前ブログに続き、英国における百万女性研究the Million Women Studyの結果を紹介します。
Lancet. 2007 May 19;369:1703-10.

今回は、卵巣がんとホルモン補充療法との関係です。卵巣がんは、乳がんよりずっと、数は少ないですが、女性がんの4番目に位置する、死亡率の高いがんです。若い女性をピルなどで、自然の排卵を止めてしまうと、卵巣がんが減少することがわかっています。それをもって、女性のピルは、安全であると、もっていく説明がありますが、ピルの作用は、多様です。今回は、閉経後の女性の話です。卵巣内のどの部分ががん化するかにより、組織学的に分類されています。
 
英国在住の948,576人の閉経後の、がん発症のみられない女性を追跡調査しました。この集団の女性を、5.3 年間追跡し、死亡は、6.9年間追跡しました。
 
287,143人 (30%) の女性が、その時点でホルモン補充療法を続けていました。186 751 人(20%)は、過去にホルモン補充療法を続けたことがある人でした。
 
 2273 人が卵巣がんとなり、1591人の、がん死が記録されました。卵巣がんの発症と、それによる死亡は、ホルモン補充療法群を長く続けている女性に多く出ました。がんの発症の相対危険は、1.20倍 [95% 信頼区間 1.09-1.32; p=0.0002] 、がん死は 1.23倍 [1.09-1.38; p=0.0006] )でした。
 
過去にホルモン補充療法をしていた女性では、卵巣がん発症や死亡の増加はみられませんでした(発症の危険リスク0.98倍 [0.88-1.11])。
 
ホルモン補充療法の治療をしている人が、していない人と比べると、卵巣がんのタイプにより、発症リスクが変化しました。

しょう液性の卵巣がんが、ホルモン補充療法群で多くなりました。
しょう液性 1.53 倍 [1.31-1.79],
しょう粘液性 0.72 倍 [0.52-1.00],
内膜様性  1.05倍 [0.77-1.43],
透明細胞がん性 0.77 倍 [0.48-1.23], カッコ内は、{信頼区間}
 
女性1000人中で、計算すると、卵巣がんの発症は、ホルモン補充療法群で2.6 人(信頼区間 2.4-2.9)、ホルモン補充療法をしていない群で2.2 人(信頼区間 2.1-2.3)と、計算されました。
 
これは、ホルモン補充療法を続けていると、2500人に一人よけいに、卵巣がんが発症すると計算されました。卵巣がんによる死亡は、ホルモン補充療法群では、1.6人、ホルモン補充療法をしていない群で 1.3人、ホルモン補充療法を続けていると、3300人に一人よけいに、卵巣がんが発症すると計算されました。
 
1991年より、ホルモン補充療法が続けられていると計算すると、英国の女性では、1300人の卵巣がんが余分に多く発症し、1000人の卵巣がん死が余分に多くおきていたであろうと計算されました。
 
エストロゲンは、細胞の新生を促す物質であるため、発がん作用があります。しかし、若い女性で、ホルモン補充療法を行う場合は、自前のホルモン不足など、それなりの正当な治療理由から、女性ホルモンが補充されるため、女性ホルモンの望ましい作用が期待できます。
 
しかし、閉経後の女性では、事情が異なりなります。以前より問題となっている女性ホルモンによる発がんに答えを出すために、世界的で大小いろいろな比較試験が組まれました。その結果、2002年、WHIが、望ましくないとの結論を出しました。
 
この研究に参加していたのは、主として60歳を過ぎた女性たちが中心でした。当初から、エストロゲンによる発がんは、予想されていたものの、リスクとベネフィット(益)を天秤にかけるために、この比較試験が行われました。当時、外国で実際に、ホルモン補充療法にしていたのは、閉経後間もなくの人より、もっと年配者であったようです。
 
使われていたのは、
複合エストロゲン・プロゲステロン製剤や、
tiboloneと呼ばれる合成ホルモンでした。
 
本日は、ホルモン補充療法の参加者多かったMillion Women Study(百万女性研究)を紹介します。英国で、ホルモン補充療法の効果をみるための追跡集団として、集められた女性たちの追跡調査です。

Lancet. 2005 ;365:1543-51.
ガンが無い、子宮摘出していない英国在住の716,738人の閉経後の女性を、1996-2001年にMillion Women Study(百万女性研究)に組み込みました。この集団を、平均3.4年、追跡したところ、集団の中から、1320人の子宮体がんが診断されました。

調査結果: 716,738人の閉経後の女性のうち、320,953人の女性(全体の45%)が、ホルモン補充療法をしていました。その治療法の内訳は、以下のとおりです。
69,577(22%)が、連日続ける、エストロゲン+プロゲステロン療法群、
145,486(45%)が、1ヵ月につき10-14日の間、エストロゲン+プロゲストゲン療法する間歇療法群、
28,028の(9%)は、ibolone群(日本では使われていない合成女性ホルモンで、内膜症や閉経後のHRTに使われる)、
14,204(4%)は、エストロゲン単独のHRTを使用群です。
 
 全体では、HRT使用者は、子宮体がん(p0.0001)発症の危険を高めました。 HRTの治療者は、未治療者に比べ、それぞれの危険率は、以下の通りでした:
 
