歯科治療の診断とすれ違い咬合
開業したての頃、小学生の虫歯の治療をしていた時、その子供が「歯医者って、虫歯を削って詰めるだけ。単純な仕事やなー。」と、わざわざ、私に向かって馬鹿にする言葉を吐いて来ました。自分が今から治療を受ける、歯科医師に向かってこんな事を言うのは、あんまり頭の良い子供ではないので、相手にせず「そうだねえ」と受け流しておきました。きっとその子の親がそのような事を家で言っているのだろうという想像は容易です。一般に歯科治療に対する認識はその程度のもので、穴が開けば詰める、あるいは被せる、痛ければ歯を抜く、あるいは神経を抜く、腫れれば薬を出すような事を機械的に進める事を求められて、あまり診断という事は期待されませんし、このままでは将来不便な事になると思って助言しても「まあ、とにかく今日は詰めといてくれ」と時間や手間のかかる事は嫌われます。速い、安い、痛くないというのが流行る歯医者の条件です。ただ歯列矯正治療やインプラントを行う場合ははっきり将来の見通しと必要な治療についてお話して、了解を得て契約を守っていただけない場合は治療自体をお断りしなければなりません。お金も時間も使って結果がよくなければ患者さんも手間をかけて治療した歯科医師も気分はよくありませんし、場合によっては裁判沙汰になります。「インプラントをしても経過はよくないと思います」とお話して、契約書にも記載しておいても、噛み合わせの調整が必要な段になって、口中治療跡ばかりなのに「この歯は削りたくない」と,異様なこだわりを見せる人は意外と多い。結果、予想通りに「すれ違い咬合」(自分の上下の歯同士が噛み合わない状態)になってから、「何とかならないのか」暴れられてもどうしようもない。「以前からお話していた通りです」と、ご自分の自覚を促して、我慢していただくしかありません。「すれ違い咬合」になってしまえば、どんな入れ歯を作ろうと壊れるのは時間の問題ですし、噛んで痛いのは当たり前。痛くないようにするには、自分で噛まないようにするか、噛めないように残った歯を抜いていくかしかありません。ケースによっては、インプラントさえ、かみ砕くのですから、総入れ歯の方がましな場合もあります。総入れ歯というのは「何でも噛めます」という人でも、歯がそろっていた時の2割ぐらいしか咀嚼能力はないとも言われます。歯科治療の診断というのはいかにすれ違い咬合にならないようにするか、という予測がメインテーマの一つです。