ちびおおかみ (世界の絵本)/講談社
¥1,680
Amazon.co.jp

『ちびおおかみ』

ゲルダヴァーゲナー 著 

ヨゼフ・ウィルコン /絵

鷺沢萌/訳 講談社



「ちびおおかみ」はちょっと変わった、子おおかみ。
普通のおおかみとかなり違っているから、お父さんとお母さんは心配でたまりません。
うさぎのつかまえ方を練習させようとしたら、うさぎと仲よしになって遊んだり、
魚のとり方を教えたら、川の中にもぐって魚と追いかけっこをするのです。

おおかみは、強くて力持ちで、なによりも

“コワいおおかみ”でなくっちゃいけないって、みんながいいます。

なのに、ちびおおかみは全然こわくないために、「悪い子」のレッテルを貼られてしまいます。

ちびおおかみは悩んでしまいました。

ひとり、森の奥に入って、しくしく泣いていると、ねずみが声をかけてきました。
「どうして、ないているの?」
ちびおおかみはねずみにいいました。
「ぼくは、つよくて、こわ~いおおかみになりたいんだ!」
それを聞いたねずみは思いもかけない道具をおおかみに次々と渡しました。
やさしくて、うさぎや魚とも仲よしのちびおおかみは、

望みどおり、“こわ~いおおかみ”になれたでしょうか。


人はこうあるべき、と決めつける人々がいます。

他人がつくった自分のほうが正しく思えてしまうとき、自分が自分であることの喜びを大切にしたくなる一冊です。



満月をまって/あすなろ書房
¥1,470
Amazon.co.jp

『満月をまって』

メアリー・リン・レイ/文 

バーバラ・クーニー/絵 

掛川恭子/訳 あすなろ書房



「ぼく」は満月をまっている。満月が来ると、父さんが手作りのかごを町に売りに行くのだ。今度の満月こそきっと、連れて行ってくれると信じている。


今から100年以上前、米国ニューヨーク州ハドソンからそれほど遠くない山あいに、かごを作って生計を立てている人たちがいました。

「ぼく」はそんなかご作りの家族に生まれた男の子。

かごにする木はいろいろあるけれど、トネリコがいちばん丈夫でよいかごができると「ぼく」は知っています。

ある満月の日、やっと父さんに町に連れて行ってもらった「ぼく」はとても悲しい気持ちになってしまいます。

それはあまりにせつない事実でした。



お父さんもおじいさんもおばあさんも、親戚のおじさんもかごを作って生きる一族。

1996年、最後のかご作り職人のおばあさんが亡くなった、とあとがきに書かれています。

木の声を聴き、風のてがみを読みながら、木からかごを作る職人たちの本当にあった物語。







北の魔女ロウヒ/あすなろ書房
¥1,470
Amazon.co.jp

『北の魔女ロウヒ』

トニ・デ・ゲレツ/原文 

バーバラ・クーニー/絵 

さくまゆみこ/訳 あすなろ書房


フィンランドの叙事詩『カレワラ』にある物語。

ある雪の日、北の国に住む魔女ロウヒはスキーをはいて遊んでいるうちに空高く舞い上がっていきました。

森のあたりで美しい音楽が聴こえてきました。

下を見下ろすと、ワイナモイネンという男が石に腰かけて楽器カンテラをひいていました。動物たちはうっとり聞き入っています。

それを見ていたロウヒ、いたずら心がむくむく湧いてきたのでしょうか。

さっと鷲の姿になると、月と太陽をがしっとつかんで飛び去って行きました。

そして北の国の家に戻ると、月と太陽とを鍵のかかる部屋に閉じこめてしまいました。

大変!

空から月と太陽がなくなってしまい、世界は暗闇。

人も動物も、恐れおののき、どうしていいかわかりません。

そこで、ワイナモイネンは鍛冶屋さんに月と太陽を作ってもらおうと頼みますが・・・・・・?


