水に流すなら夜にしなさい
 

行方が見えない夜に
 

先が探せない夜に
 

行き先を目で追えない夜に
 

見えなくなるまで見送ることなく
 

きびすを返しなさい
 

後ろ髪を断ち切るように
 

未練を残さないように
 

背中を向けなさい
 

それで
 

何もかもなかったことにできる
 

それで
 

すべてなかったことにしなさい

 

 

 

海鳴りがあなたを探している
 

どこにいる
 

どこにいるかと
 

いたるところを探している
 

だけど
 

目の前の海は黙っている
 

それでも海鳴りは探している
 

探し続けている



 

海鳴りを借りてあなたが呼ぶ
 

ここにいる
 

ここにいるよと
 

だから
 

心配するなと言うように
 

だけど
 

目の前の海は黙っている
 

海鳴りだけが叫んでいる
 

叫び続けている



 

海鳴りに乗せて
 

あたなに届けと
 

ありがとう
 

幸せだったと
 

だけど
 

目の前の海は黙っている
 

それでも
 

何度も言い続ける
 

あなたに届けとばかりに




海鳴りがあなたを真似て
 

ありがとう
 

大丈夫だよと
 

いつまでも
 

忘れないというように
 

遠く離れた寂しさを
 

海鳴りだけが抱きしめる
 

凍えた肩を一人抱きしめくれる

 

 

 

費やした時間が体の中を駆けめぐり


流した汗が


君を勇者に変えていく

 

跳べ


跳んでいるうちは


君は夢でなくなる




かけられた声が


心を奮い立たせ


密かな涙が


君を強くする


舞え


舞っているうちは


それは夢でなくなる




たとえ砕け散っても


それは勝者への祝福


恥じることなく

 

悔いることなく


だから


今は


力の限り跳べ

 

思いのまま舞え

 

そして

 

君は希望になる

 

 


あのときはゴメン


でも
 

君といたあの時
 

どうしても踊りたくなったんだ
 

踊れもしないのに
 

笑っちゃうよね
 

だから
 

周りのみんなは笑っていた
 

全部僕の責任だ
 

君は何も悪くない
 

でも聞いてくれ
 

君に恥をかかせようとしたわけじゃない
 

ただ
 

あの時は本当に君と一緒にいられることが
 

うれしくて
 

うれしくて
 

仕方がなかったんだ
 

あの時のお詫びに
 

この花束を受け取ってほしい




花束を君になんて
 

何をいまさらだと思うだろう
 

今まで何も見ていなかった
 

見ようとしていなかったのかもしれない
 

それは
 

何も思っていなかったのも同じだと
 

今になって思う
 

下手な言いつくろいならいくらでもある
 

仕事が忙しかった
 

一緒にいることに安心しきっていた
 

でもそれもこれもみんな
 

理由にもならない愚かな言い訳だ
 

君がいることが
 

君が側にいてくれていることが
 

当たり前だと思ってしまっていた
 

もしまだ間に合うのなら
 

この花束を受け取ってほしい




やっとあなたは戻ってきた
 

でも
 

こんな姿になって
 

戻ってくるなんて思わなかった
 

いえ
 

絶対ないとは思ってはいなかったわ
 

それを口にすると
 

本当になるのではないかと
 

たまらなく不安で
 

とても不安で仕方なかったけど
 

だから
 

無事に帰ってくることだけを毎日祈っていた
 

やっとあなたは私のもとに帰ってきてくれた
 

できたら
 

あなたをもう一度
 

この腕で抱きしめたかった
 

今はせめて墓標に
 

この花束を
 

「おかえりなさい、あなた」

 

 

 

霧の中に佇む国
 

霧にまみれた国
 

霧にむせぶ国
 

霧が起きる原理は知っている
 

けれど誰もが諦めている
 

何もかも覆う尽くす霧に
 

あまりの霧に行方が見えない




霧の中に佇む島
 

霧にまみれた島
 

霧にむせぶ島
 

霧が起きる摂理は知っている
 

けさど誰も何もしようとしない
 

何もかも見えなくする霧に
 

あまりの霧に海との境が見えない



 

