先日、私にとって超大御所の御方である人物と一緒にお茶を出来る機会に恵まれた。
そのお方は“岡田晋吉(おかだひろきち)”さん。
当ブログでもよく取り上げる70年代の日本テレビドラマで数多のヒット作品を世に送り出した人物。
刑事・探偵もの、青春・学園もの、の殆どがそうで、例に出すと「太陽にほえろ!」、「傷だらけの天使」、「俺たちの勲章」、「大都会シリーズ」、「俺たちは天使だ!」、「あぶない刑事」、「青春とはなんだ」、「これが青春だ」、「でっかい青春」、「おれは男だ!」、「おこれ男だ!」、「飛び出せ!青春」、「われら青春!」、「俺たちの旅」、「俺たちの朝」、「俺たちの祭」、他にも「快獣ブースカ」や「名犬リンチンチン」等々。
急遽そんなまたとない機会に恵まれて、慌てて岡田氏の著書をネットで探し、オークションや中古販売でやっとこさ入手!
事前に予習もし(とは言え『太陽にほえろ!伝説』はお会いする前日に届き序章くらいしか読めなかったが…)、岡田プロデューサーとご対面。
白髪で非常に謙虚な感じと言うのが第一印象。
他にも、岡田氏の作品で育った同世代の方々10人ほどでお茶会開始。
色んな話が10人もファンがいるとあっちこっちと飛ぶが(大体主犯はわたくしだったですが…)とても真摯に穏やかに答えてくださる。
お話されたことは、ほぼ著書に書かれたことでもあったが、やはり「太陽にほえろ!」の話から。
<「太陽にほえろ!」に関して>
岡田さんとしては当初、TBSが視聴率20%を稼げる長寿ドラマが何本もあって(「ザ・ガードマン」、「時間ですよ」等々)日本テレビではまだ長寿ドラマが無かったので1つでも欲しいという思いが「太陽にほえろ!」の発端だった。
これまで学園ドラマの大ヒットを出した岡田プロデューサーは「学園ドラマは、3年やっても終了ですから、7年狙えるものが欲しかった」と。
ただ、自分の得意な青春ものを学園でなく社会での物語にした場合に長続きするのは“警察もの”だろうと。
そこで若い新米刑事が人としても成長していくストーリーを軸にした刑事ドラマを考えたとの事。
次に出演者のキャスティング、これは先生役のようなドッシリしたした刑事部屋の長と、新入生にあたるまだ半人前の新米刑事が重要とのことで、長を石原裕次郎、新米を萩原健一に白羽の矢を立てた。
石原裕次郎に関しては、大ヒットドラマ「青春とはなんだ」の作者が石原慎太郎であったことや一俳優としてだけでなく自らのプロダクションを設立したことでテレビ進出の絶好の機会も重なり、石原裕次郎で行こうと決めたらしい。
萩原健一は、その新米役を選ぶ際、既存の俳優より新しい俳優で行きたいと考えており、そんなタイミングで知り合いの監督から「面白いのが映画に出てるよ」と知らされて見に行った映画に出演していたのが萩原健一で、その雰囲気、演技、それにバンド出身というのが岡田氏のプランに見事フィットした。
そして撮影スタート前、萩原健一が番組に出たくないと言い出した!
当初は萩原演じる早見淳のニックネームは「坊や」だったのだが、これが気に入らないと言い出した。(笑)
岡田氏他スタッフは半人前の若者が一人前の刑事、人として成長するのが狙いなのでこの「坊や」は番組内容には嵌っているのだが、何としても嫌だと折れないショーケン(萩原健一)でクランクインの1週間前についに出ないと言い出してきた。
萩原氏は実はこの番組スタート前にかなり色々とアイデアを岡田さんに出していた。
同じGS仲間の大野克之を音楽担当に推したり、衣装も三つ揃いスーツにノーネクタイという格好、当時の若者の等身大の気持ち、等々、それで結局その三つ揃いのスーツとジープで出社してきた新人を「マカロニウエスタン映画にでも出てきそうな奴」というイメージがあり結局“マカロニ”のニックネームに収まり、撮影初日を迎えることになる、、、のだが、実はその前日になってもショーケンは出演OKを出していないまま、クランクインの日を迎えたそうだ。(笑)
また、岡田氏曰く「太陽にほえろ!」は「石原、ショーケンの2人(が主役)ですが、中心(=核)は実は“ゴリさん”なんです。」と伺いビックリ!
それはドラマ内の人物設定として“ゴリ”こと石塚刑事は射撃の名手ながらも普段はピストルに弾は込めないという行動を取っており、これは「命を大切にする」という、あの番組の信条を描いたとの事。
またゴリを演じた竜雷太氏は新人俳優にしっかり付き合い丁寧に教えていく事もしてれたらしい。
他にも「太陽にほえろ!」の都市伝説的な“ほんとはこの人が出るはずだった”話を伺った。
1、ジーパン刑事は松田優作ではなかったかも?