ホルモン補充療法をしていない女性にくらべて、
エストロゲン+プロゲステロン療法の連日使用者では、相対危険度0.71[95%のCI 0.56-0.90]; p=0.005)となり、
子宮がんが低下しました。
Tibolone使用者は、子宮がんが増加しました1.79倍[1.43-2.25]; p0.0001)。
エストロゲンのみ使用者では、子宮がんの発症は1.45倍[1.02-2.06]; p=0.04)でした。
エストロゲン+プロゲストゲン間歇療法では、1.05倍[0.91-1.22]; p=0.5)でした。
 
tiboloneとエストロゲンのみのHRT療法では、子宮がんを増やしましたが、
エストロゲン+プロゲストゲンは、乳がんを増やしました。発がんへのHRTの影響は、肥満女性で大きくなりました。
結論として、エストロゲンとtiboloneは、子宮体がんの危険性を増し、 プロゲステロンは、子宮内膜において、エストロゲンの発がんを打ち消しました。
ホルモン補充療法には、2002年のWomen Health Initiative(WHI)研究と、2003年のMillion Women Study(百万人の女性研究)の結果が代表とされています。ホルモン補充療法に関するWHI試験の結果は、世界の女性診療に、大いなるショックを与えました。

このWHI試験発表の前に、英国のがん財団で書かれた論文1編と、発表後にシンガポールと米国で書かれた論文をそれぞれ紹介します。
 
WHI試験が進行中の時期である1999年に書かれたレビュー論文です。この記事の紹介から、始めます。
 
J Epidemiol Biostat. 1999;4(3):191-210;
今までに発表された100本の疫学的研究は、ホルモン補充療法の使用と、女性の生殖器(胸、子宮、卵巣)ガン発症の危険性が、関係することを指摘しています。 ホルモン補充療法の治療中は、乳がんまたは子宮体がんの発症リスクが増します。このリスクは、ホルモン補充療法の継続期間が増す程、増加します。
 
エストロゲンとプロゲストゲンを合わせることで、単独エストロゲンよりがん発症が減らせますが、乳がんを減らす効果は、あまり期待できないようです。しかし、子宮内膜がんの発症は、減らすことができます。5年以内のホルモン補充療法であれば、治療を止めた後に、乳がん発症への影響は、徐々になくなります。ところが、子宮体がんに対する影響は、長く続きます。 しかし、今だ、HRTの使用と死亡率の関係に関しては、信頼できる情報がありません。HRTの使用期間がより長いほど、乳がんと子宮内膜の発生率は、高くなるでしょう。HRTの使用が短期間であれば、これらのガンの発病率は、ほとんど影響を及ぼしません。
 
これまでの研究では、女性が、エストロゲン単独によるHRTを、50歳で始めて、10年の間、続けると、1000人の女性において、乳がんは6人多く発症し、女性の子宮体がんは、42名多く発症します。エストロゲン・プロゲステロンの併用であれば、子宮体がんは20人程多く発症すると推定されます。HRTと、これらのガンの過剰な発病率の関連に関しては、今後も慎重に評価される必要があります。 10695959

2002年7月のWHI発表後に、世界の女性診療は、どのように変化したかについては、英語圏の国々を中心に、いろいろな視点から論文がでてきます。

アジアでは、英語圏代表として、シンガポールからのレビュー論文を紹介します。しかし、実際で、シンガポールで調査研究されたものでなく、欧米で行われた研究成果を紹介したにとどまっています。

シンガポール大学の女性の健康担当課が書いています。Maturitas. 2009 ;64:80
2001-2002年と、2005-2006の間で、欧米において、およそ22%の乳がんの発病率が減少しました。ホルモン補充療法の減少により、乳がんの発症率が低下したのは、それまで広くHRTが使われていた50-60才の女性において、最も著明でした。特に、エストロゲン受容体陽性、あるいはプロゲステロン受容体陽性の乳がんが減少しました。それらは、HRT使用との関連が。最も疑われるタイプの乳がんでした。
 
米国、アイオア大学は、WHI発表後に、ホルモン補充療法を2/3の女性が止めたと報告しています。アイオア大学内科診療で、実施されていたホルモン補充療法の場合です。内科領域では、がん、血栓症を恐れる傾向が強いようです。
 
J Gerontol A Biol Sci Med Sci. 2005 ;60:460
米国アイオア州のアイオア大学からの内科学からの論文です。この論文では、WHIの発表後、2/3の女性は治療を止めたが、1/3は続けていることが示されています。

2002年7月のWomen Health Initiative(WHI)試験の公表の後、すでにそれまで内科診療で続けられていた、閉経後のホルモン補充療法(HRT)は、数が減りました。内科診療中の1000人の閉経後の女性(平均年齢66 +/- 9歳)に、後向きの聞き取り調査をしました。
 
閉経後の女性1000人のうち、445人(45%)は、ホルモン補充療法ユーザーでした。286人の女性(64%)は治療を中止しましたが、159人(36%)は、ホルモン補充療法を続けていました、中止者の181人の女性(63%)は、WHI発表をうけてホルモン補充療法を止めた女性です。そして、136人の女性(48%)はWHI試験の参加者でした。
ホルモン補充療法を続けた女性は、159人でした。ホルモン補充療法を継続する主な理由は、31人の女性(20%)は、更年期症状によるもの、39人の女性(25%)は骨粗鬆症によるもの、20人の女性(13%)は、本人の希望が強いためでした。
 
 HRTを続けている159人の女性のうち、41人(26%)はアテローム性動脈硬化性があり、7人は静脈血栓塞栓症があり(4%)、8人には乳がん(5%)の病歴、12人には乳がん(8%)の家族歴がありました。
 
