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「大軍師司馬懿之軍師連盟(全42話)」第十九集7分頃から。※ネタバレ注意
全ては荀彧と崔琰が仕組んだことだったと知った曹操。あの司馬懿も関与しているのか確かめようとするが彼は死牢の崔琰の見舞いに行ってそこで泥酔していた…。
目覚めた司馬懿は目の前に国王・曹操がいることに仰天狼狽し慌てて平伏する。

* * * * *

「起きたか。」
「申し訳っ、申し訳ございませんっ、大王様にご挨拶申し上げます…。」
「飲むか。なんで子桓の祝宴に行かないんだ。」
「わたくし許されざる罪を犯しました、ととと当然功労も祝賀もございません。」
「あんな(眠りこけるくらい)沢山飲んでおいて、まだそんな白けた事を言うのか(*1)。そら、こっちへ来て飲め。」
「わわわわたくしはそんなとんでもございませんっ。」
「どうせここには誰もおらんのだ、わしの前で芝居をせんでよい。飲め。」
魏王は酒を飲み干す。仲達は飲む格好だけして杯を置き魏王の表情を窺う。
崔琰と荀彧のやった事に、お前も加わっていたんだろう?」
「大王さまに嘘を申すようなことは致しません。荀令君が逝去された日、わたくしは崔尚書の元へに罪を問いに行きましたが、崔尚書がおっしゃった話にわたくしは大変驚かされました(*2)崔尚書はご自身の命で、この魏国を救うのだと。
お前は今でも彼を尚書と呼ぶのか(*3)。ではお前の中では、彼は奸臣かそれとも忠臣か?」
「わたくしは思いますに…荀彧、崔琰は、魏国のため、天下のため、大王さまのお志のために、大王さまを正しに行かれた、大王さまをお諫めに行かれた。お二人は大忠臣でございます。」
「"大忠臣"、"大王さまを正しに"。お前らはわしに自分の子を殺すよう逼ったのだ、何が大忠臣だ!」
「大王さまお怒りをお鎮め下さい,大王さまはお分かりのはず、子建公子は、き、きっと難しいと、その…」
「つまり世継ぎにはなれぬと。」
「そんな事は、そうは言っておりません。」
「お前も数多の詩書を読み古今に通じておるだろう、歴代の王朝で長子と世継ぎを争い負けた次子で、その後無事だった者がおるか。だからな、そういった(昔の)話を持ち出してわしを騙くらかそうとしても無駄だぞ。」

*1 直訳:あんなに沢山の酒を飲んだのに、まだそんなに(酔わずに)醒めているのか。
*2 振聾發聵は耳の不自由な人でも聞こえるくらいの大きな声を出すこと。転じてどんな人の目をも覚まさせる、真実に気づかせる、心を入れ替えるよう教え導くこと。
*3 「尚書」と役職で呼ぶのは敬意の表れ。



