仏陀L

筋肉少女帯/TOY'S FACTORY
昭和63年発売。最後の昭和文学は大槻モヨコこと初期筋少だった。屋上のコンクリートの深いつなぎ目を覗いていたら、その暗がりに死の世界を感じたとか、そんな他言無用な妄想でさえも表現の出し方でロックになり、共感を集う事ができる。ペンの力と音楽の魔法を、多くの文学少年に与えたトラウマ大作が『仏陀L』である。救われた気持ちになったキッズたちの熱狂は「もっと救って欲しい」という渇望だったのかも知れない。10年経って『サンフランシスコ』という曲の10年後を描かれることをこの時はまだ知らない。そして平成14年『リンダリンダラバーソウル』を読むまで、ジャケットがYMO『増殖』のパロディーだとは気づかなかった。→
あと何分あるの?番外編
POARO/ライトニングスカーレット
情報が無くて…。フォークギターをかき鳴らし、意味不明シャウトするポアロの電波歌だと思いきや、メンバーがダラダラ喋ってるだけの、一応CDのラジオ番組だそうな。クラスでおもしろい事言うやつって、テレビで見たギャグをいち早く言ってただけだったでしょ、そのノリ。聞けば「ポアロより私の方がおもしろい」と自信が湧くでしょう。番組中にDTMで作ったみたいな曲流れてたけど、あれはポアロの曲なのかな。買ってから内容がわかってがっかりの45分。それで、結局、音楽アルバムって出したのかどうなのか。伊集院光の番組でハガキ職人というか替え歌職人だった時の名作の数々は、元が普通のメジャー曲だから権利のクリアが難しいのか。→
BREAK ROCK

Scoobie Do/SPEED STAR
テレビ朝日、新日本プロレス中継のタイアップ『左胸のボス』とか。ずるいよなー見た目アフロとかいるし、ファンキーだし、ボーカールがミョンミョンいってるし。単純でいい音でカッコイイ。「ポケットの中、何もかも詰め込んできたはずなのに、帰り道の切なさを払うものが見つからない」だってさ、男節。勢いがあるのに頭空っぽじゃ無くて、どこか掴まれた手を振り切ろうとしてる言葉が入ってくる。吹っ切ろう。いかんともしがたい現状も、前に行くしかねぇもん。それにしても、Victorのスピードスターはほんとにいいレーベルだよね。センスの共振、私の眼に触れるところにきっちりプロモーション打つの。ありがとうスピードスター。→
未成年
大江千里【アレンジャー清水信之】/EPIC SONY
85年冬発、NHKの特集番組で彼の曲を飯島とデュエットする組合せは少々不思議だった。次にさらに不思議な映像が登場。ドラム、ギター、ベース、キーボード、合成画面で同じ人物が演奏してる。これ誰?「ノブさん」と呼ばれたその人との会話をはさみ、デートドラマ半分の歌番組は続いた。ノブさんが全能者という印象が残る。本当に『リアル』なのはスタジオミュージシャンで、歌番組よりも音楽雑誌が気になりだした。手にしたアルバムには「All songs and lyrics by Senri Oe/Produced and arranged by Nobuyuki Shimizu」と大きく記されていた。→
midori
飯島真理【アレンジャー清水信之】/VICTOR
85年冬発、NHKの特集番組で、杉真理と彼女のデュエット曲『いつものパーティー』を大江千里と唄う組合せは少々不思議だった。番組は信頼を込めて「ノブさん」と呼ばれる男をトークに絡めながら大江千里と飯島真理が交互に唄い、国立音楽大学卒の彼女が作ったピアノ協奏曲『もののかたち』で終わった。詩曲を書き唄うシンガーソングライターを、ポップスたらしめていたスタジオの仕事人は、どうやら清水信之という総監督らしいと知る。手にしたアルバム『midori』には「All Song Writtar by Mari Iijima/Arranged by Nobuyuki Shimizu」と太字で記されていた。→
Drops will kiss

