心に響く言葉


冷たい表情の奥に隠れている


とても熱く優しい思いやりに


気づいた




言葉が全てではないことを知る


分かり合えずに離れてしまった


後になって大きな愛に気が付いたら どうすればいい?


素直になればいい


溢れてくる涙に


問えばいい



どんな言葉を投げつけていても


信じていたことに気が付いた


それは・・・


最初にあなたが ボクを信じてくれたから


嬉しくて 忘れられなかったから


大切に思ってくれていることを


感じられたから


何も持たないあの頃のボクのことを・・









「周平は自分からは言えないよ。


周りのことや、いろんなことを考えるから、自分から手を伸ばすことをしないんだ。


のぞみに付き合ってる相手がいるとしたら余計に・・黙って自分が去る。」


「周平、知ってた?


そんな話はしてないけど。」


そう言った時、あのデッサンに書き足された哲也の文字を思い出した。


「どうかしたか?


いつか周平は言っていたよ。


『俺は自分の気持ちを持たずに生きてきた。


だから人の気持ち何てモノも考えたことは無かったんだ。


だけど今、陸とのぞみの気持ちだけはわかるようになった。


例えば隣にいるだけで・・。


自分でそう思っているだけかもしれないけど。』


って・・。


もしかしたら、周平はのぞみを諦めてドイツに戻ったのかもしれない。


周平は欲しいものをどうしても手に入れようって気持ちを持ってないんだ。


自分が我慢することで上手くいくならそれで良いと思ってる。


だから、のぞみを抱き寄せることができないんだろう。」


「陸と周平は相手のことをよくわかっているね。


時々、思っていたよ。


この2人は本当は1人の人間じゃないかって・・。


神様が私に意地悪をしているんだろうって・・。」


「なんだよ、それ。


それより、そんなに飲んで大丈夫か?


寝るならベッドで休めよ。」


「これ位、平気。」


そういう声が震えている。


「泣くなよ。」


陸は隣に座り肩を抱く。


「どうしてかな、私が泣くと陸はこうやって傍にいてくれる。


ずっと小さい頃から変わらず。


やっぱり少し眠ることにする。」


「ああ、それがいい。」


陸は静かな夜に身を預けたまま、グラスの中の氷を見つめている。


のぞみと周平と自分、18のまま時が時が止まっていれば、きっと楽しかっただろう。


だが、現実はそう都合よくいかない。


一番大切なモノをずっと上の方に置いて、日々の暮らしの中で大事なモノを1つ1つ作り、それを増やしながら生きてきたのか?


