大江健三郎がひとりで選んで決定する大江健三郎賞の記念すべき第一回受賞作。古道具屋「フラココ屋」のの二階に住み込みでバイトを始めた主人公。店長や常連さんや隣に住む大家さんの娘たちと、次第に打ち解けていく日々をゆったりと描く。
街に引っ越してきて次第に周りと仲良くなっていくパターンは僕の好きな吉田篤弘が得意とするところだが、長嶋有もさすがに上手い。微妙な距離感と、とぼけた雰囲気は読めば読むほど味がある。うまく噛み合っていないような会話の積み重ねられながらも、なんとなく仲良くなっていく雰囲気などは、さすが長嶋有だ。
「石鹸はさ」瑞枝さんは両手の平をくっつけて、ふくらんだ形にしてみせた。すべて楕円形というか、両面がこんもりと盛り上がった形をしているでしょう。はあ。
「それを、片方だけ盛り上がった形で、もう片方はえぐれた形にする」というのが瑞枝さんの発明で、そうすることで、小さく薄くなったときに次の新しい石鹸にくっつけるのが容易になるはずだというのである。
「なるほど」といったのに、瑞枝さんは不服そうだった。もっと大きなリアクションが欲しかったのだ。いけばいいじゃないですか、東京特許許可局に、と水を向けても、面倒くさいもん、許可局、とふてくされた様子になった。
p14
連作短編として一話完結するような物語の流れはあるのだが、読んでいて印象的なのは、やっぱり生活感あふれる日常の風景と、仲が良いからこそ成り立つグダグダした会話。こういう、言ってしまえばどうでもいい会話をノーベル賞作家である世界の大江健三郎が読んだと思うとなんだかおもろい。呆れてしまいそうな気もするけど、受賞させているのだから感心したということか。これが第一回受賞作というのは、今後も期待できそうな。第二回の受賞作が楽しみだ。
★★★★★
■長嶋有の本たち
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