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オムライス

オムライス

 

橋爪もも/レインボーエンタテインメント

 何年か振りの音楽体験、歌声が好きな人に出会えた。ラジオから流れてきた曲は『オムライス』。ブレス音とは違う意味で、ぬくもりとしての息を感じる。まるで低速回転のロータリースピーカーから流れるオルガンの音のように気持ちよくゆっくり震える。弦楽器でなくリード楽器から発せられる声でしょう。ビブラートというよりももっと情緒的なメロディーとして響く声のゆらぎ。わたしとあなたの二人のことを歌う「ただいまおかえり」なサイズ感も、夜ラジオを聞いている距離空間に最適だった。別れを描いた曲なのだけど、相手の言葉を聞こうとしたこと、前を向いて歩き出さなきゃいけないこと、胸いっぱいの歌声が未来の話をしようと語りかける。

吉川美南ちゃん

吉川美南ちゃん

 

ありもとねこ/ローズクリエイト

 JR武蔵野線、越谷レイクタウンの脇で小さく咲いていた花に気づいていなかった。聖蹟桜ヶ丘、京王稲田堤、に感じていた語感のもどかしさをバッサリと解消してくれた、それが吉川美南駅。これを歌うのが擬人化された被り物のゆるキャラ吉川美南ちゃんなら自己顕示欲が溢れた失敗になっていたかもしれない。名曲として推し上げているのがコスプレイヤーでTikTokerのありもとねこ。「あたし、君も、僕も、みんな、吉川美南」と巻き込んでいくことで、関わっていく人や店やご当地グルメ全てがキュンキュンする存在にトランスフォーミングしていく。かわいく踊れる、切り取っても中毒性がある、駅の街の応援ソングの令和TikTok時代のリアル。

心は洗濯機のなか

心は洗濯機のなか

 

カネヨリマサル/D.T.O.30.

 スリーピースロック。バンド名カネヨリマサルは架空の名前、50歳の会社員の優しいおじさんらしいです。入院病棟のナースセンターで老人が「ワシは金に困ったことは無いんだ」と大声で言ってるけど看護師が嫌な顔してるとか、「金で買えないものがあるなら教えてくれよ」とドヤ顔してるけどみんなに軽蔑されている人とか、そういうの見るの好きです。架空の50歳会社員カネヨリマサルさんはバーチャルだけど、年齢で逆算すると歌謡パンクが刻み込まれたバンドブーム直撃世代。令和のポップスはEDM全盛、ギターソロもワンツースリーゴーもありゃしない。思っていたところに、青春ロック『ラクダ』は消えた夏の日の恋、いいね。お金より優る歌。

都会の寂しい女の子

都会の寂しい女の子

 

lonely planet/sakasakasa

 これ書いてる時点では分かりません。現体制終了その後どうなるのか。コンセプト「都会の寂しい女の子」は、次にドアを開ける女の子たちによって引き継がれるのでしょうか。メンバーが寂しくなくなって幸せになり卒業とかいう、美談みたいなゴールテープがあったとしても、終了発表とともに突入したサヨナラの期間は苦しい。世界から寂しさは無くならない。でも、寂しかったから通り過ぎなかった。寂しかったから同じことを思っていた。だから、寂しくてよかった。『SECRET GIRL』は、君には君の地獄があるという歌。私には私の地獄があり「がっかりされるかもしれない秘密が、お互いにある」それが解り合える一縷の望み。

バイバイ

バイバイ

 

佐藤玖美/independent*

 シティポップというジャンル、概念が再燃。ガツガツしていない。縛り付けず、押し付けてこない。我が!我が!という厚かましさとは真逆。そう文字にするとやっていることを沢山の人に伝えるのは大変そう。広告費や紹介者や、なにしろ、シティポップが流れるに相応しい時間が必須であり、それは聴く人たちの生活の時間の中に委ねられる。シティポップリバイバルに関して、皆どこで音楽を聞いているのだろう。あるいは深夜の都会のドライブを夢見ながら、マスクの満員電車でYouTubeを見ている姿が実情だったりするのだろうか。カーステレオならリアルに精神の開放。ヘッドフォンならば「仮想空間にジャックイン」という言葉が似合ってしまう。

