砂場 -19ページ目

砂場

本の感想と日記。些細なことを忘れないように記す。

ヘヴン
ヘヴン
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川上 未映子
講談社
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今までのクセのある饒舌文体を捨て、読みやすい文章になっている。いじめをテーマにしながらも、神なき世界をどう生きるかというドストエフスキー的な問題意識を抱え込んだ重厚な物語ということもできるし、恋愛小説や青春小説という直球の読みにも耐えうる強度を持った小説だ。

主人公と同じくいじめられる同級生の女子との関係を軸に物語りは進んでいく。残酷ないじめの描写と、彼女との静謐な手紙のやり取り。張り詰める緊張感のなか、少年と彼女が対話する部分だけ少し息をつくことができる。過酷な状況のなか、お互いの存在だけが心の支えとなる二人。

だが、ロミオとジュリエット効果のような単純な物語展開にはならない。二人は心のすれ違いといった偶然的なものではなく、現実の捉え方という根本的な部分で折り合いがつかなくなる。唯物論と唯心論のような図式に絡めとられていく主人公。いじめに意味はあるのか。善とは何か、悪とは何か。強さとは何か、弱さとは何か。

昔、僕が僕であるために勝ち続けなきゃいけない、と歌った歌手がいた。この主人公は勝ったのだろうか、負けたのだろうか。僕であることができたのだろうか。美しいラストシーンが、その美しさゆえに胸を締め付ける。
圏外へ
圏外へ
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吉田 篤弘
小学館
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「カタリテ」は物語を書き始めるも、筆が止まってしまう。将棋友達の円田君と時間をつぶしたり、仕事場に頻繁に顔をだす娘「音」(本当の吉田篤弘の娘の名前)に振り回されているうちに、いつのまにか自分が物語の中に入り込み、また物語の登場人物が現実の世界へと飛び出していく。現実と物語が交じり合った不思議な小説。

ここ数年、新刊が出たら絶対に買う作家・吉田篤弘の『圏外へ』を読了。著者の集大成的なメタ小説。居心地がよい世界を作るのが上手い作風を逆手にとって、小説が終わる寂しさを小説にしてしまうというアラワザに脱帽。

奇妙な物語の登場人物、個性豊かな現実の家族や知人たち。その誰もが魅力的だが、僕の一番のお気に入りは「サテ」少年。物語を先に進める狂言回しとして登場して、いまいち現状を把握できない「カタリテ」を叱咤激励して物語の向かう先へと導いてくれる。

と、ここまで勢いで書いたものの、僕もこのあとどう続ければいいのか分からなくなってしまった。ためしに「サテ」少年を頼ってみようか。

さて。

と書いたものの僕には「サテ」少年は助けにきてくれないようなので、今回はこのあたりで。おーい。
久しぶりにブックオフにていろいろと購入。全部100円。

犬も猫舌
犬も猫舌
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ワニブックス
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腑抜けども、悲しみの愛を見せろ
本谷 有希子
講談社
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宗教が往く
宗教が往く
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松尾 スズキ
マガジンハウス
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ナンシー関の記憶スケッチアカデミー
ナンシー関
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間取り相談室
間取り相談室
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佐藤 和歌子
ぴあ
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戦略的な人の超速★仕事術 (中経の文庫 に 1-2)
西村 克己
中経出版
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ビジネス書を読んでみよう、第3弾。「最速で、最大の成果を得る7つの方法!」ということで、「タイムマネジメント」「ムダ取り」「情報収集力」「整理整頓」「コミュニケーション力」「企画力」「戦略力」という幅広い内容を全7章、37項目に分けて説明。ひとつの項目が4ページでまとめられいる。

この本の何が凄いかというと、その当たりのユルイ本だと一冊で書かれていそうな内容が、ひとつの項目として4ページでコンパクトに説明されているところ。これ1冊で、20冊~30冊分の情報量があるのではないだろうか。しかもその4ページの内訳は、説明が1ページ半、図解が1ページ、ポイントが半ページという構成。あとから見直す時は図解をみれば一目瞭然であり、とりあえず実行すべきことが「ポイント」で書かれている。

