卵巣嚢腫(卵巣腫瘍)・術後の後遺症と便秘:卵巣腫瘍の治療による便秘の予防と治し方
卵巣嚢腫(のうしゅ)は、卵巣腫瘍の80%を占める良性の腫瘍です。卵巣嚢腫が生じますと、卵巣が腫大し、それによって大腸の腸管が圧迫されることによって便秘が生じます。卵巣嚢腫で卵巣の腫大が進みますと、手術による卵巣摘出の治療が一般に行われますが、この術後の後遺症としての便秘も生じます。卵巣嚢腫あるいは卵巣腫瘍は自覚症状に乏しい疾病ですが、便秘は、卵巣腫瘍の症状の1つとなります。このように、卵巣嚢腫あるいは卵巣腫瘍は、便秘の原因となります。ここでは、「卵巣嚢腫(卵巣腫瘍)・術後の後遺症と便秘」についてお話します。
1. 卵巣とは
卵巣は、子宮の上端に左右それぞれ1個、計2個あります。親指ほどの大きさで、重さは数グラム程度の小さな生殖器系臓器です。鶏卵を小さくした長楕円形の形状で、固有卵巣索とよばれるヒモ状の結合組織で子宮と結合しています。しかし、卵巣と子宮とは、管でつながっているのではなく、単に固有卵巣索で卵巣が子宮にぶら下がっている状態となっています。卵巣は、生殖器系臓器として、独立して(固有に)腹部に存在する臓器であるといえます。
卵巣は、腹部の奥に位置し、卵巣に病変が生じても、肝臓と同様に自覚症状が現れにくいことから「沈黙の臓器」とよばれています。それゆえ、卵巣の病気で自覚症状が現れたときは、病勢がかなり進行した状態であり、緊急の医療的治療が行われるのが通例です。婦人科領域の定期的健康診断がとても重要となります。
卵巣の組織内部には、卵胞とよばれる構造体(原始卵胞)が多数存在します。各卵胞には、卵細胞が1つ含まれます。卵胞が卵細胞を成熟させ(卵子の形成)、さらに、卵胞は排卵し、卵巣から放出されます。卵巣から排卵された卵細胞は、一旦は、体腔内に放出されますが、卵管の開口部である卵管采(らんかんさい)に吸い込まれ、卵管から子宮へと移動します。卵管と子宮は、管でつながっています。卵管内で精子と受精しますと、子宮に運ばれ、妊娠が成立することになります。
排卵は、一定の周期(性周期)で繰り返しおこります。女性の性周期は平均28日程度です。性周期は、子宮内膜の剥離に伴う出血を目安にしますので、月経周期ともよばれます。卵巣からの排卵も、この周期にあわせて起こります。この性周期を一般に、月経または生理とよびます。
卵巣からは、複数の女性ホルモンが分泌されます。卵胞からは、エストロゲンという女性ホルモンが分泌されます。卵細胞を放出した後の卵胞は、黄体へと変化します。黄体は、エストロゲンとプロゲステロンの2種類の女性ホルモンを分泌します。
エストロゲンは、ステロイドホルモンの一種で卵胞ホルモンともよばれます。エストロゲンにはさまざまな働きがあります。①子宮内膜を厚くして受精卵の着床を助ける、②卵胞の成熟を促す、③頸管粘液の分泌を促し、精子が子宮の中に入りやすいようにする、④基礎体温を下げる、⑤女性らしい丸みをおびた体をつくる、⑥骨の形成を促し、血管収縮を抑制する、⑦自律神経や感情の動きを整える、等の作用があります。40歳前後になりますと、卵巣内の卵胞の数が減少しますので、それに伴い分泌されるエストロゲンの量も少なくなります。エストロゲンの分泌は、脳視床下部からの刺激による脳下垂体性腺刺激ホルモンによって支配されています。したがって、脳下垂体性腺刺激ホルモンによってエストロゲンの分泌が促されても、卵巣の機能低下(卵胞数の減少)によってそれに応えることが難しくなるために、脳視床下部が混乱して自律神経が乱れ、頭痛、肩こり、便秘などの更年期障害が生じることになります。
