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ここからは小説の世界です
──アマデウスの塔
そこは、特に神に愛された者だけが辿り着くと言われている。
だが、塔を登った者を待つのは、まるでホラー映画のような世界だった。
塔の中に存在する、心の闇を破壊することで現実が好転すると言われている。
しかし、一度でも塔に足を踏み入れると、二度と戻りたくないと諦める者がほとんどだった。
無限に広がる塔の闇の世界を、攻略できる者はいるのであろうか……?
登場人物
◆ 神名 未咲(かむな みさき)
年齢:44歳
特徴:赤髪ロングヘアー痩せ型
性格:繊細/好奇心旺盛/ライトワーカー志望
役割:アマデウスの塔に挑む主人公
【前回のあらすじ】
生霊の存在を知り、未咲は木下たちへの怒りと決別する。
夜の公園の公衆トイレで、ピエロと自分自身の生霊を消した。
翌日、神社に現れた出口の扉を越え、未咲は現実世界へ戻ることができた。
仮面の女「おかえりなさい」
未咲「あ…戻りました」
仮面の女「フフ……生霊ね。
人の心は乱れると自分でもわかんなくなっちゃうくらい、複雑に絡み合い自分を苦しめるのよ」
未咲「はい……私の中で木下先輩への怒りが根強く残っていました。未だにたまに思い出しますし…」
仮面の女「あなたの怒りは愛する人を取られて、かまってもらえない嫉妬にも似てるよね」
未咲「嫉妬ですか……」
仮面の女「木下さんと男を探す過程があなたは楽しかった。
でも木下さんは、飲み会であなたが狙っていた新田くんと結婚した。
フフ……あなたは木下さんにも新田くんにも嫉妬してるのよ。私の好きな人をとった!ってね」
未咲「ダブルで嫉妬してたのか……」
仮面の女「そう。そしてあなたの怒りは、全然連絡を寄こさない彼氏に対してイライラする感情に似てる」
確かに木下先輩と彼氏を探す日々は
ドキドキワクワクして楽しかった……
でも、そんな木下先輩も、
私がいいなと思った新田くんも、
全部消えちゃった………
仮面の女「夢中も少しそれたら執着になる。
一つのことだけに縛られたら苦しいもの。
もっとたくさんの楽しみを見付けてね」
未咲「はい……」
仮面の女「その出来事を引き寄せたのはあなただけど、もしかしたら木下さんとの 縁切りのための出来事だったのかもね」
結構衝撃だった。
あの嫌な出来事は、
木下先輩との縁切りのための出来事だった?
仮面の女「木下さんが結婚して、疎遠になり、あなたは前から辞めたかった会社を辞めた。
その時あなたは木下さんには何も連絡せず辞めた。木下さんからも何も連絡はなかった」
未咲「はい…その通りです………」
仮面の女「それだけの仲だったってこと。
あなたと木下さんの負のエネルギーが磁石のように引かれ合った。
しかし所詮は負のエネルギー。
あまりよろしくないのはわかるよね?」
未咲「わかります………」
仮面の女「木下さんはいい人。
でも、あなたが求めていた“刺激”は持っていなかった」
その言葉に、胸の奥がチクリと痛んだ。
未咲「はい…」
仮面の女「あの頃のあなたは、一歩前へ出て羽ばたきたいと思っていた。
しかし木下さんはとても現実的な人。
そんな木下さんとは、
ずっと一緒にいてはいけなかったのかもしれない。
木下さんはただ道端に落ちてる石(未咲)を、
拾って遊んだだけに過ぎない」
仮面の女「あなたの視点からしても、人生の寄り道が木下さんだっただけ。単なる寄り道が一人のモテない女を幸せにしたんだから良しとしてみたら?(笑)」
仮面のお姉さんは気持ちいいほどに
ハッキリと言った。
木下先輩との出会いは、
刺激に飢えた私の単なる寄り道だった。
そして木下先輩とは負のエネルギーで繋がってて、一緒にいてはいけない人だった。
木下先輩と縁が切れるのは嫌だった。でもその私の気持ちを、強引に断ち切るかのような今回の出来事。
仮面の女「 全てはあなたの幸せのための出来事なんだよ」
未咲「そうだったのか………」
仮面の女「一見いい人でもドライな人はいるし、出会い当初は気が合っても、波長が合わなくなる時もある。
