「わるいやつら」
1980年6月28日公開。
松本清張の長編小説を名匠・野村芳太郎が演出した大ヒット映画。
配給収入:5億3500万円。
原作:松本清張「わるいやつら」
脚本 - 井手雅人
監督 - 野村芳太郎
キャスト:
- 槙村隆子 - 松坂慶子
- 戸谷信一 - 片岡孝夫
- 藤島チセ - 梶芽衣子
- 田中慶子 - 神崎愛
- 横武たつ子 - 藤真利子
- 寺島トヨ - 宮下順子
- 横武常次郎 - 米倉斉加年
- 藤島春次 - 山谷初男
- 銀行支店長 - 滝田裕介
- 粕谷事務長 - 神山寛
- 看護婦・林 - 西田珠美
- 木村勇造刑事 - 梅野泰靖
- 刑事 - 小林稔侍
- 刑事 - 稲葉義男
- 刑事 - 関川慎二
- 地検検事 - 蟹江敬三
- スポンサー風の男 - 小沢栄太郎
- 榊弁護士(戸谷の弁護) - 渡瀬恒彦
- 井上警部 - 緒形拳
- 地裁・裁判長 - 佐分利信
- 下見沢作雄 - 藤田まこと
あらすじ:
総合病院の院長・戸谷信一(片岡孝夫)は名医と言われた父の死後、漁色にあけくれ、病院の赤字を女たちからまきあげた金で埋めていた。
戸谷は妻の慶子(神崎愛)と別居中で、横武たつ子(藤真利子)、藤島チセ(梶芽衣子)の二人の金ズルの愛人がいる。
さらにこの男は、槙村隆子(松坂慶子)という独身で美貌のデザイナーに夢中になっている。
戸谷は友人の経理士、下見沢(藤田まこと)に妻との離婚の金銭問題やその他の悪事を任せていた。
愛人たつ子は深川の材木商のおかみで、親ほど歳の違う夫は、長く病床にあり、彼女が店をきりもりしていた。
彼女は戸谷に金を貢ぎながら、夫を毒殺しようとする。
戸谷の協力で、たつ子の計画は成功するが、家族の疑いで彼女は店の金を自由に使えなくなってしまう。
戸谷は結婚を迫る金のないたつ子を、かつての父の二号で、自分も関係した婦長の寺島トヨ(宮下順子)と共謀して殺害する。
一方の愛人、藤島チセも東京と京都にある料亭を切りまわす女傑で、戸谷の最大の資金源だった。
チセも夫を疎ましがっており、戸谷はたつ子のときと同じ方法で殺害する。
二度とも、医師として信用のある戸谷の書いた死亡診断書は何の疑いももたれなかった。
戸谷は秘密を知るトヨの存在が次第に邪魔になり、モーテルで絞殺、死体を林の中に投げ捨てた。
戸谷はすべての情熱を隆子に注いだ。
一方、トヨの死体発見の記事はいつまでも報道されなかった。
ある日、井上警部(緒形拳)が戸谷を訪れた。
たつ子とチセの夫の死因に不審な点があると言う。
追いつめられる戸谷。
そこへ、下見沢が戸谷の預金を下して行方をくらませたことが判明する。
絶望した戸谷は殺人で逮捕される。
そして、殺したはずのトヨとチセが逮まった。
トヨは息絶えておらず、逃げだしてチセと組んだのだ。
無期懲役の戸谷にくらべ、二人は殺人幇助ということで、刑期はずっと短かかった。
数日後、隆子のファッション・ショーが開かれていた。
それは下見沢のプロデュースによるものだった。
そして、ナイフを隠しもった下見沢が隆子に襲いかかった。
刑務所に送られる戸谷の足もとに風に舞う新聞がからみついた。
そこには「血ぬられたファッション・ショー・デザイナー重傷、中年男の悲恋」という見出しがあった。
コメント:
松本清張の小説を原作とした野村芳太郎監督の作品。
松坂慶子、梶芽衣子、藤真利子といった女優陣が悪女ぶりを競う。
川又昴によるカメラワークも秀逸である。
プレイボーイである個人病院の二代目院長が、彼より一枚上手な女たちによって窮地に追い込まれていく姿が描かれる。
TVの2時間ドラマ風な作品。
悪女たちの振る舞いが面白いが、松本清張者としては意外性に欠けるのが難点。
本作での、松坂慶子、梶芽衣子、宮下順子など出演女優たちがみんな美しい。
出てくる登場人物が全員悪人で、ある意味北野武監督の”アウトレイジ”のようだが、この作品では男の怖さというよりは、女のしたたかさという怖さが迫ってくる。
女と金には気をつけないといけないと松本清張が言いたかったのだろう。
確かに行き当たりばったりで悪人にしては計画性も何もない主人公だが、現実の犯罪者はこんなものだろう。
ラストで黒幕の種明かしがされるが、主人公がこんな調子では黒幕につけ込まれるのは仕方ない。
片岡孝夫の大ゲサにならずに抑えた演技が実に良かった。
松坂慶子の、これでもかという美人っぷりが際立つ。
目立った悪事を働くのではないが、男を夢中にさせるという点ではトップだろう。
この頃の松坂慶子には敵なしだ。
実は、一番のワルはこの女なのだ。
映画では、ストーリーを松本清張の原作から変えている。
最大の変更点はラストにある。
主人公を裏切るのが、藤田まことが演じる友人の計理士・下見沢、そして、松坂慶子が演じる、落ちそうで落ちない、いい女・隆子。
この二人が実はツるんでいたのだ。
これが原作での最後のドンデン返しになっているのだが、映画では更にその後、松坂が藤田まで裏切るのである。
「一番わるいやつ」を松坂慶子に変えているのだ。
その結果、ナイフを振りかざして藤田まことが松坂慶子に襲いかかるシーンが登場する。
この映画のキャストは、全員悪人だが、唯一善人がいる。
緒形拳だ。
終盤で出て来る刑事役の緒方拳の存在感が素晴しい。
この人は、悪人たちに立ち向かう刑事の役も似合うという不思議な俳優だ。
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