NPD(自己愛性パーソナリティ障害)の人の特徴
NPD(Narcissistic Personality Disorder)はB群(劇場型)のパーソナリティ障害のひとつ。
①自己の能力や業績に対する過大評価、誇大感や特権意識があり、社会の中で自分が特別で優れた存在だと信じ、限りない成功、権力、才能、名声についての空想に囚われている。幼少期を過ぎても、現実の自分と、非現実的な自己評価の元になる理想的な自己との違いを認識できないまま、大人になる。本人の自己評価が非現実的に高い一方で、しばしば他者を過小評価する。
②他者・権威・社会からの賞賛や好評価を常に求め、それらの賞賛や評価に強く依存している。その一方で、他者の成功や能力に対しては強い羨望を感じ、成功した他者への激しい攻撃性を示す。逆に、自分の失敗や不成功には過敏に反応し、鬱屈した敗北感や恥辱感を感じる。
③他者の感情を理解することが難しく、共感性に乏しく、空気が読めず、尊大で傲慢な態度や行動を示す一方で、批判には敏感で、過剰に攻撃的に反応する。批判されると敵認定し、反撃したいという感情の抑制が効かなくなり、怒りっぽく、また執念深くなる。
ただし、批判されてもまったく無関心な領域と過剰に衝動的に反応する領域がある。一般に、誰の目にも見える結果や物理的事象に関する問題についての言及や批判に対しては激しく反応する一方で、結果ではなくプロセスに関わる問題や目に見えない心理的・情緒的問題についての指摘には、ほとんど反応しない。
NPD(自己愛性パーソナリティ障害)の有病率と発症原因
NPDの発症率は、人口の1%程度と考えられているが、一般にパーソナリティ障害の患者が治療を求める時には、パーソナリティ症の症状ではなく、抑うつや不安を訴えることが多い。したがって、パーソナリティ障害の症状は、多くの場合、本人に自覚がなく、周囲の人から証言を得、カウンセリングを繰り返し、時間をかけて診断するよりなく、そのため、過少診断されている可能性がある。NPDは、男性に多く、青年期から成人初期に発症する傾向があるが、小学生時代(学童期)には同定できるとも言われる。
①遺伝的要因 一卵性双生児におけるNPDの一致率は二卵性双生児より高いことが報告されており、このことはNPD発症に関して遺伝的要因が関与していることを示唆している。
②環境的要因 幼少期における過度に甘やかされたり、無視されたりした養育環境や虐待が、NPDの発症リスクを高める。幼少期に養育者との間で形成されるはずだった情緒的な絆が形成されず、自己を発達させる体験が乏しかったことが、脆弱な自己を形成させると同時に、自己愛的な防衛規制を発達させると考えられている。
◎具体的に考察すると、際限のない親の欲望を満たす対象として養育された子どもは、期待に沿う限りは賞賛され、愛されるが、無条件には愛されない。そうした子どもは、モノを介して甘やかされる一方で、信頼と受容の関係で甘える体験をしていない。輝く子どもであることを無意識に要求され続け、しかし、際限のない親の欲望を満たすことはできず、無力感に喘ぎ続けることになる。その結果、「自分は無力で価値のない無意味な存在である」と極端に価値を低下させた深刻な欠損を抱えた空虚な自己を抱えてしまい、その自己不信が生み出す抑うつを防衛するために、極端に高めた誇大妄想的自尊心によってバランスを保とうとするようになる。甘えを断念して手に入れたのは病理的な自尊心であり、その背後には、茫漠とした自己不信が横たわっており、その内部には、愛されないことへの不安と怒り、嫉妬と羨望の感情が渦巻いている。
これがNPDの精神構造の特徴である。
③心理的要因 NPD発症者は、表面上、尊大で自信に満ちているように見えて、実は自尊心が非常に脆弱であり、この脆弱な自尊心は、幼少期の心理的外傷体験や不適切な養育によって形成される。そして、NPD発症者は、誇大性や賞賛への渇望などの自己愛的防衛規制を用いて、脆弱な自尊心を守ろうとする。多くの場合、患者は、自尊心の維持のために、特別な(並はずれた)人物や団体や機関との関係を通じて、持続的に社会的な評価や賞賛を得続ける必要がある。そして、他者に良い印象を与え、賞賛を得ることを求め続ける一方で、誠実な友情を形作ることには、いかなる関心ももたない。