プロゲステロンは黄体ホルモンともよばれます。黄体ホルモンには、受精卵が安定するまで流産しないよう子宮の収縮を抑える作用があります。この作用が、大腸にも影響を及ぼして、大腸の腸管運動を弱めるために、硬い便やコロコロとした便となって便秘が生じます。生理前に便秘になるのはこの理由によるものです。このように、卵巣に由来するエストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンは、便秘の発症と深くかかわっています。
2. 卵巣腫瘍
卵巣に腫れが生じた状態を卵巣腫瘍といいます。卵巣の大きさは通常親指大(2~3cm)ですが、卵巣が腫れますと直径20cmにもなります。卵巣腫瘍の多くは、卵巣の片側に発生しますが、両側の卵巣に発生することもあります。卵巣腫瘍の種類は多様ですが、臨床経過から、良性腫瘍、悪性腫瘍、境界悪性腫瘍(良性腫瘍と悪性腫瘍の中間的なもの)の3つに区分されます。一般に、腫瘍の内部に液体を含んだ嚢胞(のうほう)性腫瘍は臨床経過として良性のことが多く、他方、腫瘍が細胞組織等で満ちた充実性腫瘍は、その約80%が悪性腫瘍あるいは境界悪性腫瘍となっています。
卵巣腫瘍のうち、悪性腫瘍は卵巣がんとよばれます。卵巣がんの特徴は、おなかに水がたまる腹水とそれによる腹膜播種というがん細胞の移転です。卵巣がんの治療の基本は卵巣腫瘍の摘出ですが、腹水や腹膜播種が生じますと、治療が困難となります。近年、日本でも、生活様式や食生活の欧米化に伴って、卵巣がんが増加傾向を示しています。
境界悪性卵巣腫瘍は、確実に腫瘍を摘出してしまえば生命の危険に及ぶことはございません。希に再発することがありますので、腫瘍摘出後も経過観察が必要となります。悪性卵巣腫瘍は、リンパ節転移を伴うことがありますが、境界悪性卵巣腫瘍は、リンパ節転移を伴うことはほとんどございません。
悪性卵巣腫瘍と境界悪性卵巣腫瘍の発生率は、卵巣腫瘍全体の約20%程度です。卵巣腫瘍の80%は、卵巣嚢腫とよばれる良性の腫瘍(良性卵巣腫瘍)です。以下、卵巣腫瘍のほとんどを占める卵巣嚢腫についてお話します。
3. 卵巣嚢腫
卵巣の中に、液体成分や脂肪が貯留し腫れている状態の卵巣を卵巣嚢腫といいます。卵巣嚢腫は、触れると軟らかい腫瘍です。婦人科領域で発生する腫瘍の中で、子宮筋腫と並んで最も発生頻度が高い腫瘍です。卵巣嚢腫の多くは、20~30代の若い女性にみられます。卵巣嚢腫は自覚症状に乏しい疾病です。そのため、妊娠中の検査で、偶然に発見されることも多々ございます。また、嚢胞内部に皮脂や毛髪などを含んでいるため、腹部X線検査でこれらが写って発見されることもあります。
卵巣嚢腫のほとんどが良性腫瘍です。卵巣嚢腫は、腫瘍の中に貯留する成分によって、大きく4つの種類に分れます。以下、代表的な卵巣嚢腫についてお話します。
漿液性(しょうえきせい)嚢胞腺腫
嚢胞内部に、卵巣から分泌される黄色い透明な液体が貯留する腫瘍で、卵巣嚢腫の約25%を占めます。思春期以降、年齢を問わず卵巣嚢腫で最も多いタイプの嚢腫です。卵巣が、球形の手のこぶし大ほどの大きさに腫大し、腫瘍は縮小しません。
粘液性嚢胞腺腫
嚢胞内部に、ゼラチン状のネバネバした粘液が貯留する腫瘍で、卵巣嚢腫の約20%を占めます。閉経後の女性に多くみられるタイプの卵巣嚢腫です。粘液性嚢胞腺腫の特徴は、しばしば腫瘍が巨大化し、正常の卵巣の大きさが直径2~3cmのものが、直径20cmにも腫大することにあります。このように卵巣が巨大化しますと、お腹の中で嚢胞が破れ、嚢胞内部の粘液がお腹全体に広がります。この状態を腹膜偽粘液腫といいます。腫瘍の1つ1つの細胞は良性ですが、嚢胞が破れることによって腹膜炎を起こし、死亡することもあります。
成熟嚢胞性奇形腫
嚢胞内部に、皮脂、毛髪、歯、軟骨などの組織が形成された粘液性の物質が貯留した腫瘍です。皮様性嚢胞ともよばれます。20~30代の若い女性に多くみられ、腫瘍の大きさは10cm以下で、左右の卵巣に発生することがあります。成熟嚢胞性奇形腫は、人体形成の基となる胚細胞に発生するため、そこから分化形成される毛髪、歯、軟骨などの組織片が現れるのです。
