ご無沙汰しております,ロケットプロジェクトのM1 浅井です.
つい最近までPM(プロジェクトマネージャー)として偉そうにふんぞり返っていたわけですが,先月の加太実験でついに団体初のハイブリッドロケット打ち上げに成功!しましたので,そのタイミングでPM業及び開発からは身を引いて,すべて後輩に押し付け託しました(次代を担う新PMが書いた打ち上げ報告記事はこちら!).
続投要請は,まあ別になかったですけど,研究や就活にも力を入れなくてはいけない中でこれ以上続けるのはあまりにしんどくて無理でした.

 

「普通の女の子大学院生に戻りたい!!」

 

某往年のアイドルよろしく,加太の射場でそう叫んだとか,叫んでないとか.


思いの丈を叫ぶには好適すぎる加太の射場

 

全く世代でないボケはこの辺で切り上げて,そろそろ本題に入ります.

 

  はじめに

 

10月前半のアメブロ担当を拝命し,何を書こうか決めあぐねてダラダラと過去記事を漁っていたとき,偉大な先輩が書きあそばされたロケット関連の記事が出てきました.懐かしいなぁと思いながら読んでいると,ふとこんな一文が.

 

 

ハイブリッドロケットとはなんぞや?というところですが,(中略)詳しい説明は別の人がしてくれる

 

 

ほう…?

 

 

 

 

 

 

「ハイブリッドロケットの詳しい説明」記事って,誰も書いてなくない…?
 

書いてなくない?wowwow

 

そうなんです.
ブログを読んでいる方々の前で散々「ハイブリッドロケットを作っています!」「打ち上げ成功しました!」と騒いでおきながら,僕らはずっと,"ハイブリッドロケットとは何か"を話し忘れてたんだよ(激アツタイトル回収).SSSRC公式ホームページに説明はありますが,たかだか数行程度だし…(仕方ないんですけどね).

 

ということで,今回はハイブリッドロケット(以下,HRと表記)の基本の話をしたいと思います.

まあ正直,HRの仕組みや基礎についてはJAXAや他の学生団体さんも記事を書かれているので,別に僕らがわざわざ書かんでも,という意見はありそうなんですが,「普段から活動を応援してくださっている皆様に対して,自分たちの取り組みを自分たちの言葉で深く語ることもきっと意味がある」と思い,今回はこのテーマに決めました.


ちょっとくらいはHRのこと知ってるよ,という方(弊団体の衛星メンバーや,興味があって調べ中の学生さんなど)は,少しだけ深入りした部分も入れますので,そのあたりを楽しんでいただければと思います.

 

「ワタシハHRチョットデキル」勢の方はブラウザバックしてください.(嘘です.著者はまだまだ未熟者ですので,記事の内容に誤りを含む可能性があります.お気づきの点があった際はご指摘をいただけますと大変ありがたいです.)

 

人様に基本を語るなんてずいぶん偉くなったもんだなと自分でも思いますが。。。書き出してしまったのだからしょうがない.ではでは.

 

  ハイブリッドロケットの概要

 

まずはHRの概要からいこうと思うんですが,

大前提として,ロケットが飛ぶ理屈はジェット風船なんかのそれと同じです.何かを噴き出す反動(反作用)で飛んでいきます.ただ,風船みたく普通の空気を噴き出すのでは宇宙へ行けないので,ロケットは"燃料を燃やして作った高温高圧のガス"を噴き出します.

 

問題はこの「高温高圧のガス」をどう作るか,つまり「どういう燃料を,どのような酸化剤で燃やすか」というところです(酸化剤,というワードが急に出てきましたが,どうということはありません.酸化剤は酸素,或いは酸素を含んだ物質です.ものを燃やすには酸素が必要ですからね!).

 

この「どういう燃料を,どのような酸化剤で燃やすか」について,現状最もポピュラーなのは次の二つの方式です.

 

  1. 固体の燃料を,固体の酸化剤で燃やす⇒固体燃料ロケット
  2. 液体の燃料を,液体の酸化剤で燃やす⇒液体燃料ロケット

 

固体燃料ロケットの代表例としてはイプシロンロケットが挙げられます.
おそらく日本で最もよく知られているであろうH-2AロケットやH-3ロケットは液体燃料ロケットです.

 

 

ここで,「じゃあ固体と液体を組み合わせられないの?」という疑問が当然湧いてきますよね?


そう,それこそがハイブリッドロケット(HR)なのです.


正確に言うと「燃料と酸化剤で相が異なるものを使用したロケット」がHRということになります.最も一般的なのは,固体の燃料を,液体(気体)の酸化剤で燃やす形式です.
(ときどきSSSRC内の文書等で「HRは,固体燃料と液体燃料を組み合わせたロケット」みたいな誤記を発見することがあります…酸化剤はどうするの?って話になりますからね.頼むで!)

 

これら3つを図で整理すると↓のようになります.