結論: WHI試験の影響はあるものの、一部の女性は、いろいろな理由のために、内科の診療現場で、ホルモン補充療法を続けていました。
更年期障害の治療であるホルモン補充療法HRTを、長く続けることには、問題が多いことを、このブログで紹介してきました。今回も、そうした研究のご紹介です。

インタネット情報には、女性が若くいるためには、女性ホルモンの効果が絶大であることを謳う記事が主流です。しかし、逆に、HRT療法が、とてもひどい治療であると、憤慨する記事もあります。

むしろ、私は、医師・患者・製薬メーカーが協力して、治療の是非を確かめたことが、評価できると思います。そして、日本でも、その情報が容易に女性たちの手の届くところにあってほしいと思います。人の体は、どのようにささえられているのか、興味をもってほしいです。
体内の物質は、善玉、悪玉と、それほど、分けられるわけではないのです。
 
世の中には、性同一障害などで、ホルモン補充をしている人々が書いたブログがあります。そうした方の文章を読んでいると、自身の体を変えたいと願う大いなるチャレンジング精神を感じます。女性ホルモンを使うと、体がどのように変化すると感じているのか、ホルモンを飲んだ量と、血中濃度との関係などを知ることができます。ホルモンを倍量に増やしても、血中濃度が倍量にならないこと、少し増量しただけで、血中濃度が急に高くなることなどが、書かれています。
 
肝障害などの起き方は、人によります。薬を分解する能力は、生まれつきの遺伝子背景の違いで、能力の個人差があります。血中濃度が、有る濃度から一気に上昇しまうのは、異物を分解・消去する能力が限界を超えてしまうのでしょう。さらに、そうした臨界期に、さらに薬剤が体内に入ると、肝臓は壊れてしまいます(急性肝不全)。
 
米国、WHIの研究発表以前は、世界の先進国の女性が、ホルモン補充に期待していました。比較研究に参加した女性が、かなり高年齢であることから、明らかなように、女性ホルモンは、女性の一生をささえるミラクルな物質という認識があったものと思います。
 
はるか以前から、エストロゲンは、がん誘発因子であることがわかっていました。しかし、エストロゲンに拮抗作用をもつ黄体ホルモンと組み合わせることで、その副作用が防げると信じられていたのです。
 
WHI試験は、米国で実施された薬剤比較試験ですが、他の先進国でも、類似の試験が実施されていました。しかし、世界の常識となったWomen’s Health Initiative(WHI)のネガティブな結果をうけて、多くの比較試験が頓挫しました。
 
今回紹介する論文でも、追跡期間がたった1年で中止になりました。そして、1年弱の観察期間においても、ホルモン群と、偽薬で、新たな病気の発生に関する比較成績が得られました。それは、論文として、2007年ブリティシュメディカルジャーナル(BMJ)に発表されました。
 
英国などの、米国以外の英語圏の女性たちを募集して、女性ホルモンのと偽薬の二重盲検の多施設無作為化比較試験のWISDOM研究が行われました。当初、10年間、追跡調査が続けられる予定でした。WISDOMは、英国、オーストラリア、ニュージーランドの一般開業医の協力を得て行われました。
 
当初、2万2300人の人数の女性が参加するはずでしたが、実際に追跡可能となったのは、その26%に当たる人でした。それぞれ、ホルモン群 (n=2196) と、偽薬群 (n=2189),です。参加女性の平均年齢62.8歳)で、閉経後15年が経過していた集団でした。追跡期間の中央値は11.9カ月(6498人-年の追跡)でした。
 
評価指標は、主要な心血管イベント(入院を要する不安定狭心症、致死的または非致死的な心筋梗塞、冠動脈突然死)、骨粗鬆症による骨折、乳癌に設定しました。その他に、癌、全死因死亡、静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓、網膜静脈閉塞症)、脳血管疾患、認知症、生活の質なども、評価しました。
 
結果は、プラセボ群に比べ治療群で、脳卒中、肺塞栓のリスクが上昇、股関節骨折と大腸癌リスクは減少することが示され、WHIと類似した結果でした。
 
プラセボ群(2189人)に比べHRT群(2196人)では、

主要な心血管イベント(偽薬群0人と ホルモン群7人、P=0.016、)
静脈血栓塞栓症(偽薬群3人と ホルモン群22人、ハザード比7.36、)
となり、ホルモン群が有意に多い結果でした。
 
乳癌または他の癌のリスクは、(偽薬群25人と ホルモン群22人、ハザード0.88、)。
脳血管疾患(偽薬群19人と ホルモン群14人、0.73、0.37-1.46)、
骨折(偽薬群58人と ホルモン群40人、0.69、0.46-1.03)、
と、減りました。

全死因死亡(偽薬群5人 とホルモン群8人、1.60、0.52-4.89)
と、全死亡は、ホルモン群で増えました。

統計学的な計算では、これらの数値は、ホルモン群と、偽薬群に有意差は認められませんでした。
 
エストロゲン単独投与群では、1688人-年の追跡で、いずれのアウトカムにも有意差はなかったです。
 
なお認知症に関する評価は、できませんでした。
 
ホルモン補充療法を閉経から年数を経て開始すると、治療開始から短期間の心血管リスクと血栓塞栓症リスクが増すことが示されました。
 
今年の1月24日に、がん発症におけるBRCA遺伝子の話しをしました。 本日はその続きです。
 
医学は、確立した事実が固まるまで、たくさんの試行錯誤があります。思いすごし、過大評価などのリスクもあります。治療法の変遷も大きいので、後で治療した人の方が、有利とかの不公平もたくさんありますね。開発初期の薬の問題については、昨日のブログに書いたような事件も起きます。
 
