世界ジュニア観戦記録、続いての記事はアイスダンスです。


〜アイスダンス編〜


昨季のジュニアで上位に入ったカップルの多くが今季シニアに転向したことで、今季はこれから力を付けてくるような層がかなり多く、どういう順位になるかが想定できない、その意味ではとても面白い試合になりました。


昨季さいたまワールドでシニアのアイスダンスの大会を見て、当たり前のように2人でスピード出して合わせて滑って…という光景を見てきましたが、ジュニアダンスになると「スケートの伸び」「2人で合わせて滑る」「ホールドが豊富で上手い」「エレメンツもそれ以外も工夫が多い」のどれかは上手いカップルはたくさんいても、全部上手いというカップルが現れにくいという感じがしました。

カテゴリー全体として発展途上、試行錯誤段階のカップルが多いというような印象を受けました。だからこそよりアイスダンスの何が難しいのかというのを改めて垣間見た気がします。


今大会出場したカップルのままずっと組み続けるのか、いろんな人と組みながら相性の良い人を見つけていくのかは定かではありません(後者の方が多いと思っている)ので、個々のカップルに対してというよりはカテゴリー全体としてこれからが楽しみなスケーターたちであると思っております



こちらも気になったカップルをピックアップいたします。


ブラッソワ/ブラッス組(ブラッス家)🇨🇿

まず、チェコのアイスダンスはお兄さんと妹という爆速カップルデカデカインパクトなカップルが何故立て続けに誕生するのでしょうか…(笑)

ブラッス家についてはまだダンススピンをはじめエレメンツをこなすだけでいっぱいな感じも見受けられましたが、1個の動きの大きさだけでインパクトを残す良さが見られました。フリーダンスの最後のコレオスライドをスピード保って実施しているのを見ると「やはりスピードは正義!!」って思えてきます


ゼンダー/シバー組🇨🇭

今大会少しエレメンツに取りこぼしが重なり、実力を出し切れたとはなかなか言えない演技にはなってしまいましたが、ジュニアダンスでなかなか現れにくいような複雑なデザインの動きを上手くこなしていたところが印象的でした。エレメンツが磨かれたら一気にトップグループに行くようなポテンシャルを感じました。


さらあつ組🇯🇵

彼らの演技を拝見するのは全日本ジュニア以来です。JGPで大活躍しておられたこともあり、本人たちの目標も10位以内とお話していた通り、今大会の世界ジュニアでどこまで上に行けるか興味深く拝見しておりました。

RDやFDともにノットタッチのエレメンツでは2人ともスピードをガンガン出して実施しており、特にFD最初のツイズル~ワンフットステップは曲のスピード感と本人たちの実施のスピード感がマッチして観客を一気に惹きつけたことを肌で感じました。終盤のコレオステップの特異的な動きや、リフトの安定感や独創性もあり、特にリフトはジュニアのアジア人としては異例ともいえる安定感が見られました。

一方で、RDのパターンダンスやFDのダイアグノルステップなどのホールドが必要なエレメンツになると、やはり2人のスピードを合わせる難しさからか少し苦戦しているように見え、このあたりで他のカップルと差が付き目標のトップ10以内にあと2つ届かなかったのかなと思いました。

世界ジュニアクラスの大会になると、思った以上に課題が浮き彫りに見えます。この辺りの課題も踏まえつつ、来季世界ジュニアでリベンジ出来ることを期待しております。


※24-25シーズンは男性がジュニアに残ることが出来る最後の年齢(7月1日時点で20歳)、一方女性が数年前のルール改変によりシニアに上がることが出来る1年前の年齢(7月1日で16歳)となり、つまり必ず「24-25シーズンはジュニア、25-26シーズンはシニア」という路線になります。

さらあつ組にとっては一番フィットしたルールになりそうですが、こうして検証するとやはりカップル競技にとっては組む時点で選択肢が狭すぎるルールだと感じてしまいます。。


クドリャフツェワ/カランケビッチ組🇨🇾

昨季世界ジュニアで10位、フリーダンスではポップスの曲を楽しく演じておられました。今季はシーズン前半女性の怪我の影響で試合には出られず、世界ジュニアがほぼ初戦という状況となりました。

今大会は怪我明けということもあり状態があまり良くなさそうかつプログラムの仕上がりももう一つというような感じでした。ただ、2人ともスケートがよく伸び、フリーダンスのカビリアの夜は2人が上手く連携した美しくスケールの大きいデザインだなと感じました。プログラムが仕上がれば来季大きくジャンプアップしそうなポテンシャルを感じました。

 

ベイロン/ブランディース組🇨🇦

スコットモイヤー先生がリンクサイドに立つ中で素晴らしい演技が披露されました。

何といってもホールドが素晴らしく上手です。2人が繋がりながら同じスピードで滑っているのはもちろん、ホールドチェンジで2人の立ち位置が変わる時の流れもとてもスムーズです。