松田優作は「われら青春!」の沖田俊役で内定していたが、ショーケンの急な降板で、「われら青春!」の主役を取るか、「太陽にほえろ!」の新人刑事を取るか、本人に訊いたところ「太陽~」を取った。
その後日談として穴のあいた「われら青春!」の主役を誰にするか?そこで当の松田本人にも尋ねたら、同じ文学座の研究生の1年後輩に1人いいのがいると紹介したのが中村雅俊だった。
さらに後日談として、テレビ出演の経験もない中村雅俊をテスト出演させたのも「太陽にほえろ」(これは当ブログで一度紹介しました)で、そのシーンは石原裕次郎と露口茂と中村の3人によるもの。
当時ズブの素人の中村としてはプレッシャーのかかる現場だったろう、そう思った松田優作は自分もそのシーンに出演し付き合うという事になり、横で中村を見守っていたら、中村はノーミスの演技をしたが、松田本人がNG出したんだよ、とおっしゃっていた。(笑)
2、テキサス刑事は松平健だった?
これは以前テレビで松平氏本人が、実は松田優作の後釜が内定していたが、勝新太郎に見初められ明日からお前は付き人だ!と一方的に言われ「太陽にほえろ!」を断ったと言っていたが、実は内定まではいってなかったそう。
確かに候補に松平健はいたとの事。
3、ボギー刑事は甲斐よしひろ(甲斐バンド)だった?
これも、甲斐本人が語っていたのを読んだことがあるのだが、岡田氏は「火曜サスペンス劇場」に出演していた世良公側を見て、登場させたいと思ったと語って下さいました。
<「傷だらけの天使」について>
岡田さん曰く、この番組に対して「僕の手柄はペントハウスという設定だけです。」とおっしゃっていた。
もちろんそれだけではない。
ただ修と亨の主人公2人がビルの上のペントハウスに住むと言う設定はなかなか魅力的なのは確か。
あのドラマは、若者が死に物狂いでやり遂げて、大人たちに見せ付けるけど、実は大人の方は若者が脱線するのも想定内でそっちに転んだら自分たちにはどういうメリットがあるのかも計算済みってとこがミソなんです、と笑っておられた。
「傷だらけの天使」はシナリオラオターの市川森一が実際の総合プロデューサーでこれも「太陽に~」で仕事した際にショーケンが気に入り、指名したそうな。
実は「太陽にほえろ!」は岡田氏の信条でセックスネタはタブーだったが、萩原氏が当時における“今の若者”を描くのにセックスが出てこないのはおかしい!と主張。
そんな中で市川氏は表面上では解らないが大人ならそこまで読み取れる、しかし子供たちには解らないという絶妙な塩梅で書いてきたセックスネタを基にしたシナリオを書き、そのことがショーケンもそして岡田氏も市川森一を気に入ったそうである。
そこで、「太陽に~」の後にセックスを前面に押し出した探偵ものを萩原のために用意したのが「傷だらけの天使」だった。
しかし、放映当時は視聴率が悪いは、女優は全裸でモザイクで登場するはで、岡田氏は会議で毎回30分くらい上司からのお小言を貰う羽目だったと語った。
また、あのドラマの面白いところは監督中心に作っていったところだと言われていた。
そしてその監督たちも全てショーケンが口説いて連れてきたそうな。
確かに、深作欣二、恩地日出夫、神代辰巳、児玉進、土屋統五郎、等、すごい面子である。
なかでも岡田氏が凄いと言っていたのが工藤栄一で、仕事も凄いが熱が入りすぎたのか、ある日スタッフから岡田氏の元に「撮影がストップしてしまいました!」と連絡が入りどうもロケ現場で喧嘩となり警察に連れて行かれたと聞き、岡田さんはてっきりショーケンがやってしまったと思ったのだが、それは監督だった!と笑っていた。
ついでに岡田氏に、第1話で修が拳銃を入手する怪しげな骨董品店が自分の同級生に家です、と伝えたら苦笑された。(こちらも苦笑)
あと1つ。
先日亡くなられた穂積隆信さんについて一言いただきました。
「会社での初仕事が“名犬リンチンチン”(アメリカドラマ)で、そこで声優として頼んで、それ以来、古い友人です…。」そう答えてくださいました。
穂積隆信さん、どうぞ安らかにお眠り下さい。
貴方の、いやったらしくも根っこは悪人ではない、微妙な機微の役どころの演技が大好きでした。
他にも、別番組、別キャスト、等々、色々お話を伺ったのですが、長くなったのでまた機会があれば記そうと思います。
最後に、やっとこさ入手した著書にご署名をいただきました!
岡田様、貴重なお話、誠にありがとうございました。
また、こんな素晴らしい機会をいただいたI女史にも心より感謝申し上げます。
2019.2.22追記