ということで今年もこの季節がやってきました。 


 例年通りシーズンを総括する意味でも、そして「自分がどんなプログラムが好きか」を確認する意味でも大事な記事です。言うなれば「今季と言えばこの10個!」の提示です。


毎シーズン「1年が過ぎるのが早い」と思っております。この記事も6年目となっており、たまに過去の自分の記事を確認したりしておりますが、自分の好みも大枠では変わらないものの、変化している点もあるなぁとも感じております。

一番はやはり個々の「スケーティングそのもの」を活かしているかというところを重視するようになったというのは大きいと思います。


例年のように、まずはひと目見て気になったものを羅列、10個に入れるほど語れないものの紹介しないには惜しい次点10個、そしてトップ10という順で紹介します。


気になったもの(11個)


中井さん:baby god bless you

河辺さん:ボレロ

ピリハラ:シカゴ

片伊勢武アミンくん:ツリーオブライフ

ジアシン:Fascination

ゆまち!!:rain in your black eyes

シニツィナ:ショパンノクターン55-1

ピンザローニちゃん:スパルタクス

花織ちゃん:ニーナシモンメドレー

新葉ちゃん:Never tear us apart

吉田陽菜ちゃん:尺八〜La terre du ciel


やはりゆまちさんのRain in your black eyesのStSqは凄かった。映像で見ても現地で見ても曲の迫力に合わせた動きでした。

曲の迫力を超えてくるくらいに、鋭いターンの繰り返しに、柔らかい膝による連続的なこなしが生み出されていたような感じがします。


次点10個


20.ステデシ:oxygene

19.エイモズくん:ボレロ

18.島田麻央さん:ベネディクトゥス

17.ちばもねちゃん:海の上のピアニスト

16.リムクァン:シェルブールの雨傘

15.オリビアフローレス/ルークワン組:Once upon a December

14.レヴィトさん:ミッション

13.ペイバイ:だったん人の踊り

12.レヴィトさん:ホワイトクロウ

11.トカキリ:Ojo Azules〜Danzante Vasija De Barro〜Sikuriadas


ペイバイのだったん人の踊りは、ChStで舞い踊るところが解釈が一致して、見ていて楽しいプログラムと思って見ていました。

ただ、最初のChSl(コレオスライド)や終盤のChAJ(コレオアシストジャンプ)のスケールがちょっと小さいように感じたのがどうしても気になりました。ここがもう少し大きく動いていたら…!!


トカキリはとにかくカーブが深い!それが演技の曲解釈に全部繋がっているような感じが素晴らしかったです。

世界ジュニアで見た時に、カーブが深いゆえにちょっとだけスピードの面では物足りなさを感じたのもあり、泣く泣くトップ10から外しました。デザインはめっちゃ好きなんじゃ…!!


ということで、ここからトップ10の記事になります。

めっちゃめっちゃ長いので、お時間ある時に…

動画は別の大会のものを貼り付けていて、構成が違う場合もありますので悪しからず。


10.ソ・ミンギュ選手 FS

ノートルダム・ド・パリ

ベスト演技:世界ジュニア選手権

(リンクはJGPイスタンブール大会のものです)


https://youtu.be/y2ly4G7AsTE?si=206vb_otkNbOgenI


世界ジュニアで現地で見て一気に心を鷲掴みにされた演技でした。ミンギュくんの凄さは、かなり深いカーブなのに猛スピードで進んでいるスケーティングです。片足でカーブして滑るだけでリンク全体に円を描けるのではないかというインパクトがあります。1歩こいだらその伸びを保つ能力が卓越しています。


さらに彼が凄いのは、スピンでの曲表現が素晴らしく上手なところです。スピンの回転が速いだけでなく、軸が安定しており、曲のテンポに合わせてスムーズにポジションをクイっと変化されています。


さらに、コレオシークエンスでは猛スピードでイーグルをしたまま腕を自在に動かして情感を込めて演じています。猛スピードで動いているはずなのに上半身は氷の上で動いているとは思えない安定感、さらに体の可動域がかなり大きく、とんでもない体幹の持ち主であると感じました。


後半に入ってからボーカルがどんどん盛り上がるところで曲のテンポに合わせた3F+3T、3Lz、3F+2A+2Aの畳み掛けも非常に効果的です。ちょうど入って欲しいところにジャンプが入りまくるので本当に見ていて気分が上がります。


