EXHIBITIONIST

ジェフ・ミルズ/AXIS
通常2台のターンテーブルを3台で、ミニマルテクノをDJプレイする様子を複数の定点カメラで収録し、DVDマルチアングル形式でリリースしたDJ-MIX。完璧としか言いようのない挑戦とその結果。CD盤は収録限界で時間がDVDよりも短くなっているが、そのプレイに不足感は無く、こんな人間が実在したという偉大な証明になっている。DVDには真上からのカメラもあり、ダンスフロアからは見ることの出来ない視点で、何を操作し音を変えているのか、アナログレコードやフェーダー、つまみに触れる手元が見える。30秒くらいづつを無駄無くつなげてゆく凄さよりも、カッコイイことと精神的な深さと、体の反応する音がすばらしい。緻密であり開放的。→
Avant La Pluie

Mondialito/l'azur-record
オールフランス語の電子モナムール。いったい、どの地区を舞台にどのシーンで盛り上がっているのか不明なのだが、知る人ぞ知るなのか海外でも発売されている、静穏系電子ウィスパーPOP。『僕たちの失敗/森田童子』をフランス語カバーしているユニットといえば一番雰囲気が伝わるだろうか。ドラマの経過を感じさせず起承転結の「承転、承転」を繰り替えし、もやもやした感情に浸りたいもやもや族に満足感を与える単館上映のムード。平日、水曜日の夜に見た映画が結構よかったみたいな充足感。ハリウッド大作ではない「この映画かなり好きだけど、えっここで終わるの?だけど余韻が…もう一回観たい」あの『ニキータ』タイプです。→
The Analogue Years

The Loop Orchestra/P&C Endless Recordings
地鳴りの様な低い震動や、何か物体の接触する音や、かろうじて音楽といえなくもないサウンドの連結がスピーカーから聞こえてくる。もちろんこれだけ聞いていても、充分、簡素な私の部屋の空白を埋めるに足る音源なのだが、これは、別の音響系CDと組み合わせてかけたら、さらに効果を発揮する周波数帯が鳴り続けているのではないかとひらめいた。このCDによってしばらくの間、2CDプレイヤー4スピーカーで、静寂音響系アルバムを同時にかける試みに目覚めた。よくもまぁ、このような音がパッケージ化され、海外から輸入され、CDラックに陳列され、家のオーディオから再生されるものだな。→
瘡蓋クリック(復刻版)

エーツー/オフィスギャフン
私もはじめにエーツーを知るきっかけになった初期カセット作品がついにCD化。なんと『サウンド&レコーディングマガジン』ばりの本人による全曲解説付き。制作時の参加スタッフの事から、結成当初にいたというマネージャーの事まで語りまくり。読めば、彼女らがおよそ詰め込みたかったものが見事に入っていると感じるし、それ以上のゾクゾクする融合が起きている事に納得。無邪気なアイドル性、陰鬱な片田舎のロック性、歌うしかなかったフォーク性が渦巻く。溢れ出る、自分たちに対してのサービス精神。ファンに対してというより、エーツーに対してのリーダーと2号の相棒クリエイティビティ。誰よりもまずミュージシャンたちに愛され、広められた名盤。→
グレイプフルウツ

イノトモ/日本クラウン
センチメンタルバス『イエロウトレイン』、ジャングルスマイル『同級生』、ザ・ブルーハーツ『トレイン・トレイン』等、勝手に注目している俺ジャンル「電車ソング」でベスト5にランクインするイノトモ『キミとボクのフルサト』にはじまる良い予感。女性シンガーの褒め言葉としてありがちな、透明や浮遊というキーワードをきれいさっぱり吹き飛ばす様な、クレヨンの様な彩りの、芝生にどさっと広げたピクニックセット。どの曲も、誰かにとっての思い出ソングになりえる、ほのぼのとした人のよい部分のスケッチ。「もっと強い喜怒哀楽を」と激しい振り子で崩壊してゆく女性シンガーが多い中で、末永く活動しそうなほどほど感が別腹にちょうどいいのではないか。→
CARAMELBOX SOUND BOOK ORANGE

