『ヘヴン』 川上未映子/講談社 | 砂場

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ヘヴン
ヘヴン
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川上 未映子
講談社
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今までのクセのある饒舌文体を捨て、読みやすい文章になっている。いじめをテーマにしながらも、神なき世界をどう生きるかというドストエフスキー的な問題意識を抱え込んだ重厚な物語ということもできるし、恋愛小説や青春小説という直球の読みにも耐えうる強度を持った小説だ。

主人公と同じくいじめられる同級生の女子との関係を軸に物語りは進んでいく。残酷ないじめの描写と、彼女との静謐な手紙のやり取り。張り詰める緊張感のなか、少年と彼女が対話する部分だけ少し息をつくことができる。過酷な状況のなか、お互いの存在だけが心の支えとなる二人。

だが、ロミオとジュリエット効果のような単純な物語展開にはならない。二人は心のすれ違いといった偶然的なものではなく、現実の捉え方という根本的な部分で折り合いがつかなくなる。唯物論と唯心論のような図式に絡めとられていく主人公。いじめに意味はあるのか。善とは何か、悪とは何か。強さとは何か、弱さとは何か。

昔、僕が僕であるために勝ち続けなきゃいけない、と歌った歌手がいた。この主人公は勝ったのだろうか、負けたのだろうか。僕であることができたのだろうか。美しいラストシーンが、その美しさゆえに胸を締め付ける。