題集を解く。
いつもより早めにベッドに入り、明日のことを色々考えていると、いつのまにか眠ってしまった。