解放区への旅
黒木渚/Lastrum
ポップスの詞は大体「君が好きだ」「俺は行くぜ」「さようなら」で、後は位置と関係性により、聴く人が求めた喜怒哀楽と融合し、元気に走り出す「さようなら」や、苦悩で落ち込む「君が好きだ」が着地する。受け手が求めてなければスルーで終了。でもたまに、名前も無い圧倒的な歌声が、なんの意識もない心に届く体験がある。深夜に寝落ちしてたラジオから流れていた『灯台』の途中に目が覚めて、もう今が何時で明日が何曜で自分の人生がどんなだったか忘れ夢うつつ、歌詞も聞き流し、自分との位置と関係性も皆無のまま、この歌は「愛してる、愛してる」だけを繰り返しているのだと勝手に解釈し、理由なく号泣してまた眠り。翌朝、覚えていないこの曲を探した。→
月間小棚木もみじ6月号
小棚木もみじ/コタカラ商店
そういえば私目に焼き付いてずっと頭から離れない女の子がいるんですよ。中学の頃に眠って見た夢なんですが、学校のそばのバス停で、隣に並んだ童顔のロングの髪の少女が「約束を守ってくれたから」と話しかけてくるんです。赤い服、顔もはっきり覚えている。地元を離れ就職して、ヨメと結婚して、実家帰った際にバス停の前を通り、あの夢の少女との「運命の出会い」は無かったなと。さらに十年以上、実家へ娘と遊びに行った帰りに、バス停で娘が「約束を守ってくれたから」って話し始めて、髪もロングで「あの子、この子だ!」っていう。結婚自体が、しない誰かを否定してしまう単語になりかけている今、小棚木もみじの結婚像『メリミー』を全肯定します。→
Runner
サンプラザ中野くん/ユニバーサル
『Runner 平成30年 Ver.』が平成ラストイヤーに流れる。走った人、走り続けている人、走りたかった人、みんなこの曲と付き合った。長い人は30年の付き合い。昭和の終わりの爆風スランプに起こった出来事を忘れられず。その後、音楽の教科書に載った『Runner』。迷走に見える凝り性のサン様と、YURIMARIポケビのヒット作曲家になる河合さんに距離を置き大人になったけど、やっぱり『Runner』は彼らのタレント性のものではなく、僕らに寄り添う応援歌として街で職場でカラオケボックスで流れていた。中野くんがまた変な健康法提唱してる?!と苦笑いしても、この曲バトンだけは僕らは落とさない。アモルファス!!→
僕を救ってくれなかった君へ
小南泰葉/ユニバーサルミュージック
林檎、ナンバガの色濃い影響下であった狂気ともいえる音楽漫画の主人公を思い出した。林檎もナンバーガールもどうなったか知ってる。どうなったのか分からないのは2巻で未完結になってる漫画『少女、ギターを弾く』。3巻が動き出したかと小南泰葉はそんなインパクトだった。『少女、ギターを弾く』の続きを朔ユキ蔵はもう描かないけど、このギター、歌声、歌詞で、自分の中で綺麗に接ぎ木された。勝手にゴメンな。彼女がどんな状況から出来上がったかなどのルーツは関係なく、明らかに発信地点の存在感であったこと。『3355411』その暗号、引用、主張を「読み取れた!」に共感があり、長らく眠っていた感受性が「応答せよ」を聞き付けた。→
シナリオ
Jeepta/ART BOX RECORDS
好きになった時には解散してた。解散後も曲が流れてカラオケで歌われる程の超有名バンドではないけど、私の胸をノックする曲が届いたんだ。きっかけは、中古家具屋のダンボールにCDがまとめ売りされていた。ひとりが所有していた程度の量を見るに「さてはデータ化して処分しやがったな」という推理と「夢破れて東京から故郷へ帰るタイミングで思い出のCDと決別したのか」と、勝手に挫折物語を想った。置いてったのもファンなら、忘れられないのもまたファン。SNSで「よく知らないけどジプタ『シナリオ』がカッコイイ」と呟いたら、フォロー外から「好きになってくれてありがとう」とリプをもらった。君の部屋のCDだったかもな。→
