「OUT」
(アウト)
2002年10月19日公開。
桐野夏生原作のコメディタッチのサスペンス映画。
アカデミー賞の最優秀外国語映画賞に日本代表作品として出品。
興行収入:3億円。
原作:桐野夏生「OUT」
脚本:鄭義信
監督:平山秀幸
キャスト:
- 香取雅子:原田美枝子
- 吾妻ヨシエ:倍賞美津子
- 城之内邦子:室井滋
- 山本弥生:西田尚美
- 吾妻千代子(ヨシエの姑):千石規子
- 十文字彬:香川照之
- 山本健司:大森南朋
- 佐竹光義:間寛平
- 香取良樹:小木茂光
- 香取伸樹:吉永雅紀
- 広瀬洋一:江藤漢
- 金田敬徳:田中要次
- 杉本:斎藤歩
- 衣笠:浜田道彦
- マリア:伊藤グロリア
- トラック運転手:吉田日出子
- 豊住会組員:眞島秀和、佐藤貢三
あらすじ:
東京郊外にある弁当工場で働く雅子・42歳(原田美枝子)、ヨシエ・51歳(倍賞美津子)、邦子・40歳(室井滋)、弥生・30歳(西田尚美)は、それぞれに問題を抱えていた。
雅子は家庭崩壊、ヨシエは寝たきりの姑の介護、邦子はローン地獄、そして身重の弥生はギャンブル狂いの夫からの暴力。
ある日、弥生が衝動的に夫(大森南朋)を殺害した。
死体処理をさせられるハメになった雅子は、ヨシエと邦子を巻き込んでそれを解体。
生ゴミと一緒に捨てることにした。
一時は死体が発見され警察が動き出すも、カジノのオーナー・佐竹(間寛平)に容疑がかけられたため、難を逃れる雅子たち。
そんな彼女らに、邦子が世話になっているローン会社の男・十文字(香川照之)が死体処理の仕事を斡旋してきた。
十文字を憎からず想うようになっていた雅子は、多額の報酬と引き換えにそれを受け、まんまと仕事を成功させる。
ところが、釈放された佐竹の復讐の手が4人に迫ってきた。
十文字の手首を切断し、ヨシエの姑を撲殺した佐竹。
ヨシエによって佐竹は殺害されるも、これが元で雅子たちに捜査が及ぶのは明白だ。
自首を決意したヨシエを残し、北海道へ向けて逃亡する3人。
途中、産気づいた弥生と別れた雅子と邦子は、かねてより夢であったオーロラを見る為、知床を目指す……。
コメント:
原作は、1998年に日本推理作家協会賞を受賞した桐野夏生の同名小説。
殺人事件をきっかけに、最悪の状況からOUT(脱出)しようとする4人の女たちの姿を、コミカルかつスリリングに描いたサスペンス。
桐野夏生の原作は、バブル経済崩壊後の現代社会で生きる人々の日常生活や、新宿のヤクザ、日系ブラジル人出稼ぎ労働者などに対する視線と洞察が注目を浴び、1998年に日本推理作家協会賞を受け、80万部を越すベストセラーとなった。
1999年にフジテレビでドラマ化され、後に映画化された。
日本で発表された7年後の2004年には、米ミステリー界のアカデミー賞といわれるエドガー賞 長編賞の4作品に、日本人作家として初めてノミネートされた。
殺人や死体処理などのシーンが出てくる映画だが、クスリと笑えるコミカルなサスペンスの傑作である。
桐野夏生ならではのサスペンスストーリーを、鬼才・平山秀幸監督が原田美枝子を主役に迎えて描いた異色作品だ。
原田美枝子が見事である。
この声、この表情、この自然な演技。
この女優は、若くして『青春の殺人者』で長谷川和彦に鍛えられ、『ああ野麦峠』では大御所山本薩夫監督に鍛えられた。
世界のクロサワにしごかれた『乱』では素晴らしい演技を披露した。
そして、ベテラン女優となった原田美枝子は、この『OUT」という異色の映画で、さらに大人の枯れた味を出している。
当時43歳である。
決して押しつけず、そして謙虚すぎず。
それもこれも平山秀幸監督の力が大きいのであろう。
『愛を乞うひと』で映画賞を総なめしたあの演技は、この監督にしてこの女優である。
また、脚本を担当しているのも、『愛を乞うひと』と同じ鄭義信である。
さらにこの人は、本作の2年後に、『血と骨』の脚本も担当している。
鄭義信という人は、暴力を描く名人だということかも知れない。
本作では、セリフが 独特のブラックユーモアに満ちている:
尚美「あたし 旦那 殺しちゃったんです」
美枝子「なに それ」
尚美「まさこさんに 任せちゃダメですか」
美枝子「あんた 私を ハメたの ? 」
美枝子「旦那は 昼は サウナか カプセルホテル夜まで帰ってこない」
美津子「息子は 大丈夫 ? 」
美枝子「夜中まで 帰って来ない 多分」
美津子「どーなってんだい あんたんちー」
室井滋「人殺すのってさ どんな気分 ? 」
尚美「いい いい気味って」
室井滋「犯罪者なら 犯罪者らしくしなさいよあんた」
そして、一番の印象に残るセリフは:
美津子「あんた なんか夢ないの?」
美枝子「ない あたし 何にもない 泣きたいくらいないよ」
原田美枝子の、台詞がなくても、何かアクション起こさなくても、全体からの 力を抜いたようなラフな存在感が凄い。
日常に潜む殺意をコミカルに主婦感覚で描いて、主婦にも自らの意思があるのよ、という誰もが知っていて口にしないことを、映画そのものが訴えかけてくる不思議な作品。
コミカルな映画に芸人・間寛平が全く印象を変えて出演しているところも面白い。
背筋の寒くなるような暴力シーンを大迫力で演じている。
これもまた見逃すことができまい。
びっくりするのは、ローン会社のセールスマン・十文字を演じているのが、香川照之だということだ。
半沢直樹などで大人気になって知名度抜群の今の香川照之とは全く別人だ。
まだ無名だった頃はこんなに冴えない顔だったのだ。
人は、たくさんの人たちに注目され、人気が出ることで、良い顔になってくるのだ。
西島秀俊しかり、渡辺謙しかりだ。
倍賞美津子が、間寛平を刺し殺してしまうシーンは凄まじい。
その直後、間寛平に殴り殺された自分の母に向かって号泣するシーンは泣ける。
この場面の倍賞美津子の姿は、この映画のクライマックスのひとつであり、全くコメディではない。
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