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砂場

本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

反社会学講座 (ちくま文庫 ま 33-1)
筑摩書房
パオロ・マッツァリーノ(著)
発売日:2007-07
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「反社会学」といっても社会学を否定するものではない。社会学的な手法(この本では、社会問題を統計データなどを使って検証して、問題点から結論まで導き出す)を使いつつも、今までの社会学とは違った結論へと持っていく。そして、何より「面白さ」を重視する姿勢が素晴らしい。

タイトルに講座というタイトルがついているだけあって、内容も第1回から第20回まである。最初に社会学というものが、いかに「へりくつ」と「コジツケ」によって出来ているのか分析することから、反社会学講座は始まる。

第2回のテーマは「キレやすいのは誰だ」となっている。ここでは凶悪少年犯罪やその低年齢化というのは嘘であり、戦後もっともキレやすかったのは昭和35年に17歳だった人だという結論を様々なデータから導きだす。第6回、第7回のテーマ「日本人は勤勉ではない」では、日本人がいかに怠け者でいい加減かを社会学的に証明して、第8回「フリーターのおかげなのです」ではフリーターが安月給だからこそ、正社員の給料が上がるという、当然のことながらあまりマスコミが言わないようなことが説明されている。

第10回、第11回のテーマ「ふれあい大国ニッポン」がこの反社会学講座の真骨頂だろう。都道府県別の「スナックふれあい」の数の調査から始まり「ふれあい」という名前のついた公共施設の都道府県別の数と少年犯罪や校内暴力、不登校との関係を検証。そして「ふれあい」という言葉は1970年代から使われはじめて80年代に爆発的に広がったことを調べあげ、さらに様々な関係においての「ふれあい」を分析。「ふれあい」という大義名分の名のもとに公共施設が乱立する現状を生んだのは、アジア歴訪の際に「ふれあいのため」と連呼した福田赳夫が始まりだというところはとても読み応えがある。

アジア歴訪はたいした混乱も招かず、無事終わりました。ふれあいばらまき外交は成功しました。ただ残念なことに、これを境にふれあいの価値が暴落したのもまた事実です。ふれあいは、後ろめたいことや真正面からいい出しにくいことをこぎれいにくるむ、便利な包装紙に成り下がりました。ふれあいのイメージは善から偽善へと、大きく変質してしまったのです。(中略)
ふれあいは使えるぞ! 色めき立ったのはお役人のみなさんです。パンドラの箱は開かれました。東南アジアの民衆を丸め込むだけの恐るべき偽善パワーを秘めたふれあいという武器が、ついにダークサイドの役人たちの手に渡ってしまいました。

後半では学力低下や少子化問題などが取り上げられている。とにかく面白く読めて、今までとは違った角度から物事を見ることができ勉強にもなる。パオロ・マッツァリーノは他の本も読んで、今後とも注目していきたいと思う。


■パオロ・マッツァリーノの本たち


つっこみ力 ちくま新書 645
筑摩書房
パオロ・マッツァリーノ(著)
発売日:2007-02-06

反社会学の不埒な研究報告
二見書房
パオロ・マッツァリーノ(著)
発売日:2005-11


Amazy
祈りの海 (ハヤカワ文庫SF)
早川書房
グレッグ イーガン(著)Greg Egan(原著)山岸 真(翻訳)
発売日:2000-12



最近読んだ短編集では最も面白かった。SF小説だが、ここで描かれているのは「自分とな何か」という問いだ。近未来を舞台にして、特殊な状況に追い込まれた人間を描くことによって、様々な角度から問い掛けてくる。「自分とは何か?」つまり「あなたは誰ですか?」

眠りにつくたびに他人の身体に意識が移動する男の悲しみを描いた「貸金庫」、子供が欲しくてしかたがなくて、ただ赤ん坊を可愛がりたいためだけに人工の子供を生む男「キューティー」。誰もが生まれてすぐから頭に埋め込んだ装置に脳のバックアップを取り、思考パターンを学習させ、脳が老化する前にその装置と脳を入れ替える世界を描いた「ぼくになること」。未来の自分が書いた日記を読むことができ、これから起こることを知りながら生きていく人々を描いた「百万年ダイアリー」。妻のコピーを人質に取られる「誘拐」。画期的な治療薬に自己の存在を否定される「繭」。各宗派の宗教的な思想が頭に流れこみ人々を取り込まれてゆく世界で、それぞれの宗派の影響力が平衡している道を歩きつづける「放浪者の奇跡」。無限に広がるパラレルワールドでその無限の自分をアイデンティティとして持つ男「無限の暗殺者」。あらゆる病気から身を守ってくれる指輪を身につけ、自らは絶対安全な状況にいながら、過酷な難民医療の現場へと赴く医師の苦悩を描いた「イェユーカ」。そして宗教と科学の対立を描き真実と信仰の狭間に揺れる長編並みの読み応えを持った傑作「祈りの海」

