今回の大統領選挙では、全米の総得票数でトランプが300万票上回り、加えて7つの激戦州すべてでトランプが勝った。獲得した大統領選挙人の数でも、ハリスの226に対して、トランプは312。これはもう圧勝と言っていい。

では、事前の「まれに見る接戦」というメディアの予想に反して、なぜトランプは圧勝したのか?

実際、CNNなど海外メディアの全てが接戦と報じ、日本国内メディアも、その報道に準じていた中で、トランプの圧勝を予想したのは、木村太郎さん、森永卓郎さんという一部の個人のみだった。

それはなぜだったのか?

主要なメディアは、一貫して、トランプは悪役であり、ハリスは善の側であると報道してきた。トランプは犯罪者の無法者であり、トランプへの支持は反知性主義の現れと警鐘を鳴らし続けてきた。ハリスこそ、民主主義の擁護者であり、マイノリティの庇護者であると誉めそやしてきた。

それなのに、そうしたメディアの喧伝は、結局、大衆の意識を動かさなかった。アメリカ国民はトランプを選んだ。それは何故なのか?


一言で言えば、多くのアメリカ国民にとって、国の指導者となるべき人物として、カマラ・ハリスよりドナルド・トランプの方が信じられたからだ。

多くのメディアが、トランプは品性下劣で低脳で野卑なポピュリストだと騒ぎ続けたにも関わらず、国民はトランプを支持した。国民のトランプへの眼差しは、メディアの偏見を受け付けなかったのだ。

同時に、ハリスが副大統領を務めた、この4年間のバイデン政権の期間より、その前の4年間のトランプ政権の時期の方が良かったと感じる人が、多かったからでもある。

もっと言えば、LGBTの権利や妊娠中絶の権利やら不法難民含めた貧民の一時的な救済でお茶を濁し、西側の結束を口では言い立てながら、二つの戦争を招いて、それを止めることもせずに放置し、物価の高騰を招いているハリスとバイデンの民主党より、就任中に戦争を起こさせず、経済的に安定していたトランプの共和党の方が、労働者の生活に、より強い関心を持って政治を行ってくれると、アメリカ国民、特にラストベルト含む激戦7州の人々が信じたからだ。

そのため、貧困や物価高に苦しむ生活実感にとぼしいハリウッド・セレブやスーパー・スター、例えばレディー・ガガ、ケイティ・ペリー、テイラー・スウィフト、ビヨンセ、ジェニファー・ロペス、ジュリア・ロバーツや、ハルソン・フォード、ロバート・デニーロ、アーノルド・シュワルツネッガー、ブルース・スプリングスティーン、ボン・ジョヴィなどが、いくらハリス支持を表明しようと、一般有権者の支持がハリスに集まることはなかった。

バーニー・サンダースが指摘しているように、一般労働者の感覚を無視し、切り捨ててきた民主党が、労働者から見離されるのは驚くことではない。

トランプへの支持は、伝統的に共和党が強い中西部やトランプ支持の牙城であるフロリダや激戦7州だけでなく、ハリスのお膝元である西海岸のカリフォルニア州や民主党の強い東海岸のニューヨークでも、前回を大きく上回った。


一方で、世界一の億万長者イーロン・マスクがなぜトランプを支持したか?

それは、イーロンが、本当の貧困の惨めさを知り尽くしている男だからだ。彼は、南アフリカのオランダ系白人の貧困母子家庭で育った。学校では激しいイジメを受けていた。その逆境の中から、非現実的とも思えるような夢を描いて、その夢をつかんできた。

民主党支持者は、イーロンが行った、激戦州で毎日トランプ支持者の一人を選んで100万ドルを贈るというとてつもないやり方のキャンペーンを非難した。しかし、よく考えてみよう。イーロンは札束で有権者に支持者を変えろと迫ったわけではない。同志であるトランプ支持者の一人を選んで夢を与えるという行為を毎日続けただけだ。貧困と逆境を知る男だからこそ、この100万ドルの持つ意味を彼は知り尽くしているのだ。

逆に言えば、民主党指導層(及び支持者)の多くは、本当の貧困を知らない(ように思われる)。

民主党には本質を見る目が欠けている。だから、敗戦理由の分析でも、ろくなことを言わない。「ハリスはアメリカのジェンダー社会に敗れた」とか「検察官より犯罪者を選んだのは、教育レベルの低い有権者たちだ」とか、見当違いもいいところだ。ハリスは、バイデンほどにも女性票を獲得できなかったし、有権者は、人の罪を責めたてることしか知らない検察官よりも、人の生活を豊かにできる優秀なビジネスマンを選んだのだ。それを「有権者の知能が低いから自分たちは負けたのだ」などと民主党側が言い立てるのは、思い上がりも甚だしい。国民を馬鹿にする政党が、国民の支持を受けることなどあるだろうか?