1990年代に入ると、早い速度で、遺伝子異常と、発ガンとの関係についての研究が進みました。1994-1995年に、BRCA1又はBRCA2に遺伝子異常のある人は、高い確率で、将来がんが発症することが明らかになりました。特に、家族内に複数のがんの患者が発生する、いわゆるがん家系で、遺伝子検索がすすみました。代表的ながん遺伝子であるBRCA遺伝子と、乳がん、卵巣がんとの関係が明らかになりました。
 
当初、遺伝子検査は、大変な労力がかかるものでしたが、方法論の進歩により、大量の遺伝子検索が可能となりました。がんが発症する遺伝子異常のあった人の家族を調査して、がん発症以前に、BRCA1又は、BRCA2遺伝子を検査し、カウンセリングが行われるようになりました。将来の発がんが濃厚に疑われる人では、その臓器を摘出していまう人もいました。しかし、現実には、がん家系の背景のある女性たちを、個々に、将来、どの位のがん発症率であるとの数値を出すことは難しい作業でした。
 
BRCA遺伝子における蛋白合成にかかわる塩基配列の変異は、750以上の箇所が、報告されています。2000年に入ると、どの部分の遺伝子変異が、将来のがんの発症との関連が強いのかに関して、研究成果が集積されていきました。初期には、家族内にがんが多発する家系が調査の対象であったため、遺伝子異常があると、将来的ながん発症の予測確率は高く設定されていました。
 
濃厚ながん発症家系があり、かつBRCA遺伝子異常を持つ女性の場合と、本人はBRCA遺伝子異常を持つが、家系内にがん発症はない女性の場合では、がん発症の予測値は変わります。そのため、予測値は、幅広い値になります。
 
BRCA2遺伝子の特定部位には、卵巣がんの発症と良く相関する部分が集まっています。卵巣がんが起きやすくなる特定部位の遺伝子変異があり、この場合は、乳がんの発症は、少なくなったりします。1995年に、Gaytherらは、BRCA1遺伝子の塩基配列の最初の2/3部分の異常があると、後の1/3の部分の異常より、乳がん発症と関係することを見つけました。つまり、BRCA遺伝子のどこの塩基配列に異常があるかどうかで(生まれた時に決まる)、乳がん、卵巣がんの発症と関係することがわかってきたのです。
 
2003年、Antoniouらが、1995年以後の初期の調査結果を示しています。BRCA1の遺伝子異常を持つ女性は、50歳までに、34-73%、70歳までに乳がん50-87%との数値がでており、卵巣がん発症は、50歳までに、21-29%であり、70歳までに44-68%の数値です。BRCA2の場合は、70歳までに乳がん70-80%の発症、卵巣がん30%の発症が予想されるとされました。
 
さらに、2003年のAntoniouらの同じ論文上で、がん発症者の遺伝子家系調査を、幅広く行った論文をレビューしました。そして、より、一般化できる予測数値を検討しました。
 
対象となったのは、すでにそれまでに論文発表された22研究論文の8139人のデータ解析でした。すでに、乳がん、又は卵巣がんが発症した女性(インデックスケース)がいる家系に属する人8139人の遺伝子検査をして、そのうち500人に、BRCA1、BRCA2の遺伝子異常がみつかりました。
この調査は、濃厚ながん家系に属する人だけでなく、遺伝子異常のあるがん発症者が単発で親族にいる場合も含みました。
 
この多施設研究の集計によると、遺伝子を調べた人のうち、BRCA①遺伝子変異を持つ人では、70歳までに、乳がん発症は、44-78%、卵巣がん発症は、18-54%となっています。BRCA2の場合は、70歳までに、乳がん発症は、31-56%、卵巣がん発症は、2.4-19%と算出しています。
 
特に、家系に、35歳以下でがんになった人のいる人では、遺伝子異常と、将来のがん発症は、高くなりました。BRCA1では、若くしての発症を免れると、加齢してからの発症は少なくなりましたが、BRCA2遺伝子異常者では、そのような加齢との関連の傾向は見いだせませんでした。

 
多発性硬化症は中枢神経系の脱髄疾患の一つです。
 
イメージ 1
神経細胞からでる軸は髄鞘というもので 被われています。(このブログの12月30日の絵を参照、水色の部分です)この包みの髄鞘が消えると、神経線維がむき出しになり、神経伝達速度が遅くなります。この脱髄現象が、中枢神経内のあちこちに斑状にできることから多発性といい、脳脊髄の病変部が固くなることから硬化症と言います。
 
MSの多くは再発・寛解を繰り返しながら慢性に経過します。一部のMSでは、初期には再発・寛解を示した後に、進行性の経過をとることもあります。視神経がやられると視力低下し、視野が欠けたりします。脊髄がやられると、痛み、手足のしびれや運動麻痺、尿失禁、排尿障害などが起こります。
 
日本の有病率(患者数)は、わが国全体で約12,000人、人口10万人あたり8~9人程 度と推定されています。
 
細菌やウイルスなどの病原体が脳脊髄内で増殖すると、それを封じ込めるために、白血球やリンパ球(脳では、アストロサイトやマイクログリア)が、脳脊髄に集まってきますが、その作用で髄鞘構成成分であるミエリン塩基性蛋白をこわしてしまうのです。免疫系の間違い(自己免疫)が起きるのです。炎症が抑えられれば、病気の再発や進行を止めることができます。
 