「大王さま、わたくしも二人の子の父親ですから、大王さまが天下の大業のために愛する我が子の前途を犠牲にする、そのお心内は耐えがたくお苦しいこともわかります。大王さまのような権力を有する者は、当然天下のために己を変えることができるのであります。昔の桓帝・霊帝、最近では袁紹・袁術、大王さまは彼らと同じではございません。大王さまは天下のために己を変えられるのです。大王さまは真の英雄でございますから。子桓公子も大王さまと同じく、このような大志をお持ちです。彼はこのお志のために己を変えることを自らお約束できます。ですから子桓公子は決して子建公子を酷い目には遭わせません。」
「お前はなぜわしの心があの桓帝・霊帝や袁紹兄弟の心と一緒ではないとわかる。」
「大王さまはかつて袁紹をこのように批評しておりました、強がりの臆病者、計略があっても決断力がない、大事を成すのに我が身を惜しみ、小さな利益を追って命をなくすだろうと。大王さまは袁紹ではないでしょう?」
「フフッ。じゃあお前はなぜ、子桓が世継ぎに決まってると知っている。」
「とんでもございませんっ、そうは言っておりません。」
「しかしお前の言う事は正しい。天下のために己を変える。わしは子桓にも子建にも、天下のために己を変えられる人であってほしいと思う(*4)。わしよりもさらに大きく、国内の叛乱を鎮め国外の強敵を抑えられるような(自己改変ができる立派な人に)。子建…。ふぅぅ…子桓か…。おい、お前は彼(子桓)をよく助けていけるのか。」
「子桓公子は大王さまの知恵と武力を継承しておいでです、わたくしがおらずとも、子桓公子は大王さまを失望させるようなことはありませんよ。」
「ハハハハハ…。お前はどうしてそんなことが言えるんだ。…惜しいな、もし荀令君がお前のしたようにしてくれれば、もっと良かったのになぁ。
「わたくし罪深いことを致しました(*5)。すべて大王さまのご処置に従います。」
「大王さまのご処置、か。お前の主(子桓)は、自分の臣下は自分で処置すると言っておった。お前に言っておこう、子桓は将来は、わしよりももっと厳酷な奴に変わるやもしれんぞ。お前はお前の幸せを求めよ(*6)。」

*4 直訳:私は子桓・子建、彼らが天下のために自身を変えられる人であることを望まなかったことがあろうか(反語)
*5 「お前のやり方を荀令君に言ってくれれば彼は死なずに済んだのに」という意図を感じたため謝っている。
*6 危険な事に足を突っ込まず大人しくしておれ、余計な事はするな、の意。


* * * * *

見事な解決篇。曹操と仲達の丁々発止としたやりとりはどれも面白いけどこれは笑いもありつつで特に楽しい。


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「大軍師司馬懿之軍師連盟(全42話)」第十五集34分頃から。
その夜荀彧は奏書を手に魏王・曹操の元へ向かう。事件を静観していた荀彧がやっと面会を申し出てきたと聞いて曹操はすぐに彼を招き入れる。

* * * * *

「大王様、わたくし上奏すべき文がございます。」
「私と君の間で、面と向かって話せんことなどないだろうに(*1)。」
「しかし文字にしておかないと、わたくしは大王様にお話しできません。話す言葉(会話)では私心(*2)を疑われることも免れませんが、文字にすればかえって天下の人々に見てもらえます。わたくしは公平で正しくありたいのです。」
「令君座ってくれ。さあ座って。ほら、座ってくれ、ゆっくり話そう。」
「ありがとうございます。」
「何が私心だというのだ、何が公平だというのだ。」
「わたくしは平原侯(*3)が司馬門へ闖入した件について大王様に公正な処置をお願いしたいのです、公平な処置を。」
「わし(*4)はちゃんと司馬朗を大理寺へ送り適切な刑罰を与えるよう命じておる、令君は(まだ)公平にと言うのか。すぐに(結果は)天下に明らかとなるだろう。」
「司馬門の事件は、罪は司馬朗ではなく平原侯にあります。平原侯が夜に司馬門に闖入したことは、それに対応できた朝臣はおらず(あまりの大事件ですぐに彼を止めたり事を内密に収めることができた者はいなかったので)、この事件は許都中に、天下に知れ渡りました。天下の人々が驚き恐れたのは(とんでもない事をしでかした)平原侯ではなく大王様です。大王様は漢王室をお助けするために、忠実で誠意をもって謙虚にまごころを尽くしておられる、このような事で天下の人々に疑問を抱かれることはなりません。」
「しかし令君の言う通りに罪を論じるならば確実に、子建(*3)を殺さねばならん。だが彼はなんといっても我が子なんだぞ。」
「わたくしは決して大王様に子を殺せというのではございません。平原侯の犯したことは死罪ですが、国法には高貴な身分の者のための特別法があり、死刑を免れるので心配ありません。」
「…そうだ。令君は無益なこと(何の得にもならないこと)をしには来ないだろう。令君は、わしに子建を廃して子桓を太子に立てさせたいのではないのかな。」
「大王様、わたくしがこれから申す事は個人的な話です。わたくしも人の父でございますから、舐犢の情(*5)の深さも解ります。わたくしの子(*6)が過ちを犯したら、わたくしは彼を厳しく罰するでしょう。(それは)彼がさらに大きな過ちを犯さないようにです。」
「どのような過ちだね、令君率直に言ってくれ。」
「人としての過ち…それは不忠、そして不孝です(*7)。」