戦争は、莫大な資源の浪費であり、資源大国や資源供給地域での戦争の長期化は、必ず、世界的な物価高騰を招く。そして、物価高騰は、必ず、庶民の生活に危機的なダメージを与える。

マクドナルドのビッグマックセットが2700円、生卵1ダースが900円ということもある。カリフォルニア州の最低時給は2500円だが、月収70万円のトラック運転手が家賃を払えずホームレスになることもあるのだ。

そうした状況では、当然、『明日の民主主義より今日のメシ』と思う人が増えるものだ。

その実感が、カマラ・ハリスと民主党ブレーンたちには、致命的に薄かったようだ。実際、これまで民主党政権は、戦争を止めるため、そして、物価を抑えるために、具体的(及び効果的)行動をしているようには見えなかった。

「民主党は、口では綺麗事を言いながら、常に無策でまったく頼りにならない」と感じていた人は多いだろう。

そして「民主主義とか権利とか、そんな抽象的理念よりも、政治家が早急に取り組むべき、もっと重要な現実的課題があるだろう!」というように、ハリス(と民主党)への国民の不満は非常に大きなものだったと想像できる。

だから、もともと民主党支持だったアラブ票やヒスパニック票すらも、今回はトランプ支持にまわったのだ。

ところが、中流以上の豊かな人々としか向き合わないメディアには、そうした国民の声は聴こえない。だから、メディアの予想は外れるのだ。

彼らメディア関係者もまた、本当の貧乏を知らないからだ。

本当の貧困を知らないということは、生きることの苦しみを知らないということでもある。その意味では、クリント・イーストウッド、メル・ギブソン、シルベスター・スタローンがトランプを支持しているのは興味深い。


トランプは、生まれながらの億万長者だ。

だが、彼は小学生でもわかる言葉で、原稿なしの即興で人々に話す。その言葉は、とてもよく伝わる。

原稿とカンペがないとうまく話ができないハリスとは違う。難しい言い回しで、意味のわからない話をするハリスとは違う。

そして、彼は、逆境を跳ね除けて成功したイーロンのような男は尊敬する。不法移民は強制退去させるし、壁を築いて入れないようにするが、合法移民として入国し、正当な手続きを経てアメリカ市民権を取得した真っ当な者には敬意を払う。トランプ自身もドイツ系移民の孫だ。

トランプは、西側諸国の援助に頼って戦争を続けるゼレンスキーを「腕のいいセールスマン」と軽蔑する。「アメリカの税金はウクライナを守るためにあるのではない」と。

同じように、アメリカ人の息子が日本を守るために命をかけるように要請しながら、自分の息子が国を守るために命を落とすリスクは容認しない、自己中心的な日本の母親たちに、トランプは強烈な通告を突きつける。「日本を守るために、日本の若者の代わりに合衆国の若者が戦場で命を落とすリスクを負うのは容認できない」と。

石破さんは、それに対してどう答えるつもりだろうか。

日米同盟がより対等であることを望むというのなら、「日本の若者も、アメリカを守るために命をかけるべき」ということになるだろう。

しかしながら、あいも変わらず憲法9条の足枷を引きずっている今の日本に、その準備や覚悟はあるのか?



※国民民主党玉木代表の不倫問題で、早々と代表続投が承認され、リベラル・メディアや文化人の言論の多くが、それを好意的に見ている。

曰く「人格と政治的手腕は別だ」とか。

しかしながら、例えば、これがトランプの不倫発覚だったら、日米メディアが人格否定の言論で盛り上がり、袋叩きにしただろう。あるいは、自民党議員や大臣だったらどうだろうか。やはり、総攻撃されて、宇野総理の時のように「役職降りろ!」の大合唱となったのではないか。

メディアのあまりのダブルスタンダードぶりにびっくりだ。