この世はそんな変わり続ける形のない波のようなものよ」
未咲「はい……」
仮面の女「 でもあなたはあの頃のあなたではない!」
お姉さんの声が急に大きくなりビクッとした。
仮面の女「あれからたくさんのことを学び、前向きになり、見えない存在とも自ら触れ合いはじめた!あなたは過去のあなたより急成長して輝いているんだよ!」
未咲「あっ…はい!」
仮面の女「だから大丈夫!過去の恩知らずや、あなたを攻撃した者たちよりうんと幸せになれるし、見えない世界から見たら、あなたの方が輝いて見えているんだよ!」
未咲「私が………」
仮面の女「 そう!あなたは神に特に愛されてる女!まだまだこれからだよ!!」
胸に熱いものが込み上げてきた。
この人は嘘は言ってないし
凄いパワーのあることを言ってくれてる。
未咲「ありがとうございます!」
仮面のお姉さんの仮面の下の顔がニコッとしたように思えた。
仮面の女「今日はもう帰るよね?(笑)」
未咲「そうですね…」
仮面の女「だよね(笑)またいらっしゃい♪」
未咲「はい。ありがとうございました」
塔を出ると何か重かったものがズルッと落ちた感覚があった。
それはまるで取り憑かれていた何かが消えたかのように。
塔で生霊を消したからなんだろうか?
塔に通い出してから現実世界がとても順調になってる気がする。
塔の世界は怖いけど、
どこか不思議な依存性がある。
でも他に塔を登る人はみんなすぐに来なくなるって言ってたな…
やっぱり私って変わってるのかな?
帰宅するとやはり疲れですぐに寝た。
翌日はバイトでまた次の日もバイトだったけど、
不思議なくらいトラブルがなかった。
これも塔をクリアした効果?
そして休みの日
私は当たり前のようにアマデウスの塔へ行った。
塔の世界……
今度はどんな魔物がいるんだろ……
私はそんな魑魅魍魎の怖い世界へ
なぜわざわざ通っているんだろ……
自分のことがわからない……
塔の入口をノックして中に入った。
するといつも通り仮面のお姉さんの元気な声が聞こえた。
仮面の女「おはよう♪今日も来てくれてありがとう!」
未咲「いえ。おはようございます」
仮面の女「この塔を一生登り続けるわけじゃないと思うから、未咲ちゃんは貴重な体験してるね♪」
未咲「はい。怖いけど塔の世界をクリアできるように頑張ります!」
仮面の女「フフ……あなたは別に頑張らなくてもいい。なんせあなた自ら喰らいに行くようなもんなんだから(笑)
自然に本性のあなたが現れる」
未咲「え……?」
仮面の女「夢の中では、現実で恐怖と理性で止めていた本性が現れる。隠していた欲望が剥き出しになる。
夢(塔)の中では裸の自分が見れる。
逆にそうじゃないと、気味の悪い塔の世界を突破できないとも言える」
私の欲望や、心の中に隠していた何かを出すのがクリアの鍵となるのか……
仮面の女「これからのあなたのために塔を登りなさい」
仮面のお姉さんは扉を指さしていた。
あの扉から行けってことか。
未咲「……行ってきます!」
未咲「for the future……未来のためにか…」
真っ暗なトンネル?を私はずっと進んでいた。
遠くに光が見える。
赤黒い景色はヒダ状になっている不思議な空間。
何ここ……?
そう思いながらも私は自然に進んでいる。
未咲「あった……!あそこの家だ!」
見付かった?
未咲「あそこが私の望んでいた環境!」
私が望んでいる……どこそれ?
未咲「私の中でくすぶってる消えない怒りの感情の刈り取りと、愛を学べる成長のための家庭が!」
え…………?
怒り……?愛……?
家庭……………
私はこれから神名の家に生まれ落ちるの……?
う…………………………
ここは…………
家族みんなが住むマンション………
私は天井から自分が寝ている姿を見下ろしていた。
私が汗をかいて苦しそうにしてる。
凄い吐き気をもよおしている。
そう言えば子供の頃にそんな日があった。
原因不明の吐き気で苦しんで寝ていたんだ。
私の寝てる側には怪物?が私を覗いていた。
ただ私が苦しんでる姿をジーーッと覗いていた。
つづく