現在、神経難病として残っている病気の多くは自己免疫疾患で、MSも、そうした病気です。原因候補のひとつは、ミエリン塩基性蛋白の構造とよく似た構造を持つ病原体の存在です。その一例は、B型肝炎ウイルスです。その他にも、特定できない病原体がいるかもしれません。
 
MSは、若年成人に発病することが最も多く、平均発病年齢は30歳前後です。MSは女性に多く、男女比は1:3位です。
 
さて、自己免疫疾患、女性に多いとなると、女性ホルモンとの関連が気になるところです。MSには、エストロゲンβ受容体の役割と機能が注目されています。
エストロゲンβ受容体をなくしてしまうと、炎症が増強します。つまり、MSの場合、エストロゲンβ受容体は、炎症を抑える働きをしているようです。脳内エストロゲン受容体の相互作用の全貌は解明されていませんが、MSの場合は、病気の悪化(炎症)を防ぐ作用を持ちます。
 
MSは、妊娠中に再発が減少し、出産後に、再発することがわかっています。妊娠中に大量に増加するエストロゲンが、防御的に働くようです。
 
エストロゲンβ受容体と、エストロゲンα受容体は、脳内に広く分泌していますが、脳の各部位に、異なる量で分布しています。そして、2者の受容体の相互関係は、未解明です。エストロゲンの働きは、脳内環境のいかんで、その作用は変化するものと思われます。
 
エストロゲンβ受容体の、炎症抑制作用には、次のような説明があります。
DHEA(デヒドロエピアンドロステロン、男女ともにある男性ホルモン)前駆体よりつくられるADIOLが、エストロゲンβ受容体に結合することにより、脳の炎症が抑えられることが、最近、発見されました(Saijo,Cell;2011:145:584)。ADIOLは、CtBPという抑制性の物質を結合し、エストロゲンβ受容体とCtBP の結合した複合体が、Ap1プロモターに結合して、転写因子のAP1の働きを抑えます。AP1は、炎症性のサイトカインの遺伝子発現を起こす転写因子です。ADIOLへの変換酵素(HSD17B14)は、マイクログリアに発現しています。マイクログリアについては、このブログの4月17日に解説しています。
 
 
日本では、まだ、承認されていないようですが、ナタリズマブという新薬があります(α4インテグリンに対するヒト化したモノクローナル抗体)。ナタリズマブは、脳脊髄内で、白血球やリンパ球の遊走を抑える働きを持ちます。
 
MSの再発率を減らす特効薬ではあるのですが、一部の人に、進行性多巣性白質脳症(PML)発症が起きることが分かり、死亡例が報告されたため、全世界で使用が一時中断されました。しかし、MSは、外国では、日本よりはるかに多い病気で、その後、ナタリズマブの即効性と確実性が評価されて、薬剤として使われています。
 
問題となる副作用の、進行性多巣性白質脳症(PML)という病気は、どのようなものなのでしょうか?
驚くことに、正常人の脳内には、JCウイルスというウイルスが常在していますが、その増殖は、脳内白血球やリンパ球の活躍により、抑えられています。ところが、多発性硬化症を治療するために、ナタリズマブを使用すると、JCウイルスが増殖し、脳の実質が壊れてしまうことがあるのです。
前回は、薬のリスク・ベネフィトを、天秤にかけて、その治療をするか、しないかを選択するという話をしました。
 
それでは、病気の治療に使う薬が、病気を治す方向、悪化させる方向の両方を持っている時には、さらに、使用を継続するかの判断は難しくなります。多かれ、少なかれ、多くの治療薬はそうした側面を持ちます。薬は、うまく使わなければならないということにつきるのですが、薬の効き方には個人差があり、将来的な治療効果を予想するのは、難しいわけです。
 
気管支拡張剤は、喘息などで、縮んだ気管支を開かせて、呼吸困難をとる薬です。1960年には、気管支を開かせる拡張効果が強いべロッテクを使いすぎるために、喘息死が増えるという議論がわきあがり、因果関係について、世界中に議論がおきました。
 
現在も、気管支拡張剤をどのように使用していくかは、議論が続いています。喘息患者に、定期的に気管支拡張剤を使用すると、肺機能は良くなるものの、一部の人では、薬をやめると喘息が悪化してしまうのです。気管支拡張剤を定期的に使用していると、喘息による死亡率は小数ですが、統計学的有意を持って増えます。特に、黒人の喘息では、はっきりと喘息死が増加するとするデータが、示されています。
 
気管支拡張剤を吸入すると、気管支が広がりますので、呼吸困難は取れます。気管支を狭くしている筋肉の収縮を抑えるからです。予防的に薬を使い、気管支を広げておくと、患者本人も楽ですし、睡眠や日常活動に良い効果がでます。しかし、気管支が薬に常時暴露されることにより、気管支の形や反応性が変化や、心臓への影響などが懸念されるので、医師は、できれば、気管支拡張薬を減らしていきたいわけです。
 
喘息発症の原因の本体はどこにあるのか?が、いまだ、未定です。喘息は、気管支の構造が、次第に変化していく病気(医学的には、気管支平滑筋の増大、粘膜下組織の線維化、粘液腺の増加)です。 気管支の内側の壁に、筋肉の塊が増えて、粘液を作る細胞が増え(痰が増え)、内腔はせまくなり、空気の流れが悪くなります。
 