そのような大迫力のスケートや特徴を持っている彼が、これまた大きいスケールの曲であるノートルダム・ド・パリが合わないはずがありません。



9.和田薫子選手 SP

Sing for me

ベスト演技:中部選手権


https://youtu.be/B-1u7sjLZ9s?si=IzqqaziRF_yrGcuE


同じクラブの松生理乃選手と同じようにフワッフワなスケートの持ち主で、ノービス時代からスピードやカーブの綺麗さには定評があった選手です。

ただし、体の動かし方がやや小さく、また難しいジャンプ構成を持ってるものの、躊躇からか高さが出し切れないという弱点があり、持っているポテンシャルを考えると思うような結果にならないというもどかしさを覚えることも多かったです。

そんな状況を打破しようとするプログラムと言っても過言ではないと思います。


特に進化したなぁと思ったところは、体の使い方が大きくなり動きの輪郭がはっきりするようになったところ、さらにカープがより大きくなりリンクの使い方がより複雑になったところです。恐らくオフにトレーニングして体幹が強くなってこのスタイルになったのだろうと思います。


最初にボーカルが始まるとともにあいさつ代わりに2Aを着氷、続く2つのジャンプもよく曲のタイミングに合わせたものです。スピンは回転が速くて安定しており、曲の変化に合わせてポジション変化を実施しています。コレオシークエンスではこれまたボーカルに合わせてフリーレッグを高く上げてスパイラルを実施しています。


中盤に曲が少し展開するところで3連続ジャンプがあります。最も盛り上がる場面での3S+3T+2T(あるいは2A+3T+2T)となりますが、惜しいことにこのジャンプが、毎回回転が足らず詰まり気味になります。毎回ここで「回りきれー!!」と念を送りながら見ていました。その後はまたボーカルに合わせて体を難しい方向に動かして、そのまま3Lzを実施、最後は回転速度が速いLSpでプログラムを締めます。


本人が中部選手権のインタビューで「心の闇を表現している」という風にお話していました。歌詞を調べてみると確かに内容がエグいなぁと感じました。どこまで歌詞に即して振付を実施しているかは定かではありませんし、そこまで含めて演技を見ている人がいるかも分かりません。

少なくとも曲構造がかなり見えるようになったというのは大きな進化だと感じました。


あとはジャンプの前に躊躇せず回転を回りきるところ、大きくなった体使いのボディラインを少しずつ綺麗にするところが課題にも見えます。あと2年は絶対にジュニアにいなければなりませんが、その辺りも含めてゆっくり1個ずつ解決するのが良いのかなと思っております。



8.レイラ・ベイロン/アレクサンドル・ブランディース組 FD

チャップリン

ベスト演技:世界ジュニア選手権

(リンクはJGP大阪大会のものです)


https://youtu.be/oDrGXjOy-As?si=F5mqU8cpybzi5zf1


何故毎年ジュニアのアイスダンスの組をこの記事に入れたくなるのか、我ながら不思議です。


私はこの組を世界ジュニアで初めて拝見しました。ISUのバイオグラフィーを確認すると、成績として残っているのが昨年のカナダジュニア選手権5位、今季のJGPバンコク、大阪大会出場、今年のカナダ選手権1位のみとなっております。それ以前のデータが無く、一生懸命検索してもお2人がどんな境遇でアイスダンスを組んだのか全然分からない状況です。ゆ、有識者様…!!


まだ若いにも関わらずホールドが上手いし、ノットタッチエレメンツも距離が近いなぁと思いながら演技を見ていました。どこの所属かなと思ってフリーダンスでリンクサイドにスコット・モイア先生がおられてとても納得いたしました。


最初のChSt(コレオキャラクターステップ)でそのスタートポジションについた時に2人がぶつかるという動作があるのですが、それが振付だと分かった時に脳内で閃光が発生したようにビックリしました。距離が分からず2人がぶつかったのならただのミスですが、意図的にぶつかったとなると話は別です。そうかこれはチャップリンのプログラムだから成立するのか…!!