◎具体的に考察すると、無条件に自分が愛され、信頼されているという感覚によって生じる内的充足感に乏しく、内的自己の価値に自信のないNPD患者が社会で生きていくためには、誰でも目で見てわかるような外的価値を獲得するしかない。例えば、職業、資格、地位、資産、収入、学歴、成績、ブランド、容姿、権威などである。これらの外的価値は、獲得すること、結果を出すことでしか、得ることができないため、その獲得の過程(プロセス)には何の意味もなくなる。そして、結果主義がもたらすのは、成功か失敗かの二択であり、等身大の自己意識を持たないNPD患者においては、優越している自分にとって他者は見下す対象にしかならないし、失敗して転落した無能な自分は他者から見下される対象となってしまい、いずれにしても、対等な人間関係を築くのが困難になる。
また、こうしたプロセスを無視した極端な結果主義に依拠する精神構造は、地道な努力による技術の習熟と人間的成熟を困難にする。
NPD(自己愛性パーソナリティ障害)の治療
薬物療法は、NPD含めてパーソナリティ障害の中核症状に対しては効果がないが、抑うつや不安など併存する症状の緩和には有効な場合がある。ただし、NPDに伴って二次的に併発するうつ病は、主たるNPD症状が改善しなければ、抗うつ剤による薬物治療の効果は極めて限局的であり、根本治療には至らない上に、副作用も目立つため、推奨されない。
◎NPD患者の誇大的自己は、抑うつに対する防衛規制である。誇大的自己が意識にのぼっている時には、エネルギーに満ち、軽躁的な活動性を示す。一方で、無能的自己が持続的に意識される状態に陥った時には、深い無力感、虚無感に囚われ、絶望的な抑うつの海へと沈み込む。うつ病の20%はNPDに伴う抑うつ症状であるという報告もある。
NPD患者の人格構造は、誇大的自己と無能的自己の間で振幅を繰り返し、この両極端の間にあるはずの等身大の自分を持たない。失敗をきっかけに無能的自己に転落して激しい抑うつを体験する一方で、自己評価を高める体験をすると、伸び切ったゴムバンドが勢いよく元に戻るように、一気に誇大的自己へと復帰する。
NPDは、イライラ感がつのり、気分の波が激しくなり、感情が極めて不安定になると、BPD(境界性パーソナリティ障害)へと症状が深刻化すると考えられている。NPDは「神経症」であるが、BPDは「神経症」と「統合失調症」の境界にある症状であり、無能的自己に沈む期間が長く、より破滅的な兆候が見られる。
このような症状の悪化を防ぐためには、主たるNPD症状への治療アプローチが必要となる。
特に、人間関係が希薄で個人主義的な現代社会においては、かつてに比べて、放置していると、どんどん症状が悪化してしまう状況、つまり、積極的な治療が必要な状況が増えていると考えられる。
主な治療アプローチとしては、患者との治療関係を通じて、患者の自己理解を深めていく心理療法が用いられる。それによって、患者の感情調整能力の向上を目指す。また、患者の思考パターンや行動を修正し、症状や対人関係の改善を目指す。
ただし、本人に治療の意欲がなければ心理療法は成り立たない。また、NPDの特徴のひとつでもあるが、本人が地道で着実な努力を嫌う場合には、それまでの思考パターンや行動の枠組みをはみ出して、新たなパターンを見いだすことにエネルギーを集中するのは困難である。
また、ASD(自閉スペクトラム症候群)と併存している場合は、自己の内面を見つめることが難しい。そして、ADHD(注意欠如・多動性症候群)と併存している場合には、脳内の快楽をもたらす報酬回路から外れるのが難しく、一時的な気づきがあったとしても、直ぐに元の思考パターンや行動パターンに回帰してしまいがちである。
さらに、同じB群(劇場型)パーソナリティ障害であるHPD(演技性パーソナリティ障害)を併発することもある。その場合、注意を引くためのわざとらしい大袈裟なジェスチャーや、芝居がかった言動が目立つ。また、感情がめまぐるしく激しく変化するが、それらの感情はすべて皮相的で浅薄である。