*1 水臭いぞ、の意。直訳:面と向かって話せないことがあるか(反語)
*2 ここでは立場を利用してこっそり頼みに行くことを指す。
*3 平原侯は曹植の爵位。子建は曹植の字。
*4 孤は王など、国に一人しかいない者の一人称。わし、おれさま。
*5 (母牛が仔牛を舐める様子から)親子の深い愛情のこと。
*6 自分の子は犬の子のようにくだらない存在だと相手にへりくだって言っている。
*7 直訳:人の最も大きな過ちは不忠・不孝を越えるものはない。



「ハッハッハ…。漢の高祖は言った、劉氏にあらざるものが王を称えれば、天下ともにこれを撃てと。わしは王を称えたが、令君から見ればこれは不忠不孝ということだな。わしが九錫を与え、天子の車に乗り、天子の冕旒(*8)を戴き、宗廟を立て国都を開けば、令君から見ればやはり不忠不孝だな。そうだろう?…答えよ。」
「…明公(*9)。わたくしは二十年前から明公と共に参り、明公が漢王室を助け黎民を救ってくれると堅く信じておりました。二十年が過ぎ、わたくしはこの悩ましい事にけじめを付けるのにあれこれ考えては苦しみ続けびくびくとして(その結論を出すことを)わざとぐずぐずと先延ばしにしています(*10)、(それは)わたくしの望む理想と明公のお志が共存できるのかということについて。しかし今日、わたくしは簡単に申し上げます。今日わたくしがお答えできるのは、失望の二文字です。」
「なんと…明公、良い響きだ。この明公という響きは親しみ深いようでもあり、聞き慣れないようでもあり。親しみ深く感じるのは、文若(*11)と初めて知り合った頃を思い出させるからだ。あの時の明公と呼ぶ声は、希望をもって呼ばれた。聞き慣れないのは、二十年後、この明公と呼ぶ声は……失望で一杯になっておるからだ。わしは思うに、令君の失望は、今のわしがもう漢臣には戻らないと思うからではないか。」
「はじめ明公が天子をお迎えされた時諸侯にお命じになりました、我らは永遠の漢臣として(天子を助けて行こうと)共に誓いを交わそうと。しかし今日の明公はまだ漢臣ですか!?司空でも足りず、丞相でも足りず、魏公でも大王でもまだ足りないと!明公がしようとしていることは何ですか、その先は(*12)…。」
「……。ああ、令君の今回の話にわしは恥ずかしく汗をかいてしまったわ。もし令君が言ったような、"その先"が本当にあるならば、お前と私は20年も共に歩んできたのに、令君、わしと共に行こうとは言ってくれないのか。」
「…戦乱を平定し悪人を一掃し、わたくしは明公と肩を並べることができ、王に封じられ宰相に任じられましたが、お許しください、わたくしは大王様と共には行けません。」
「……わかった……わかった。令君のわしへの思い、わしがどうして知らないだろう。わかった、わしは一生漢王室に孝養を尽くし、永遠に漢臣でいよう。ただ、わしはてっきり、お前と私の親交は20年にもなるのだから、心を預け頼れるものだと思っていた。」
「…明公はわたくしをよくご存じです、そしてわたくしは、明公をよく存じております(*13)。」

