更年期障害の治療であるホルモン補充療法HRTを、長く続けることには、問題が多いことを、このブログで紹介してきました。今回も、そうした研究のご紹介です。
インタネット情報には、女性が若くいるためには、女性ホルモンの効果が絶大であることを謳う記事が主流です。しかし、逆に、HRT療法が、とてもひどい治療であると、憤慨する記事もあります。
むしろ、私は、医師・患者・製薬メーカーが協力して、治療の是非を確かめたことが、評価できると思います。そして、日本でも、その情報が容易に女性たちの手の届くところにあってほしいと思います。人の体は、どのようにささえられているのか、興味をもってほしいです。
体内の物質は、善玉、悪玉と、それほど、分けられるわけではないのです。
世の中には、性同一障害などで、ホルモン補充をしている人々が書いたブログがあります。そうした方の文章を読んでいると、自身の体を変えたいと願う大いなるチャレンジング精神を感じます。女性ホルモンを使うと、体がどのように変化すると感じているのか、ホルモンを飲んだ量と、血中濃度との関係などを知ることができます。ホルモンを倍量に増やしても、血中濃度が倍量にならないこと、少し増量しただけで、血中濃度が急に高くなることなどが、書かれています。
肝障害などの起き方は、人によります。薬を分解する能力は、生まれつきの遺伝子背景の違いで、能力の個人差があります。血中濃度が、有る濃度から一気に上昇しまうのは、異物を分解・消去する能力が限界を超えてしまうのでしょう。さらに、そうした臨界期に、さらに薬剤が体内に入ると、肝臓は壊れてしまいます(急性肝不全)。
米国、WHIの研究発表以前は、世界の先進国の女性が、ホルモン補充に期待していました。比較研究に参加した女性が、かなり高年齢であることから、明らかなように、女性ホルモンは、女性の一生をささえるミラクルな物質という認識があったものと思います。
はるか以前から、エストロゲンは、がん誘発因子であることがわかっていました。しかし、エストロゲンに拮抗作用をもつ黄体ホルモンと組み合わせることで、その副作用が防げると信じられていたのです。
WHI試験は、米国で実施された薬剤比較試験ですが、他の先進国でも、類似の試験が実施されていました。しかし、世界の常識となったWomen’s Health Initiative(WHI)のネガティブな結果をうけて、多くの比較試験が頓挫しました。
今回紹介する論文でも、追跡期間がたった1年で中止になりました。そして、1年弱の観察期間においても、ホルモン群と、偽薬で、新たな病気の発生に関する比較成績が得られました。それは、論文として、2007年ブリティシュメディカルジャーナル(BMJ)に発表されました。
英国などの、米国以外の英語圏の女性たちを募集して、女性ホルモンのと偽薬の二重盲検の多施設無作為化比較試験のWISDOM研究が行われました。当初、10年間、追跡調査が続けられる予定でした。WISDOMは、英国、オーストラリア、ニュージーランドの一般開業医の協力を得て行われました。
当初、2万2300人の人数の女性が参加するはずでしたが、実際に追跡可能となったのは、その26%に当たる人でした。それぞれ、ホルモン群 (n=2196) と、偽薬群 (n=2189),です。参加女性の平均年齢62.8歳)で、閉経後15年が経過していた集団でした。追跡期間の中央値は11.9カ月(6498人-年の追跡)でした。
評価指標は、主要な心血管イベント(入院を要する不安定狭心症、致死的または非致死的な心筋梗塞、冠動脈突然死)、骨粗鬆症による骨折、乳癌に設定しました。その他に、癌、全死因死亡、静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症、肺塞栓、網膜静脈閉塞症)、脳血管疾患、認知症、生活の質なども、評価しました。
結果は、プラセボ群に比べ治療群で、脳卒中、肺塞栓のリスクが上昇、股関節骨折と大腸癌リスクは減少することが示され、WHIと類似した結果でした。
プラセボ群(2189人)に比べHRT群(2196人)では、
主要な心血管イベント(偽薬群0人と ホルモン群7人、P=0.016、)
静脈血栓塞栓症(偽薬群3人と ホルモン群22人、ハザード比7.36、)
となり、ホルモン群が有意に多い結果でした。
乳癌または他の癌のリスクは、(偽薬群25人と ホルモン群22人、ハザード0.88、)。
脳血管疾患(偽薬群19人と ホルモン群14人、0.73、0.37-1.46)、
骨折(偽薬群58人と ホルモン群40人、0.69、0.46-1.03)、
脳血管疾患(偽薬群19人と ホルモン群14人、0.73、0.37-1.46)、
骨折(偽薬群58人と ホルモン群40人、0.69、0.46-1.03)、
と、減りました。
全死因死亡(偽薬群5人 とホルモン群8人、1.60、0.52-4.89)
と、全死亡は、ホルモン群で増えました。
統計学的な計算では、これらの数値は、ホルモン群と、偽薬群に有意差は認められませんでした。
エストロゲン単独投与群では、1688人-年の追跡で、いずれのアウトカムにも有意差はなかったです。
なお認知症に関する評価は、できませんでした。
ホルモン補充療法を閉経から年数を経て開始すると、治療開始から短期間の心血管リスクと血栓塞栓症リスクが増すことが示されました。