自分固有の身体を持たない男。人工的に創られた生命。脳と同じ働きをする装置。決まった道を歩くだけの人生。誰かのコピーとしての人間。思考が影響下に置かれることが日常な世界。無限にいる自分。ここでは確固たる自分というものが崩れてゆく。自分の存在がゆらぐということは、世界が姿を変えることだ。

ありふれた夢をみた。わたしに名前がある、という夢を。ひとつの名前が、変わることなく、死ぬまで自分のものでありつづける。
「貸金庫」



■グレッグ・イーガンの本たち


ディアスポラ (ハヤカワ文庫 SF)
早川書房
グレッグ・イーガン(著)山岸 真(翻訳)
発売日:2005-09-22
万物理論 (創元SF文庫)
東京創元社
グレッグ・イーガン(著)山岸 真(翻訳)
発売日:2004-10-28

しあわせの理由 (ハヤカワ文庫SF)
早川書房
グレッグ イーガン(著)Greg Egan(原著)山岸 真(翻訳)
発売日:2003-07

ひとりっ子 (ハヤカワ文庫SF)
早川書房
グレッグ イーガン(著)Greg Egan(原著)山岸 真(翻訳)
発売日:2006-12


Amazy
赤朽葉家の伝説
東京創元社
桜庭 一樹(著)
発売日:2006-12-28



本屋大賞には間違いなくノミネートされるであろう、今年上半期屈指の作品。本の雑誌が選ぶ「2007年上半期エンターテイメント・ベスト10」の5位。日本推理作家協会賞を受賞。残念ながら落選したが直木賞の候補にもなった。

鳥取の旧家に生きる三代の女たちを中心として描かれた物語、と言えば地味な印象かも知れないが、そこはラノベ出身の桜庭一樹(男性と思われている人がいますが、女性です)、個性豊かな登場人物たちと、息をつかせないストーリー展開は見事だ。登場人物の人生は、その時代を色濃く反映し、戦後から現在にかけての時代の変遷が、登場人物たちが生きる世界の違いとなって描かれている。

直木賞落選は、「時代が描けていない」ということを誰かが言ったのかなと思う。確かに一冊の本で昭和初期から平成の時代を描くとなると、どうしても足早になってしまう。時代を象徴する多様な価値観が描かれているが、それでもその時代の全てを描いたとは言えないのは確かだ。でも足早だからこそ見える世界がここにはあった。固定カメラを森に設置して高速再生させることによって、変化を際立たせるような、新鮮な世界がここにはある。そして、そんな脆く崩れ落ちやすい時代とともに誰もが生きているのだという、悲しみが胸を打つ。

★★★★★

■桜庭一樹の本たち

青年のための読書クラブ
新潮社
桜庭 一樹(著)
発売日:2007-06

砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない (富士見ミステリー文庫)
富士見書房
桜庭 一樹(著)むー(著)
発売日:2004-11

少女七竈と七人の可愛そうな大人
角川書店
桜庭 一樹(著)
発売日:2006-07

少女には向かない職業 (ミステリ・フロンティア)
東京創元社
桜庭 一樹(著)
発売日:2005-09-22


Amazy
夕子ちゃんの近道
新潮社
長嶋 有(著)
発売日:2006-04-27



大江健三郎がひとりで選んで決定する大江健三郎賞の記念すべき第一回受賞作。古道具屋「フラココ屋」のの二階に住み込みでバイトを始めた主人公。店長や常連さんや隣に住む大家さんの娘たちと、次第に打ち解けていく日々をゆったりと描く。

街に引っ越してきて次第に周りと仲良くなっていくパターンは僕の好きな吉田篤弘が得意とするところだが、長嶋有もさすがに上手い。微妙な距離感と、とぼけた雰囲気は読めば読むほど味がある。うまく噛み合っていないような会話の積み重ねられながらも、なんとなく仲良くなっていく雰囲気などは、さすが長嶋有だ。