その次のOFT(ワンフットターン)も2人の動きがとても揃っていてそれぞれのターンがとても滑らかに進むし、DiSt(ダイアグナルステップ)はホールドチェンジが滑らかで演技が線のように繋がっており、それがちょうどチャップリンの多幸感にも似つかわしい作りです。終盤にSyTw〜CuLi〜RoLi(シンクロナイズドツイズル〜カーブリフト〜ローテーショナルリフト)がちょうどEternallyの曲の最も入って欲しいタイミングで入り、最後にはChAJ(コレオアシストジャンプ)で静かに3つフワッとジャンプしながらどことなく切なく締める作りになっています。


この組はまだスケートの推進力はまだこれからというような感じで演技を見ていましたが、組んでまだ2年目なのにもかかわらず複雑なプログラムの実施力はかなりのものを感じています。その意味では今実施するのにはピッタリなプログラムであると感じました。

今後スケートの推進力がついた先に伸びていくという期待感を持っております。スコット先生よろしくお願いします!!



7.クリスティーナ・カレイラ/アンソニー・ポノマレンコ組 FD

Perfume

ベスト演技:世界選手権

(リンクはGPSフランス大会のものです)


https://youtu.be/DOypxyRSR_E?si=ft5I85lT1r7MuWm2


連続でスコット先生の出番です。


2017年世界ジュニアでは銅メダル、2018年の世界ジュニアではSDでミスがありながらFDで挽回し銀メダルという成績を収め、鳴り物入りでシニアのアイスダンスに臨みましたが、その後怪我やコロナ禍等もあり思うような演技が出来ていないという心配な状況が4年ほど続くという状況でした。

しかし、昨年頃からいきなり演技のスケールが大きくなったり、プログラムの発信力が強くなったりと、何かを掴んだように一気に力をつけ始め、昨季世界選手権で初出場ながら10位という成績を収めました。


FDのPerfumeはその力をさらに押し上げるのに相応しい、カレポノの出世作というべきプログラムになったと考えております。


最初にあいさつ代わりにターンの切り返しが上手い伸びるOFTから始まります。ワンフットのエッジが深く、的確に怖いプログラムの不安な始まりを演出しているように見えます。次のDSp(ダンススピン)でポジション変化を駆使しながら曲に合わせておどろおどろしく演じます。チェンジエッジしてフッと上を向くデザインはホラー映画を見ているような得も言われぬ怖さがあります。


曲が変わりピアノのみの音源でダイアグナルのChStでしめやかに動いた後に、いきなり曲が激しくなりSyTwで激しく回転しながら来た道を戻っていくという対比が上手く、プログラム全体の不安定感をより印象付ける構成になっています。


それが終わるとまた静かに曲が始まり、CiSt(サーキュラーステップ)でピアノの音に上手く女性が大きく動いてアクセント的にフッと見せながらスピード落とさず演じ、SlLi(ストレートラインリフト)で生身の人間が気体になって消えゆくようになっていきます。


そしてさらにまた曲が激しくなりスピード感のあるRoLi~ChAJで展開し、最後には猛々しくChSl(コレオスライド)を展開し、急にしめやかになり終わります。


このプロの良さは2点あって、曲の展開が多い中で的確にエレメンツを配置している点、カレイラさんの魅せ方が一気に鋭くなったことと考えます。

ホールドエレメンツが上手いのはスコット・モイア先生譲り、女性の鋭い魅せ方についてはマディソン・ハベル先生譲りなのかなと思いました。今後のカレポノの方向性が楽しみでもあり、今後のモイア&ハベル/ディアス夫婦のチームの方向性もまた楽しみとなるプロに見えました。



6.エフゲニア・ロパレワ/ジョフレー・ブリソー組 FD

ラフマニノフ エレジー~鐘

ベスト演技:世界選手権

(リンクはGPSフランス大会のものです)


https://youtu.be/RBA-7KaHlJg?si=uiH1kpgQlly1fxD5


今度はギョーム・シゼロンさんの出番です。佐藤駿選手の四季の振付で日本国内では話題に挙がっていましたが、このロパブリのプログラムも手掛けていました。(ちなみにガブリエラ・パパダキスさんはフランス女子のシールド選手の振付に携わっておられます)


パパシゼが選手として出場していた頃の彼らの特徴として、音に対する反応の引き出しが斬新かつ明瞭というところにあったと思います。

雲上にいるようなスケートの上に、体の意外な部分を使って全身で反応をしているというところがより印象に残るものでした。その良さがこのプロに非常に受け継がれているという風に見えます。


