全ては荀彧と崔琰が仕組んだことだったと知った曹操。あの司馬懿も関与しているのか確かめようとするが彼は死牢の崔琰の見舞いに行ってそこで泥酔していた…。
目覚めた司馬懿は目の前に国王・曹操がいることに仰天狼狽し慌てて平伏する。
* * * * *

「起きたか。」
「申し訳っ、申し訳ございませんっ、大王様にご挨拶申し上げます…。」
「飲むか。なんで子桓の祝宴に行かないんだ。」
「わたくし許されざる罪を犯しました、ととと当然功労も祝賀もございません。」
「あんな(眠りこけるくらい)沢山飲んでおいて、まだそんな白けた事を言うのか(*1)。そら、こっちへ来て飲め。」
「わわわわたくしはそんなとんでもございませんっ。」
「どうせここには誰もおらんのだ、わしの前で芝居をせんでよい。飲め。」
魏王は酒を飲み干す。仲達は飲む格好だけして杯を置き魏王の表情を窺う。
「崔琰と荀彧のやった事に、お前も加わっていたんだろう?」
「大王さまに嘘を申すようなことは致しません。荀令君が逝去された日、わたくしは崔尚書の元へに罪を問いに行きましたが、崔尚書がおっしゃった話にわたくしは大変驚かされました(*2)。崔尚書はご自身の命で、この魏国を救うのだと。」
「お前は今でも彼を尚書と呼ぶのか(*3)。ではお前の中では、彼は奸臣かそれとも忠臣か?」
「わたくしは思いますに…荀彧、崔琰は、魏国のため、天下のため、大王さまのお志のために、大王さまを正しに行かれた、大王さまをお諫めに行かれた。お二人は大忠臣でございます。」
「"大忠臣"、"大王さまを正しに"。お前らはわしに自分の子を殺すよう逼ったのだ、何が大忠臣だ!」
「大王さまお怒りをお鎮め下さい,大王さまはお分かりのはず、子建公子は、き、きっと難しいと、その…」
「つまり世継ぎにはなれぬと。」
「そんな事は、そうは言っておりません。」
「お前も数多の詩書を読み古今に通じておるだろう、歴代の王朝で長子と世継ぎを争い負けた次子で、その後無事だった者がおるか。だからな、そういった(昔の)話を持ち出してわしを騙くらかそうとしても無駄だぞ。」
*1 直訳:あんなに沢山の酒を飲んだのに、まだそんなに(酔わずに)醒めているのか。
*2 振聾發聵は耳の不自由な人でも聞こえるくらいの大きな声を出すこと。転じてどんな人の目をも覚まさせる、真実に気づかせる、心を入れ替えるよう教え導くこと。
*3 「尚書」と役職で呼ぶのは敬意の表れ。

「大王さま、わたくしも二人の子の父親ですから、大王さまが天下の大業のために愛する我が子の前途を犠牲にする、そのお心内は耐えがたくお苦しいこともわかります。大王さまのような権力を有する者は、当然天下のために己を変えることができるのであります。昔の桓帝・霊帝、最近では袁紹・袁術、大王さまは彼らと同じではございません。大王さまは天下のために己を変えられるのです。大王さまは真の英雄でございますから。子桓公子も大王さまと同じく、このような大志をお持ちです。彼はこのお志のために己を変えることを自らお約束できます。ですから子桓公子は決して子建公子を酷い目には遭わせません。」
「お前はなぜわしの心があの桓帝・霊帝や袁紹兄弟の心と一緒ではないとわかる。」
「大王さまはかつて袁紹をこのように批評しておりました、強がりの臆病者、計略があっても決断力がない、大事を成すのに我が身を惜しみ、小さな利益を追って命をなくすだろうと。大王さまは袁紹ではないでしょう?」
「フフッ。じゃあお前はなぜ、子桓が世継ぎに決まってると知っている。」
「とんでもございませんっ、そうは言っておりません。」
「しかしお前の言う事は正しい。天下のために己を変える。わしは子桓にも子建にも、天下のために己を変えられる人であってほしいと思う(*4)。わしよりもさらに大きく、国内の叛乱を鎮め国外の強敵を抑えられるような(自己改変ができる立派な人に)。子建…。ふぅぅ…子桓か…。おい、お前は彼(子桓)をよく助けていけるのか。」
「子桓公子は大王さまの知恵と武力を継承しておいでです、わたくしがおらずとも、子桓公子は大王さまを失望させるようなことはありませんよ。」
「ハハハハハ…。お前はどうしてそんなことが言えるんだ。…惜しいな、もし荀令君がお前のしたようにしてくれれば、もっと良かったのになぁ。」
「わたくし罪深いことを致しました(*5)。すべて大王さまのご処置に従います。」
「大王さまのご処置、か。お前の主(子桓)は、自分の臣下は自分で処置すると言っておった。お前に言っておこう、子桓は将来は、わしよりももっと厳酷な奴に変わるやもしれんぞ。お前はお前の幸せを求めよ(*6)。」
*4 直訳:私は子桓・子建、彼らが天下のために自身を変えられる人であることを望まなかったことがあろうか(反語)
*5 「お前のやり方を荀令君に言ってくれれば彼は死なずに済んだのに」という意図を感じたため謝っている。
*6 危険な事に足を突っ込まず大人しくしておれ、余計な事はするな、の意。
* * * * *
見事な解決篇。曹操と仲達の丁々発止としたやりとりはどれも面白いけどこれは笑いもありつつで特に楽しい。
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