蒼空日記 -3ページ目

蒼空日記

しあわせダイアリー




またひとつ歳をとりました。

生きてて花もらう事ってそんなにないでしょ~?なんて言いながら、お友達が花束をプレゼントしてくれました。

ほんとにそうで。


テレビで、花束もらって喜ぶシーン見て、
毎回本気で、わたしならもっと実用的なものがいい…などとほざいてきましたが、とんだ阿呆の未熟者です。


その感動たるや。


外でお肉焼いて、ビール飲んで。
いつもと変わらない、
そして少し特別な気持ちになれた、素敵な誕生日でした。
















太陽みたいに熱かった頃、
氷に覆われてた頃、
大気が毒まみれの頃、
生物などが到底生存などできない頃から、想像するにも気が遠くなるほどの、ながいなが時間をかけて、その姿を変えてきた。

運良く生き残り、このほしに生を受けた私たちが今必死に悪あがきしたところで、勝手に住み着き破壊しただけの、それはそれはほんの短い歴史を刻んだだけで。
これからもまた、数えきれないくらい、たくさん姿を変えてく。

こんな奇跡のほしに少しだけ住まわせてもらっておいて、
暑いだ雨が多いだなんだかんだとわたしの目線でものを言うのはおかしい。一体、何を基準に。

わたしの狂ったモノサシじゃはかれない。

あたかも自分たちのもののように我が物顔でいるから、
きっとあざ笑ってるだけなんじゃない?

富士山だって、頭を雲の上に出して四方の山を見下ろして雷様を下に聞きながら、
静かに聳えていたかったろうに。

そろそろ怒られるに違いない。


人間様は、ものを生み出すと同時に、いろんなもの壊した。
いのちの奪い合いまでした。

大切にする事ができなかったけど、
それはなんか、かすり傷。

気付かない、学ばない人間様が、
自分たちを勝手に滅ぼしただけ。


何億年、何十億年。
きっとまた、姿を変える。

次また運良く住まわせてもらえるなら、こんなに頭が良くなくていい。
ただ抱きしめあえればいい。

欲を言えば、また逢いたい。

今より美しいといいな。











あとほんの数日で夏休みは終わります。
さみしくて、やだーやだーって泣くのはわたしくらいでしょうか。
なんか、大丈夫でしょうか大人として。
自分に引きますが。


思い出づくりは、とっても素敵。

でも、いつものように手をつないで行くスーパーや薬屋さん、抱きついて離れないゆったりした朝、娘の柔らかい体や声に包まれたこの何とも普通の、あまりにあたりまえの日常に、この上ない幸せを感じる事ができました。

ちょっとでもわたしの姿がないと、お母さーん!!って探し回る娘。
トイレにまでついてくる娘。
用もないのにお母さんって呼ぶ小さくて愛しい声。

四六時中一緒にいられる、
わたしにとって最高の、短い短い夏休みが終わります。



こうして携帯いじってれば、

photo:01



アイパッドでだいすきのメッセージ入りのケーキつくってくれる娘。





本当に、幸せな一ヶ月でした。





photo:02



蒼太の腸は約10センチ。
徐々に、体内の臓器の働きのバランスが保てなくなり、体に異常が出始めた。

肝臓に大きな負担がかかり、顔や体に黄疸が出始めた。
瞳の白い部分は、会う度に黄色く染まっていった。
便には、大量に血が混じるようになった。

そんな、明らかに症状が悪くなる中でも、蒼太は相変わらず元気に水を欲しがり、飲み干す気力を見せた。

そう、私が後ろ向きにならなければ、蒼太はちゃんと応えてきてくれた。
絶対に蒼太は負けない。
休む間もなく闘い続ける小さな蒼太に、私はまたもや生きる事をやめるな、頑張れとお願いをした。

どんなに痛々しい姿の蒼太を目の前にしても、諦めの気持ちなど少しも生まれなかった。

「蒼太と一緒に生きたい。」
それだけだった。

時々、蒼太に添い寝をした。
蒼太の寝息と温もりに包まれながら目を閉じると、ここが病院である事を忘れ、家の中に居るような感覚になれた。

隣で、すやすやと眠る蒼太。
いつしか私も眠りにつき、目を覚ますと、蒼太は私をじっと見つめていた。
私の腕の重みがのしかかろうと、泣きもせずに、いつも私を見守っていてくれていた。

面会時間が終わり帰宅しても、蒼太に会いたくなれば真夜中に病院に忍び込んだ。

独りきりの不安や寂しさから、人の気配に過剰なほど敏感になっていた蒼太は、
私が一切物音を立てずに近づいても、必ず目を覚まし、優しく微笑んでくれた。
そんな蒼太を見れば、居た堪れなさと愛しさがどうしようもなく込み上げた。
笑う蒼太を、逸る気持ちで抱き上げる。