人間たちの様子にさぐりを入れるロウヒの視線を一緒に追う気分になります。

この絵本もバーバラ・クーニーさんの絵です。

ひどいことをしでかしたロウヒなのに憎めないのは、彼女のあたたかな絵のおかげでしょう。



ふぇルピナスさん―小さなおばあさんのお話/ほるぷ出版
¥1,365
Amazon.co.jp

『ルピナスさん―小さなおばあさんのお話』

バーバラ・クーニー 作 

かけがわやすこ訳

ほるぷ出版




バーバラ・クーニーさんはアメリカを代表する絵本作家です。

この女性が描く世界はとても神秘的です。そして、あたたかい。

冷たいブルーも雪におおわれた白い山も、“誰かがそこに住んでいる”ことを感じさせる、ぬくもりのある色なのです。

きっと彼女自身がやさしさに満ちた目で世の中を、友人を、他人を、見つめているからでしょう。

この本は名前のとおり、ルピナスの花が大好きな女性、ルピナスさんのお話。

ルピナスは群生して咲き、紫、青、水色、ピンクがかった紫などパープルの美しさが目に飛びこんでくる花です。



小さかったルピナスさんは大好きなおじいさんからこんな言葉をかけられます。

「世の中を、もっとうつくしくするために、なにかしてもらいたいのだよ」

今は何をしていいかわからないけれど、ルピナスさんは「いいわ」とおじいさんと約束しました。

年頃の女性になってルピナスさんはあこがれの南の島や、会いたい花のある場所へ自由に旅していました。

けれど、背中を痛め、だんだん年をとって、気ままに旅ができなくなってしまいます。

そしてやっとおじいさんとの約束を果たすことになるのです。


「世の中を、もっとうつくしくするために、なにかしなくては」


ルピナスさんはどうしたんでしょうか。


絵本を読む人にも問いかけてきます。

あなたなら、なにをするかしら? 






ふぇいキツネ (北国からの動物記)/アリス館
¥1,470
Amazon.co.jp

『キツネ―北国からの動物記』

竹田津実 文・写真

アリス館


一匹のメスのキツネと出会った作者の竹田さん。

名前はトウ。近くの湖の名前を借りて名づけたそうです。

トウのなわばりにそっとそっと入っていき、「写真を撮ってもいいよ」とゆるしをもらったと書かれています。

この本は竹田さんとキツネとの信頼関係から成り立った一冊といっていいでしょう。

トウが夫を見つけ、子ギツネを産んで、それから巣立ちをさせるまでの歳月がとても自然に撮られています。


1ページずつめくっていくと、「私、キツネのこと、何にも知らなかったわ!」と、思わず微笑んでしまう文章と時々出会います。

たとえば、「狐日和(きつねびより)」という言葉。

快晴で無風。凛とした北の冷気におおわれる時がキツネの大好きな日なんだそうです。


それから、トウが結婚をして巣作りをする時のこと。お父さんキツネがエサを運んでくるシーンがあります。

それを当たり前のように思っていましたが、じつは哺乳類の世界ではとてもめずらしい光景なんだそうです。

「動物の世界ではどの家庭も、お母さんと子どもたちだけで、お父さんがいないというのがふつうなんです」って。

その一文に続いて、

「家庭の中にお父さんがいる動物は、日本では、キツネ、タヌキ、わたしたち人間。この3種だけです」

本当!!???

衝撃的な事実を知って、しばらくこのページの中央で、トウと夫のキツネがキスしているのをぼんやり眺めてしまいました。


ほかにもいろいろ、知らないキツネの生態がやさしく、いとおしく、写真とともに紹介されています。

ただのキツネの写真絵本と思ったらぜんぜん違う、とても奥深く知性にあふれ、生命の営みや家族のきずながしっかりと描かれている一冊です。




『トラさんトラさん、木のうえに!』

アヌシュカ・ラヴィシャンカール 文

プラク・ビスワス 絵

うちやままりこ 訳 評論社刊





インドで本当にあったお話です。
訳者うちやまさんのあとがきによると、
挿絵を描いたプラクさんが子どもの頃に故郷のベンガル(バングラデュ)の村で体験したことなんだそうです。
ある日、一匹のトラが木の上にいるのが見つかり、村中が大さわぎになりました。
子どもだったプラクさんは友だちといっしょに、ドキドキしながら大人たちの行動を見守っていたそうです。



トラが木の上にのぼってる! 
びっくりした人たちは「つかまえろ!あみをかけろ!」と口ぐちに言いました。
やれ、それ、しっ、しっ! ぶっ、ぶか、ぶう!
トラさんトラさん、どうなったのかな。



1999年ブラティスラヴァ世界絵本原画展・金牌賞受賞
ことばのリズムも楽しくて、思わず声に出して口ずさみたくなる絵本です。





杉原梨江子といっしょに読みましょ!「木の絵本と森の童話」-トラさんトラさん
評論社ホームページより



みどりの小鳥―イタリア民話選 (岩波世界児童文学集)/岩波書店
¥1,631
Amazon.co.jp

『みどりの小鳥-イタリア民話選』より

「ローズマリーの娘」

イタロ・カルヴィーノ 作

河島英昭 訳




『みどりの小鳥』の中から、もうひとつ可愛いお話を紹介しましょう。

パレルモに伝わる民話です。


子宝に恵まれない王さまと女王さま。

庭に茂るローズマリーの芽を見て思いました。

「まあ、このローズマリーにはこんなにたくさん子供がいるのに、女王の身でありながらひとりの子どももいないなんて!」

ところがある日、女王はローズマリーの苗を生みました。

人間の女性が植物を産む!?

