『テレビや新聞や雑誌などのマスメディア(オールドメディア)の報道は偏向しているから信用できない』とする人々は、世界中で増えています。

アメリカでも、トランプ支持者の多くは、「CNNなどのニュースメディアは反トランプに凝り固まっていて、一方的な報道しかしない」と信じています。

その一方で、YouTube Instagram Facebook XなどのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)で発信される情報は信じやすい傾向があります。


こうした「マスコミの情報に不信感を抱き、代わりにSNSの情報を信じる」傾向は、日本でも強まりつつあります。そのため、最近は日本でも、SNSを巧みに利用して選挙を行う政治家が増えています。

立花孝志氏や石丸伸二氏や斉藤元彦氏などが、その代表と言えるでしょう。

彼らの戦略は、「自分たちはオールドメディアによって不当に理不尽な袋叩きにあっている犠牲者であり、それでも挫けず、自らの正当な真実の主張をSNSを通して行っている」「誰が正しいのか、メディアにだまされないで、本当のことを知って欲しい」と大衆に呼びかけ、不当ないじめに屈しない正義の人のイメージをまとうことで、多数の人々の心を動かすというものです。

実際、SNSを利用して、種まき、育成、収穫と、悲劇のヒーローの逆転勝利をプロデュースするのは、少数の有能な企画・戦略担当のブレーンと効果的に動く実働部隊がいれば、意外と可能なようなのです。


ポイントは信者を生み出す事です。いったん信者にしてしまえば、彼らはもうこちらの言い分しか耳に入らなくなります。そして、頼まなくても自主的・積極的にこちら側の情報を発信してくれるようになります。

こうして〝熱狂〟が生み出されると、その信者たちの熱狂を核としてムーブメントが起こり、世論が動くのです。

オールドメディアの報道は確かに一方的になりやすい傾向がありますが、とは言え、彼らには信者がいません。

結果として『悪は常にオールドメディアであり、SNSの主張は善である』というシンプルな構図が説得力を持つようになり、戦いはSNS側に常に有利に展開します。


その意味では、今日ほど、少数派による恣意的なプロパガンダが容易な時代は、これまでなかったのではないでしょうか。

しかしながら、時が経つにつれて、「何が真実なのか、見極めるのが本当に難しい」と、多くの人々が感じ始めています。

「オールドメディアは偏向している」とSNSで訴えている側からも、悪質極まる確信犯によるデマ情報とか、真偽不明の不確かな情報が大量に垂れ流されているからです。

また、立花孝志氏に代表されるような、かなり野蛮で詐欺的な煽動者(デマゴーク)に煽られた人たち、あるいは、石丸氏や斉藤氏の熱狂的な信者となった人たちによる、多分にデマ情報を含む先入観に支配されたカルトじみた不特定多数集団による一方的で脅迫的な個人攻撃も、社会の混乱に拍車をかけており、言論封殺の嘆かわしい状況を生み出しています。

マスコミの偏向報道という社会的暴力に対して「やられたらやり返せ!」というヤクザじみた態度が、上記三氏の熱心な支持者など、SNS情報を信じる側に、往々にして見られるのです。

そうなると良識的な市民は眉をひそめてしまい、「SNSだけ信じる」という立場からは徐々に引いていくでしょう。

その結果として「オールドメディアもSNSも、もう何も信じられない」という、すべての情報に対して懐疑的な人が増えていくことになります。

しかし、それも程度問題です。

「何も信じられない」という疑心暗鬼の状態は、あるものだけを熱狂的に信じるという狂信の裏返しに過ぎないからです。

虚無こそが新たな熱狂を生む土壌となるのです。

このような狂信的な信者たちによるカルト的な熱狂が支配する選挙が各地で見られる状況は「民主主義の敗北」と言わざるをえません。



※11月28日、オーストラリア議会上院は、16歳未満のSNS利用を禁じる法案を可決。今後、下院の審議を経て成立し、一年後に施行される見込み。