蒼太を抱きしめながら感じる、
ふわふわでやわらかい髪の毛、あたたかい頬、耳、吐息。
伝わる鼓動。
蒼太は、こんなにも優しく、強く、生きている。
愛しくて、愛しすぎて、
何時間もその場を離れられなかった。


しかし、日に日に増える出血と体重の急激な減りには目を覆いたくなるほどだった。
蒼太の顔はひとまわり小さくなり、腕や足は、骨と皮のような状態になっていった。

先生に今後の治療を問うと、肝臓の働きを良くする飲み薬と、血を固める為の血小板の点滴、輸血との事だった。
先生の表情からもはっきりと受け取れたが、その治療は焼け石に水のような感覚だった。


「この子には、時間がないのでしょうか。」

私は先生に直球を投げた。

「もって、一か月でしょう・・。」


大きな目を輝かせて私を見つめる、
ミルクが欲しいと元気よく泣く、
腕の中で穏やかに夢を見る、
小さな細い指で私の頬に触れる、
日々成長し、生きたいと叫ぶ、
目の前に確かにいる、私の可愛い赤ちゃんは、もうすぐ死んでしまうと宣告された。


どんなに願っても、蒼太の体が限界に達しようとしている事は、受け止めなければならなかった。
蒼太を毎日見ていれば、その急激な変化に目を背ける事などできなくなっていた。

頑張りすぎた蒼太は、徐々に笑顔を見せなくなっていた。


「残りの時間は、一日でも多くご家族でお家で過ごしてください。」


先生からの言葉は本当に突然で、頭では解っていても、とてもすぐには答えが出せなかった。

まだここで、病院で、命を救うための治療をしてほしい。
蒼太の命を諦めないでほしい。
この子と一緒にいたい。
一日でも、一時間でも、一分でも長く生きてもらいたい。

答えを出せないまま、私は叫び続けた。
どこにぶつけていいかわからない怒りと悲しみを、心の中で叫び続けた。


何かが弾け飛んだ。
固くなっていた気持ちが解き放たれた気がした。
諦めとは違う、いつしかもっと優しい感情が芽生え、私の背中を押した。


七ヶ月もの間、真っ暗で冷たい夜を、目を腫らしながらたった一人で乗り越えてきた蒼太に、やわらかく温かな時間を過ごさせてあげたい。
これからの毎日を、これ以上ないほどの家族の温もりで包んであげたい。

心の葛藤が決意に変わるまでは、あまり時間はかからなかった。


数日間は病院で、家で行う為の点滴の交換の仕方や諸々の注意点を教わり、
外泊という形で蒼太を連れて帰る日を迎えた。

産婦人科から退院する日の為に用意した白いドレスを、やっと、蒼太に着せてあげる事ができた。

可愛い。可愛い。なんて可愛いんだろう。
本当によく似合っていた。
夢が叶った瞬間だった。


病院の外に出ると、蒼太はずっと空を見ていた。
真夏の真っ青な空と会話でもしているかの様だった。

キラキラと光が反射し、輝く海を一緒に眺めながら、家へ向かう。
車の振動ですぐに眠りつく蒼太。
こんなあたりまえが、嬉しい。
蒼太から伝わる体温が、嬉しい。


蒼太と初めて家の中で過ごす夜は、絶え間ない笑い声に包まれていた。
一緒に歌を歌ったり、蒼太の好きなアンパンマンのDVDを観たり、
花火をして過ごした。
蒼太は常に目をきょろきょろさせて、初めて見るたくさんのものに興味を示していた。
その顔が、なんとも可愛いかった。
私の鼻を何度も何度もつまむ仕草は、嬉しさを伝えてくれている様にも見えた。