まずはエレジーのパートから。この曲の使用部分は右手メロディ、左手伴奏を基調とした楽譜になっています。そのうちの右手メロディに忠実に合わせて動いています。

最初のChAJや次のSlLiでは持ち上げられている女性が胴体から音に反応し腕を巧みに動かしています。その勢いを保ったままDiStを実施しますが、ちょうど曲のテンションが上がる部分となり、ターンが連続するパートとの親和性があります。そしてRoLiでエレジーのパートが締まります。


続いて鐘のパートです。この曲も基本は右手メロディ、左手伴奏ではありますが、エレジーに比べて和音が多くなり、時に両手で伴奏とメロディを両方とも実施するという楽譜になっています。

まずは鐘パートが始まることを印象付けるStaLi(ステーショナルリフト)から、その後に静かなパートで慎重にピアノの音に合わせながらOFT、その後中間部の速く難しい部分に入りうねるようにSyTwを実施。この対比も見事です。圧巻なのは次のDSp(ダンススピン)で、曲のテンポ変化に対応しつつポジションの変化したり、打鍵音に合わせて腕をバシッと上げたりしています。ChStでは音の数が最も多い激しいメロディパートで、ボディコントロールを確立させつつ人が出来る激しく見せる動きを思う存分見せます。そして最後はChLi(コレオリフト)でテンションを鎮めつつ、女性が持ち上がったまま静かにフィニッシュ。


ラフマニノフというとロシアの後期ロマン派音楽の中心人物と言える作曲家で、20世紀前半まで生きながら調性を大切にする伝統的とも言える曲を多く残しています。その伝統と現代を結ぶという意味では画期的なプログラムです。

エレメンツ配置や2人のポジショニングの上手さがやはり良いなぁと思ったのと、そこにアイデアを吹き込んだところが面白いなぁと思いました。


ちなみにやたらと曲の楽譜に詳しいのは、某室内楽の会で両方とも弾いたからです。



5.マリー=ジャド・ローリオ/ロマン・ル=ギャック組 FD

Corpse Bride

四大陸選手権

(リンクはカナダ選手権のものです)


https://youtu.be/ZQ6wkUg-sV4?si=6T_vVT1Zt48PvMbS


先述したカレポノも人の死が絡むプログラムではありますが、こちらは様相が全く違います。怖い要素がほとんど見られません。むしろ「緊張と緩和」の連続のコメディの様相を呈しています


先に3つ提示したアイスダンスのプログラムはエレメンツ配置や動きが的確という理由で好きと記載いたしましたが、このプロはさらに「アイデア」という点で大変印象に残っており、しかもそれを本人たちが的確に演じているのが面白いところであると感じました。


まず、最初のChSp(コレオスピン)ですがスタートポジションからおかしいです。固定されている死体(女性)を男性が無理やりこじ開けながら動かしているそんな風にも見える動きから始まります。普通に実施するだけでもおかしいのに、なんとこれが技術要素。既にここにコメディ要素が含まれているような感じがします。


そこから女性が起き上がり、さまようような動きを見せた後に、今度は女性が男性の首の後ろを抱えながらRoLi~StaLiという変わったコンボリフト。これも女性が死んでいるようなポジションを取っているのですが、回転しており遠心力が凄いはずです。2人ともぶれていないのがおかしいです。

そこから揺らめくようにOFTをこなした後に、急に曲が変わり深刻な曲調の中で激しくSyTwを実施します。

そこからまた曲が変わり、一気にコミカルになります。死後の世界の人間が想像できないような自由な空間がChStに展開されます。この部分も人間離れした振付が連続していますが、本人たちは簡単そうに動いているのでもはや狂気すら感じます


そのパートが終焉し、また厳かなパートの始まりをSlLiで展開し、戦う死者が強く動くパートをDiStで展開されます。

戦いを終えた後また女性は死者の世界に帰っていくようなパートが最後のChLiで展開されます。そのリフトの姿勢が今季話題になっており、男性の胸のあたりの位置で女性が横向きに真っすぐ倒れているというポジションがあります

前から見ると頭が混乱します。どうやってあのポジションを固定しているの??どんな物理法則になっているの??ひょっとしてあの瞬間本当に彼らの周りだけ人間の理解を超越した法則が出来ているの??と思わされます。

(恐らく女性の腕が男性の首の後ろから反対側の肩のあたりまで伸びて固定していると思われますが、そうだとしてもなかなか人間離れした腕の力が必要では…?)