何か無いと前に進めないことをまるで知っていたかのように・・。


自分も2人と変わらないのかもしれないと、この時初めて気が付いた。




元気よくドアが開く。


「おはよう。


陸、今日は休みでしょ。


映画、行こうよ。」


サンダルを脱いでリビングに駆けてきたリサは一瞬自分の目を疑った。


そこに女の人がいたから。


テーブルに並んだトースト、目玉焼き、サラダ、コーヒー。


キッチンには綺麗な人が立っていた。


・・そう、あの似顔絵の人。


「嘘つき・・。」


リサはその一言を残して部屋を出た。


「早く追いかけなきゃ、陸。」


「俺にはリサを追いかける資格は無いんだ。」


「何言ってるの、急いで。」


「何て言えばいいんだ。


今、何を言ったってリサを傷つけることに変わりはない。」


「そんなこと言ってないで、早く。」


陸が追いかけようとしないから、のぞみがリサの後を追った。


彼女はエレベーターの前で泣いていた。


陸が来るのを待ちながら・・。


だけど、やって来たのはのぞみだった。


エレベーターの扉が開き2人は乗った。


「少し話していいですか?」


マンションの向かい側にあるカフェに誘った。


2人は紅茶をオーダーし、リサが静かに話し始めた。


「もう、いいんです。


私達は上手くいかない。


彼と付き合い始めて3年になります。


彼の隣に相応しいのが自分じゃないことは、わかっていました。


ただ、彼を好きな気持ちはずっと私の中にありました。


諦めることが出来ずに今まで歩いてきました。」


「正直に話します。


彼と昨夜は一緒に飲んでいました。


久しぶりの再会があまりに嬉しくて懐かしくて飲みすぎて眠ってしまいました。」


「信じます。」


「ねえ、戻りましょう。


映画に行くんでしょ。」


のぞみの言葉は不思議とリサの気持ちを静めた。


いま、この人に『陸があなたを選んだのよ。』そう言われたら、無条件に全てを信じられそうな気がした。




「陸、私は帰るね。


ありがとう。


元気でね。」


まるでもう会うことが無いような口調だ。


「ああ、のぞみも。」


「うん。」


静かにドアが閉まる音がした。


「映画、何時から?」


「今日は、やめようよ。」


リサが言った。


「あの人が『陸』って呼ぶの、すごくいいね。」


「そうか?


そんな風に考えたこと無いけど・・。


幼稚園の時からずっと一緒だったからな。」


「歴史があるんだね。」


「そんな大袈裟なモノじゃないよ。」


「陸、さっきの2人、すごく似合っていたよ。


嫌味じゃなくって、そう思った。


あの人でしょ、似顔絵の人。」


「ああ。」


「陸、これ返す。」


預かっていた合鍵を手のひらに乗せた。


少し驚いた顔を見せた陸。


「陸、さよならだよ。


今までありがとう。


そんな顔しないで。


私は大丈夫。


陸も気づいたでしょ。


彼女が何よりも大切だってこと。


だから、さっき追いかけてこなかった。」


「ゴメン。


でも、あの時の言葉は嘘じゃない。


本当にリサとやって行きたいと思ったんだ。


昨夜、彼女の涙を見て思ったんだ。


俺のいなかった8年間、嫌なことや哀しいことにぶつかった時、こいつは独りで泣いていたんだろう・・って。


学生時代、友人達は彼女のことを『泣かない女・強い女』そう言った。


だけど俺は知っていたよ、泣き虫だってことを。


泣くまいとして我慢しても涙があふれる。


俺に気づかれまいとしているのがわかるんだ。


のぞみの最後の涙を見たのは、周平、ほら似顔絵にもう1人男がいただろ、アイツがドイツに発った時だった。


俺達はまだ18だった。」


「話してくれてありがとう。」


「リサには聞く権利があると思ったから。」




ありがとう


だけど・・・


キミの気持ちには応えられない


離れているけれど


彼を大切だと思っている



ずっと嫌いだった自分を 少しだけ好きになれた


彼を好きになって私の中で何かが動き始めた


描けなかった未来


強くありたいと願う心


誰かを愛しいと思う感情



朝 目覚めると 新しい今日が 迎えてくれる


さあ 今日も一日 始まったよ・・と




ねえ キミは 自分のことが好き?


自分の全てを一瞬にして変えてしまう


そんな素晴らしい出会いが きっとある


だから 自分を投げ出さないで



いつも誰かと一緒でないと不安だった


そのために小さな無理もたくさんした


大事だと思っていたのは私だけだったのか


そう思おうとしていたのか・・・




独りで歩くことを選んでからは


すこし自由になった気がした


弱い自分を認めて受け入れた時


新しい世界に続く一本の道が見えてきた



何でも無難に熟す


だけど夢中になれるモノが何一つ無かった


そんな自分が嫌いだった



これからは のんびり歩いて行くよ


進む道の周りにも目を向けながら


大事に育てる夢を探しながら・・



「どうぞ。」


カギを開け、右手で合図する。


暗い部屋に明かりが灯る。


「すご~い。


広くて落ち着いた部屋だね。


それに、キレイに片付いてる。」


「母さんみたいのこと言うんだな。


あっ、どこでも好きなところに座ってて。


いま、氷を持ってくるよ。」


「じゃあ、私はグラスを・・。」


「テレビの横のサイドボードの中。」


「わかった。


陸と、こんな風にお酒を飲むなんてこと、想像したことも無かったな~。」


そんな会話をしながら何種類もあるグラスの中から気に入ったものを3つ選んだ。


「陸、ピアノいいかな~。」


「どうぞ。


のぞみ弾けたっけ?」


「少し習ったの。


周平が初めて聴かせてくれた『あれ』、ショパンの『革命』これしか弾けないんだけどね。」


「ごめん、俺、やっぱりシャワー浴びてきていいかな?