家中が、蒼太のいる喜びで溢れていた。
あたりまえのようで、奇跡みたいな日。
不思議と初めての感じがしないのは、蒼太の心がいつもそばにいてくれていたからだろう。

買ったままになっていたベビーベッド。
この日、蒼太は初めて自分のベッドで眠る事ができた。

昨日まで蒼太は、時間がくれば病室から出ていく私の背中を見て泣いていた。

振り返れば絶対に離れられないと解っている私は、
拳を握り締めて、蒼太の泣き声を背に立ち去る毎日だった。

今日からは、そんな悲しい涙は流させやしない。
お母さんは、いつだって蒼太と手を繋いでる。
暗くて長い長い夜も、もう独りじゃない。

これから一緒に、もっともっと色んな事をしよう。
色んなものを見よう。
片時も離れずに、生きていこう。

蒼太のいる幸せに包まれながら、蒼太の手を握りしめながら、眠った。


翌朝、退院の準備の為に病院へ戻った。
午前中の処置が終わるまでの間、蒼太から離れた。
前日よく眠れなかったこともあり、私はうたた寝をした。

夢をみた。

蒼太は、とても大きな女性に抱かれ、眠っていた。
それを取り囲むのは、見た事もないような美しい花々。
全てやわらかなピンク色をしていた。
蒼太の体からは点滴は外れ、穏やかな表情でミルクを飲んでいた。
苦しみとは無縁の、とても幸せそうな蒼太がいた。


私は、感じた事のない胸騒ぎと共に目覚め、病室へ向かった。

蒼太には酸素マスクが付けられていた。


看護師さんが言う。

「お母さん、今日はそうちゃんから離れない方がいいかもしれない。」

私は全身の力が抜け、その場に崩れた。

さっき見たあの夢は、今蒼太が見ている夢ではないかという思いがよぎった。


思い返せば、病院での延命治療を強く望んでいた私が、
蒼太を家へ連れて帰ろうと心が動いたあの瞬間は、
蒼太の強い願いが、私に伝わった瞬間だったのではないだろうか。
蒼太は、自分の体の限界を感じ取り、最後の力で、家での思い出を残してくれたのではないだろうか。

呼吸もままならずに、みるみる青ざめていく蒼太を抱きながら、
「ありがとう、ありがとう」と、繰り返した。

蒼太は、口と鼻から泡を吹いた。
視点の定まらない目からは、黄色く染まった涙が流れた。
それでもただひたすら息をしようともがく我が子に、
頑張れなどという言葉などかけられるはずがなかった。
もう、本当に、十分過ぎるほど、頑張ってきたのだから。

私は、蒼太が燃やし続ける「命」を目に焼き付けた。
目を逸らさず、蒼太の最期であろう生き様を私の中に焼きつけた。


虚ろな瞳で、
もうろうとする意識の中で、
蒼太は一体何を見たんだろう。

幸せだと感じた瞬間を、思い起こしてくれただろうか。
家族で、家で過ごした昨日を、思い起こしてくれただろうか。

こんな体で産んでしまった母親を、許してくれただろうか。
苦しみや悲しみばかりの自分の人生を、愛する事などできたのだろうか。


蒼太が腕の中で最後の息をする瞬間、
蒼太を強く抱きしめ、伝えた。

蒼太と出逢い、蒼太と共に生きられた事がどれだけ幸せだったかという事を。
蒼太のお母さんになれた事が、どれだけ幸せだったかという事を。


あの日、あの暗闇の中から必死に這い出て、
その目でお母さんを見つめてくれた。
その指で、お母さんの頬を撫でてくれた。
その口で、うたってくれた。
その心で、包んでくれた。

その小さな体で、おしえてくれた。


「そうちゃん。うまれてきてくれて、ありがとう。」



蒼太を最後のお風呂に入れた。

いつものようにタオルにのせ、
いつものように体を拭き、
いつものようにオムツを替え、
いつものように鼻をくっつけて笑った。
いつもの、そして最後の愛しい残り香に、しばらくの間包まれていた。

小さな体に刺さっていた針は全て取られ、
蒼太はやっと、痛みや苦しみから解放された。


外が、明るくなり始めていた。

蒼太を抱き、帰宅する途中に見た眩しすぎる朝日は、蒼太の命の輝きそのものだった。

蒼太を高く高く持ち上げて、どこまでも蒼い大空を仰いだ。


蒼太と過ごす最後の夜。
長女は、動かない蒼太に、一生懸命絵本を読んであげた。
どこにでもいる姉弟のように、思いを、分かち合っている様に見えた。
長女は蒼太を、弟を、抱きかかえるように眠りについた。


蒼太をかえす日。
この日はとても暑く、
雲ひとつない空が広がっていた。


蒼太を乗せた白い煙が空に届くまで、
私はただ、いつまでも空を見上げていた。

あの日見た朝日を、
この空の蒼を、
七か月を闘い抜いた蒼太の命の輝きを、忘れない。

また逢おう、蒼太。

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うだる暑さの季節になれば、最後に息子と見た青空を、風の匂いを、より鮮明に思い出します。


わかったことは、いくら月日が流れても、
気が狂うほどのかなしみは変わらないという事。
息子の無念を想像すらできずに、それでも生きている薄情者はわたしなのです。

昨日レジにいたいつものおばちゃんと同じように、
さっきすれ違った見ず知らずの人と同じように、
わたしも、おっきな荷物をわっせこらせと抱えながら、毎日を過ごしておるわけです。