風に言葉を

風に言葉を

 

中井大悟/エムズレコーズ

 まるでギター一本男性シンガーソングライターの歴史をつなげているような弾き語りの歌声なんだ。かつてフォークギターを持っていたような会社の上層部のおじさんたちが、街角で唄う中井大悟を見ながら「どこかの人生で分岐した、あれは僕だ」と言い出してもおかしいことではない。詞の真っすぐさや、今唄いたい熱量に満ちていて、歌い手の存在を意識してしまう。そして思い入れしてしまう。いつまでも唄い続けてくれるんじゃないか。会社組織の幹部となって悩む日々も、路上でギターケースを広げる日々も、あの時選んだ道の自分のおもいっきり。いつの間にかじわじわ疲れ切っていたとき、その過程にも忘れていた全力投球があったことを、思い出させてくれる。

IN SOMEWHERE NIGHTS

IN SOMEWHERE NIGHTS

 

Charlotte is Mine/Bassless Records

 東は星空なのに西はまだ夕暮れ、下が夕焼けだけど上は青空。広い視界の開けたところに行くとそんな風景が毎日あって、時間をかけて見ていると、青空と夕焼けのグラデーションの中に七色を見つけることが出来る。空一面が果てしなく大きな真一文字の虹。そのことをなんて呼ぶかずっと考えては忘れ、たまに暮れゆく空を見ては思い出し。この度、シャーロットイズマインの曲を聞いて暫定『白昼夢』と呼ぶことにいたしました。ずっと見ていたい夕暮れの色も数分たてば終わってしまう。特にピンク、紫、緑が見えるのはほんの数分。『白昼夢』の2分42秒が、最もその場にマッチするオリジナルサウンドトラックです。

幕が上がる/FEVER

幕が上がる/FEVER、今井舞衣

 

今井舞衣/independent*

 成績の5段階評価で例えば5教科。国語・数学・理科・社会・英語に3/4/3/4/2って並んでると、一番2に注目がいってしまうんだってさ。平均が3で、それよりいい4がふたつもあるのに、ひとつの2について語る時間が多い「次はがんばってください」と重い。今井舞依の『CCC』は視力検査をモチーフにした曲、つまり「右、右、右です」って答えるあの記号をシーシーシーと読んでいる。これは欠けているところではなく、満ちている側をとらえて読んでるの。「私がいるよ!」っていう歌。人間の視界ってだいたい左右200度って聞いた時に、すぐ残りの160度のことを考えられる人、その人だけが360度の考え方が出来る人だと思います。

5年後の世界

5年後の世界

 

特撮/キングレコード

 経済ニュースなどで新技術が発表されたら、世の中に出るのは5年後と言われていました。生産ラインやコスト飲み直し後に手の届く価格で普及する。そう思って、鉄線の入った車ガラスの技術を応用した窓暖房のニュースを聞いたのが10年前。普及しなかったです。いよいよ働き方が変わる、っていう風が吹いて2年目「はやく元に戻らないか」と言うひとはどの部分まで指しているのか。アレゴライズ、変異株はあと2〜3年続くという人がいる。ランダマイズ、根拠の論文を読んでる暇も無し。月曜日には持ち場へ戻る。『5年後の世界』その時代も、会いたくない人には会わないで過ごしたい時間割くことができる、その為の誰にも批判されない巨大な理由があると助かる。

イエローバタフライ

イエローバタフライ

 

みきなつみ/cocoon nuts

 女同士のグループに対して男が「人間関係ドロドロで怖そう」と偏見無知の言葉をかけている。自分の信じた噂をそうなんだろうと確認したい決めつけ。そんな乱暴を擦り付けられた『GIRL』同士が楽しい会話の端の方で「あの男バカなんだろうね」って切り捨てるシスターフッド。78億人の出会いの中でたまたま側に居たシンジケート。裏表が無いというより、自分がほんのちょっと良い子でいられる他者は、もう自分のパーツみたいだけど別の人生で、ある日、彼氏や子どもとか登場人物が増えても「君らしくあれ!」って言えるあたしのコンディション。「君のホームでいさせてね」って言えるあたしのコンフェッションよ。ベストフレンドフォーエバー。