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PikuminのCancer Staging Manual

がんのステージングは治療や予後判定において極めて大事なものです。

1.3 Clinical and pathological stage

質問

肺癌での話。

左上葉の腫瘍の針生検で、扁平上皮癌がでた。CTで上葉の腫瘍は4cm大。気管分岐部から2cm以上離れている。臨床的にはcT2。pTはどうするのか?

回答:生検だけではこの場合pTは決められない。原発巣の切除が肺癌pT1, pT2の診断には必要だ。生検でpTを決めていいのは、例えばpT4(食道浸潤のときなど)だ。

解説:たいていの場合pTを決めていいのは、腫瘍原発巣がほぼ完全に(少なくとも肉眼上断端陰性)のとき。

ただしhighest Tが確定できる場合はpTを決めていいケースが定められている。

例えば、上記の肺癌の食道浸潤を上部消化管内視鏡生検で検出した場合、pT4。

同様なケースで、子宮癌の膀胱粘膜浸潤を膀胱鏡生検・細胞診で確定、前立腺癌の直腸浸潤等があげられる。

臓器によっては特別なルールが決められていることもある(例:前出の膀胱癌TUR-Bt)

UICC-TNMにはFrequently Asked Questionをまとめたpageがある

それの大事そうなところをしばらく順にちょっと訳してみる。

General rule

1. In situ carcinoma (日本では誤訳されて上皮内癌)

1.1:リンパ節転移に関する検査を全くしていないとき、carcinoma in situをステージングしてもいいのか?

たとえば、大腸ポリープ内のTisがんのときなど。

回答:厳密に言えばNXだけど、in situではリンパ節転移しないのでNXをN0と想定していい。

解説:大腸のM癌は欧米ではTis/dysplasiaと診断される。日本では堂々と癌と呼ばれるけどね。

で、大腸のM癌に限らず、子宮頸部のCIN3/Carcinoma in situ(CIS)でも、胃のESD・EMR標本での浸潤のない日本製胃癌(国際的にはTis)でも、皮膚のsquamous cell carcinoma in situでも、転移は想定されていない。それらに対してCTでリンパ節を調べておくような施設は殆どない(あってもそこをいい施設だと思ったりしてはダメ)。

本当はcN0と言う証拠はない。ないんだけど、N0として臨床上問題ないので、TisN0M0、stage0としていい。

これはsupplementにも、UICCにも、HPにも書いていないけど、

Tが計れなかったらどうするか?

例えば、臨床医が間抜けで組織を壊してしまった

1:大腸癌を開け損ねて、腫瘍の中心で管腔を切りひらいてしまった。T3/SSかT4/SEかわからない。

2:肺癌を切除した後、そのまま圧迫して固定してしまってゆがんでいる。サイズが測れない。

などなど。


これ等の場合は2つの鉄則を利用するしかない。

A:迷ったら軽く  When in doubt, less.

B:cTのmodificationがpT。だから、cTの情報を元に、妥当なTを想定する。

例えば肺癌ならCTの癌のサイズと組織像を比べてみる。CTサイズが癌のサイズとほぼ等しいと思われたらそれをpサイズにする。CTの読みが外れていると思ったら、控えめにサイズを推定する。


最悪わからなくても癌が確認される以上、pTXは感心しない



とある学会で、ある白髪の先生がやってきて、『うちの若い病理医はNにpをつけて、pNと書くんだ。病理のNが確定なんだからpなぞつける必要はない。病理の見たNだけが本当のN。cNなんてのはtentativeなものだ。臨床のつけるNはcNとすれば良かろうが、病理がNをつけたらもうそんなものは要らない。病理のNはpNとせず、それが真実なんだから単にNと書けばいい』と言った。


う~ん。気持ちはわかるんだがそうではない。

理由は2つ。

cNは確かに病理N/pNによって訂正されることがある。事実に即していえば、cNよりもpNの方が正しいことが多い。

しかし、cNは治療方針を決定する時点でNだから、pNがでた後でも治療方針の正当性の評価のためには絶対必要なものだ。もちろん、pNを調べることが出来ないときにはcN自身が絶対的なものだ。


もう一つ

たとえpNの方が事実に即していても、pNがcNより予後と相関するとは限らない。

なぜなら、本当に知りたいことは生命リスクやmodalityの妥当性であって、実際にがんがどこにあるかというのはその為の情報の一つに過ぎないからだ。

勿論一般的にはcNよりpNの方が予後相関性が高い。しかし例外がある。

肺癌のcN0/pN2症例。本体の検索が不十分な施設での大腸癌cN1/pN0症例、UICCではないが、胃癌取り扱い規約でのcN0 or cN1/pN2症例などなど。

まだ、cN vs pNの予後相関優位性が大規模に調べられたことはない。


よってcNの価値はpNが確かめられた症例においても消えることはない。

日本では食道胃境界部(EC junction/EG junction)の癌をどうstaigngするかが決まっていない。
欧米ほどその部のBarret上皮から出る腺癌が多くないせいもあるが、胃と食道で取り扱い規約に参加する学会が違うせいもあるだろう。胃癌学会も食道癌学会も、『ウチのだ!』って言っただろうし、病理学会も放射線学会もお義理で参加させてもらってるだけだから、何も言わない。境界学会があればよかったのにね。

しかし、UICC-TNMでは食道胃境界部の癌には胃でも食道でもない独自のcancer siteとして、TNMのルールが定められている。

同じような臓器に肛門がある。肛門は取り扱い規約を対象では、大腸癌取り扱い規約の担当臓器の一つだが、UICC-TNMでは独自のcancer siteとされていて、独自のTNMルールが定められている。