とても贅沢です。
とてもかなしくて、
とても幸せです。


発狂して泣きわめいて、
ああ、生きてるなあ。
なんて幸せなんだろう、と思います。



一日の終わりに、娘の目を見て伝えます。
「生きていてくれて、ありがとう。今日も幸せをありがとう。」


偶然この場所に来てくださったあなたに、同じ気持ちでこの言葉を贈ります。

生きていてくれて、ありがとう。



息子を綴るたびに、
息子がうまれる気がします。

どうか留まり、あなたを優しく包み込む瞬間がおとずれますように。




星の降り注ぐ夜に、蒼太は私たちのところに産まれてきてくれた。

どこか大人びた表情。
見透かす様な視線。

まだ見えない目で、
まっすぐ、まっすぐ、私を見つめた。

静かに、強く。
そして優しく何かを語りかけるように。

ただ、ただ、可愛かった。
いとおしくて、たまらなかった。

触れると壊れてしまいそうな小さな手が、
私の指を強く握った。

この手を離さない。
蒼太と生きていける歓びで、体中がこれ以上ない幸せに包まれていた。

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産婦人科では、出産後の感動の余韻に浸る間もないほどの、時間にコントロールされたスケジュールをこなした。
ミルクも、決められた時間内で規定量を与えるまで、わりと厳しくチェックされた。

そんな中蒼太は、与えたミルクを吐くようになった。
飲めば少し吐くを繰り返す蒼太を見ていると、ミルクをあげる幸せなはずの時間が、苦痛に変わっていった。
周りに合わせ、取り残されないように必死だった。

一日に何度も何度も着替えをした。
夜中、静まり返るナースステーションの前で、
蒼太の汚れた服を握りしめてひとり立ちすくんだ。
とても孤独だった。
「ミルクの量や与えるペースが、蒼太に合っていないのか。それとも、蒼太の体の中で、普通でない何かが起きているのだろうか・・・。」
私は、言い表せない不安でいっぱいだった。

先生に時間をとってもらい、蒼太の状態を細かく話した。
蒼太は何かの病気ではないかとうったえた。
先生は笑顔で、
「赤ちゃんにはよくあることです。こんなに元気に泣いているじゃないですか!
しばらく様子を見ましょう。」
とだけ言った。

私は、「よくあること」という言葉に少し安心した。
心のどこかで、蒼太が普通ではないと認めたくない私は、
この時の先生の言葉を信じた。



産婦人科を退院する日。
この日、大量のミルクを看護師さんの服にぶちまけてしまった。
前日までの、垂れ流すような吐き方とはまるで違っていた。

すると、その看護師さんから、蒼太の様子をもう一日診たいとの申し出を受けた。
一気に、心の片隅に在る不安が現実になるかもしれないという恐怖が襲った。
(もう一度きちんと診断してもらい、蒼太の症状に合う病院を紹介してもらおう。)
そう思い、蒼太を預けた。
「まさか自分の子供が」といった昨日までの怠惰な感覚は無くなっていた。

蒼太を預けてから数時間後、産婦人科から、蒼太の様子がおかしいとの連絡を受けた。


産婦人科に到着して見た光景は、とてもすぐに受け入れられるものではなかった。

ついさっきまで穏やかだった蒼太が、絞り出すようなとても低い声で泣き狂っていた。

何かを欲している泣き声ではない。
蒼太は確かに、「助けて!」と叫んでいた。
全身を使って、苦しみをうったえていた。

お腹は風船の様に膨れ上がり、血管が浮き出て見えた。
呼吸困難に陥りながら、目を真っ赤に染め、大きく開いていた。
高く上げた腕と、しっかり開いた指は、
まるで何かを掴み取ろうとしている様だった。


「蒼太・・、蒼太・・」

抱きかかえた蒼太の体は、石の様に固く硬直していた。

「早く、早く何とかして!この子を助けてお願い助けて!!!!」


すぐさま蒼太は、産婦人科から大きな病院へと救急搬送された。

応急処置の間は、生死を彷徨う蒼太の手を握る事すら許されなかった。
産まれたばかりの我が子が苦しむ姿を、ただ見ている事しかできなかったのだ。


数日前、蒼太は私に必死にサインを送っていた。
なぜもっとしつこく先生に言及しなかったのか、なぜもっと早く他の病院で診てもらうようお願いしなかったのか。
なぜ、ちゃんと蒼太の声を聞いてあげられなかったのか。
とにかく自分を責めて、責めて、責めた。
母親としての、あまりの不甲斐なさに潰されそうだった。

