線路沿いの道 -2ページ目

温泉でのひととき

みほのお父さんに連れられ、温泉に行ったことがある。

秘湯とか、そういうものではない。

町のどっかの部署がやっている、公営温泉だ。


大きくて、いかにも役場が作ったという雰囲気の建物の中に

設備の整った浴場がある。

俺とお父さんはならんで服を脱ぎ、湯船につかった。


その昔、俺がまだガキの頃、家に風呂がなかったので

銭湯に通っていた。

父と一緒に。


みほのお父さんと温泉に浸かりながら、そんなことを思い出す。

湯上りに、お父さんはコーヒー牛乳を買ってくれた。

40歳と51歳が並んでコーヒー牛乳を飲み

他愛のない話をした。


また、あの温泉に行きたい。

ひとりの弱さ

気分がだめだと、すべてが悪いほうに思えてしまう。

ひとつの落ち込みが次の落ち込みを呼んで、

徹底的に堕ちていく。


他人が落ちていると、俺はそれをいやがった。

ポジティブになれ、だとか、はまりこむな、などと

説教じみたことを云ったものだった。


本当は、他人の落ち込みに染められて

自分まで落ち込むのが怖かったのだろう。


朝から、作業には集中できた。

仕事というより、リハビリとしてモデリング作業をしていた。

そして気付いたとき、腹が減っていた。


ひとりで食事をする。

それが欝の原因。

ひとりでなにかを食べる、いや、体が食べることを要求することが

ひどく浅ましく、だめなことに思えたのだ。


誰かと会話ができたなら、こんな落ち込みも

すぐに解消できただろう。

みほと話せたら、あっという間に元気になって

温かいごはんを食べただろう。


ひとりでいる弱さとは

自分を保つことの難しさでもある。

俺は自分で居続けられるかどうか、

それが一番、こわいのだ。

朝焼け

7歳の頃、俺は入院していた。

整形外科への入院なので、元気な患者だった。

遊ぶだけ遊んで、疲れたら眠る。

すると、物凄く早起きをしてしまうことがあった。


ちょうど夏場だったので、朝も早かった。

まだ暗い空が、徐々に明るくなる。

世闇が晴れ、青い空にグラデーションしていく景色。

隠れていた太陽が雲を紫色に染める。


7歳の俺は、朝焼けを見てなにかとても凄いものを見た気がして

それからも、早起きしては夜明けを見るようになった。


みほと二人、どこかに出かけて

並んで朝焼けを、眺めたい。