ドラマでお勉強-大軍師司馬懿之軍師聯盟 #6 | あさひのブログ
「大軍師司馬懿之軍師連盟(全42話)」第十五集34分頃から。
その夜荀彧は奏書を手に魏王・曹操の元へ向かう。事件を静観していた荀彧がやっと面会を申し出てきたと聞いて曹操はすぐに彼を招き入れる。

* * * * *

「大王様、わたくし上奏すべき文がございます。」
「私と君の間で、面と向かって話せんことなどないだろうに(*1)。」
「しかし文字にしておかないと、わたくしは大王様にお話しできません。話す言葉(会話)では私心(*2)を疑われることも免れませんが、文字にすればかえって天下の人々に見てもらえます。わたくしは公平で正しくありたいのです。」
「令君座ってくれ。さあ座って。ほら、座ってくれ、ゆっくり話そう。」
「ありがとうございます。」
「何が私心だというのだ、何が公平だというのだ。」
「わたくしは平原侯(*3)が司馬門へ闖入した件について大王様に公正な処置をお願いしたいのです、公平な処置を。」
「わし(*4)はちゃんと司馬朗を大理寺へ送り適切な刑罰を与えるよう命じておる、令君は(まだ)公平にと言うのか。すぐに(結果は)天下に明らかとなるだろう。」
「司馬門の事件は、罪は司馬朗ではなく平原侯にあります。平原侯が夜に司馬門に闖入したことは、それに対応できた朝臣はおらず(あまりの大事件ですぐに彼を止めたり事を内密に収めることができた者はいなかったので)、この事件は許都中に、天下に知れ渡りました。天下の人々が驚き恐れたのは(とんでもない事をしでかした)平原侯ではなく大王様です。大王様は漢王室をお助けするために、忠実で誠意をもって謙虚にまごころを尽くしておられる、このような事で天下の人々に疑問を抱かれることはなりません。」
「しかし令君の言う通りに罪を論じるならば確実に、子建(*3)を殺さねばならん。だが彼はなんといっても我が子なんだぞ。」
「わたくしは決して大王様に子を殺せというのではございません。平原侯の犯したことは死罪ですが、国法には高貴な身分の者のための特別法があり、死刑を免れるので心配ありません。」
「…そうだ。令君は無益なこと(何の得にもならないこと)をしには来ないだろう。令君は、わしに子建を廃して子桓を太子に立てさせたいのではないのかな。」
「大王様、わたくしがこれから申す事は個人的な話です。わたくしも人の父でございますから、舐犢の情(*5)の深さも解ります。わたくしの子(*6)が過ちを犯したら、わたくしは彼を厳しく罰するでしょう。(それは)彼がさらに大きな過ちを犯さないようにです。」
「どのような過ちだね、令君率直に言ってくれ。」
「人としての過ち…それは不忠、そして不孝です(*7)。」

*1 水臭いぞ、の意。直訳:面と向かって話せないことがあるか(反語)
*2 ここでは立場を利用してこっそり頼みに行くことを指す。
*3 平原侯は曹植の爵位。子建は曹植の字。
*4 孤は王など、国に一人しかいない者の一人称。わし、おれさま。
*5 (母牛が仔牛を舐める様子から)親子の深い愛情のこと。
*6 自分の子は犬の子のようにくだらない存在だと相手にへりくだって言っている。
*7 直訳:人の最も大きな過ちは不忠・不孝を越えるものはない。



「ハッハッハ…。漢の高祖は言った、劉氏にあらざるものが王を称えれば、天下ともにこれを撃てと。わしは王を称えたが、令君から見ればこれは不忠不孝ということだな。わしが九錫を与え、天子の車に乗り、天子の冕旒(*8)を戴き、宗廟を立て国都を開けば、令君から見ればやはり不忠不孝だな。そうだろう?…答えよ。」
「…明公(*9)。わたくしは二十年前から明公と共に参り、明公が漢王室を助け黎民を救ってくれると堅く信じておりました。二十年が過ぎ、わたくしはこの悩ましい事にけじめを付けるのにあれこれ考えては苦しみ続けびくびくとして(その結論を出すことを)わざとぐずぐずと先延ばしにしています(*10)、(それは)わたくしの望む理想と明公のお志が共存できるのかということについて。しかし今日、わたくしは簡単に申し上げます。今日わたくしがお答えできるのは、失望の二文字です。」
「なんと…明公、良い響きだ。この明公という響きは親しみ深いようでもあり、聞き慣れないようでもあり。親しみ深く感じるのは、文若(*11)と初めて知り合った頃を思い出させるからだ。あの時の明公と呼ぶ声は、希望をもって呼ばれた。聞き慣れないのは、二十年後、この明公と呼ぶ声は……失望で一杯になっておるからだ。わしは思うに、令君の失望は、今のわしがもう漢臣には戻らないと思うからではないか。」
「はじめ明公が天子をお迎えされた時諸侯にお命じになりました、我らは永遠の漢臣として(天子を助けて行こうと)共に誓いを交わそうと。しかし今日の明公はまだ漢臣ですか!?司空でも足りず、丞相でも足りず、魏公でも大王でもまだ足りないと!明公がしようとしていることは何ですか、その先は(*12)…。」
「……。ああ、令君の今回の話にわしは恥ずかしく汗をかいてしまったわ。もし令君が言ったような、"その先"が本当にあるならば、お前と私は20年も共に歩んできたのに、令君、わしと共に行こうとは言ってくれないのか。」
「…戦乱を平定し悪人を一掃し、わたくしは明公と肩を並べることができ、王に封じられ宰相に任じられましたが、お許しください、わたくしは大王様と共には行けません。」
「……わかった……わかった。令君のわしへの思い、わしがどうして知らないだろう。わかった、わしは一生漢王室に孝養を尽くし、永遠に漢臣でいよう。ただ、わしはてっきり、お前と私の親交は20年にもなるのだから、心を預け頼れるものだと思っていた。」
「…明公はわたくしをよくご存じです、そしてわたくしは、明公をよく存じております(*13)。」

*8 王の冠の前後についている玉すだれのような飾りのこと。
*9 「聡明な我が主」という尊敬の呼び方。荀彧が曹操の元に下った頃はこう呼んでいたようだ。
*10 左右支絀…やり繰りがつかない、対処しきれない。/ 小心翼翼…気が小さくびくびくとした様子。/ 拿捏…ぐずぐず、もたもたする。/ 尴尬…気まずい、困惑した。
*11 荀彧の字。
*12 一歩之遙は一歩先、ちょっと先。王より上は皇帝しかないので、「あと一歩進めば皇帝になる、皇帝になろうとしているのだろう」という非難の意。
*13 この言い回しは通常「私とあなたの気持ちは一つです」の意味で使われるが、ここでは「私はあなたの意見に従えないしあなたも私の意見には従えない」の意。


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ここ、三本の指に入る名シーン。


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