その1女子編、その2アイスダンス編と来て、続いてその3男子編でございます。


~男子~


当たり前ですが、同じシングル競技でも男子と女子で大きく戦い方が変わるというのを改めて感じました。

男子はちょうどジュニアにいることが出来る年齢(13~19歳)で成長期に入るスケーターが多く、この成長期の個人差が大きいため、同じカテゴリーでもスケートのパワーが根本的に違うということがよくあります。


女子では「①プログラムの複雑さ」「②体の使い方の大きさと引き出しの多さ」「③スケートの伸びとリンクカバーの大きさ」の3つの観点で比較し差が付いた点について考えてみましたが、男子についても差が付いた観点そのものは同じだなと思いました。


男子の場合は全体としてこのような傾向になったというよりは、スケーターごとにそれぞれ得手不得手が明確に出たような感じになったと思っています。

とは言え、常日頃から記載している「スケートの伸び」が最も重要であるということには変わらないと感じました。


それから、「スピンで曲構造を捉えて表現している選手」がほとんどいないな…ということを思いました。この点については(国内外問わず)ジュニア男子特有のことであるように思います。

男子選手は女子選手ほど体が柔らかくない傾向にありますし、スピンのポジションを取るだけで難しい、軸を取るのが難しいなどの事情はもちろんあると思います。

一方で、スピン1つの基礎点が仮に3点だとして、GOEが2段階違うと3×0.2=0.6点差が付き、1つのプログラムでスピン要素が3つあり、技術点だけで0.6×3=1.8点差が付く計算になります。

ジャンプに比べると労力に対するコスパが良い要素であるとは言えませんが、実際の試合を見ていると僅差で勝負が決することはよくあり、1.8点という点数は決して無視できるものではないことが分かります。選手それぞれの体や得手不得手に合わせることを前提にしたうえで、もう少しスピンがジュニア男子全体で磨かれて欲しいなと感じております。


全日本ジュニアの記事では璃士くんとしゅんしゅんの2人がスケーティングの面で頭ひとつ抜けていると記載いたしましたが、今大会でもその良さが十分すぎるほどに生きたなぁと感じました。

2人ともミスは少しずつありましたが、ミスして減点されても他の部分で多く点数が取れるというのがすぐに分かります。やはり日本人スケーターはスケーティングスキル勝負、一歩の伸び勝負というのは男子でも変わらないと思います。


全体の記載はここまでとして、気になった選手をピックアップいたします。


ロフェックくん🇵🇱

今大会のフリーで初めて拝見いたしましたが、個人的に強烈なインパクトを残しました。

エレメンツの面ではやや未完成な感じにも見えスピンがやや苦手そうに見えますが、ジャズのテンポの中に的確にジャンプを組み込んだり、エレメンツの間に小技をふんだんに取り入れるのはもちろん、何よりも足元の動きが自在でした。

今後見るのが楽しみなスケーターがまた出てきました。そう思わせてくれた演技でした。


パラディスくん🇨🇦

特徴的な髪型かつ衣装で、フリー第1グループの中で異彩を放っていました。会場内の歓声は彼の番になるとひときわ大きく、人気選手であることが窺えました。


演技を見て人気な理由が分かりました。髪型や衣装に負けず劣らず演技中の体の動かし方や小技が異彩を放っていました。見応えがあるというか、競技であることを忘れて演技を見ていて楽しい(しかし競技としても上手)という演技でした。


ヤンハオくん🇳🇿

シンプルにスケートが上手い!!と思わせてくれる選手です。一歩漕いだらよく伸びて、カーブも滑っている時の姿勢も綺麗。とにかくクリーンな印象でした。

このクリーンなスケートから、もう少し上半身を使った複雑な演技が出てきたらもっと面白いスケーターになるんだろうなぁというのを感じました。


レヴァンディくん🇪🇪

数年前から既にシニアの大会に出ている選手です。

スケートのトレースの綺麗さやボディコントロールの上手さはジュニアの大会の中で非常に目立ちます。エレメンツの間やコレオシークエンスでの腕の動きは特異的で、振付師を確認したらやはりリショーさんでした。シニアの世界選手権に出場しても申し分ないくらいの演技だと思ったのですが、シニアワールドにはセルフコ兄さんが出ることになっています。もしかして女子だけでなく男子もエストニアは複数枠が必要なのでは…?


ミンギュくん🇰🇷


さて、今回の記事のメインデッシュです!!台湾まで行って現地観戦して良かったと思わせてくれる選手の筆頭がミンギュくんです。


何回でも言いますが本当に上手です。とにかくめっちゃ滑りました。彼のスケート靴にジェットエンジンが付いているのではないかというくらいです。あるカーブの上に乗ってただ滑っているだけでも全くスピードが落ちません。見ていて気持ち良いというのを通り越して、もはや目を疑うレベルです。3Aがまだ確実性が低いからか助走が長いような感じもしますが、その助走のカーブだけでも減速せずグイ―――ンと進むのでそれだけでも見応えがあります。

さらに、冒頭でスピンでの曲の構造を捉えた表現の話題を挙げましたが、その点においてもミンギュくんはかなり上手でした。スピンの軸や回転速度が安定しており、その中でポジションの変化も自在に実施していて、ポジションの変更が曲のテンポの中にしっかりとハマっていました。最終滑走のミンギュくんのスピンを見て「こういうスピンが見たかった…!!」という気持ちになりました。

コレオシークエンスもベースのスピードにしっかり乗りながら、上半身はブレることなく腕での動きで情感を込めるお手本のような動きになっていました。これら全体がノートルダムドパリの曲のスケール感にマッチしていたところも良かったです。


今大会、優勝したミンギュくんと2位の璃士くんの点差は1.44点差と僅差になりました。話題に挙げたスピンで取った点数を比較すると、下記のような感じになります。


ミンギュくん

SP:11.19点、FS:12.58点、計:23.77点

璃士くん

SP:10.82点、FS:11.48点、計:22.30点


スピンの要素は2名とも同じ、レベルは璃士くんがSPで1つだけレベル3で0.4点差が付き、残りは全てレベル4となっておりGOEで差が付き、結果的にスピン全体で1.47点差が付いていました。

スピン6つで約1.5点差なので、スピン1つ辺りだと約0.25点差、スピンの基礎点が仮に3点だとすると、ジャッジの9人中7人がスピン1つあたり+1多く付けている計算になります。


もちろんスピンが全ての勝敗を分けたとまでは思わないですが、差を付ける最後の要素になったとは言えそうです。やはり思った以上にスピンは重要です。(スピンによる曲の展開に合わせた動きは少なからず演技構成点にも影響するとも思います)


ジュニアグランプリや国内大会を見ていてスピンで明確に点数を稼ぐ選手が今季本当に少ないな…というのを感じていたので、その意味では今大会のミンギュくんのスピンの見せ方はとても印象に残りました。

是非とも今後スピンで曲を見せるというスケーターが増えていくのを願うばかりです。



…さて、世界ジュニアの大会に関する記事は以上となります。

7年ぶりに台湾に訪れましたが、試合観戦だけでなく台湾の食べ物の美味しさ、会場にいた強火のスケオタ様たちとの交流も本当に楽しい観戦となりました。


今後台湾で国際大会があったら恐らくまた台湾に行くんだろうなというのを確信した次第です(笑)