フリーダンスのチャップリンでは、最初のコレオステップで「2人がぶつかって見えるコミカルな動き」で観客の気持ちを掴み、終盤にちょうど欲しいタイミングで入るリフト2つが完璧に決まり、最後のアシストジャンプを効果的に使いしっとりと締めました。

スケートの推進力という点ではもう少し欲しいと思いましたが、それさえ付くと一気にトップに上がりそうと感じました。

今大会の中で個人的に「最も印象に残った3組」のうちの1組です。

 

タリ/ラフォルナラ組🇮🇹

まずもうリズムダンスの上手さに驚きました。演技開始直後の滑りを見て「上手い」と確信したカップルです。2人とも滑るスピードが本当に同じでまさに「一体となって滑っている」と呼ぶに相応しい滑りでした。

フリーダンスでも同様の良さを見せ、上位にいけるぞと期待していましたが、最後の転倒などいくつかミスが重なってしまったことがとても惜しかったです。

昨季までそれぞれ別のパートナーと組んでいたカップルだそうです。つまり今季が組んで1年目。そうとは思えない相性の良さが見られました。今後どこまで伸びるのだろうかと思わせてくれました。

今大会の中で個人的に「最も印象に残った3組」のうちの1組です。

ジュニアダンスの中でこの2組を見て、アイスダンスの醍醐味は2人で滑ることの面白さにあるなぁというのを改めて感じました。

 

フラジ/フルノ―組🇫🇷

カリーヌ先生門下のアイスダンサーは上半身の動きの緩急の差や振付の種類がやたら多く、かつ普通の人があまり思いつかないような振付が出てきて、そのうえ何故かツイズルがやたら上手い、その結果曲想表現の面ではハマる人にはハマるインパクトの強さを持っています。

彼らも例外ではなく、昨季はリズムダンスでタンゴのシーズンだったにも関わらず何故かタンゴのリズムで「山の魔王の宮殿にて」を滑っていました。魔女(カリーヌ先生)が魔王を困らせるというよく分からない構図ですが、それでもなんか面白いという。


今大会は特にフリーダンスで力が発揮されました。

上記に述べた曲想表現の良さが切れのある曲の中で存分に発揮されつつ、サーキュラーステップやワンフットステップではしっかり滑って実施されたように見えました。コレオステップでは大きくダイナミックに見せるカップルが多い中、上記のような独自路線を静かな曲の中で動きの種類の多さで見せ、プログラムを大きく引き立てる役割を果たしているように見えました。

今大会の中で個人的に「最も印象に残った3組」のうちの1組です。

 

グリム/サヴィツキ―組🇩🇪

彼らはホールドチェンジがとてもスムーズに実施され、さらにステップエレメンツのターンの鋭さが特徴的だなと感じました。

フリーダンスのロンカプカルメン(?)では最初のダンススピンで曲の展開を上手く当てはめたポジションチェンジを披露し、終盤のワンフットではツイズルから入るという珍しい構成から速いテンポで上手くこなしたところが素晴らしかったです。昨季の世界ジュニアの食中毒による無念の棄権を晴らした演技だったように見えました。

 

トカチェンコ/キリアコフ組🇮🇱

今季一気にジャンプアップしたカップルだと思っています。ジャンプアップの要因はなんと言ってもエッジを深く倒してさらに体を深く倒して分かりやすく演じるというところが大きいです。これはもう断言できます。エッジも体も深く倒す演技スタイルなので、ターンをこなした後の次の技を繋げるのがとても難しいように思うのですが、何故かとても安定している。そんな不思議な魅力を持ったカップルだと思います。

その良さが存分に表れているのが今季のフリーダンスですが、今大会はツイズルの1stで上記の良さを出した後で、2ndツイズル、3rdツイズルで詰まるというミスが惜しかったです。上半身を大きく使って表現して独特な世界観を見せるプログラムの中でツイズルの部分はとても大きな役割を果たすと思っていたので、決まるところを見たかったぁという気持ちがありました。


ネセット/マルケロフ組(レアチョム組)🇺🇸

彼らはもうスケートの推進力が出場カップルの中で群を抜いているように見えました。スケート靴に動力が付いていてグーンと滑るというようなスケーティングでした。

もちろん体使いも安定しているし、エレメンツもとても上手です。フリーダンスの最後にバランスを崩してしまったのが惜しかったですが、レアチョム組についてはもう次にシニアに移行しても問題なく競技出来そうという風に思いました。


アイスダンスはここで締めです!

そもそも「ジュニアのアイスダンスを何十組も一気に見る」という経験そのものが大変貴重な機会であり、それに立ち合えたのが本当に良かったと感じました。