クオリティ・オブ・ライフ 〜 その2 今日が一番幸せ | ミラノの日常 第2弾

ミラノの日常 第2弾

イタリアに住んで32年。 毎日アンテナびんびん!ミラノの日常生活をお届けする気ままなコラム。

1年半ぶりに日本人のシスターパオラが現在生活をしているベルガモ郊外の養老院を訪ねてきた。
 
 
昨年までシスターは、在籍している修道会のミラノの養老院におられた。修道会は、ミラノのど真ん中であるドウモから徒歩で15分弱くらいのところにあり、裏には病院も経営され、その一部がシスターたちの養老院であった。しかし、病院も名前だけは残っているものの、別経営となり、そして養老院も昨年のロックダウン中に少しずつ、シスターたちは別の養老院へ移動させられ、閉鎖となった。
 
直接お会いしたのが、昨年の1月で、新型コロナウイルスの名前を聞くようになってから、自粛で会えなくなってしまった。3月に私が父の件で帰国し、9月に本日同行してくれた友人たちがシスターを訪ねていたので、リモート面会させてもらったのが、最後だった。
 
 
ベルガモはミラノから電車で50分くらいのところ。(画像はベルガモ駅前広場)
 
image その後トラムに乗る。
 
image 終点から今度はバスに乗り換え、20分ほど行ったところに養老院があった。
 
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こちらには100人以上の高齢のシスターたちが入居されている。皆80歳以上だという。ちなみに私たちが訪ねて行ったシスターパオラは9月で91歳になる。
 
一緒に行った友人が前もって、修道会に連絡をしておいてくれたそうで、訪問者の受け入れは一度に3名まで。グリーンパスが必要ということだった。
 
到着し、しばらくすると、遠くの方から車椅子に乗ったシスターがお世話がかりの人に押されながら現れた。「シスター!!」
 
声をかけた途端、びっくりして信じられないと言う表情、そして急に顔がぐしゃりとなり始め、ハンカチで顔を抑え、おいおい泣き始めた。え???
 
しかもシスターは、「perché? perché」え...?" ペルケ in italiano? なんでイタリア語?!
 
数日前からパレンティ(親戚)が来るよ、といわれていたそうだが、今朝も同じことを言われ、冗談だろう?と流していたのだそうだ。
 
また、以前(ご本人はいつだか記憶にないと言う)18年間日本の富山に滞在していたというシスター・ガブリエラ(79歳)も呼んでいただいた。久々日本人に会い、日本語を話し、そのシスターも非常に喜んでおられた。他にも2名いらしたが、アフリカ宣教に行かれたとおっしゃっていたが、宣教で海外に行かれた方々は、非常に頼もしさを感じる。
 
シスターパオラは、私に「あなた東京に行ってらしたんでしょ?」と言われ、ああ記憶ははっきりしておられるのだな、と思った。「1月に戻ってきて、シスターにお電話しましたが、電話だと耳が聞こえづらく、あまりお話できませんでしたよね?」というと、「そうなの。私、耳はつんぼだし(それ、差別用語でしょ?笑)目も見えないの。でもピンピンしているわよ!」と仰った。目は、若い頃、シスターになられる前に研究していた薬剤が爆発し、ビーカーなどが割れ、顔や手にガラスや薬剤が飛び散り、大怪我を負われ、眼球もその後移植されたが、うまくいかず失明。今は片目の視力もかなり弱っておられるそうだ)
 
しばらく話していても、シスターパオラは思い出しては、おうおう泣かれた。子供のように泣かれ、たとえ聖職者とはいえ、人間であり、感情はある。
 
いきなり日本語で歌を歌われた。どこかの校歌のようだ。始めはご自分が卒業された金沢の学校(確か師範学校だったはず)に校歌だとおっしゃっていたが、後には、修道会が経営する愛知県瀬戸市の校歌だと言われた。帰宅後瀬戸市の学校の校歌を検索し聞いてみたが、それだったのかどうかは不明。
 
今度はシスター・ガブリエラが日本の代表的聖歌でもある「マリア様のこころ」を歌い始められ皆で大合唱。
 
シスター・パオラの大好物であった海苔のついた醤油煎餅をもって行った。6月に行われた日本人ミサの際、ミラノの修道院で、ベルガモの養老院へ行かれる車が出る際は是非持って行ってください、といって袋にメッセージを添えお煎餅を頼んで行った。「あなただったのね?もうすぐで終わるところだったの!」と言われた。笑
 
「うわー嬉しい。今日が一番嬉しい。今日が一番幸せ。」「毎日今日が続いて欲しい」とシスターは子供のように繰り返しはしゃがれた。
 
シスター・ガブリエラ曰く、パオラをたまに訪ねて行くと、いつも満面の笑顔で迎えてくれるの。言葉少なげだけれど、毎日を喜んで過ごしているのよ、ということだった。
 
車椅子を押しながら修道院の庭をくるっと回った。庭の日陰には、お祈りしているシスターや、談笑しているもの、カードで遊んでおられるシスターなどが午後のひと時を過ごしておられた。
 
年齢と共に肉体は衰えていくが、神への信頼は忘れず、精神や心の感性に向かって進もうとする情熱は決して失われることはない。
 
「次はいつ会えるかしら?」「今度会う時は、私、走っているからね。」とシスター・パオラは笑った。
 
別れは忍びなかったが、また来ますね、と挨拶を交わした。シスター・ガブリエラがちょっと寂しそうだった。
 
🎶マリア様のこころ それは青空
私たちを包む広い青空
 
ベルガモの空は青く、私たちの心を包むマリア様の心のようであった。
 
ミラノの家から2時間半近くの旅だったが、また9月のシスター・パオラのお誕生日にはお伺いしたいなあ、と思う。