そのほか、取り扱い規約を対象がない領域の癌に関してもUICC-TNMが定められていることもある。

例えば、膣・外陰・卵管のような婦人科臓器、小腸、胸膜・・・注意しよう。


ま、取り扱い規約がない臓器があるのは仕方がないことだが、『日本は基本的に取り扱い規約でいく!』と言う癌政策なら全ての臓器に取り扱い規約がないのは、行政や医療業界のお偉いさん方の不見識だ。

もし、ないものに関してはUICC-TNMを使うのが当たり前だと考えているのなら、UICC-TNMの現状 は許し難い。どっちにしても不見識だ。

さて、一般に手術療法で得られた標本以外についても、場合によってはpTNMをつけていいことになっている。

手術でなくても、highest T が決められればpTを決めていいとされている臓器が多い。

肺で胸腔鏡をして胸膜生検をして胸膜播種があればcT4だが、pathological(病理学的)にT4以上が確定となるので、pT4としていい。卵巣癌で腹腔鏡大網生検で癌が出ればcT3と同時に、pT3としていい。

胃癌の肝転移で、肝生検して胃癌が出たら、cTXcNXでもpM1(HEP)だ。

しかし一方、胃癌EMRで粘膜下層で断端陽性となったらpT1とは言えない。たぶんT1なんだろうけど、病理学的にはpT1かどうか確定していないからだ。

同じく、手術で腫瘍をほぼ全摘しても切除断端が肉眼で陽性であれば、腫瘍がどこまで進展しているか決められないからTNMが決められない。


がん登録をする人にだけ関係ある事実として、日本の院内がん登録では(Quality Checkのため)、pTNMを手術療法・EMR/ESDの選択要件、術前化学療法の除外要件としているので、現状生検症例にpTNMをつけるかどうかpendingである。


Collaborative stagingを導入すればどうでもよくなることなんだが・・・・

移植学会の残念な方々が、腎癌修復腎を萎縮した場合にレシピエントに腎癌が発生することを心配している。

ま、残念な方々の心配を皆が共有する必要はない。


でも、発生したらTNMはどうしよう?


気が向いた人はUICC-TNM help deskに問い合わせてください。

でも、聞くまでもない。


答えは『TNMはない』


なぜなら、TNMは悪性腫瘍の進行度の分類だ。

移植臓器から発生した腫瘍は、腫瘍として腫瘍死を起こすことが不可能。理論的にもあり得ないし、実例もない。

悪性腫瘍として活動できない以上、悪性腫瘍の進行度が分類できないのは当たり前だ。


胃癌では、日本で浸潤と見なされるものと欧米で浸潤と見なされるものに違いがあるため、胃癌取り扱い規約のMとUICC-T1, Tisとの関係があやふやなものになっていることは以前書いた。


つぎはもっと問題のないトリビアを1つ


胃癌EMR,・ESDの場合、切除断端が陰性の場合のみpTをつけていい。LMやVMが陽性の場合はpTを書いちゃダメ。これはTUR-Btの膀胱腫瘍の件と同様に考えることが出来る。


で、LM(-), VM(-)ならCTとかをとってなくてもN0M0をつけてもいい。


いま、テキストが手近にないが、大腸・食道においても同様に考えていいはず。

有効数字というものがある。

腫瘍のサイズ計測では有効数字は0.1cmまで。3.1cmとか3.0cmとかはあるが、3.04cmとか2.96cmとかはない。

だから、

3.04cmは3.0cm。よって肺癌ならT1。

2.04cmは2.0cm。よって甲状腺癌ならT1。


もっとも、どっちでもいいことかもしれないが・・・トリビアとして

(ただし、これはUICCの本のどこにも書かれていない)

胃癌にはもう一つ・ふたつ問題がある。

一つはmがん。取り扱い規約では、carcinoma in situを認めていない。粘膜内の胃癌はたとえ分化型でもtub1でもtub2でも浸潤癌。CIS、Tisなんてあり得ない。もちろんpor(低分化腺癌)や sig(印環細胞癌)は当たり前の浸潤癌だ(←それは私も同意だが)。


しかし、日本では浸潤癌と見なす、構造異型のみのtub1やback-to-back growthのtubなど、EMR対象の殆どは、UICCではTisに分類される。・・・・分類できる人がどれだけいるかはまた別の話として


これも胃癌取り扱い規約はUICC-TNMに合わせるのか?

答えはたぶんNo ! だ。


日本の胃癌病理は世界一!。しかし、逆の言葉で言うと、世界の孤児。その悲願は日本の胃癌の診断基準を世界に広めることにある。

以下の文章を皮肉を込めることなく読んでください(もっとも個人の読み方は自由なので強制はしません)

日本では胃癌の診断能力が優れているので、外国では癌とされない病変をもがんと診断することが出来る。だから、日本では進行していない胃癌を発見することが出来る。確かにこれは、人を殺すという証拠はないし、外国の病理医や他の臓器の病理医の思う癌の基準とは違うが、優秀な消化管病理医はがんと診断が出来る。


ま、上の主張を認めるとしても、UICC-TNMは理念ではなく、予後を基準として作られる。EMRで処理できてまず死なないものはTisだ。だけどTisを認めることは、日本の胃癌を癌と認めないことにつながる。

おそらく受け入れられまい。


福岡大学筑紫病院 岩下明徳教授の言葉を引用しよう

『臨床疫学上の癌の頻度を左右するような病理診断基
準の根拠のない変更は許されるべきでない.』   
     その通りだな