思っていても
言葉にできないことはある
思っていることを
すべて言葉にできるわけではない
世を捨てた詠み人知らずの詩(うた)が笑ってる
言葉にできることだけが言いたいことではない
言葉にしたから
必ずしも言いたいこととは限らない
諍いの
買った言葉と
売った言葉が
いともたやすくすれ違う
いつも使っているから
間違えないわけではない
同じ言葉でも人により同じ意味とは限らない
頑なな言葉が
身を寄せ合ってうずくまる
言葉にしたからといって
伝わるとは限らない
伝わったからといって
心に届くとは限らない
宛先不明の手紙が今日もどこかで泣いている
崩れ落ちる階段から
足を踏み外さないように
駆け上がるので精一杯
そんな一生しか送れないかもしれない
手首から噴き出る血潮が
生命の鼓動を物語る
この手がもし翼にでも変わったら
この苦しみから逃れられるのに
ヘイヤハイヤ
ホイヤホイヤ
ハイヤハイヤ
北から来る子は
エェ~イヤサァ
北風小僧をとものうぉて
日暮れ小暮の帰り道
現(うつつ)の淵の守人の
童の唄のその先は
玄孫の眠る籠揺らす
ホォレ~ホイ
南の吾人は
ヨ~イヤサァ
わらしべ長者の気まぐれに
蔵持ち瓢箪鈴なりの
今太閤の御代なれば
多田羅の山が群れをなす
左団扇のお大尽なり
ハ~イヤサァ~
東の櫂は
ホ~トイナァ
投網打つ手の手捌きは
鎌鍬持って
狩人(かりびと)の
懐忍ばす幾銭に
青菜に塩の優るとも
朝餉の烟が今日も立つ
ホホホッホイ
西の鳥居の
ト~イヤサァ
盛られた酒が囃し立て
辻の土踏み舞う獅子の
揃うて鳴らした太鼓笛
柏打つ手が袖を振りゃ
稲穂を祝って踊りゃんせ
ハ~イノハイ
サ~イノサイ
はかりかねる相手の気持ちに苛立って
なじってしまった
裏切った
裏切られた
取った
取られた
そんなことではなかったのに
そんなつもりもないのに
何気なくの言葉を
取り違えられていく
言い訳はただの取り繕い
そんな風に思われてしまう
狂い始めた歯車は
閉じていく心
「おい」と言えば、
「はい」と答える
「たまには」と言われれば、
「あぁ」と答える
少し薄めなのがおまえは好きで
私は苦いくらいが丁度いい
おまえのつむじが曲がったときは
幾度も入れ直しては機嫌を取り
子どもたちの節目には
新しいのを買ってきて
子どもたちがいなくなった今の静けさにも
相変わらずの香りが漂い
たまの電話で
はしゃぐ孫の声を聞いた後では必ず
嬉しそうに入れに立つ
読みかけの本を置き
「なぁ」
編み物の手を止めて
「はい」
「そろそろお社の櫻、見頃じゃないか」
「そうですね」
毎年のような会話
2杯目を少し残し
杖と互いを頼りにしながらの足取りで
春の風を受け
ゆっくりと
二人して
愛おしく
狂おしく
そして乙女は潤しく
その瞳に恋をし
その口元には微笑みをあたたえ
けれど心は届かぬ想い
それでもなお想い絶やさず
まさか
まさかと
幾度も自分に問いかけた
切ないばかりに
鼓動は高鳴り
言い得ぬ想いがつのるばかりで
それでも
なお想い絶やさず