「石鹸はさ」瑞枝さんは両手の平をくっつけて、ふくらんだ形にしてみせた。すべて楕円形というか、両面がこんもりと盛り上がった形をしているでしょう。はあ。
「それを、片方だけ盛り上がった形で、もう片方はえぐれた形にする」というのが瑞枝さんの発明で、そうすることで、小さく薄くなったときに次の新しい石鹸にくっつけるのが容易になるはずだというのである。
「なるほど」といったのに、瑞枝さんは不服そうだった。もっと大きなリアクションが欲しかったのだ。いけばいいじゃないですか、東京特許許可局に、と水を向けても、面倒くさいもん、許可局、とふてくされた様子になった。
p14

連作短編として一話完結するような物語の流れはあるのだが、読んでいて印象的なのは、やっぱり生活感あふれる日常の風景と、仲が良いからこそ成り立つグダグダした会話。こういう、言ってしまえばどうでもいい会話をノーベル賞作家である世界の大江健三郎が読んだと思うとなんだかおもろい。呆れてしまいそうな気もするけど、受賞させているのだから感心したということか。これが第一回受賞作というのは、今後も期待できそうな。第二回の受賞作が楽しみだ。

★★★★★

■長嶋有の本たち

エロマンガ島の三人 長嶋有異色作品集
エンターブレイン
長嶋 有(著)
発売日:2007-05-31
パラレル
文藝春秋
長嶋 有(著)
発売日:2007-06

ジャージの二人
集英社
長嶋 有(著)
発売日:2007-01

泣かない女はいない
河出書房新社
長嶋 有(著)
発売日:2005-03-15


Amazy
東京ファイティングキッズ
朝日新聞社出版局
内田 樹(著)平川 克美(著)
発売日:2007-05



小学校の同級生だった二人。現在は50歳を過ぎ、大学教授と経営者というそれぞれの立場から得た経験と知識によって繰り広げされる往復書簡は読み応え十分だった。

平川克美は内田樹と幼なじみだけあって、内田樹のことに詳しい。前書きでは彼のことを「おばさん」だとして、こう紹介している。

「おばさん」にあって、「おじさん」にないものとはなんだろう。男というものは、どこかで自分の思想や観念に殉ずるところがあって、変に潔癖なところがあるものだが、「おばさん」には実はあまりそういった潔癖性はないような気がする。「おばさん」はどこかで、自分の思想なんていうものは信じていない。大したものではないと思っているのだ。人生で大切なことは、毎朝決まった時間に起きて庭先を掃き清め、与えられた仕事に精を出し、来る人は拒まず、去る人は追わない。そうやって、日に日を継ぐように暮らしを立ててゆくことであると思っているのである。それが彼女の「常識」なのである。
それを、ウチダくんはこんな風に表現している。

ふしぎなものですが、机上の議論で「不敗」の思想は、一歩表に出ると「ボロ負け」の思想なんですよね。
机の上でも、街頭でも、どちらでも「そこそこ使い物になる」ような思想だけが、結局最後に残る思想だとぼくは思います。

「おばさん」として「そこそこ使い物になる」思想を語る内田氏と、経営者としてまさに街頭で使い物になる思想を積み重ねた平川氏。ここで語られたテーマは、消費社会、大学問題、ビジネス、身体、文学、アメリカなど幅広い。

戦略的という言葉を忌み嫌い、ビジネスの本質は「差異」をつくりだすことであって、大切なのはプロセスだとする平川氏の言葉。「真理と政治」、「理念と現実」の間で「平仄があっている」と判断するこができるのは身体的な感覚だろうする内田氏の言葉など、まさに机上の議論では負けても、街頭では通用しそうな内容だ。

この本で一番気になった言葉はこれ。

「間違えました、すみません」ということばをどれくらい適切なタイミングで切り出せるか、ということに人間の知性はかかっているとぼくは思います。

そういえば典型的なオバサンである僕の母はなぜかハマコーが好きだ。「あの人は悪いことしたら、ちゃんと謝る」と言って、僕からみたら過剰に評価してた。どうせなら悪いことしない人こそ評価してあげたらいいのに、と当時は思ったけど、今思えば政治家なんてみんな何かしら叩けばホコリがでてくる。本人が意図せずとも、何かしらミスはでてくる。ミスしないことだけを評価するという理想主義ではなく、ミスしたときの対処のしかたこそ評価するというのは現実的な判断であり、これも「使い物になる」考え方なのだろう。総理!この本、読んで下さい! 

■平川克美、内田樹の本



株式会社という病
エヌティティ出版
平川 克美(著)
発売日:2007-06
9条どうでしょう
毎日新聞社
内田 樹(著)平川 克美(著)小田嶋 隆(著)町山 智浩(著)
発売日:2006-03

東京ファイティングキッズ・リターン
バジリコ
内田 樹(著)平川 克美(著)
発売日:2006-11-04


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