どうして?どうやって?どんな状態で産まれてきたの?

疑問が湧いてきて、いろいろ想像してしまいますが、ここはさらっと書かれて次のエピソードに移ってしまいます。


ローズマリーは成長すると、葉かげから髪の美しい娘が顔を出しました。
娘に恋をしたのがスペイン王です。戦争に出かけるため、留守の間、庭師に世話を託しましたが……。
スペイン王は再び、ローズマリーの娘と会うにはちょっとした工夫が必要でした。

どうしたんでしょうね。


人間から生まれた植物が人間になって、水がないと枯れそうになり、きちんとお手入れしてあげると、再び人間として元気に復活!

ローズマリーの香りを思い出しながら読みたい、ふしぎなふしぎな植物の童話です。








みどりの小鳥―イタリア民話選 (岩波の愛蔵版)/岩波書店
¥2,520
Amazon.co.jp

『みどりの小鳥-イタリア民話選』

イタロ・カルヴィーノ 作

河島英昭 訳




イタリアの作家、イタロ・カルヴィーノが集めたイタリア各地の民話集よりご紹介します。

表題にもなっている「みどりの小鳥」はフィレンツェに伝わる民話です。

3人の姉妹と王様、それから王妃となった末娘が登場しますが、本当の主役は末娘が生んだ子どもたちです。それは、ミルクと血の肌で金の髪をした男の子が2人と、ミルクと血の肌で金の髪をして額に星のある女の子1人。民話にはよくあることですが、いじわるな伯母たちの策略によって、3人は生まれてすぐに川に流されました……。

大丈夫、そこで終わりません。


その後、3人が住むことになる庭園がなんともいえず、すばらしいのです! 世界中から珍しい花や木を集めて植えてありました。ところが、そこへまた、邪悪な伯母たちが現れ、「まだ、庭に足りないものがある」と悪魔のようにささやきかけるのです。それは、

踊る水、奏でる木、そして、美しいみどりの小鳥。


これらを手に入れなければ、完璧に美しい庭とはいえない。そう思いこんだ子どもたちは?最後には思いもかけない判決が下されました。



何度読んでも、この庭を訪れたくなる、いいえ、作ってみたくなる夢の庭のようにあこがれます。












『カウンセリング熊』

アラン・アーキン著

今江祥智・遠藤育枝 共訳

出版工房 原生林


本当に大切なものは何か?

自分とは何か?

誰かにたずねようと思っても、誰かは答えてくれない。

自分自身の力で魂を癒しながら、体の元気を取り戻しながら、

人生をよみがえらせていくほか、答えは見つからない。


主人公クーガは大熊から指令を出される。

「レモンを見つけ出すのだ」とか

「腹をすかせて、十分だけじっと座ってみなさい」とか。

でも、その指令そのものは問題ではないと、やがて気づく。

本当にクーガが探すべきものはレモンではない、と。それは……?


ハリウッドで成功した俳優アラン・アーキンが描く哲学的童話。



杉原梨江子といっしょに読みましょ!「木の絵本と森の童話」-カウンセリング

もりのえほん/福音館書店
¥840
Amazon.co.jp

『もりのえほん』

 安野光雅著 福音館書店


絵だけの森の絵本です。

見開きいっぱいに描かれた細密画の中に、どうぶつが隠れているのです。あるページでは茂みの中にうさぎ、あるページでは木の上にパンダ、次のページを開くと木の幹がきりんの首だったりします。最後のページに回答があるのですが、全然見つけられないどうぶつもいました。


でも、私にはどうぶつを探すよりドキドキしたことがありました。

もりのえほんというタイトルが書かれた最初のページに森の絵があり、小さな男の子と小さな女の子とが手をつないで森の中に入って行こうとしています。

てくてく、てくてく。土を踏むクツの音が聴こえてくるような。

二人がどんなにわくわくしながら森の奥へと歩いていくのか、ドキドキしている心臓の音まで聞こえそうな絵なのです。

この絵を見ているだけで、いくつものどうぶつの姿が生き生きと浮かんでくるようでした。