ロケットの各種推進方式
 

固体/液体燃料ロケットと比べたときのHRの強みとして,(固体燃料ロケットよりも)安全性が高いことや,出力調整が容易であることなどが挙げられます.一方で,それら2種に比べて推力がかなり小さいという,ロケットとしては致命的な弱点を抱えているため,宇宙輸送への本格導入には至っていません.研究開発自体は各国で取り組まれているので,まだまだこれから!な推進方式ですね.

 

  安全性と燃料について

HRの強みとして「(固体燃料ロケットよりも)安全性が高い」ことを挙げました.

これについてもう少し詳しくみてみましょう.

 

というわけでこちらをご用意しました.



CTI社 HyperTEKシリーズ J型グレイン

 

私たちが普段使っているHRの固体燃料です.

先月の打ち上げでももちろんこれを使用しました.↓の画像のように,かなり強烈な火を噴いてくれます.

 


固体燃料が火を噴く様子@燃焼試験

 

これだけ豪快に燃えるとはさすがロケット用燃料,って感じですよね.うっかり扱いを間違えると爆発でもしちゃいそうなイメージですが,ちょっと不用意にツンツンしてみましょう.

 


見てください,この,こういうように,最近ではハイブリッドロケットが流行りですね
それもさわっちゃう♪
これもツンツンて、もうツンツン
ツンツン、ツンツンツ~ン
ツンツンツンツン! ツンツン!

 

あっつ…くないわ(無傷)

 

固体燃料ロケットの場合,「ロケットの各種推進方式」の図からも分かるように固体燃料と固体酸化剤をひとかたまりにしているため,製作途中にうっかり火気を近づけようものなら一大事になりかねません.例えば固体燃料ロケットの一種としてモデルロケット(火薬推進ロケット)がありますが,やはり意図せず点火してしまうリスクがあるので,火気に近づけることや,ロケット本体に金属を使うことが禁止されています(金属同士が擦れて火花が生じる恐れがあるため).まあ,取り扱いに十分注意しなければいけないわけです.

一方のHRは燃料と酸化剤が完全に分けられており,固体燃料単体では爆発的な燃焼は起きようがなく,打ち上げ直前に酸化剤を充填するまでは意図しない燃焼のリスクがないのです(まあこれは液体燃料ロケットも同じですが).これが,「HRは安全性が高い」と言われる理由の一つです.安心して不用意ツンツンできます!
ロケットの燃料,と言われるとなんとなく少し身構えてしまいますが,HRならその心配は無用というわけですね.

 

 

もっと言うと,爆発的な燃焼は酸化剤があればこそなので,特に性能を追求しないのであれば,HRの燃料なんて燃えればなんでもいいんです.ちなみに先ほど僕がツンツンした燃料はABS,要はプラスチックです(爆発なんかするわけがないのでますます要らないくだりだった).


そのため様々なものをHRの固体燃料に使用する取り組みがあり,直近ではガンプラの使用済みランナーから固体燃料を生成して打ち上げを行った例があります.


さらに稀有なものでいうと,UHA味覚糖(ぷっちょの会社さんですね)により実施された「キャンディロケットプロジェクト」という企画において,固体燃料としてキャンディを使用したハイブリッドロケットが製作されています.

 

(全国の学生ロケット団体がいつもお世話になっている先生方がご登場なさっています.減速落下まできっちり成功させるあたり,流石です….)


非常に独自性の溢れる広報で,面白いですよね.動画の最後には「キャンディは,無限の可能性でできている。」との字幕もあり,なんだかかっこいいです.
ただ,繰り返しになりますがHRの燃料は燃えればなんでもいいので,「HRの燃料になる⇒無限の可能性でできている」ということなら,世の中の割と多くのものは無限の可能性でできています.

 

  おわりに

はい,というわけで今回は今更ながらハイブリッドロケットの基本事項や特徴について簡単にお話ししました.本当はもっといろんな話があるわけですが,僕が知っている範囲に限定しても,それらをすべて書くのはなかなか骨が折れますので,とりあえずこの辺で….
書ききれなかった部分の詳しい説明は別の人がしてくれます(ル ー プ も の)(輪 廻 転 生)(歴 史 は 繰 り 返 す).

 

最後に,このタイミングでロケット関連の記事を書く以上,触れないわけにはいかないこちらについてちょっとだけ.

 

 

頭おかしい(感嘆)

 

発射台でロケットを掴めるようになれば,着陸用の脚(ロケットの自重を支えるためにかなりゴツい)を搭載する必要がなくなるので,機体をより軽く作れるようになる,ということらしいです.たしかに,最後の最後,着陸するときにしか使わない(のにやたら重い)脚を,わざわざ宇宙まで連れて行かなきゃいけないと考えるとかなり無駄ですもんね.

 

いやぁそれにしてもこんなものが本当に実現できるとは,SFの世界みたいで…憧れ不可避.

憧れてしまったら超えられないらしいですが,たぶん追いつくまでは憧れた方が良いでしょう.
僕らのやってることとそりゃレベルが全然違うけど,でもきっと地続きだから,憧れ燃やして,ひた走っていこうぜ!!!

 

それでは,ここまでお付き合いいただきありがとうございました.
また12月に,因縁のアドカレでお会いしましょう.