そんな瞬間がありつつChLiのポジションの変化も曲に合わせているのがなかなかニクいです。


マリロマと言えば昨年はピンクパンサーでこれまた癖の強い動きを披露しており、特に男性の風貌や動きも相まって「癖が強いカップル」という印象が僕の中で定着してしまいました。その特徴を競技プロに落とし込むことが出来るのが競技の面白いところであると思いますが、その癖の強さと技術が両立してきているのがマリロマだと感じています。


本当にコレオリフトどうなっているんだろう…



怒涛のアイスダンス4連続でしたが、やはりエレメンツやその間の技や振付の配置が気になる、かつそれを的確に体で表すことが出来ているというのが僕の中ではポイントです。



4.白岩優奈選手 SP

Concertino Bianco

ベスト演技:全日本選手権


https://youtu.be/WEaV-v8Vt0s?si=ziKglJ_6pk8oXMik


このプログラムは僕にとっては「夢の続き」というやつです。


当初は2019-20シーズンのために作られたプログラムでした。そのシーズンで溶連菌感染症や疲労骨折に見舞われ、結果的に全日本は無念の欠場となり、大舞台での披露が限られてしまったプログラムとなってしまいました。(2019-20シーズンに作ったFSのAMENは翌シーズンの全日本で披露されました)


次の2020-21シーズンでは復活するも、21-22シーズンでは今度は腰痛に見舞われ、翌22-23シーズンは1年間の休養という経過に。今季はSPがAvicii版のFeeling GoodとFSがガブリエルのオーボエというセットで、苦しみながらなんとか全日本に進出という経緯を辿っていました。


全日本の時期にアップした記事にも記載しましたが、全日本に進出したのは良いけど、今季の調子で果たしてFSに進めるだろうか…という心配をしていました。その全日本当日朝に飛び込んできた情報が、過去プロから復活したSPのConcertino Biancoでした。当初はとても驚きましたが、同時にまた見られる!!と嬉しい気持ちになりました。

そして披露された演技が本当に素晴らしかった、ということで選びました。


最初にピアノの音が鳴って腕を上手く脱力して動かし、そこから白岩さんならではのすぐにトップスピードになるスケートが繰り出され、バイオリンのメロディに合わせてバッククロスを入れます。3T-2Tを着氷してから楽器が集合したタイミングで大きく体を動かし、その流れのまま2Aを軽やかに決めます。SSpで曲が静まり、ウインドミルからチェンジエッジまで駆使してリズムに合わせています。


静かなパートのStSqでも鳴っている楽器の数に応じて体の動きの緩急もついており、本当によく曲を聞いてそれに対して上手く反応しているなぁ…と感心しながら見ていました。全日本選手権では膝を付いて上を向く振付でちょっとだけバランスを崩しましたが、その瞬間も笑顔だったのでまさにご愛嬌ということで。


3楽章になりまた白岩さんならではの爆速に、その過程で腕を片方ずつ動かして音を見せる振付をスピードの中で見せ、大得意な3Loの助走へ。上手く決めたらその足で音に合わせてバレエジャンプを披露。その後FCSpの後に弦楽器に合わせてピョンピョン跳ねる動きを見せた後にCCoCpを見せ、最後はピアノの音に合わせて腕と足を動かしてフィニッシュとなります。


2019-20シーズンに作られた時点で「白岩さんの良さの原点回帰」という位置付けでこのプログラムを見ていましたが、境遇は違えど2023-24シーズンにまさに今の白岩さんの良さが本当によく表れたという形になりました。複雑に見える動きはそんなに多いというわけではないですが、等身大の動きをそのまんま見せられるというところも非常に良かったです。


過去のGPSフランス大会の映像を見る限り、振付そのものは大きく変化しておらず、要素の変更は多少あれどデザインは過去のものを踏襲した形です。

ただ、全日本で見せた動きは輪郭がはっきりしており、特に3Lo助走前の腕を片方ずつ動かして音を見せる振付は本当にはっきりと見えました。本人の表情も大変よく、思った通りの動きが出来ているんだなぁということも伝わりました。


2019-20シーズンに思い描いていた夢のキャリアとは全然違うものだったかもしれませんが、結果的に全日本で披露された白岩さんの充実っぷりはまさに「夢の続き」というに相応しいと感じました。それを導いてくれたプロです。