霧の中に佇む街
 

霧にまみれた街
 

霧にむせぶ街
 

霧が起きる道理は知っている
 

けれど誰にもどうすることもできない
 

何もかも包み込む霧に
 

あまりの霧に罪が見えない




霧の中に佇む家
 

霧にまみれた家
 

霧にむせぶ家
 

霧が起きる理由はわかっている
 

でも誰もどうしていいのかわからない
 

誰の口も塞ぐ霧に
 

あまりの霧にあなたの心が見えない




霧の中に佇む人
 

霧にまみれた人
 

霧にむせぶ人
 

霧が起きる訳は知っている
 

けれど誰にも気がつかれることはない
 

人々を惑わせる霧に
 

あまりの霧に自分がまったく見えない

 

 

 

 

さまよい歩く街も尽き
 

行き先探しては
 

次の街
 

ふと気付けば
 

プラットホームに立ちすくんで
 

最後の綱の番号は話し中



ためらいは
 

昨日の数だけ増えていく
 

期待を求めて
 

増えていく
 

それでも
 

誰もいない電話だけを傍らに
 

焦点合わぬ空(くう)を見つめている



呼ぶような声は
 

ビル風が起こした空耳
 

誰かを求める絵空耳
 

それでもまだ諦めず
 

ふと気付けば
 

見知らぬビルの上に佇み
 

下からの風に吹き上げられながら

 

 

 

(再掲)

 

 


ひとつひとつ


思い出した先から


とりとめもない話


昔の話


つぶやくように


ささやくように


誰もいない部屋で


グラスの酒だけが聞いている




あの頃流行った歌も口をつく


気に入っていたはずのフレーズを


いまはうろ覚えでくり返す


調子っぱずれのフレーズを


何度も繰り返す


グラスの氷だけが音を立てて


溶けていく




ぽつりぽつり


こぼれ落ちるような思い出話が


あっちこちに飛んだり


つなぎ合わせたり


一人で苦笑い


水滴だらけのグラスは


何も言わない





笑い合った日もあった


口をきかなかった日もあった


見つめ合った日もあった


不安な日もあった


楽しい日もあった


いろんなことを数えるように


思い出す


その思い出を語り合う人も


もうどこにもいない


忘れたくないけど


次第に薄れていく記憶に


写真だけが寄り添う


そばにはぬるくなった


酒がいてくれる夜

 

 

 

朝露が朝日に照られて輝いていても

その朝日は朝露を消していく

誰にも気づかれることがなかった朝露が

何事もなかったようにいなくなる

それでも

朝露を照らしていた太陽は昇っていく

照らされていた露は消えても


我関せずに太陽は昇っていく

 

 

 

大きな一歩
 

小さな一歩
 

胸を張って踏み出す一歩
 

ためらいがちな一歩
 

自信に満ちた一歩
 

不安な一歩
 

清い一歩
 

汚れた一歩
 

堅い一歩
 

柔らかな一歩
 

はじめの一歩
 

最後の一歩

どんな一歩であろうと
 

踏み出した分だけは
 

少なくとも前に進んでいる




大きく出た一言
 

控えめな一言
 

声を合わせた一言
 

独り言の一言
 

潔い一言
 

嘘にまみれた一言
 

嬉しげな一言
 

悔しげな一言
 

大切な一言
 

不毛な一言
 

空っぽの一言
 

重い一言

どんな一言であろうと
 

言ってしまった言葉は
 

もう誰にも取り消せない



 

何気ない一日
 

かけがえのない一日
 

無為に過ごした一日
 

充実した一日
 

悔いを残した一日
 

悔いのない一日
 

忙しい一日
 

暇な一日
 

長い一日
 

短い一日
 

はじめの一日
 

最後の一日

一日一日の積み重ねが
 

一生を形作り
 

そして人は一生を終えていく

 


詩人よ


例えてみよ


生まれた国の言葉も覚えずに


この世を去る子のことを


多くの言葉をあやつるならば


たやすかろう



画家よ


描いてみよ


曲がった指で拭う老婆の涙を


そのままの姿を写し取ることができるなら


その絵に何が描かれ


何が描かれないか表してみよ



宗教家よ


教えてみよ


自分の名も覚えずに逝く子の罪とは何か


人には罪があると説くのであれば


その子をも罪人と呼ぶのかを


説いてみよ



論者よ


論じてみよ


働き盛りであるはずの青年が


痩せ細って


ほこりっぽいテントに横たわっている


この姿を肯定する論を持っておるのか



哲学者よ


答えてみよ


年端もいかぬ子の命が


たやすく踏みにじられる理不尽を


どんな理屈があるのか


答えてみよ