とりあえず本書を読めば、ビジネス書の基礎がわかる。あらたにビジネス書を読むときに、その本の内容のレベルを知る指針にもなるし、ここから自分が勉強したい各項目の専門的な本へと移行する際にもこの本で書かれている内容と比較することで、その程度を知ることができる。まさに「戦略的」で「超速」なビジネス書読者には最適だろう。

だが、「戦略的」で「超速」を徹底するために、細部という「ムダ」を取ってしまった本書は、他のビジネス書とは違って、読んでいてあまりテンションが上がらない。ビジネス書というのは、「読者をいかに、その気にさせるか」という部分がとても大事なことがわかる。「あなたの仕事がうまくいかないのは、これを知らないからです。わたしはこれを知ったから、こんなに成功しました。あなたもこれを知ればこんなに成功することができるでしょう」というストーリがあってこそ、読み手は気持ちよくなれる。

ビジネス書を読む効果は「モチベーションが上がる」ことと「仕事に役立つ」のふたつあるのだろう。もちろんモチベーションが上がることは仕事に役立つので完全に分けることはできないが、本書は後者に重点をおいた本ということだろう。前者に重点を置いた本は「啓蒙書」に近くなっていく。書店員的には最近は「啓蒙書」と「ビジネス書」のどちらの棚に置いたらいいのか分からない本が多くて困るなと思う。

とりあえずビジネス書を読んでみようシリーズはここでいったん終了。

第1回『考具』
第2回『地頭力を鍛える』
鬼の跫音
鬼の跫音
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道尾 秀介
角川グループパブリッシング
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江戸川乱歩の影響を色濃く受けた、怪奇幻想短編集。読者をミスリードさせる内容はかなり技巧的で、その伏線が衝撃的な結末へと繋がっていく。今まで僕が読んだ道尾秀介の小説は『ラットマン』『カラスの親指』『星と流れ星』『龍神の雨』。これらは重いストーリーでも、どこか救いと優しさがあったように思うけど、今回はどこまでも暗黒面に突き落とされる、黒道尾だ。今までの道尾ファンは、ちょっと引くかもしれない。

全ての物語に「S」という男が登場する。まったく別人でありながら、「S」という名称を与えられたその登場人物にによって、主人公は心の奥に潜む「鬼」を呼び起こされる。ある時「S」は友人であり、ある時「S」は死んだ連続殺人犯であり、ある時「S」は犯罪をそそのかす同級生であり、ある時「S」は自分をいじめる同級生であり、そしてある時「S」を殺し、またある時は「S」を心の底から愛する。

どこまでも救いのない物語たち。凄惨な事件の数々。いったい、どこで彼らは道を誤ったのか。読み進めるうちに、読者はさらにその闇の奥へと連れて行かれ、そしてそこに置き去りにされる。もし、「S」と出会わなければ、彼らは幸せな人生を歩めたのだろうか。少なくとも、これほどまでに残酷な結末に突き落とされることは無かったかも知れない。けれども、「S」は鬼ではない。人の道を外れて鬼となったのは、まぎれもない自分自身だった。彼らは鬼の姿でありながらも、人の心を宿している。その鬼と人の狭間で、僕は身動きがとれなくなる。

蛇足

どの短編にも何か江戸川乱歩の名作を示唆する要素が含まれていることに気付いた。崖から突き落とす「鈴虫」は「赤い部屋」だし、椅子が重要なポイントとなる「ケモノ」は「人間椅子」、床下を這う泥棒の「箱詰めの文字」は「屋根裏の散歩者」だろう。スケッチブックに人を閉じ込める「悪意の顔」はもちろん「押絵と旅する男」。細かい一致はわからなかったが「よいきつね」はなんとなく「目羅博士」を彷彿とさせる。他にも、一編に複数の要素が紛れ込んでいるものがあるかも知れないが(「ケモノ」には「芋虫」的な部分がある)、江戸川乱歩を全作読んでいるわけではないので、そこまでは分からなかった。「冬の鬼」は夢野久作の「瓶詰地獄」を思い起こさせるものがあるので、怪奇幻想作家がもっといろいろ入り混じっているのかも知れない。

江戸川乱歩傑作選 (新潮文庫)
江戸川 乱歩
新潮社
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瓶詰の地獄 (角川文庫)
夢野 久作
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