SCUDELIA ELECTRO/NEVURA PROJECT
演劇集団キャラメルボックス『さよならノーチラス号』『MIRAGE』のサントラ。二枚組で、無味無臭の曲も入っているが、それはつまり使用曲を全部収録してくれたという事。多くは、スクーデリアエレクトロのアルバムからのピックアップだが、劇中SEが足されたり、公演用に再録、再アレンジした未発表音源、ピアノバージョンなどがぎっしり入っている。繊細なミディアムナンバーのなんと切ない事。『MIRAGE』の妻の幽霊のシーンが好きです。『さよならノーチラス号』のサブリナの曲って、犬じゃなくて猫の歌だったのか!よく見てた役者がTV出たり、新しい顔が増えたりするけど、いつまでも続いてほしい。→
Smuggle Panda

LongShotER/independent*
年功の順序を待たず、国の至宝になるであろう薩摩琵琶奏者、西原鶴真参加のテクノユニット。セックスピストルズ育ちのプリンセスが電子音楽と組んで行う『成仏』等のパフォーマンスは全く懐が広い。日本古楽器のサウンドがウワモノ扱いのエレクトロニカなら組み損だが、平家の落ち武者のひとだまを呼び寄せる音に心配無用。カムイ外伝のテーマや、ラストは尺八、篠笛も登場する14分のダイナミックな忍者絵巻のサウンドトラック。どんな相手を仲間にしても、対決しても、鶴真の音に触れる人たちに「琵琶カッコイイ!」と思わせ古典リスナーを獲得する確信を突く革命的存在感。このCDRが2003年に発表されていたことを忘れるな。→
The Sinking of the Titanic

Gavin Bryars/Crepuscule
凍りつく海で死ぬオーケストラ。タイタニック号の沈没の間際に演奏を続けたという船付楽団最後の演奏を再現。水音、鋼の呻き、反響するのは逃げ終えた空虚。楽団とは聴衆があってのもの。演ずる船の男と聴く乗客の最後の感情交流はいかばかりであろうか。スタジオやマイクの存在をまったく感じさせない、テンションとジェントルの完璧な静寂。その場で録ったという事を初めに認めさせられ、聴きに入ってしまう。もうすぐ冷たい水の中に沈む船上の讃美歌。と、反応できる味わい方が出来るのは、事前に十分な説明を読んだからで。耳で聞きながら、実のところは情報を堪能している。物語が、船内の残響や水滴音に価値をつけているよい例。→
POST PRODUCTION

OVERROCKET/aten Recordings
名曲を連発していた時期の良盤。ピコピコ音として評価されたオーバーロケットや、評価してた幼稚園レベルのファンは嫌いだけど、普通にポップスとしていい曲。そう、キレイな1st『ブルードラム』からファンになったので、ピコピコと一緒にすんな!って思ってたけど、ジャケットアートワークもドット絵を使っていたし致し方ない認めるか。サウンドメイカーの腕と、ボーカル特性が一番融合しているアルバムじゃないだろうか。『MIRAI』『VOICE』に始まり、飛ばす事無くいつも全部聴き。『CHINA BLUE』のメロディーと、声素材の切り出し方による摩擦抵抗の気持ち悪さは、オーバーロケット史上、最高の快感。→
アヤコレッピアン

Aya Collette/カエルレコード
新鮮な、たった一曲に、百年間音楽を聴いていなかった気持ちになった。アヤコレットのくるくる踊る歌とピアノには本当の光と震えがあって、自分が情熱家として一季を過ごしたような感動体験を何度も迎える。ピアノが主導するコントラバス、サックス、ドラム、サウンドモジュレーションの変則ユニット。文学者の詩型を用い、情景を、感情を、直接心に鳴らし出す文学性の高い音楽。こんなにもピアノを自由自在に使いながら、ピアノ以上の心象風景の音が聞こえてくる。演奏しているのでなく、まるで、音が彼女の周りを飛び回り祝福しているようだ。高円寺円盤から2004年に出たサンプルともいえるライブディスクから数ヶ月、ついにリリース。→