霧の中に佇む国
 

霧にまみれた国
 

霧にむせぶ国
 

霧が起きる原理は知っている
 

けれど誰もが諦めている
 

何もかも覆う尽くす霧に
 

あまりの霧に行方が見えない




霧の中に佇む島
 

霧にまみれた島
 

霧にむせぶ島
 

霧が起きる摂理は知っている
 

けさど誰も何もしようとしない
 

何もかも見えなくする霧に
 

あまりの霧に海との境が見えない



 

霧の中に佇む街
 

霧にまみれた街
 

霧にむせぶ街
 

霧が起きる道理は知っている
 

けれど誰にもどうすることもできない
 

何もかも包み込む霧に
 

あまりの霧に罪が見えない




霧の中に佇む家
 

霧にまみれた家
 

霧にむせぶ家
 

霧が起きる理由はわかっている
 

でも誰もどうしていいのかわからない
 

誰の口も塞ぐ霧に
 

あまりの霧にあなたの心が見えない




霧の中に佇む人
 

霧にまみれた人
 

霧にむせぶ人
 

霧が起きる訳は知っている
 

けれど誰にも気がつかれることはない
 

人々を惑わせる霧に
 

あまりの霧に自分がまったく見えない

 

 

 

 

さまよい歩く街も尽き
 

行き先探しては
 

次の街
 

ふと気付けば
 

プラットホームに立ちすくんで
 

最後の綱の番号は話し中



ためらいは
 

昨日の数だけ増えていく
 

期待を求めて
 

増えていく
 

それでも
 

誰もいない電話だけを傍らに
 

焦点合わぬ空(くう)を見つめている



呼ぶような声は
 

ビル風が起こした空耳
 

誰かを求める絵空耳
 

それでもまだ諦めず
 

ふと気付けば
 

見知らぬビルの上に佇み
 

下からの風に吹き上げられながら

 

 

 

(再掲)

 

 


ひとつひとつ


思い出した先から


とりとめもない話


昔の話


つぶやくように


ささやくように


誰もいない部屋で


グラスの酒だけが聞いている




あの頃流行った歌も口をつく


気に入っていたはずのフレーズを


いまはうろ覚えでくり返す


調子っぱずれのフレーズを


何度も繰り返す


グラスの氷だけが音を立てて


溶けていく




ぽつりぽつり


こぼれ落ちるような思い出話が


あっちこちに飛んだり


つなぎ合わせたり


一人で苦笑い


水滴だらけのグラスは


何も言わない





笑い合った日もあった


口をきかなかった日もあった


見つめ合った日もあった


不安な日もあった


楽しい日もあった


いろんなことを数えるように


思い出す


その思い出を語り合う人も


もうどこにもいない


忘れたくないけど


次第に薄れていく記憶に


写真だけが寄り添う


そばにはぬるくなった


酒がいてくれる夜

 

 

 

朝露が朝日に照られて輝いていても

その朝日は朝露を消していく

誰にも気づかれることがなかった朝露が

何事もなかったようにいなくなる

それでも

朝露を照らしていた太陽は昇っていく

照らされていた露は消えても


我関せずに太陽は昇っていく

 

 

 

大きな一歩
 

小さな一歩
 

胸を張って踏み出す一歩
 

ためらいがちな一歩
 

自信に満ちた一歩
 

不安な一歩
 

清い一歩
 

汚れた一歩
 

堅い一歩
 

柔らかな一歩
 

はじめの一歩
 

最後の一歩

どんな一歩であろうと
 

踏み出した分だけは
 

少なくとも前に進んでいる




大きく出た一言
 

控えめな一言
 

声を合わせた一言
 

独り言の一言
 

潔い一言
 

嘘にまみれた一言
 

嬉しげな一言
 

悔しげな一言
 

大切な一言
 

不毛な一言
 

空っぽの一言
 

重い一言

どんな一言であろうと
 

言ってしまった言葉は
 

もう誰にも取り消せない



 

何気ない一日
 

かけがえのない一日
 

無為に過ごした一日
 

充実した一日
 

悔いを残した一日
 

悔いのない一日
 

忙しい一日
 

暇な一日
 

長い一日
 

短い一日
 

はじめの一日
 

最後の一日

一日一日の積み重ねが
 

一生を形作り
 

そして人は一生を終えていく

 