そうすると対話によるカウンセリングの効果も限定的にならざるを得ない。
総じて、NPDの心理療法による治療は、困難を伴うことが多い。
NPDの治療において最も大切なことは、患者自身の内的な〝気づき〟である。
NPD(自己愛性パーソナリティ障害)の有名人
①三島由紀夫
三島は、幼少期、祖母に溺愛される一方で、母親との情緒的な繋がりを持ちにくかったと言われる。
②サルバドール・ダリ
ダリには2歳で亡くなった兄がいたが、両親はダリにその兄と同じ名前をつけた。ダリは、自分を見つめる両親の目の奥に死んだ兄への不毛な愛情を見ていた。
③ヘルベルト・フォン・カラヤン
カラヤンはナチス党員だった。幼少期の生い立ちについては不明である。
④スティーブ・ジョブズ
実母に捨てられ、養父母に育てられた。実母が養父母に親権を譲る条件として将来の大学進学を確約させた。
※太宰治、尾崎豊、ヘルマン・ヘッセ、マリリン・モンロー、ダイアナ妃、ウィノナ・ライダー
上記の人々は、BPD(境界性パーソナリティ障害)であったと言われる。BPDは、パーソナリティ障害の中で、最もリストカットなどの自傷行為、自殺と関連が深い。BPDと診断された患者の75%は自傷行為の経験があり、BPD患者の60〜70%が、人生のある時期に自殺を試みると推定されている。自殺を図って入院した患者の54%がBPD患者であったという報告もある。BPD患者のうつ病の併発率は50%と高い。また、うつ病患者の10%がBPDを併発しているとの報告がある。双極性障害との併存率も20%ほどある。アルコール依存・薬物依存に陥る傾向も65%と非常に高い。
ADHDの人は、通常より20倍BPDを合併しやすい。また、BPDは、 パーソナリティ障害の中でもNPDとの併存率が最も高く、 BPD患者の40%がNPDを発症しているとの報告もある。今日の医学会ではNPDとBPDの間に境界線を設けず、連続した症状(スペクトラム)と考えるのが一般的である。
〈備考〉
①パーソナリティ障害 A群(奇異型/Odd type)⇨奇妙で風変わりで自閉的な変人で、孤立しやすい。他人に関心がなく、他者との交流を求めない分、他人に迷惑をかけることも少ない。常に引きこもりがちで、本人に問題意識がなく、治療を受けることもあまりない。
◯妄想性パーソナリティ障害(PPD)〜Paranoid Personality Disorder〜「世の中は信用できない」と、他者への猜疑心や不信感が強く、他人に心を許さず、疑り深く被害妄想を抱きやすい。頑固で他人の意見を素直に聴けず、寛容になれない。強い執着を持ち、常に緊張状態にある。侮辱されたり、傷つけられたことを、決して許さず、いつまでも執念深く恨みを抱き続ける。他人の批判に過剰に反応する。自分の正当性を強く主張する。他人の行動を「悪意がある」と歪曲して受け止める傾向がある。他者と信頼関係や協力関係を築くことが困難。(障害のレベル→中度から重度まで)
◯シゾイドパーソナリティ障害(SPD)〜Schizoid Personality Disorder〜他者に関心がなく、社会から孤立しており、感情の表出が乏しい。誰かと一緒にいるよりも1人でいることを好む。他人からどう見られるか、あまり気にしない。趣味はひとりで楽しむものだけで、友人はなく、他人との交わりを楽しむこともない。他人の評価や名誉やお金や社会的地位に関心がなく、喜怒哀楽に乏しく、性的欲求も薄い。手先が器用で芸術的感性が豊かで、忍耐強く、正直で、平和主義。穏やかで豊かな内面を持つ。知覚及び思考の歪みはない。統合失調症の病前性格。統合失調質パーソナリティ障害とも言う。軽度のASDと症状がよく似ている。(障害のレベル→中度から重度まで)
◯統合失調型パーソナリティ障害〜Schizotypal Personality Disorder〜奇妙な迷信や魔術的な信念を持ち、対人関係がわずらわしく、慣れない環境だと不安を感じる。奇異な話し方や場違いな服装や態度が目立つ。人と親密な関係を築くのは苦手で、集団の中では居心地が悪い。人と一緒にいてくつろげない。友人がいない。直感が鋭く、超越的な感性(霊感)を持つ。神秘体験を体験したり、幻覚を見ることもある。精神病的な幻覚や妄想や認知の歪みはない。統合失調症の前段階とも言われる。(障害のレベル→中度から重度まで)