汗かいちゃって気持ち悪いから。」


「うん。」


周平と親しくなって初めて家を訪ねた時、リビングの黒いグランドピアノがとても印象的だった。


陸と2人で何か弾いて聴かせてくれとせがんだ。


「これっきりだからな。」


そう言ってこの曲を聴かせてくれた。


理由もなく涙が頬を流れた。


今でもはっきりと覚えている。


冷たくてやるせなさが音の向こう側に見えた気がした。


それでも周平のピアノが好きになった。


今とは全く違った周平のピアノが・・。


「陸、キッチン借りてもいい?


冷蔵庫の中のモノ食べちゃってもいいんでしょ?」


「どうぞ。」


のぞみの料理の腕前はすごい。


たまに弁当を作って持ってきてくれたり、3人のお別れパーティーだと言って彼女の家でご馳走になったりもした。


どこで習ったのかとか、誰に教わったのかとか問い詰めるオトコ2人に涼しい顔で、


「愛情のスパイスが入ってます。」


そう冗談でかわす。


陸が着替えを済ませてやってきた時、ソファーの前の低いテーブルには幾つかの『つまみ』が並んでいた。


レタスやトマトやキュウリは鮮やかな彩りでサラダに姿をかえた。


多分、このまましおれて捨てることになるだろうと諦めていた、母が庭で栽培したという自慢のほうれん草は、ベーコンと一緒にバターで炒められている。


冷凍庫でカチコチに固まっていたステーキ肉もジャガイモと仲良く並んでいて食欲をそそられる。


少し前にお好み焼きを食べて満腹だったはずなのに・・。


「相変わらず、上手いな。」


「ありがとう。」


用意された3つのグラスを目にすると不思議と心が落ち着く。


「いつかまた、こやって3人でテーブルを囲む日が来るかな~。


ずっと3人一緒にいることが当たり前だと思っていたから、周平が1人ドイツへ行ってしまった時、全部が終わった気になった。


だけど、今日、グランドで陸に会って感じた。


私達はずっと一緒だったのかもしれないって。


周平と、この前会って思った。


陸と周平でなきゃダメだって。


そして今も同じこと考えてる。」


「この前、周平と飲んだ時もグラスは3つ出ていた。


そして、のぞみのことを話した。


俺達のことを話した。」


「私はずっと思い出の中にいるだけなのかな。


3人で同じ未来に向かう図は存在しないの?


周平は無いようなことを言っていた。


陸はどう思う?」


「俺にも見えない。


のぞみ、付き合ってるヤツいるんだろ?」


「うん。」


俺は、彼女と暮らそうと思ってるんだ。」


3人一緒の未来を大事に抱きしめていた。


はっきりと約束をしたわけではないし、勝手な思い込みだと自分に言い続けてきた。


それでも、、心の奥の一番隅っこの小さなところで信じていた。


この時、その全部が崩れていく音が聞こえた気がした。


「のぞみ、いつもメールくれていたんだな。


ずっと気が付かなかった。


ゴメン。」


「そんなことないよ。


陸と向かい合うことから逃げたくせに、陸を自分から切り離すことができなかった。


一方通行で陸と何かで繋がっていたかった。」


「もしかしたら、周平はのぞみの気持ちち近いところにいるんじゃないかな。


この曲を聞いた時、そう思った。」


そう言いながら、周平の創った曲が書いてある譜面をのぞみに渡した。


そして、続けた。