搬送先で、看護師さんが涙をためて私の手を握ってくれた時
錯乱状態の心が少し癒され、
同時に蒼太に申し訳なくなった。


蒼太は、たった一人で闘っている。
温もりも慰めも届かない暗闇で、ただただ、生きたいと声を上げているのだ。

「蒼太!蒼太!」

私はガラス越しの蒼太に叫び続けた。

あの時できる事は、私の、お母さんの声を届ける事だけだった。



蒼太はそこから更に、重病の子供のみが集まる病院へ搬送され、緊急手術となった。

苦しみ始めてから、9時間が経っていた。

蒼太の体力が心配だった。
呼吸もできないほど苦しんでいる赤ちゃんが、今からお腹を開くのだ。
とても冷静ではいられなかった。

手術を待つ間、泣く事以外どの様に過ごしたかは覚えていない。
思い出すのは、窓の外の美しいはずの夜景が、とてつもなく悲しく映っていたことだ。


三時間半。
蒼太は、戻ってきた。


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「蒼太は、お腹にいるときから胃の一部が薄く、そこから飲んだミルクが漏れ、腸を腐らせているのではないか。
この時点では、蒼太の体力を考えても胃の縫合が精一杯で、腸全体を確認できるまで開腹する事はできない。
容態が落ち着いたら、腸の腐った部分を切り取る手術を行うが、その手術の前に菌が体中に回れば、呼吸困難に陥り死に至る。
次の手術までは、抗生物質で菌が暴れるのを抑えるが、命の保証はできない。」

これが、その時の先生の見解であり、蒼太の体に起きている紛れもない事実だった。

蒼太のお腹の中は、産まれて数日の間に取り返しのつかないものになっていた。

私が与えたミルクが、蒼太をここまで酷い状態にまで追いやった。
私はこの手で、我が子を傷だらけにし、命の危機に追いやったのだ。
自分が、両足で立っていられる事が不思議だった。
いや、自分が平然と生きている事が無性に腹立たしかった。


蒼太の、柔らかく小さな口と鼻からは管が入り、手足には何本もの針が刺さっていた。
お腹には大きな傷跡と、中から繋がるチューブが2本むき出しに飛び出していた。
傷口を覆うガーゼには、血が滲んでいた。
痰を吸い出す作業はいつもカーテンが閉められ外で待たされた。
そっと覗くと、体をのけ反ってもがく蒼太の姿があった。

それでも、
真っ暗闇の中でも、
いくら痛くても、寂しくても、
蒼太はこの世界にに留まろうと、必死に息をしていた。

涙はこんなにも出るものなのか。
この世には、こんなにも悲しい出来事があるものなのか。

ちいさなちいさな手を握り、
私の命と交換してくださいと、祈り続けた。


二週間。
先生方の懸命な治療と、蒼太の生きたいという強い思いで、
腐った腸の一部分を切り取るという手術の日を迎えることができた。


私は蒼太に語りかけた。
「蒼太、もう二度と痛い思いはさせないからね。痛い事は今日でおしまい。
ここまで頑張ったのも奇跡的だって先生達言ってるじゃない。
蒼太なら大丈夫。
早く治して家に帰ろう。
針と管を抜いて、抱っこしよう。
たくさん、たくさん、お母さんの温もりを感じてほしい。
あったかいお風呂に入ろう。
お風呂から出たら、おなかいっぱいミルクを飲もう。
そして、かわいい服を着て
オルゴールを聴きながら、ふかふかのお布団で、眠ろう。
お母さんと一緒に眠ろう。
あたりまえのことを、しよう。
そう、きっと蒼太は、一生分の苦しみを今まとめて味わっているだけ。
蒼太、残りの長い長い人生は楽しくて嬉しくて幸せなことばかりが待ってる。
お腹の傷だって、男の勲章だなんて、笑いながら友達に自慢する日がくるの。
いってらっしゃい。
ここからが、あなたのスタートだよ。」

手術室の入り口で、腕の中の蒼太を先生に託し、扉が閉まると大量の涙が溢れた。

蒼太が、一歩ずつ、前へ進んでいる気がした。



しかしすぐに、先生が戻ってきた。

「結論から言うと、手術は不可能です。」


蒼太はまだ手術室で、お腹を開かれたままの状態で眠っていた。

別室の映像に映し出された蒼太の腸は、真っ黒な色をしていた。

蒼太のお腹の中は、先生の予想をはるかに超える救いようのない状態だった。

蒼太は腸を失った。

開きかけていた未来への扉が、バタンと閉じる音を聞いた。

先生が続ける。
「命をつなぎ止めるには、この真っ黒に腐った腸をとにかく早く体内から取り出す事です。
しかしそれを行うには、腸が固まるのをひたすら待たなければなりません。」