3.櫛田育良選手 FS

リトルプリンス

全日本ジュニア選手権


https://youtu.be/kPHaqOge0To?si=xNutkMV1_ni_8JZz


いくらちゃんと言えば何と言ってもグイグイ進むスピードのスケートです。ちょっと氷を押したらもうスピードが出ているのが良いところですが、そのスピードを出すのに本人が全く躊躇している感じが無いのもまた良いところです。

このスピードの上に体全体をコントロールして綺麗に明確に的確に演技をするところが元来持っていた良さでしたが、今季はそこに「量」が足された感じがします。故にプログラム全体が難しくなってなかなかまとまった演技が出せなかった中で、全ジュニで素晴らしい演技が見られました。


まず、曲が始まると表情がフッと大人っぽくなり、そこからピアノの8分の6拍子に合わせてスピードに乗りながら足元の左右を巧みに組み替えたり、時折ツイズルを取り入れています。

ピアノの右手のメロディが始まった時に見せるフリーレッグの動かし方がまたオシャレ。よく曲を聞いているというのが分かる動かし方です。そのスピードに乗って最初に3Lz+3Tを決めます。その後にピアノの音に合わせて、ツイズル〜上半身をストップという動作〜体を時計回りにひねりながら回すという動作がまたオシャレ。

そのままリズムに乗りながらスピードを保ちながら、これまた8分の6拍子によく合わせた3S+3Tです。それを決めた後に3回フリーレッグを前後させるのも面白いです。

そしてオーボエが入ってFCCoSpを実施し、その後の2本連続する2Aが凝った作りです。バックスパイラルからカウンターから2Aを決め、両足で駆けた後に細かく動いてまた2A。この間助走の動作がほぼなく、スピードをある程度保たないと出来ない作りです。


繋ぎの速い曲でCCoSpを挟んでから、今度は2分の2拍子のEscapeへ。ここもまた前半同様にフリーレッグで見せる所は見せ、曲のリズムも上手く捉えた作りになっています。

入っているジャンプが3Lo、3Lz+2T+2Lo、3Fとなっており、曲の雄大さやスピードに見合うジャンプが入っているところも良いですね。

最後の3Fが終わると、さらに大きくスピードにより大きく体を動かすコレオシークエンスです。このコレオシークエンスが「リンク全体を大きく使う」という言葉に相応しいものとなっています。

最後は静かにLSpでフィニッシュ。


振付が難しく繋ぎの技も多いため、その分ジャンプのタイミングを合わせにくくジャンプの質が昨年よりやや落ちてしまったという点で惜しい面も見られますが、やはりフリーレッグの使い方や曲のリズムを上手く捉える工夫が多い点や、いくらちゃんならではのスピードが思う存分活きた点が良いなぁと思い選びました。

あとはエレメンツと演技の工夫の両立という点が課題であると言えると思います。ここをクリアすると一気に飛び抜けそうなポテンシャルを感じます。


もう一点、なかなかまとまった演技にならなかった中でも、演技後の本人の様子にほとんど悲壮感が無く、常に自分のペースを保って競技に取り組んでいるなぁとも感じています。(この点が僕の中では山下真瑚さんのマイペースさと良い勝負だなぁと見ております



2.サラ・コンティ/ニコロ・マチ―組 SP

カヴァレリア・ルスティカーナ

ベスト演技:グランプリファイナル

(リンクはCSロンバルディア大会です)


https://youtu.be/hMXsONzt76E?si=6QsOeZpB3vjHqn9Y


何度でも言いますが、超名作です。


イタリア人スケーターによるイタリアプロという点ではFSのシネマパラダイスでも同じことが言えると思いますが、濃密さという点ではこちらに軍配が上がると感じます。


弦楽器のゴージャスなメロディに対して、コンマチならではのバターを塗るような濃厚なスケーティングがまぁ似合う!