*8 王の冠の前後についている玉すだれのような飾りのこと。
*9 「聡明な我が主」という尊敬の呼び方。荀彧が曹操の元に下った頃はこう呼んでいたようだ。
*10 左右支絀…やり繰りがつかない、対処しきれない。/ 小心翼翼…気が小さくびくびくとした様子。/ 拿捏…ぐずぐず、もたもたする。/ 尴尬…気まずい、困惑した。
*11 荀彧の字。
*12 一歩之遙は一歩先、ちょっと先。王より上は皇帝しかないので、「あと一歩進めば皇帝になる、皇帝になろうとしているのだろう」という非難の意。
*13 この言い回しは通常「私とあなたの気持ちは一つです」の意味で使われるが、ここでは「私はあなたの意見に従えないしあなたも私の意見には従えない」の意。


* * * * *

ここ、三本の指に入る名シーン。


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「大軍師司馬懿之軍師連盟(全42話)」第十五集27分頃から。
楊修らが崔家に賄賂を贈っていた証拠の記録絵を入手した司馬懿は兄の潔白を訴えるため荀彧に口添えを頼みに行く。
* * * * *

「令君にご挨拶申し上げます。(*1)
「まあ座りなさい。」
荀彧は司馬懿に席を勧める。
「君はきっと来るだろうと思ってたよ、用事を言ってみたまえ。」
「令君(*2)、司馬門の事件からもう数日が過ぎましたが、結局の所誰が司馬門に勝手に闖入したのか、令君はお心内できっとお分かりのはずです。」
「ではどうする。」
「我が家の兄の命が差し迫ってます、私は令君に魏王の前で我が兄の為に正しい話をして頂きたいのです。」
「この事件は魏王自ら審理され、既に結審したのだ。」
「魏王は崔申の証言を元にしました(審判を下した)が、令君はご存じないでしょうが、楊修と丁儀が賄賂で崔申に偽証を逼ったのです。」
「偽証した?君はどこから知った。」
「ここに証拠がございます、令君ご覧ください。」
「校事府の記録絵か。これを手に入れるのは容易ではなかったはずだ。君はこの絵を手に入れて何をしようと?」
「私は官位も低いので発言も軽視されます(位の低い者の言葉は上にまで届かない)。はっきり申し上げますと、令君には私と一緒にこの絵を持って魏王に会いに行き、我が兄の冤罪を訴えて頂きたいのです。」

*1 晩生は(あなたより遅く生まれた者,の意で)年上に対する謙譲の一人称。
*2 在上は上司に対する敬称。



「フッ…仲達よ、君はこの事件の過ち(問題点)は崔申の証言にあると考え、この絵を持って君の兄に替わって冤罪を訴えようというのか。この事件は魏王自ら審理したのだ、もしこの絵が魏王の手元に(突然)現れたら、君は魏王が絵の盗人をどうする(罰する)と思う。絵の盗人がどんな罪名を負うことになるか、君は考えなかったのか。」
「令君のおっしゃる事はごもっともです。しかし兄の命が差し迫っているのです、私にもはや退路はありません。」
「私は力になれんよ。」
「…令君の苦しい胸の内、私もわかりました。この絵を持って魏王に会いに行くのは龍の鱗を叩く(逆鱗に触れる)ようなもの。止めておきましょう。令君、私は明日一人でこの絵を持って魏王に会いに行きます。令君は(元々)公正でいらっしゃる、もし私に不測の事態が起これば(*3)、どうか令君は魏王の前で我が兄の冤罪を訴えて下さい。もし(私の命が)兄の命と引き換えになっても、私はそれで充分満足ですから。」
「匹夫の勇(*4)だ!!仲達よ、お前は二度までも死をもって騒ぎ相手に逼るとは、これがお前の知恵なのか?お前はどんな事も皆このやり方で解決できるとでも思ってるのか!?お前の父の事件ではっきりわかったはずだ、あの事件の争点がそもそもあの手紙の真偽にあるのではなく形勢にあると、魏王に変更を言い出させるほどの形勢に。」