チョコレート嚢腫
子宮内膜症が卵巣内に発症した腫瘍です。20~30代の若い女性に多くみられ、月経の度に出血した血液が卵巣内に溜まり、嚢腫となります。
若い女性に発症した卵巣嚢腫のほとんどは良性腫瘍ですが、高齢の女性の場合、卵巣嚢腫は悪性に変化していることがあります。したがって、若い世代に卵巣嚢腫がみとめられた女性は、手術等の治療後、定期的に検査する必要があります。
4. 卵巣腫瘍の治療
卵巣腫瘍は自覚症状の少ない疾患ですが、症状として便秘、腹部膨満感、下腹部痛、性器出血、頻尿などが現れることがあります。これらの症状は、卵巣が腫大することによって他の臓器を圧迫するために現れます。卵巣が腫大することによって、ウエストのサイズが大きくなり、スカートやジーンズがきつくなることがあります。
以上のように、卵巣腫瘍にはさまざまな形態がありますが、卵巣腫瘍に共通した治療法の第一選択は、手術による腫瘍の摘出となります。一般に、卵巣の大きさが5cm以上になりますと、摘出手術の対象となります。卵巣腫瘍の大きさが10cm以内であれば、腹腔鏡下での腫瘍摘出手術となり、それ以上大きい腫瘍の場合には開腹による腫瘍の切除となります。悪性腫瘍の場合は、抗がん剤による治療も併せて行われます。
5. 術後の後遺症と便秘
卵巣嚢腫あるいは卵巣腫瘍で、卵巣の摘出手術をうけた女性の多くに便秘が生じます。これは、卵巣を摘出することによって、卵巣から分泌されるエストロゲンやプロゲステロンなどの女性ホルモンの分泌が低下するために便秘が生じます。便秘以外の症状としても、いわゆる更年期障害に似た症状(頭痛、めまい、のぼせ、ほてり、イライラ感、不眠、不安感、異常な発汗、動悸、息切れ、性欲の低下、老化現象、動脈硬化、骨粗鬆症など)が現れます。
卵巣嚢腫や卵巣腫瘍の外科治療で便秘に悩まされている女性もきっと多いことと存じます。このような便秘は慢性的になる場合が多いので、便秘薬の使用よりは、長期に使用することができる便秘改善効果の高い水溶性食物繊維であるイヌリン食物繊維が効果的です。スティムフローラ等の高純度のイヌリン食物繊維がサプリメントとして市販されています。慢性便秘に刺激性下剤である便秘薬を長期にわたり使用しますと、次第に便秘解消効果が減弱します。したがって、卵巣嚢腫・卵巣腫瘍あるいはそれらの術後に生じる便秘の解消に、便秘薬は最適ではないといえます。他方、天然成分であるイヌリン食物繊維は、長期に服用しても便秘改善効果が減弱しない特徴があります。
卵巣嚢腫や卵巣腫瘍の発症メカニズムについては未だ明らかにされていません。しかし、最近の研究によれば、卵巣腫瘍の発症原因は、生涯にわたる排卵の数に関係するとの報告がみられます。排卵の数が増えますと、卵巣腫瘍になるリスクが高まるというものです。近年、日本人女性に卵巣腫瘍が増加している原因としては、閉経の時期の遅延と少子化に伴う妊娠の機会の低下が挙げられています。これらは、排卵の生涯数が増加することになりますので、それに伴い、卵巣腫瘍のリスクが高まることになります。また、出産後、授乳による育児が減少する一方、人工ミルクを用いた育児が増えていますが、人工ミルクによる育児は、母体である女性の卵巣腫瘍の発症リスクを高めるとの報告があります。授乳期間中は排卵は生じません。したがって、授乳による育児を行うことによって、排卵の数が減少することになり、その結果、卵巣腫瘍の発症リスクも低下することになるのです。卵巣嚢腫や卵巣腫瘍のこと、あらためて考えてみてはいかがでしょうか。
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