弦楽器の伸びと音の変化に対しての反応も良く、プログラム全体を通して点と線を上手く結んだプログラムです。

上半身の動きは常に甘美で、大きく動かしてはいるけどその動きに余分なものを感じない、まさにいい塩梅の動きです。この点はやはり自国の音楽のテンションに対する理解力の高さがアドバンテージになっているのではないでしょうか。


さらに、エレメンツの配置も巧みで、特に2回目メロディが始まってから連続ターンやカーブの変化を駆使して曲に合わせながらの3Sが心地良い

FiDs(フォアインデススパイラル)では女性がスライドしてから回転を始めるという離れ業をやっています。これがちょうど終わって音が5度駆け上がるタイミングからデススパイラルが始まり、その回転とともにまた曲が収まるという実に巧妙な作りとなっています。

さらに最後の締めのソロCCoSpは、静かに終わっていく曲のフィニッシュ部分のテンポに合わせながら、2人の回転速度が非常に合っており、綺麗な実施です。


2人のスケートの質に合っている、振付が甘美、エレメンツ前後の工夫も見応えがある、曲の解釈が完璧、それゆえにこのプログラムはなかなか難易度が高いはずなのにスケートの流れが常に良くてやりやすそう。こんなに2人に合ったプログラムもない!パフォーマンスとしても素晴らしいものを残している。良いところがあり過ぎるプログラムだったのですが、ヨーロッパ選手権で思うような結果が残せなかったことが影響したのか、それ以降の試合では昨季のプログラムのオブリビオンに戻してしまいました。


恐らく来季の世界選手権の枠を増やすために自分たちの順位を上げようとやりやすいプログラムを演じるという作戦だったのかなと思います。(結果的にはその世界選手権では台乗りもイタリアペアの3枠確保も叶わず、その点ではちょっとつらい結末になってしまいました)


正直世界選手権でも変えずに続けて欲しかったなというのが本音です。



1.ミネルヴァ・ファビアン・ハセ/ニキータ・ヴォロディン組 FS

The Path of Silence~Power of Mind

ベスト演技:世界選手権


https://youtu.be/DUkgePMjixg?si=ua7ITxXZfhHitVxh


2人とも過去に別の人と組んでいた過去があるベテランのペア経験者…と言いたいところですが、実際は2人とも若くまだ24歳です。そんな「経験は深いけどまだ若い」という2人が今季組んで1年目で、いきなりGPF金メダル、世界選手権銅メダルという目覚ましい成績に導いたプログラムです。


ペアというとダイナミックな技が醍醐味で、それに見合ったプログラムがより選手の良さを引き立てそうと思っているのですが、このプログラムは非常に静かで厳かで目立った音の数も少ない曲です。

それに対して、ハセヴォロのスケーティングは力強く氷を押すというよりは、丁寧に静かに押して滑らかに進むというようなスタイルです。若干スピード感が惜しいとも感じますが、このプログラムには合う、そんな不思議な魅力を感じました。


前半はThe Path of Silenceの曲から。


冒頭はピアノの一定のリズムの音に女性が上手く脱力して全身で動きます。そこから2人でピアノの音に1音1音バッククロスから合わせて、風の効果音とともにあいさつ代わりに高いけどソフトな3Tw(トリプルツイスト)から開始します。


続いて弦楽器が6連符の伴奏が始まり、これまたバッククロスから音に合わせて、そこからリズミカルに3T+2A+2A+SEQを決めます。

その流れのまま今度はRBOスリー~RFIモホーク~RBIを曲のリズムに上手くハメて3Sを実施。(世界選手権では惜しくも女性が転倒しましたがすぐに演技に復帰したため大きく流れが損なわれることは無かったです)


さらにその流れを活かしてこれまた曲のリズムに合わせて3LoTh(スロー3Lo)を決めます。女性が着氷するのと同時に男性が両手をパッと上げるところにも工夫を感じます。その次の5RLi(リバースラッソーリフト)もまたテイクオフ⇒女性のポジション変化⇒女性を回転させながらのランディングの流れが上手く曲に合わせながら非常にスムーズという流れです。前半はとにかく流れを失わず曲のテンポを淡々としっかりと拾っているという作りになっています。


そこから曲が変わり、Power of Mindになります。


まずはその静かな序奏が始まり、スパイラルの動きを挟んでBoDs(バックアウトデススパイラル)で2回転してから女性がジャンプをして出るというところから。難しい工夫を挟みつつ静かな曲の邪魔にはなっていない動きが絶妙です。

その静かなデススパイラルを終えてから、2人で8の字を描くようにミラー方向にカーブを描き、PCoSp(ペアコンビネーションスピン)へ。まずは時計回りにシット姿勢とアップライト姿勢をピアノの音に合わせて取ります。そこから曲の速度が上がってから反時計回りになり、キャメル姿勢⇒小リフト⇒女性を肩の位置に上げながら出る難しい出方という展開になります。これまで通り静かに合わせつつ、回転方向を変えてからは少し技の変化にスピード感が加わり、僅かに力強い印象が加わります。