気管支の構造が変化することを、リモデリングと言います。リモデリングは、喘息病態の基本とされ、治療薬で改善させることが難しいです。ではなぜ、進行してしまうのでしょうか?そこに、気道の炎症があるからとされています。
 
それでは、気道の炎症はなぜ、起きてくるのでしょうか?この問題は、まだ、解決していないのですが、重要因子を一つ、示します。普段はかからない力が、反復して体の一部に加わると、そこが体のどこであっても、炎症と呼ばれる変化が起きてきます。私たちの体は、物理的(圧力、熱など)な刺激が加わると、反応し、刺激が強ければ傷つきます。やけど、外傷などを、考えるとわかりやすいかと、思います。
 
激しい運動の後に、筋肉が痛くなる、大声を出した後には、声が枯れる、などの反応も同様です。気管支が縮まれば、広範に伸び縮みする部分が生じ、気管支に傷を与えることになるのです。傷を修復するために、血管、神経、がふえてきます。反復性に、物理的な圧力が気管支に加わることにより、ますます縮みやすい気管支に変化していくのです。
 
1960年には、喘息の患者には、定期的に気管支拡張剤を用いて、気管支をひろげておくという治療がありました。喘息患者が多い、ニュージーランド、オーストラリアで、はやっていました、その結果、最重症者の一部に、喘息死が増えてしまったのです。今は、気管支拡張剤が必要な重症の喘息者では、かならず吸入ステロイドを併用するようになっているのです。
 
2011年5月のニューイングランドジャーナルメディシンに載った論文を紹介します。
軽症のアトピー型喘息の患者を、以下の4群に分けました。それぞれの群の人たちに、6日の間に、4回、以下の薬剤を吸入させて、気管支を収縮させ、気管支組織の反応をみました。
① 喘息の原因となる抗原を吸入させる
② メサコリン(気管支を縮ませる薬剤)
③ 生理食塩水(コントロール)
④ あらかじめ気管支拡張剤(β刺激剤)を投与しておいてから、メサコリンを吸入させる
 
以上の薬剤を用いて、喘息発作を誘発し、それぞれの群の気管支に起きた変化を調べました。抗原吸入は、自然の喘息発作に近い病態を人工的におこさせるもの、メサコリンの吸入は、気管支を縮ませる薬剤を用いて、薬剤性に喘息発作を起こさせるものです。
 
結果は、抗原、およびメサコリンは、同程度に気管支を収縮させました(気管支が縮む)。しかし、抗原吸入、メサコリン吸入の、両者で、気管支の変化は、若干異なりました。抗原吸入では、好酸球などの白血球の増加がおこり、メサコリンの吸入では、起きませんでした。
 
しかし、両者とも、気管支のリモデリングにつながる変化は、同程度におきました。両者とも、気管支上皮細胞の増殖、粘膜下組織の線維化、粘液腺の増加などがありました。リモデリングに関係するTGF-βは、両者とも増加しました。β刺激剤をあらかじめ投与してから、メサコリンを吸入した場合には、リモデリングにつながる変化はおきませんでした。
 
この事実から、喘息が発症する原因のひとつに、気管支に加わる物理的な力というものが、リモデリングを起こす重要な要素となる可能性が証明されました。そして、気管支拡張剤により気管支収縮を抑え込むことが、リモデリングを予防する効果があり、その結果、気管支拡張剤は、治療として使うことが、気管支の傷を減らし、有用であることを示唆しました。
 
気管支が引っ張られて傷がつくことにより、ますます気管支が縮みやすくなる変化は、喘息の人に起き着てくる特有の現象なのか?健康人は、どうなのか?は、まだ、回答がありません。薬などの手段を用いて、反復性に、健康人の気管支を、人工的に縮ませていくと、喘息発作が起きる気管支に変化してしまうのかどうかは、現時点ではわかりません。
 
喘息の発症解明も治療も未解明なまま、未だ、人類は多くの課題をかかえています。治療の難しい問題を解決していくには、喘息に関係する人たちの協力が、今後も重要です。
PubMed (http://www.healthy.pair.com/)には、多くの医学情報があります。ソースは一流の医学雑誌として選ばれたものですが、創刊後100年以上も経過している権威ある雑誌もあれば、新刊間もない医学誌もあります。
 
新たな医学的知見が出てきた時は、最初は議論が噴出し、追試の論文結果がばらつきますが、次第に真実性は固まっていきます。
 
総説(レビュー)は、実際のデータに基づかない、他人の論文についての著者の印象や感想のようなものです。女性ホルモンは、その有効性に関して、いまだ、多くの議論があります。WHI試験の結果に納得がいかないとする研究者は、WHI試験を、あれこれ、批判や論評をしています。今も、HRT推進派と反対派が、議論を続けています。
 
しかし、米国での偽薬との比較試験が、参加者の数が多いWHI試験の結果は、説得力が強いのです。日本の産婦人科では、WHI試験では、対象となる患者層が、日本とは異なると主張する人がいます。つまり、高齢で、合併症を抱えた人が対象に多すぎる(悪い結果が出た)としています。しかし、合併する病気を抱える人にも、ホルモン補充療法は有用であると、多くの人が信じていたのです。高齢者でも有用と信じていたから、こうした患者背景になっているのです。私は、女性たちの選択の根拠となることを目的に、実際のデータを、このブログで紹介しています。
 