何も出来ないまま、蒼太のお腹は閉じられた。

麻酔の影響で、蒼太の顔や体は浮腫みを超えて膨れ上がっていた。
私は、あまりの痛々しい蒼太の姿を直視することができなかった。


何度も、何度も、説明を受けた。
どれも最終的には、腐った腸が固まるまでの最低一ヶ月、蒼太の命はもたないという結論で終わるものだった。

蒼太にはあまり時間が残されていないからと、少しでも傍にいるよう促された。

テレビでよく目にしていたスーパーマンの様な先生が、
うつむき加減に、弱々しくお話されているのを見た私は、
最先端の医療が受けられるはずのこの病院でも、蒼太に治療法が残されていない事実を受け入れざるを得なかった。

そして、蒼太の容態が急変した際も、延命の為の治療は行わないという同意書のサインを求められた。

悔しさで体は震え、涙で文字など見えやしなかった。



蒼太の所では泣かないと決めた。
帰れば長女が待っている。
両親にもこれ以上心配かけたくない。

病院と実家の往復三時間の車中が唯一自分をさらけ出せる場所だった。
海沿いをまっすぐ延びる国一で、
私はひたすら、声を出して泣いた。
口はふさがらず、よだれをたらしながら泣いた。
「ごめんね」を繰り返しながら泣いた。

我が子から当たり前の人生を奪ってしまった罪の意識と、
産まれてきたがために背負わされた息子の苦しみを変わってあげる事ができない、母親としてのあまりの無力さを責める毎日だった。

私は、何も口にする事ができずに病院で闘う蒼太を思うと、食事がとれなくなった。
体調を崩し、自分の運転で蒼太の待つ病院に向かう事ができなくなった。
とにかく情けなかった。
まるで自分に酔った悲劇のヒロインだ。

後悔ばかり口にし、許しを請うだけの母親など、今の蒼太が必要としてくれるはずもない。
蒼太の、生きるか死ぬかの闘いに、私の汚い涙など、何の役にも立たない。

闘い方を完全にはきちがえていた私は、気持ちと生活を立て直した。
病院のそばに家を借り、まだ病室への出入りが許されない娘を、保育園に預ける生活を始めた。

いつか蒼太が退院した時、蒼太と娘の生活の基盤は、病院の近くの方がいいと思ったからだ。

とにかく、前を見た。間違いなくそれは、蒼太も同じだった。
蒼太との未来を、揺るがなく思い描いた。

朝目覚めれば、今日という日を一緒に乗り越える気持ちの準備を整え、蒼太の所へ向う。
病院を出れば、より一層の不安で潰されそうになりながらも、一分、一秒を懸命に乗り越える蒼太と同じ気持ちで時を刻む。

毎日同じ繰り返しの様に見えてそれは壮絶な、かけがえのない命との闘いの毎日だった。


蒼太はPICUから一般病棟へ移り、腐った腸が固まるのを待つ事となった。

一秒先に容態が変わっても全くおかしくはない状態で、ただひたすら待つだけという日々はまるで、小さな体に、いつ爆発するか知れない爆弾をつけて、放っておくことと何ら変わりはなかった。


ただ、蒼太は穏やかだった。
そして、とても強かった。


色々な方向から入れられたメスの跡は生々しく、皮膚移植の話が出たが、
そんな話を聞いていたのか、お腹の傷跡はみるみるきれいに治っていった。
お腹の中から繋がるむき出しのチューブも、それから程なくして抜く事が出来た。

しばらくして、入浴の許可が出た。
待ちに待った瞬間だった。

点滴をしながらの危なっかしい沐浴も、蒼太はとても気持ちよさそうにしてくれた。
体を拭くときは、うっとりとした表情で、目を閉じていた。
あまりに穏やかで、愛しくて、鼻と鼻をくっつけたり、
残り香の漂うピンクのほっぺに何度もキスした。

お風呂上がりには、ほんの数滴のソリタ水を飲んだ。
口から入れられる栄養が無い蒼太にとって、この水は気休めでしかない。
それでも蒼太は、むせるほどの勢いで、飲み干した。
腕の中で勢いよく水を飲んでいる姿からは、蒼太の強い生命力を感じ取る事ができた。

水を欲する大きな泣き声は、「生きたい」という蒼太の叫びそのものだ。
お腹いっぱい飲ませてあげられない事に悲観的になるよりも、ただこの蒼太の叫びだけを聞き、自分を奮い立たせ、蒼太と同じ気持ちで前を向いた。
蒼太の頼もしさに、強さに、私の方が生きる力をもらっていた。