詩人よ


例えてみよ


生まれた国の言葉も覚えずに


この世を去る子のことを


多くの言葉をあやつるならば


たやすかろう



画家よ


描いてみよ


曲がった指で拭う老婆の涙を


そのままの姿を写し取ることができるなら


その絵に何が描かれ


何が描かれないか表してみよ



宗教家よ


教えてみよ


自分の名も覚えずに逝く子の罪とは何か


人には罪があると説くのであれば


その子をも罪人と呼ぶのかを


説いてみよ



論者よ


論じてみよ


働き盛りであるはずの青年が


痩せ細って


ほこりっぽいテントに横たわっている


この姿を肯定する論を持っておるのか



哲学者よ


答えてみよ


年端もいかぬ子の命が


たやすく踏みにじられる理不尽を


どんな理屈があるのか


答えてみよ

 

 

 


「元気だった」


「懐かしいね」


そんな言葉がとりあえずは行き交う同窓会


そのうち


「変わらないね」


という言葉が合図するかように昔を再現し始める


それとなく仲のいい雰囲気を醸し


どこか見下していた当時の空気を持ち出してくる


そのことに気がついていなかったとでも思っていたのか


それにしても


そんなに今の生活に不満なのか


今の自分は幸せではないのか


今よりまだ少しはマシだった昔に戻って


自分より「下」の人間がいることを確認したいのか


昔のように無邪気さを装って


値踏みしながら笑いつつ


どうマウントをとろうか


ここにいるみんなが手ぐすね引き合っている


やっぱり


来るんじゃなかった同窓会




再会の興奮も一通り鎮まると


探りさぐりで話題をさぐる


やがて行き着く先は


「もう時効」という言葉を


免罪符にした秘密の暴露


今日まで胸に秘していたけど


言いたくてウズウズして


今日ここに来た顔


ついに解放する優越感


誰にも言わない約束は錆び付いて


セピアに色褪せれば


思い出と名前を変えるとでも思っているのか


後暗いということではなくても


触れられたくないことは誰にでもあるのに


そんなことは気にはしない


冷やかされて


潮が引くようにすぐに醒めていく


その程度のことでも


黙っていられない


自分の欲が先走る同窓会


やっぱり


来るんじゃなかった同窓会




アイツ、来てねぇな


って来るわけないか


あんな醜いことされて


来ようと思う人間はいない


アイツが今日ここに来ないことは


すでにあの日に決まっていた


もしかしてアイツが来るかも、というわずかな期待も


奴らの胸の内には少しはあっただろう


忘れた素振りの奴らは


いつまでも声高にはしゃいでいる


そのうち


話すことに尽きかけたら


少し低いトーンで辺りをうかがうように


アイツのことを持ち出すに決まっている


今のところは


誰が口火を切るのか


牽制し合っているところか


笑いながら


うれしそうに


時間が罪を許したとでも思うような顔をして


いや、当時から罪だとは思わない奴ら

やっぱり


来るんじゃなかった同窓会なんか

同窓会なんか二度と来るもんか



 


玄関先で揺れる灯明が

こっちだよと

帰る家に導き

待っていたというように静かに揺れている

さっき打った水が乾きはじめるころ

少し離れた縁側から風鈴の音が聞こえ

立ち上る煙が一揺れ

ただいまと一揺れ



話し足りない時間がせわしく過ぎていく

わずかご滞在では

尽きぬ話は終わらない

蝋燭のように短くなる時間

止まらぬ時間が急かすように

風が風鈴を鳴らし

また来年と

灰だけを残して

灯明が燃え尽き...



 

 

想いは変わらない
 

でもなぜか不安もふきだまっていく
 

きっと
 

それはきっと
 

嘘だと
 

時に見えなくなる気持ちに
 

この身が凍り付きそうなりながらも
 

傾いていくものを支えたい
 

傾いていくものを支えて欲しい
 

離れるときの約束も
 

すれ違っていく時間も
 

変わっていく言い訳に見えてしまう
 

その言い訳が
 

差した魔も
 

見え透く嘘も隠そうとする
 

不穏な予感を打ち消して欲しいのに
 

問いかけにためらい
 

聞きたい答えに耳をふさぐ
 

2人にとってそれが幸せならって
 

他人の言葉だけが聞こえてくる
 

そんなはずがない未来だけが見えてくる

 

 

 

歯車が歯車として生きるためには

周りとは同じ凸凹で

周りと同じ速さで回らなければならない

できなければ捨てられる

そうならないように

同じ凸凹をなし

同じ速さで回る

そして

いつまでも同じでなければならない

捨てられないためにも



周りとかみ合わない歯車は

いつでも交換されてしまう

周りとの同じ速さで回れない歯車は

いつでもはじかれる

真っ直ぐ歩かないとはじかれる

周りと同じ歩調でなければつぶされる



歯車にもなれない自分は

周りと合わせられない自分は

どこに行けばいいのだろう

歯車にもなれない自分は...