②パーソナリティ障害 B群(劇場型/Dramatic type)⇨演技的・感情的で移り気である。感情が激しく、情緒不安定で、ストレスに過敏で、行動も劇的なため、他人を巻き込み、対人関係で軋轢が生じやすく、周囲に影響や害が及びやすい。
◯反社会性パーソナリティ障害(DPD)〜Dissocial Personality Disorder〜衝動的で攻撃的で無謀で無責任。恐怖を感じにくい。良心の呵責なく、自分の利益や快楽のために他人を騙したり、傷つけたり、暴力的に奪ったりできる。罪悪感なく利己的で詐欺的で策略的で巧妙。取り繕うのが巧みで、周囲に人格異常の危険性が気づかれにくい。(障害のレベル→極めて重度)
◯演技性パーソナリティ障害(HPD)〜Histrionic Personality Disorder〜自己顕示欲が強く、自分が注目の的になっていなければ我慢できない。関心を惹くために芝居がかった態度や誇張した情動表現をする。(障害のレベル→やや軽度)
◯自己愛性パーソナリティ障害(NPD)〜Narcissistic Personality Disorder〜自分は特別で重要な人間であるという誇大な感覚や妄想を抱いていて、他者の賞賛や評価を必要としている。尊大で傲慢な態度。共感、同情、思いやりの欠如。他人を平気で利用し、犠牲にする。内面には劣等感や卑屈な感情が潜む。期待した賞賛が得られないと屈辱を感じ、激しい怒りを表出する。恥の感覚に歪みがあり、馬鹿にされているという感情に囚われやすい。(障害のレベル→やや軽度から重度まで)
◯境界性パーソナリティ障害(BPD)〜Borderline Personality Disorder〜他者に大きな期待を抱き、見捨てられることを避けようと、なりふり構わず努力する。理想的な自己像と最低の自己像の両極端を揺れ動く。相手への評価も最高と最低の両極端を揺れ動く。不安定な対人関係。慢性的な空虚感と激しい怒り。言葉にできない感情を、突発的で破壊的な行動で表現する。自分に同情してくれる人を側に引きつけておくために、厄介な相談を持ちかける。相手のちょっとした対応に過剰に反応する。自暴自棄になる。他人から見捨てられたと感じると、どんなに尊敬していた相手にも激しい怒りを向ける。精神科に受診する確率が最も高い。(障害のレベル→中度から重度まで)
③パーソナリティ障害 C群(不安型/Anxious type)⇨不安で内向的であり、他者と親密な関係を築きにくいが、本心では他者を必要としている。日本人に多いと言われる。障害のレベルは軽度である。
◯回避性パーソナリティ障害(APD)〜Avoidant Personality Disorder〜自己評価が低く、他人の評価に敏感。重度の自意識過剰や不安から、批判や拒絶や失敗を恐れて引っ込み思案になりがちで、人付き合いが苦手。問題に立ち向かわず、避けてやり過ごそうとする。嫌われるのが嫌で自分の意見を言おうとせず、内気で臆病ではあるが、他者に愛されたい気持ちは強いので、何人かの親しい人はいる。(障害のレベル→やや軽度から中度)
◯依存性パーソナリティ障害(DPD)〜Dependent Personality Disorder〜自己決定が苦手で、依存性が強く、常に他人の助言や指示や保証を求める。自分を支え、支援してくれる存在にしがみつく。面倒を見てくれる人がいない状態で1人残されるという恐怖に非現実的なまでに取り憑かれている。保護者に対して過度に依存的・服従的になり、まったく自立できない。(障害のレベル→やや軽度から中度)
◯強迫性パーソナリティ障害(OCPD)〜Obsessive-Compulsive Personality Disorder〜完璧主義で融通が効かない。異常に頑固で秩序や規則へのこだわりが激しく、細部にこだわりすぎ、重箱の隅をつつくような確認をしつこく繰り返すので、何事も余計に時間がかかり過ぎる。いつか使うかもしれないと考えて、不必要なものを捨てることができない。強固な罪悪感がある。最も発症率が高い。(障害のレベル→最も軽度から中度)