病室では、時間の許す限り、ひたすら蒼太を抱っこした。
それは、蒼太に甘えっぱなしのとことん頼りない私が、唯一母親らしくいられた時間だった。

ゆらゆら揺れる腕の中で、蒼太はよく眠った。
長いまつ毛が愛しい。
夢を見たのか、頭が動いて開いたお口が、なんとも間抜けで可愛かった。



腸が通じていないと言われながらも、便がよく出だした。
先生は、便ではなくお腹の中の汚れたものが排出されているだけだと言っていたが、
私は、固まり始めた腸を使って出た便だと思い込み、疑わなかった。
信じてさえいれば、それを現実にしていく力を、蒼太は持っていたからだ。

顔色もとても良くなった。
音楽を流すと、「アー、アー」と、リズムに合わせて歌うようになった。
絵本を読むと、私の顔を何度も何度も確認する仕草をし、
時折笑顔を見せてくれるようにもなった。
おもちゃをしっかりと握りしめ、音が鳴ると不思議そうにじっと眺めたりした。

半年を過ぎても3kgに満たない体で、寝返りも打てるようになった。

時々許された長女との面会では、長女の顔を見つめ、語りかける声や歌にじっと耳を傾けた。蒼太がお姉ちゃんの存在を認識し、二人の空気を包み込んでいるかの様な、姉弟の、やわらかく優しい時間を過ごした。


蒼太は、病気と闘いながらもしっかりと成長していった。

大きな窓から見える景色に、差し込む光に、眩しそうな表情をしていたけれど、
ここから出て、あの眩しい世界に飛び込みたいと誰より強く思っていたのは、他の誰でもない蒼太自身だった。
蒼太に付けられた爆弾は、日に日に私の目には映らなくなっていった。


そして、死と隣り合わせの先が見えない毎日から一変、
「腐った腸が固まり、取り出せるかもしれない」と、先生からお話があった。
何も出来ずにお腹を閉じてから、何十日と待って、待って、待ち続けた瞬間だ。

その場にいた看護師さんと抱き合って喜んだ。
家族に連絡をとり、その旨を伝えた。
皆、涙して喜んでくれた。
周りの皆の思いに、蒼太は応えている。
生きてさえいてくれれば、どんな壁も、乗り越えてくれる気がした。

手術は、成功した。
蒼太は元気に戻ってきた。

腐って固まり始めた腸を取り出し、僅かに残る腸で裏表を縫い合わせ、つぎはぎの管をつくりだし、繋ぐという大手術だった。
先生への信頼は計り知れなかったが、この手術を終えた時は、まるで神様のように見えた。

ひたすら祈り続け、迎えられたこの瞬間は夢の様で、
蒼太の生命力は、希望に満ちた遥か未来を照らした。
私には確かに、その光が見えた。

蒼太は爆弾を体内から取り出し、残りの約10センチの管で、生きる準備を整えた。



先生は解っていたのかも知れない。
この体内の構造では長く生きる事が難しい事を。

ただ、私にとってはもう、医学的な事は関係なかった。
蒼太が持つ底知れぬ力を、信じたいと思った。

「今こうしていることが奇跡だ。」と口を揃える先生方。
「そうちゃんはすごいねえ、がんばりやだねえ。」と微笑む看護師さん達。

私は、声を大にして叫びたかった。
「あたりまえだ!私の自慢の息子なんだ!絶対死なせない!
ずっと、ずっと一緒に生きていくんだ!」

やわらかく息をし、私をきょとんと見つめる小さな赤ちゃんは、
どんなに苦しくても諦めようとしない、すさまじい気迫を内に秘めた、男の中の男だった。

$蒼空日記



先生が、蒼太と同じく短腸でも元気に生活している小学生の男の子の写真を見せてくださった。
口からの栄養では足りない為に点滴は欠かせないが、肉付きも良く、見た目ではとても難病とわからないという。
写真の中でお母さんと二人、彼は節句の衣装を着て微笑んでいた。

目を閉じて思い浮かべるのは、大きく成長した蒼太の元気な姿。
人生の節目にはたくさん写真を撮ろう。
スポーツだって思い切りやらせてあげたい。
蒼太が大きくなった頃には、医学がもっと進歩して、好物をお腹いっぱい食べる事がきっとできる。
その日まで、その日をひたすら信じて、一緒に歩いていこう。