My Place 〜我尋〜
陳敏/Mion Records
某市の二胡サークルのこと。役所登録で演奏求人情報が共有される。ウクレレ教室や学生四重奏らがサークル登録して、駅のお祭り広場、老人ホームほか演奏を求める場とマッチング。楽器背負って街イベや慰問の会場に行くと、普段接点も無いお客さんが、程良く拍手をくれるのはいい温度だと思う。次回を待たれると応援されて、演者も練習のモチベーション。サークルの発起人は、演者が交代で客の役を演じる小演劇的構造のライブカフェで「君の音楽を誰が聞きたがっているんだ」って脳直の声がして、演者や関係者ではない聞き手を探したのだという。終わらない文化祭に浸りたいのは変わりないが、ライブハウスへの自己満課金は卒業できたらしい。分かるよ。→
腐っても私
Su凸ko D凹koi/BUDDY RECORDS
時は来た!すっとこどっこいの『MOMANAIDE』がMV公開。別れた元カレに対する「思っちゃったんだからしょうがない」系の歌だ。過去にとらわれていることは、それ自体前に進めない足かせになったりするのだけど、クリティカルなパンチライン=主人公にも新しい彼が居る!で作品全体がジメジメした負の感情でなく「この気持ちの揺らぎなんなの!」という未体験の気持ちをテーマに、超軽量で通気性に優れた着心地快適のドライな肌触りを実現しています。てか、無添加、自然素材すぎてびっくりしたわ。サビをゆーっくり反芻して、指を折りながらリズムをカウントし直してしまうほど、なんだか中毒性のある符割りだと思った。→
さめざめ問題集
さめざめ/ビクターエンタテインメント
小さな頃読んだ藤子不二雄の漫画で、テレパシーの超能力を手に入れた主人公が一人二人相手に「僕は心が読めるんだ」と悦に浸っているうちに、世の中の人たちのすべての声が脳に直接聞こえてきて、狂ってしまうというのがリアリティあったのだけど。今や、ハッシュタグ、リスト、複アカという技を知ってしまうと、テレパシーも結構整理できるのだろうなとイメージがつかみやすい。そして、体にチップを埋め込む来るべき世界。人は、宇宙世紀に、誤解なくお互いを分かり合えるのでしょうか。理解できるかは、伝達能力じゃなくて、相手のことを考える優しさだよねー。さめざめが歌にして『コンドームをつけないこの勇気を愛してよ』と伝えています。→
Aullin #1
Mempis/SALVA RECORDS
『Lovin U』という曲が、らびんにゅー♪で、これのギターからボーカルから全部良かった!音楽について紹介する機会を、かれこれ20年近く継続しているのだけど、もはや探し回って見つける気は無いし。ケータイではトーク番組のラジオしか聴いて無いし。YouTubeでMVチェックするくらいなら激安旧作レンタルで過去のドラマをイッキ見。そんな生活のどこに新しい音楽に触れる時間があるというのか?無いよ!そんな、そんな、私のところにも聞こえ届いてくる音楽があって、10秒で「これスゲェ良い」って激アツなのに、再生回数が100回未満って鬼パリピ訳わかんねぇよ。誰に向けてんだよ!どこ探してんだよ!ココにあるよ!→
MOM
Nakanoまる/花とポップス
19歳の子を面接採用。試用期間後まだ働きたいということで、社長や幹部等の組織で席を追われない権力者からセクハラを受けた場合の対策講座をしました。偉い人は立場を利用して下ネタの許容耐性を試す。生活を失う訳にはいかない女の子が嫌悪しながらも笑って受け流し「冗談でした」に成立してしまう笑顔を続けているうちに、『笑う女の子』を喜んでると錯覚する老害が増長するという負の連鎖。上席の者には「尊敬していたのにがっかりです」と真顔でいい。嘘ついてその場から逃走してもいい。ポイントは笑わないこと。それは「あの時、なんで私は愛想笑いしてしまったのだろう」と自分を責めないために。自分の笑顔を後悔するほど惨めなことはない。→