福間未紗/MIDI
1st『モールス』から前作『フェスタマニュフェスト』までの連作コンセプトや、エレクトロ完全装備から、ある意味で解放されたシンプルな、弾き語り、口笛で綴るフォーク&ボサノバ。福間未紗自らを落ち着ける為に選ばれ唄われたアンプラグド。丸ごしの癒しって解説に安心しきって聴いてたら。体の外の頭の後ろの方からザワザワと震えが!あれ?!福間未紗が浅川マキを唄ってるじゃんか!うわー!私にとって最重要な音が、この人の元に全部つながる。なんで?いいと思う物全部の影響が年上のお姉さんから来たような信頼感。裏の家に住む憧れのお姉さんの弾き語りが、高校生僕の勉強部屋に届いたようだ。時間よこのまま続いて欲しい、時代がここで止まって欲しい。→
Hamilton

ハミルトン/TDKコア
コーラスハミングからゆっくり始まるハウス系のループドラム、荒げないエレキピアノ、ベース。シンセソロさえ控えめなのに、しっかり全方面が鳴ってる曲と、聴く者の好みの容姿になってくれる出過ぎないボイスワーク。ラップになったり、多重コーラスしたりのささやき系。ドライブにもラウンジにも合うしなやかなサウンド。太いベースが目立たない位の音量でぐるんぐるんいってたり、やさしくてフリーな音だけどリズムは機械でカチっとタイトに前へ前へと進む。水の流れる音とかふいに使うし。機材がちょこっと入ったジャケット写真含めて、つまみを回してるであろう電子エフェクトとか、こんな感じのホントに探してました!総合私ランキングベストスリー入り。→
NHKスペシャル「驚異の小宇宙 人体II」
久石譲/NEC Avenu
なぜオンエア当時、NHK人体という番組に心奪われたのか思い返してみると。知識の欲望はもちろんあるが、学術解剖よりもCGによる人体描写が見事だった。機関、骨格、体液他、まさに体の中に広がる宇宙。CG特有の質感が、生身のそれのように円滑に動く。そして、CGにピタリと合う音楽。メタリックな音色と規則正しいシンセドラムが、生身のピアノ&ストリングスと美しく連動し、生命の力強さと繊細さを見せる。ミクロの決死圏的な劇伴が多いが『OMEGA QUEST』などは人体迷宮のゲームミュージック。体の機能から感情へ。メインテーマ『THE INNERS』のシンセバージョンに始まり、ハープとバイオリン演奏バージョンで幕を閉じる。→
SISTER STRAWBERRY

筋肉少女帯/TOY'S FACTORY
ギター横関敦、ピアノ三柴江戸蔵、メジャーデビュー第一次の完成系だと思う。『いくじなし』の世界観に松任谷由美は文学青年大槻ケンヂをオールナイトニッポンのゲストに呼び、鴻上尚史は全9分をオンエアし大絶賛した。『仏陀L』で凄いのかもしれないという疑惑状態だったバンドは、『シスターストロベリー』で本当に上手くて恐くてちょっと気がふれてしまっている文学ハードロックと認知された。次の3rdアルバムからはピアノが脱退し橘高ギター時代に突入、日本印度化でお茶の間へも進出。その前に、この『シスターストロベリー』という孤高のミニアルバムを聞いていたかどうかで、筋肉少女帯はロックか、コミックなのかの評価が割れた。→
風の声

太田美帆/MusicWeb RECORDS
「声」というタイトル、『アヴェマリア』収録となれば白鳥由美子系の正統派ソプラノ。「風の」とはぴったり多重コーラス。金属なのに木管の分類になる楽器、フルートの様にきもちよく鳴り響く声。ズーンと深いピアノにネコが歩いてゆくようなアレンジ。文芸的に言うなら「I Love You」でなく「あたし、ほんとにあなたが好きなんです、しみじみ思そういます」だ。クラシックとかポップスとかでなく、ジャンル的には、素直というカテゴリー。ウソの無い性格の人の声。癒されるという簡単なものでなく、心の素直を引き出す。メッセージを使わずに声で出来てしまう、ある意味選ばれた人。UAのコーラスやってるのもこの人だろうか。→