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砂場

本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

シンジケート
沖積舎
穂村 弘(著)
発売日:2006-12


穂村弘の第一歌集。詩集や歌集はほとんど読まないが、穂村さんは別だ。彼のエッセイが好きなためか、それとも穂村さんの短歌の世界が他より入りやすいのか、けっこうスラスラと読める。もちろん、ここで詠まれている短歌を完全に把握して読み解くなんてことはまったく無理で、なんだかよく分からないけど気に入ったとか、そんな程度。

子供よりシンジケートをつくろうよ「壁に向かって手をあげなさい」

「猫投げるくらいがなによ本気だして怒りゃハミガキしぼりきるわよ」

「キバ」「キバ」とふたり八重歯をむき出せば花降りかかる髪に背中に

サバンナの象のうんこよ聞いてくれだるいせつないこわいさみしい

終バスにふたりは眠る紫の<降ります>ランプに取り囲まれて

これらは穂村弘の短歌のなかではとても有名なものたち。エッセイを読んでいると、僕ですら心配になるような頼りなくて困った人なのだが、短歌を語らせると別人のように頼もしく、的確で鋭いコメントをするし、詠んだ短歌もやっぱりセンスが只者ではないなとといつも感心する。


■穂村弘の本たち
もしもし、運命の人ですか。
メディアファクトリー
穂村 弘(著)
発売日:2007-03

世界音痴
小学館
穂村 弘(著)
発売日:2002-03

求愛瞳孔反射
河出書房新社
穂村 弘(著)
発売日:2007-04

手紙魔まみ、夏の引越し(ウサギ連れ)
小学館
穂村 弘(著)タカノ 綾(著)
発売日:2001-06


Amazy
映画の真実―スクリーンは何を映してきたか
中央公論新社
佐藤 忠男(著)
発売日:2001-11


映画で現実がわかるのか、という問いでこの本は始まる。アジア各国の映画から日本の映画の歴史を振り返って、様々な映画を分析し、そこで写しだされている現実を検証する。結論は前書きですでに書かれている。

映画にかぎらず芸術芸能は基本的に現実の美化のうえに成り立っている。美化というと虚偽のニュアンスを帯びてしまうので理想化といい直してもいいが、同じことである。芸術とは現実の美化によってそこに理想を見ようとする行為だということもできるだろう。美化が行きすぎたりそれに馴れすぎたりして安易に感じられるようになってくると、それを壊して、本当の現実はこうだと主張するリアリズムの動きが現れるが、そうして変革された表現方法も、よく考えるとまた別の意味での美化になっていると分かったりして、現実認識と美化との関係は複雑をきわめるが、ごくごく単純にいえばそういうことになる。

映画とは美化された現実を描いているのだから、映画の分析とはどのように美化されているか、そのように美化されたのはどういう文化や意識があるかの検証ということになる。これはもちろんドキュメンタリー映画も同じである。小説の世界でも「リアリティがない」とか「女性が描けていない」などと批難される本が多々ある。ストーリーの整合性がなかったり、登場人物が意味不明な行動をとったときに言われがちだが、単に読み手の価値観と合わないときや、描かれている世界が現実のイメージとズレているときにも使われているように思う。

アジアの悲惨さと撮ることで知られたある写真家から、映画でアジアの現実を知ることはできない、といわれたことがある。しかし逆に、アジアの悲惨さを知っただけでアジアの人々を知ったことにはならないということもまた確かなことである。われわれは彼らの悲惨以上に彼らの自尊心をこそ知るべきであるし、それを知るためには彼らが容姿をととのえて威儀を正したときに丁重にあつかうことが重要である。ただなんとなく親しくなりさえすればいいということではない。彼らの作った映画を見るということには、彼らが容姿をととのえ威儀を正した姿に出会うのに似た意義があると私は思う。

「われわれは彼らの悲惨以上に彼らの自尊心をこそ知るべきである」という言葉に目からウロコが落ちた。自分とは違う文化、価値観を持った人たちを理解するために、彼らの理想に共感することの大切さを著者は訴えている。他にも本書では「面白さ」についても読み応えのある分析がなされている。小説やマンガなど現実を描く芸術全般にも通じる内容で、けっこう面白く読むことができた。


ということをふまえて、以下、ダヴィンチ7月号の特集「ケータイ小説ってどうなの?」にて女子高生4人の対談を一部抜粋。

書いてる人も登場人物も自分たちと近い存在でしょ。会話の中身とかすごく現実に近い。だからのめり込んだと思う。

現実にありえる話だし、登場人物たちに自分の姿を投影できる。共感できちゃう。

私らにいわせると普通の小説家の人って、「今、起こってること」が描けてないような気がするんだよね。

リアルっていうのは、私は知らないんだけど、となりのお姉さんはよく知ってる、みたいな? ホストやキャバクラが出てくるような作品には現実感があると思うし、興味もある。