以前の私のブログで、米国で、2002年、WHIのホルモン補充療法の治験中止後、乳がんの発症が減少したグラフを紹介しました(2月13日ブログ参照)。
 
ホルモン補充療法は、米国より、ヨーロッパで、盛んに行われていました。治療をしたい女性の方が多かったようです。今回は、同様に、ホルモン補充療法のWHI発表後に、ベルギーでも、乳がんの発症が減少したことを報告する論文を紹介します。

Breast Cancer Res Treat. 2009 Nov;118(2):425-32.
乳がんはヨーロッパで最も多い女性のガンです、しかし、その発生率と死亡率は、ヨーロッパの各国間で変わります。 女性の健康イニシアティブ(WHI)比較試験の後に、ヨーロッパにおけるホルモン補充療法(HRT)使用者の数は、大きく低下しました。1996年から2005年にかけて、ベルギーの行政区リンブルクで、治療者の減少が、がん発生率に影響を及ぼすかどうかを調査しました。
 
浸潤性乳がんにかんしての情報は、社会保障制度の記録から得ました、50~69歳女性の乳がんの発症は、2002年が最高で、その後、2003と2004年になると、乳がん発生率は、2002年と比較して減少しました。2002年前までは、50-69歳のベルギー女性へのおよそ75%が、治療を受けていましたが、2002~2006年に、HRTは、41%に減っていました。PMID: 19238536
医学、薬学業界は、治療薬の薬効比較試験の結果にふりまわされてきました。特に、この10年は、その傾向が著しいです。何10年もかけて開発・販売された薬が、あっという間に問題となる薬になり下がってしまいます。ジェネリック薬の参入と、あいまって製薬メーカーは、難しい立場にたたされ続けると思います。
 
2002年の出来事である、女性ホルモン問題は、大分、話題が古くなりました。何度か、このブログで紹介していますが、リスクとベネフィットを比べて、薬を天秤にかけることが重要です。

女性ホルモン補充療法は、発がんと、血液凝固能の亢進が、大事な副作用と思われます。特に、乳がんは病気の数が多いので、より重大なわけです。

実際に、女性ホルモン補充療法をしている女性は、主治医が気にしなくてよいと言われて、続けている人が多いかと思います。
治療薬を天秤にかける時、主治医と患者は、相互の考えを理解しあう必要があります。こうしたリスクの考え方や価値観は、人により異なるからです。
 
たとえば、女性ホルモン補充療法と乳がんの発症についてですが、5年間の比較試験の継続中に、乳がんの新たな診断患者は、1万人あたり、女性ホルモン補充療法は38名、偽薬群は、30名でした。この、8名の差が大きいと思うか?無視できる数か考えるか?は、かなり個人的ばらつきがあると思います。そのため、医師と患者の意見交換が必要なわけです。
 
もし、女性ホルモン補充療法により、不快な症状が大きく減ったと感じている人や、7人の差は無視できると感じている人は、女性ホルモン補充療法は続けるという選択をするでしょう。しかし、いくら検診を心がけても、乳がんの早期発見や早期治療ができるとは限らず、将来的に、後悔するかもしれないと思えば、治療を止めたいと考える人もいるでしょう。逆に、もし、医師が、とても有用だと考えれば、有効性を熱心に患者に説明しようとするでしょう。
 
女性ホルモン補充療法は、産婦人科の医師のとって、有力な治療手段ですが、精神科の医師では、女性のうつなどに使うことは、考わないようです。診療科の違いにより、同じ病気でも、考え方や、治療効果の評価は、大分異なります。
 
薬の効果を、天秤にかけるということが、日本人は慣れていないようです。長い間、医師の考えにおまかせの人が多かったと思います。また、副作用の情報がでると、薬によって病気にさせられたと憤慨する人も多いのではないでしょうか?疫学データは、ひとりひとりを論じることはできないわけです。ブログなどを、読んでいると、薬のせいで病気になり、許せないとする書き込みもあります。
 
現在も、多くの薬が、効果と副作用のまな板の鯉状態にあります。
女性の中には、骨粗鬆症の薬ビスフォネートが、骨折をしないですむ薬と信じている人もいるようですが、どの程度に予防できるのかまで、興味を示す人は少ないです。骨折の機会などは、その人の生活環境に関連します。将来的な骨折を完全に予防することはできません。

女性ホルモン療法は、将来、腰が曲がらないですむなどと説明される場合もあるようですが、この治療は、骨折しやすい年齢まで使用しない方が良いのです。前回、示したように骨を強くする作用には、骨の強度が弱まる量を3分のⅠ位まで、少なくする程度です。
骨粗鬆症の薬のビスフォネートと、下顎骨壊死との関連も有名です。
骨粗鬆症の薬、ビスホスホネートを服用している女性の食道ガンは、2倍に増加することが、疫学研究から示されました。

私たちは、体が、どのような物質で動いているのかを、完全に把握しているわけではないのです。
 
その他の薬では、ピオグリタゾン(アクトス)という、糖尿病の薬が、膀胱がんとの関連で、試練の中にあります。厚労省から、各医機関に文書として、注意の添付文書が廻ってきました。これも、薬剤の疫学研究の結果、がんとの関連がでてきてしまったものです。もともと、動物実験などでも、膀胱がんと軽度に関連することが指摘されていたようです。発売後も、使用者の観察が継続され、昨年、米国で、10年間で19万人以上の糖尿病患者さんのデータベースを背景に、平均2年の観察期間で、膀胱がんが軽度、増加するデータがでました。フランスでも、類似のデータがでました。