*3 魏王の怒りを買い処刑されたら。
*4 浅はかな者の感情に任せただけの勇気。



「仲達、こんな言葉がある。戦上手と呼ばれる者が勢力に求めるものは、人を責めないこと。君の兄を救えるのは私ではない。それは形勢、人の心、朝廷全ての文武の大臣の心だ。君一人で匹夫の勇を晒しに行くことではない。」
「…令君のおっしゃる事はまことであります。私は心乱れるあまりに考えが浅はかでありました。令君、こうなれば、どうやって勢力を立てどう人の心を集めるべきか、どうかお示し(教えて)下さい。」
「私にひと晩時間をくれ。明日を待て、明日私は君に忠義を全うできる方法を与えよう(*5)。」
「令君、気概に長け清廉な朝廷全ての文武の大臣の中でも、令君ほどの(優れた、素晴らしい)方はおらぬこと、私はよくわかっております。令君は言った事は必ず実行されますから、私は(先に)感謝いたします。」
「仲達君(*6)、面をあげなさい。」
荀彧は司馬懿を助け起こす。
「君が後の日に中郎将が大事を起こすその補佐をしようという時には、よく覚えておくのだ、事を起こす際に一人の知恵に頼ってはならない。形勢を見極め、人の心を断つ(操作する)、これは執政者の根本だ。」
「私は出仕はじめてまだ浅く、今後も令君にはいろいろとご指導下さい。では失礼いたします。」
「待ちなさい。」
荀彧は記録絵を返す。
「この絵はしまっておきなさい、誰にも見られないようにな。」

*5 忠はまごころを尽くすこと。義は人道に従うこと。直訳:明日私はあなたに忠と義の両方を全うする一つの方法を与えるだろう。
*6 賢侄は年の離れた若者に親しみをこめた呼びかけ。実際の甥ではないが甥っ子のように大切に思っているというニュアンスになる。


* * * * *

そして翌朝彼が仲達に示して見せた方法は、誰にも予想できない驚愕のものだった…。


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「大軍師司馬懿之軍師連盟(全42話)」第十二集14分頃から。※ネタバレ注意
曹操は長男・曹丕と三男・曹植(子建)に同じ軍令を出し競わせる。曹植は殺人を犯してまで強引に達成したが、曹丕は司馬懿(仲達)の助言を得て使命を断念し軍令違反の罪を受け入れる。曹丕と司馬懿は牢へ入れられた。

* * * * *

「わたしは七歳から従軍し、ずっと長兄の曹昂(*1)の側についていた。十歳の頃、大軍が宛城に縛り付けられてた時、夜中に突然張繍が謀反を起こした。そこら中兵は乱れ馬は暴れ、兄は自分の馬を父上に差し出し(て逃がし)、彼はわたしを抱えて空から雨のように降って来る矢を躱していった。やっとのことで一匹の馬を見つけ、すぐにわたしを乗せて逃がしたその時、彼に矢が当たった。兄が最後にわたしに言ったのは、ただ「早く逃げろ!」と。何年も経ったが、父上はずっと兄の事を懐かしみ惜しんでいる。もしわたしが兄と代わってあげられたらいいのにとわたしはいつも思っているのだ。そうすれば父が記憶に留めてくれるのはわたしで、兄はまったく順当に世継ぎの座に上り、今頃は父上は困ることもなく、曹家の兄弟も(世継ぎという)一つの位のためにいがみ合うこともなかっただろう。(しかし)今は、兄は兄でなく弟は弟ではない(*2)。」
「丞相は詩人ですから、彼は子建公子のような経天緯地の才能(*3)を好むのでしょう。(でも)彼は、誰が、彼を継承する人として最もふさわしいのかをきっと解ってます。」
「お前はわたしに臣下らしく、子らしく(行動しろ)と言ったな。しかしどうだ今やこのように牢獄に囚われの身ではないか。」
「公子、勝敗を争わずただ正誤を成せ(正しい事を行え)、公子は昨日お分かりになったのではないのですか?」
「ああ、わかった。だがお前はわたしが恐れてないと思うのか?父上はわたしに一つの教訓を与えた、わたしがいつも咎められるよう(わざと)行動させて面目を潰し、周囲の人々にわたしがちょっと間違えただけで今日のこのような境地に落とされるということを見せつけた。(今後)誰が敢えてわたしを守ってくれる。お前も後悔してるだろう。」
「自ら公子についていくと決めたあの時から、決して後悔はしません。もし公子がまた危うい場所に足を踏み入れるなら、私もきっとそこにおりましょう。」
「仲達、今日はお前のおかげだ、でなければわたしはどうやって(この難問に)立ち向かえばいいのかまったくわからなかった。寝るか。牢屋をこのようにきれいにしてくれたのもお前の心遣いなんだな。」

