半脊椎-Spineless fish Side- -7ページ目
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新聞紙に包まり、蛾を蝶と数える夜

独り、消えた夜を探した日。缶のプルトップは硬かった。
さようならと手を振り見上げた古木。月下に横たわる。


影が、そう、影が見えない。その昏さに只、感謝した。
見上げてみろ蝶がまた一片ひとひら。街灯に輝く鱗粉が一撮ひとつまみ。


悲哀は何処だ。愛惜はたずさえているのか。
犬の遠吠えを聞いていた。赤子の夜泣きに耳を塞いだ。


誰かに逢いに行きたいのだ。誰かに訪ねて来て欲しいのだ。
しかし未だ独り、活字に眠る夜。さらし葱をついばみ安堵する日々。



――彼方よ、知っていたか? 向こうの横町で、火事があったということを。

腐った時計

「うわ」
 裄嗣ゆきつぐは慌ててステアリングを切った。叫んだつもりであったものの、自身の放った声が余りにか細かったのに内心 驚く。路上では腐乱した猫の死体が横たわっている。
「堪忍してやぁ……」
 頭を抱えたくなる衝動を必死で押さえながら、裄嗣は嘆息した。猫は一度のみならず、何度か轢かれた模様で白かった毛は汚れてパサパサになっており、体の真ん中は血で茶色くなっている。アスファルトには勿論 血がこびりついてはいたが、体に附着しているものよりもずっと赤かった。
「何で国道って死体が多いんやろ……」
 そう呟きながら時計を見やるといつもより時刻は進んでおり、裄嗣は慌ててアクセルを踏み直した。


***


「まだ慣れないんですか?」
 会社に着くとケタケタと笑いながら同僚の河岸かしが肩を叩いた。
「慣れるとかの問題ちゃうわ。ほんまアレ、気持ち悪ねんで?」
 出勤中に見た猫の死骸を思い出しながら、裄嗣は湯飲みに注がれた緑茶を一気に仰いだ。その後プハーッと一気に吐き出すと少し楽になった気がした。
「……まぁ、国道と高速は多いですから。」
 引きつった表情を浮かべる裄嗣に、河岸は苦笑を浮かべながら呟いた。それに違和感を覚えた裄嗣は首を傾げながら河岸に訊ねる。
「何で高速?」
「この辺の高速は山ですから」
 裄嗣の問いに笑って答えると河岸はおもむろに受話器を取り、営業先へと電話を始めた。
「――――……」
 その様子に倣うかのように裄嗣もパソコンへと向かい始める。しかし……
「……何や」
 カチカチとぎこちなく鳴るタイピングの音。電話のベルの音。微かに漏れてくるテレビの音。今、自分がいる事務所の全ての音に溶け込むかのように裄嗣は独りごちた。
「俺らの時間縮める為に命貰うとるみたいやん」
 だが、裄嗣には最早、今朝見た猫の死骸を詳しくは思い出せない。

眼鏡

 来週にでも免許の更新を行おうと思う。実は初更新だ。

 その前に近視の俺には重大な使命というか、必然というか、強制的な行事がある訳で。それは矯正視力の調整(要は眼鏡の更新)も免許の書き換えと重なることになる。


 そういった訳で、本日は眼鏡屋へと行ってきた。眼科と隣り合わせになった、自宅から一番近いところだ。

 店内は暖かく、出迎えた店員に何故か覚えられていて驚いた。確か、前回そこを訊ねたのは三年近く前のことだ。こういったハプニングは非常に驚くと共に、少し嬉しい。

 事情を話し、視力検査を頼む。測ってみると案の定、視力は落ちていた。しかし、微妙なラインらしく、駄目だった時に買い換えれば良いという結論になった。取り敢えず、来週はいの一番に公安へ行こうと思う。


 眼鏡に関しては、中学の半ばに初めて作ったが、それから現在、一種類しかなかったそれは検査用・映画用・PC用と三種類になった。内、映画用は検査用眼鏡の度に慣れるために作ったものだ。普段、眼鏡を掛けないためか、掛けると酔う性癖がある。当時、検査用の眼鏡は掛けただけで吐き気がしたものだったが、三年で少しは慣れたのだろう。今回はそれほど酷くはなかった。同時に、余り眼鏡を掛けないと度への免疫がつかず、矯正したくても出来なくなるので掛ける癖をつけた方が良いと言われた。裸眼のままだと、見えないことに慣れた目はさぼってしまうらしい。


 思えば、視力検査に関しては相当 誤魔化していた。記憶力と勘に頼り、又、学校の座席も大抵は前の方へと行けたので眼鏡を作る必要もなかった。PCも自宅で操作する分には眼鏡を必要とはしない。

 しかし、酔いさえしなければ、そしてあの一度に多くの情報が入ってしまう感覚さえなければ、眼鏡は嫌いではない。伊達眼鏡なら割と頻繁に使用する。全く意味のないことだが。

 更にいうなれば、幼い頃、検査内容を誤魔化すというのは日常茶飯事だったように思われる。視力だけではない。特に聴力検査に至っては相当 誤魔化していた。又、誤魔化せるだけの単純さがそれらにはあったのだと思う。そういったことを考えると、あの頃は健康というものに酷く恐れていたのだと思う。もしかしたら、単に家人を困らせたくなかっただけなのかもしれない。

 今は逆に開き直ってしまった。理由は面倒臭いから。それはまるで集中することを放棄したようで、それ故に時々 あの頃の感覚を思い出す。酷くリアルに。

水彩の画帳

真白のざらついた画帳の紙面を撫で
私は幸いの居場所を模索できずに泣きました
中陰を迎えようとする魂の彷徨ほうこう
どのような場所を好み揺蕩たゆたっているのでしょうか


日溜まりを遮り影を形成いたします
梢や枝葉の間々から覗く点在する斜光が一つ二つ
それらが温めます土の温度というものに
どれだけの虫が喘ぎ動物は微睡まどろむのでしょうか


私に悲しみが存在いたしませんのは恐らく
鳥のように空を飛ぶ自由を欲したいと願うのが
どれほどに虚しいことかを知っているからかもしれません


私に幸いが存在いたしませんのは恐らく
鳥が墜落して生命を失う姿を無感動に眺めたのが
どれほどに野性的であるのかを知ってしまったからかもしれません






ですから今は只、合掌ばかりを捧げてみようと思うのです

案内所

 半脊椎では詩を幾つかのカテゴリに分類しています。

・無地の四方……ある意味、何でも有り的な場所。恐らくは更新のメイン。
・灯る恋束……主に恋愛要素が強い作品。苦手です。
・懐古的庭園……名前の通り、何処か懐古的な作品。近代仮名遣いも有。
・夜明けの蝙蝠……夜や夜明けをテーマにした作品。
・鮟鱇の水泡……言葉のリズムを意識した作品。言葉遊びにはなれない。
・ショートストーリー……掌編。フィクション。読み切りだったり、短編連作の一部だったり。


 以下、随時更新していきます。

始めに

 此処は拙宅を一部掲載した、いわば出張所的場所です。
 拙宅で書いた詩やショートストーリーを転載していきます。
 稀に、映画等の感想を書いたりもしますが、全ては管理人の独断と偏見が横行します。
 又、拙宅ではこの他、長編小説等の連載も行っております。このブログが拙宅との一つの架け橋になることを願って…
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