KPNC研究によると、米国の2型糖尿病患者の場合、ピオグリタゾンを服用していない患者さんでは、10,000人あたり年間6.9人が膀胱癌を発症し、ピオグリタゾンを服用している患者さんでは、10,000人あたり年間8.2人が膀胱癌を発症したとされています)。 http://www.takedamed.com/content/medicine/newsdoc/110624act.pdf
 
そして、メーカーは、患者向けに、がんが発症するリスクが軽度だが、しかし、有意(疫学的に根拠ある数値)に増えたことを示しましたが、個々の例では、それが薬と関連あると証明することは、難しいと、説明を加えています。つまり、関連が証明できなくても、多人数に投与された結果、やっと検討可能な数値が出てきて、がん増加が有意に多くなると割り出されてくるのです。それは、とても大事な意味を持っています。
 
今後も、こうした報告は続くでしょう。確実に治療効果がある薬は、副作用の網にかかってしまうリスクが高いです。
そうした時、メーカーを悪意を持って非難したり、理不尽な理論が持ち上がります。このあたりも、日本人は、議論に慣れないところがあります。騒ぐためにとりあげる週刊誌があっても、正当な議論があれば、人々が飛びつきません。がさネタがはやるには、議論不足の社会不安があるからです。
 
安全な薬を求めようとすれば、効かない薬だけが残るようになります。
おまじないに近い薬だけが、残ったら。治療薬そのものの意味がなくなります。
誰もが、主体的に比較データの数値にアクセスして、副作用を天秤にかけ、自分の価値観にあった薬の選択のできる医療へと、進んでほしいですね。

閉経後の骨粗鬆症の予防に、女性ホルモン療法による治療効果がありますが、高齢の女性では、がんや血液凝固のリスクが高くなり、女性ホルモン療法は、勧められないとされています。女性ホルモン療法は、閉経後、間もなくの5年以内にとどめた方がよいというのが、世界的コンセンサスです。
 
そのため、本当に骨が弱くなる(骨塩量の低下)年齢になった高齢者では、この治療を続けることができません。治療効果は、女性ホルモン療法を施行中に出るもので、中止後は、その効果が何年もつづくわけではありません。
 
骨に女性ホルモンは大事ですが、骨の維持には多因子が関与し、老化因子が増えれば、骨塩量の減少は進みます。DHEASは、女性にある男性ホルモン物質で、副腎皮質でつくられます。閉経後に、この物質が高い、あるいは高めておくと、骨塩量の減少が減弱できることを示した論文を紹介します。しかし、DHEASの骨に対する効果は、年齢と共に減って行ってしまいます。
 
もうひとつの論文も、15年間にわたり、閉経後の女性の骨塩量を追跡したものです。調査対象となった女性は、いろいろ、骨を維持する手段をしていますが、全体として、加齢による骨の強度低下は、免れないようです。骨塩量は、体重が重要因子で、体重が多い人は有利です。
 
Calcif Tissue Int. 2011 Jul 26. [
閉経後の女性で大腿骨頸部(FN)と、腰椎(LS)における、15年間にわたる骨塩量の減少の経過を追いました。そして、追跡開始時(ベースライン)で測定した血清デヒドロエピアンドロステロン硫酸塩(DHEAS)濃度と、骨塩量の関係を調べました。  15年にわたり追跡的に、8回の大腿骨頸部と腰椎の骨塩量を、DXSA法(二重エネルギーX線吸光光度法)を用いて測りました。
 
追跡開始時時、45-68歳(平均54.7歳)であった閉経後の女性(n = 1,003)を対象としました。 ベースライン年齢、エストラジオール、女性ホルモン補充療法の有無、BMIで調整しました。大腿骨頸部の骨塩量は、1年につき、平均0.49%(95%のCI 0.31-0.71%)減少しました;。血清DHEASのマイクロモル/Lごとの増加は、大腿骨頸部の骨塩量の損失が0.49%少なくなりました。 しかし、年齢とともに、DHEASと骨塩量の関係が弱くなりました。腰椎では、大腿骨頸部より、DHEAS濃度との関係は弱くなっていました。
 
つまり、追跡開始時に血清DHEASが高いと、大腿骨頸部と、その後の腰椎の骨損失を減らすことができますが、この相互関係は年齢によって縮小してしまいます。骨を丈夫にしておきたい女性は、DHEASを高めておくことが必要でしょう。
 
Osteoporos Int. 2008 ;19(8):1211-7.
閉経後の女性において、大腿骨頸部と腰椎の骨塩密度の変化を、15年にわたり、身長、体重、女性ホルモン補充療法の有無、カルシウム/ビタミンD補助剤の有無などの因子と共に評価しました。追跡開始時(ベースライン)において、平均年齢 54.7歳の955人の閉経後の女性を対象としました。
 
年齢と共に、腰椎と大腿骨頸部の骨塩量は減少していきました。大腿骨頸部は、1年につき1.67%の線形の減少カーブを示し、腰椎は、1年につき3.12%に、方形に減少しました。女性ホルモン補充療法を施行している間は、大腿骨頸部と腰椎の骨塩量の減少は、3分の1ほど減らすことができました。体重が増えると、骨塩量の低下を減らせました(体重1kg当たり大腿骨頸部は0.16%、腰椎は0.09%)。骨塩量の低下速度は、追跡開始時の体重とも関係しました。