*1 曹昂は曹丕の異母兄で、曹昂の母が亡くなり曹丕の母が正室に繰り上げられたため曹丕が嫡男長子となった。
*2 兄弟らしい気持ちがちっとも通わなくなってしまった、兄弟を憎く思っている。
*3 経天緯地は世情に精通していて政治の才に長けている様子だが、ここでは世の中を言葉で美しく形容する才能に長けているという意味。


* * * * *

この後に仲達が敢えて布団を少し離してから寝るのをどう捉えればいいのか。友人ではなく臣下として適切な距離を置こうとしたのか、それとも実は心から従っているわけではないと示唆しているのか…。


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「大軍師司馬懿之軍師連盟(全42話)」第十集5分頃から。
丞相・曹操から三日以内に犯人を捕らえよと命じられた中郎将・曹丕は街頭で「仁義」と書いた旗を立てて犯人に自首を呼びかけた。それは司馬懿からこのような助言を貰ったからだった…。

* * * * *

「それはこの二文字(仁義)です。」
「分かるように言ってくれ。」
「この天下に、丞相を恐れぬ者はおりませんし、丞相を恐れさせる者はおりません。彼の心の中でただ守りたいと思うのは、"人の心"だけです。そしてこの二文字(仁義)は人の心の中にあるのです。」
「私の父は血の中火の中(様々な危機)をくぐり抜けてきた。徐州の戦の時は、陶謙が我が祖父を殺したので父上は怒り徐州を断罪し、城内(の人々を全員)屠り片づけたのだ。その彼がどうしてこんなちっぽけな二文字で変えられようか。」
「中郎将はしっかり見るべきです、しっかりと丞相のお志を。昔の丞相は彼も一介の将軍で、突然起こったお家の災難に感情的にならざるを得なかった。今の丞相は違います、乱れを正した中原の全てを収服させても、彼にはまだ兵馬糧秣があり力づくで南下しようとしている。彼の心の中の志は孫権・劉備を越えて遠くにある、彼は今天下をひとつに収めるつもりなのです。」
「父上が天下をひとつに収めようと、それで人の心を顧みて仁政を行うと、それはお前の推測だろう。もし父上が子建のためにまた感情的な行動に出たらどうする?」
「では丞相は袁紹と同じ轍を踏むでしょうね(*1)。なら丞相は天下統一などできません。そして中郎将の夢も実現できません。"世継ぎ"ではなくなりますからね(*2)。」
「……肝っ玉の大きい奴め(*3)。」
「わたくしの肝っ玉は小さいですが、中郎将の肝っ玉はもっと大きくあるべきです。大胆に行動するのではなく、大胆に考えるのです。あなたのお父上のことをしっかり考えるのです。彼の威厳について考えるのではなく、彼の弱点をよくお考えなさい。」

*1 袁紹は長子を後継に指名しなかったため、長子と末子の後継争いで内乱が起こり、曹操にその隙を突かれて敗北し家は滅亡した。
*2 曹操が子建を後継にしようとすれば同様に内乱が起こり家は絶えるであろうから世継ぎも何もあったもんじゃない、という意味。
*3 大それた事を言う奴だ、恐れを知らぬ者め、ふざけたことをぬかしやがって等の意味


* * * * *

たったこれだけのヒントで自力で解決策にたどり着いた曹丕もすごいのよ…。


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