たとえばさ、すごくかっこいい男の子たちに囲まれる話とか、ある日突然、大金持ちになっちゃう話なんて、現実感はほとんどないんだけど、それでも主人公が私らと同じ女子高生、しかも等身大のキャラだったら、それはそれでリアルなんだと思うよ。

アジアの国々よりも遠い気がして頭がクラクラする。

ダ・ヴィンチ 2007年 07月号 [雑誌]
メディアファクトリー
発売日:2007-06-06

7月の新潮文庫は僕の好みの本ばかりで困ります。でも迷わず買ったのはパオロ・マッツァリーノ『反社会学講座』。吉田戦車のイラストがはまってますね。机の片隅に置かれたコケシに一目惚れです。



グランド・フィナーレ (講談社文庫)
講談社
阿部 和重(著)
発売日:2007-07-14

バラ色の怪物 (講談社文庫)
講談社
笹生 陽子(著)
発売日:2007-07-14
私が語りはじめた彼は (新潮文庫 み 34-5)
新潮社
三浦 しをん(著)
発売日:2007-07
雪沼とその周辺 (新潮文庫 ほ 16-2)
新潮社
堀江 敏幸(著)
発売日:2007-07
残虐記 (新潮文庫 き 21-5)
新潮社
桐野 夏生(著)
発売日:2007-07
月と菓子パン (新潮文庫 い 86-1)
新潮社
石田 千(著)
発売日:2007-07


フィンガーボウルの話のつづき (新潮文庫 よ 29-1)
新潮社
吉田 篤弘(著)
発売日:2007-07
反社会学講座 (ちくま文庫 ま 33-1)
筑摩書房
パオロ・マッツァリーノ(著)
発売日:2007-07

High and dry(はつ恋) (文春文庫 よ 20-3)
文藝春秋
よしもと ばなな(著)
発売日:2007-07


Amazy
今回はちょっと厳選してみた。


タタド
新潮社
小池 昌代(著)
発売日:2007-07
博士の本棚
新潮社
小川 洋子(著)
発売日:2007-07
青い鳥
新潮社
重松 清(著)
発売日:2007-07
わたくし率イン歯ー、または世界
講談社
川上 未映子(著)
発売日:2007-07

アサッテの人
講談社
諏訪 哲史(著)
発売日:2007-07-21
怪獣記
講談社
高野 秀行(著)
発売日:2007-07-18

ハル、ハル、ハル
河出書房新社
古川 日出男(著)
発売日:2007-07

木洩れ日に泳ぐ魚
中央公論新社
恩田 陸(著)
発売日:2007-07
黙読の山
みすず書房
荒川 洋治(著)
発売日:2007-07
うめ版―新明解国語辞典×梅佳代
三省堂
発売日:2007-07
国のない男
日本放送出版協会
カート・ヴォネガット(著)金原 瑞人(翻訳)
発売日:2007-07

毎日かあさん4 出戻り編
毎日新聞社
西原理恵子(著)
発売日:2007-07-20


Amazy
〈ポストモダン〉とは何だったのか―1983-2007
PHP研究所
本上 まもる(著)
発売日:2007-05

斎藤環の推薦帯にて購入。当時の日本の状況とポストモダンの思想がいかに絡み合っていたかを分析しつつ、浅田彰・柄谷行人・東浩紀・福田和也など時代を象徴する人物について考察。フランス現代思想の簡単な説明もあるので、ポストモダン入門書としては良さそうな気もするが、読み終わってもあまり達成感がないのがつらい。細部については理解できるが全体を通しては何かしらも迫ってくるものがないのが物足りなく感じるのだが、それはこの1983-2007年という時代においてポストモダンの残してきた成果が特に無いということなのだろうか。

おかげで、入門書的な役割を果たしつつも、読んだあとはポストモダンへの興味が薄れてしまうという皮肉な本になってしまっている。アマゾンレビューでは評判がいいので、入門書といいつつも、この時代のポストモダンをそこそこ理解していて、自前の考えを持ってツッコミを入れられる人のほうが楽しめるのではないだろうか。

以下、気になった文章を引用

つまるところニーチェは、そこに宗教を成り立たせている奴隷の心理構造を見出したのだった。「あの人は無実なのに、殺されてしまった。私たちはみなあの人を見殺しにした。私たちはみな罪深い存在なのだ」。スケープゴートの命の贈与によって、人々は圧倒的な心理的負債を背負わされて、永遠に返済不能の債務者にされてしまうのだ。ニーチェはこのような演劇的な構造に巻き込まれるのは御免だ、と言ったのだ。したがってニーチェに従うなら、この映画(引用者注:ダンサー・イン・ザ・ダーク)に対しては感動も、涙も禁物だ。それどころか人々を奴隷化しようとする詐術に、怒りを覚えるべきなのだ。

僕は映画『ダンサー・イン・ザ・ダーク』を観て怒りを覚えたのでニーチェ的には正解ということになるらしい。