このデススパイラル⇒ペアスピンの流れは間延びする作りになりやすいですが、緻密な構成やその実施になっていることによって、静かな曲なのにも関わらず展開がしっかりしているパートになっています。


そこからスピンが終わって厳かな雰囲気は保ちつつ、生命力がある動きの振付を挟み、曲のスピードに見合って流れるようなスケートから、常に回転がスムーズな5ALi(アクセルラッソーリフト)へ。

そして曲がフェルマータするタイミングで3STh(スロー3S)となります。この3SThと同時に少し曲が溜まるので、決まったらかなり引き締まります


そして3SThの着氷後からまた曲が始まり、そのタイミングで女性がツイヅルを実施しChSqへ。

曲が始まってから1フレーズ目の終盤で小リフトを実施。

そして2フレーズ目のチェロのメロディに合わせて、

女性が回転⇒ランジ姿勢⇒2人がスパイラル、

そこから女性がポップ⇒スリーターン⇒ハンドトゥハンド(男性左、女性右)でイーグル⇒キリアンホールドしながら2人で右、左に体を動かす⇒ハンドトゥハンド(女性左、男性右)という、まさに「コレオ」が「シークエンス」する流れが本当に良いです。

そして3フレーズ目になり最後の3Li(グループ3リフト)で女性が前向きに回転しながらテイクオフ⇒1回転⇒ポジション変化して回転⇒ランディングという流れも曲の展開にしっかり合わせて実施しています。ランディングしてから最後は静かにフィニッシュという流れです。


このプログラム、全体的に淡々としているという印象も拭い切れないところではありますが、世界選手権の演技を見ると、プログラムそのもののデザインが淡々としているだけで、よく見るとスケーター自身は自分から曲に対して動いて曲の展開を上手く掬い取っている点がかなり上手いと感じました


国際大会2戦目のネーベルホルン大会で優勝した時は相性が良い組だなぁと漠然と見ておりました。気になるペアではあり頭の片隅に気になるくらいのプログラムでした。

グランプリシリーズで3連勝した段階では、上手だし世界観は気になるし、でも少しぼんやりとしていて輪郭がはっきりしないな…という感想を抱いていました。

ところが、世界選手権では一体感が一気に増し、輪郭がはっきり見えるという演技が見られ、それにより今まで見えていなかったプログラムの良さにどんどん惹かれて気付いたらハマっているというそんなプログラムでした


やはり曲に対して「ただ合わせる」のではなく「自分から曲を先導するように動く」ことがとても大事である、そのためには要素を決めるだけでなく全体を滑り込んで体を上手くコントロールできるコンディションにして仕上げることが極めて大事である、ということにも気づかされました。

この点についてはChSqの「2人で手を繋いでイーグルして体を右、左に振って手をつなぎ直す」という動きから見て取ることが出来ます

是非とも他の試合と世界選手権の動きを比較して見て欲しいのですが、とにかく輪郭が全く違います。


それを生み出しているのは、やはり常日頃言う「一歩のスケートの伸び」が生み出したのかなと思いました。

スケートが上手く伸びることで、振付が意図通りに余裕をもって曲のタイミングに当てはめることが出来る、それによって体の動きの輪郭がはっきりする、曲の構造もよく分かるというような相乗効果を生み出しているように見えました


先に述べたようにトップスピードはまだ発展途上でこれから速度が上がる余地がありそうと思いつつ、良さである滑らかさと今のスピードにはとても合うところが良いなぁと思いました。数年後にまた進化するであろうハセヴォロを見た後にこのプログラムを見直すと、ひょっとしたら「物足らない」という感想を抱くかもしれません。その意味でも「今季だから好きなプログラム」です。



ハセヴォロのプログラムは世界選手権で一気に虜になりました。上記のコレオシークエンスのくだりで記載している動きは、そのほとんどが何気ない単純にも見える動きの組み合わせですが、上手く制御して組み合わせると見応えが一気にアップすると感じました。


この辺りの細かい動きや、その動きが曲に対して何の意味を持っているか、それがスケーターの中で自発的に動けているかという点を今後も重視して見ていこう、そう思わせてくれた演技ということで、今季のベストプロとしました。


ということで、長々とお付き合いいただきありがとうございます。

今季はここまで!!