丞相・曹操から三日以内に犯人を捕らえよと命じられた中郎将・曹丕は街頭で「仁義」と書いた旗を立てて犯人に自首を呼びかけた。それは司馬懿からこのような助言を貰ったからだった…。
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「それはこの二文字(仁義)です。」
「分かるように言ってくれ。」
「この天下に、丞相を恐れぬ者はおりませんし、丞相を恐れさせる者はおりません。彼の心の中でただ守りたいと思うのは、"人の心"だけです。そしてこの二文字(仁義)は人の心の中にあるのです。」
「私の父は血の中火の中(様々な危機)をくぐり抜けてきた。徐州の戦の時は、陶謙が我が祖父を殺したので父上は怒り徐州を断罪し、城内(の人々を全員)屠り片づけたのだ。その彼がどうしてこんなちっぽけな二文字で変えられようか。」
「中郎将はしっかり見るべきです、しっかりと丞相のお志を。昔の丞相は彼も一介の将軍で、突然起こったお家の災難に感情的にならざるを得なかった。今の丞相は違います、乱れを正した中原の全てを収服させても、彼にはまだ兵馬糧秣があり力づくで南下しようとしている。彼の心の中の志は孫権・劉備を越えて遠くにある、彼は今天下をひとつに収めるつもりなのです。」
「父上が天下をひとつに収めようと、それで人の心を顧みて仁政を行うと、それはお前の推測だろう。もし父上が子建のためにまた感情的な行動に出たらどうする?」
「では丞相は袁紹と同じ轍を踏むでしょうね(*1)。なら丞相は天下統一などできません。そして中郎将の夢も実現できません。"世継ぎ"ではなくなりますからね(*2)。」
「……肝っ玉の大きい奴め(*3)。」
「わたくしの肝っ玉は小さいですが、中郎将の肝っ玉はもっと大きくあるべきです。大胆に行動するのではなく、大胆に考えるのです。あなたのお父上のことをしっかり考えるのです。彼の威厳について考えるのではなく、彼の弱点をよくお考えなさい。」
*1 袁紹は長子を後継に指名しなかったため、長子と末子の後継争いで内乱が起こり、曹操にその隙を突かれて敗北し家は滅亡した。
*2 曹操が子建を後継にしようとすれば同様に内乱が起こり家は絶えるであろうから世継ぎも何もあったもんじゃない、という意味。
*3 大それた事を言う奴だ、恐れを知らぬ者め、ふざけたことをぬかしやがって等の意味
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たったこれだけのヒントで自力で解決策にたどり着いた曹丕もすごいのよ…。
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