彼の写真を見て彼の存在を知れた事は、とても励みになった。

私の思いに応える様に、蒼太の体重は少しずつ増え、
更に頬に丸みが出てきた。
点滴の栄養だけで、手足にほんのり肉もついてきた。
私のかける言葉を理解し、受け止めてくれているかの様に、
蒼太の頑張りは、休む事を知らなかった。

そんな時、病院にボランティアに来ていたアメリカ人の高校生、ケン君と出会った。
彼は将来医者になり、たくさんの命を救いたいと瞳を輝かせていた。
私が面会に行くと、よく蒼太を抱っこして待っていてくれた。
帰国の前日、
「アメリカに帰って、そうちゃんの事を思い出しながら勉強を頑張るよ!絶対に医者になって、たくさんの命を救うよ!」
と、蒼太に約束をしてくれた。
そして、
「またいつか絶対に会おう、その時はキャッチボールをしよう。」
そう言って、彼は蒼太に野球ボールをプレゼントしてくれた。
蒼太の闘う姿が、この純粋な少年の心に刻まれ、いつかそれが命を救う力に変わる日が来る事を、心から願った。
成長した二人が、楽しそうにキャッチボールをする姿を想像し、私からも伝えた。
「絶対に、また会おう!」


何もかもが、光射す方へ向かっていた。
そう、信じていた。




触れ合う時間は短めだった。


弾んで方向を変えるふたつの円が
わずかに重なる瞬間は奇跡で。

その感性のいちぶが震えるさまは、
言葉を無意味にした。



視線の先は違えど、
今もどこかで、
おなじ青に抱かれる奇跡が、
めまいがするほど愛しい。








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飽きっぽい性格はわたしの娘だから仕方ないけど、
なんか…なんでもいいから今から打ち込めるものがあればなぁ…
なんて思っていました。

宿題すら途中で椅子から落ちて暴れて嫌がるような忍耐力の無さに、そろそろ笑っていられなくなってました。わたし。


そんな矢先、学校のお友達のダンスのステージのビデオ鑑賞をしたのですが、

『おかあさん、しえダンスやる。。』

それはもうあっさりと、
いとも簡単にハート射抜かれた娘であります。

すぐにやめたいと言い出さないか心配でしたが、
毎日ビデオを見ながら、一緒に汗だくで練習してます。
あんまり暑いもので、親子で一枚一枚服を脱ぎ、最後には二人裸であります。


しかし先日のレッスンで、細かいステップができず猛烈に叱られました。
悪い意味でみんなの注目を集めました。
あれだけやられたら、わたしなら間違いなく泣いてます。

ああ…
もうダンスやだって言うかな…

レッスンが終わり、その場で娘を抱きしめながら、
そんな諦めの言葉が出る事を、
ある程度覚悟しました。


しかし、
弱音、愚痴、娘は一切口には出しませんでした。


今日も、練習頑張っております。


娘を信じてあげられなかった自分が情けない。

本当に、本当によく頑張っています。

娘のこんな姿を見る事ができて、
日々幸せを感じております。
頑張れしえ!


ファイヤー!!!!!!!!





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顔をあわせればケンカばっかしてたふたり。

出会った頃は三歳だったふたりも、もう小学一年生です。

取っ組み合いのケンカばっかりで先が見えなくて、
とっても心配したけど、

いっぱいケンカしたぶん、
いっぱいいっぱい仲良しになれました。



ふたりの笑顔見てたらね、
出会えて本当に良かったって心から思えたよ。




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参観日でした。

このクソ暑い中、誰ひとりウダウダ言わずに頑張って授業を受ける子供たち。
見ていてとっても頼もしかったです。

前回に比べて、みんなのお尻がちゃんと椅子にくっついていました。


しえも、
半分煮えてるわたしになど気をとられる事なく、集中して頑張っていました。

相変わらずゆっくりだけど、
それは決してダラダラしている訳ではなく、
しえの中ではかなりのスピードなはずで。
先生に言われた事を一つ一つ丁寧に確実にこなそうと必死な姿に感心したし、成長を感じました。
毎日こんなに頑張っているのかと。
ゴハン食べられなくなるとか言ってないで、アイスくらい買ってやろうと思いました。

そして先生、
毎日ありがとう。
みんなの明らかな成長は、先生のおかげ。
クラス全員の願い事が書かれた短冊や飾り。
先生が高いところまで腕をぷるぷるさせながらつけてくれたの、知ってます。
しえが横断バックまるごと忘れて教室に取りに行った時、
先生、ひとりで笹と格闘してましたね。
見えないところでも、
頑張ってくれてます。


時折吹く風にひらひらと、
先生とみんなの願いをのせた色とりどりたちが、とってもキレイでした。