あの空へ、いつかあなたと -4ページ目

あの空へ、いつかあなたと

主に百合小説を執筆していきます。
緩やかな時間の流れる、カフェのような雰囲気を目指します。

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私たちは走った。走って走って、コンビニからずっと遠ざかってもまだ走った。
その間、リコはずっと私の手を握っていた。その手が昨日けがをした左手だと気づいたのは、交差点を3つほど駆け抜けたところで――――

「っ! い、痛……!」
恐怖の場所から遠ざかり少し安心したからか、驚きと戸惑いで忘れかけていた指の痛みが急激に戻ってくる。
そんな私の声が耳に入り、リコはようやく立ち止った。

「――――はあ、はあ……!」
リコは両ひざに手をつき、うつむいたまま肩で息をしていた。
短くない距離で指も怪我をしているとはいえ、このくらいの走り込みなら私は部活で慣れっこだ。でもリコはというと見た目からして運動に長けているとは言いにくく、案の定完全に息切れしているようだった。
リコがゆっくりと息を整えるのを待って、私は彼女に話しかける。

「ねえ、一体どうして――――」
言い終わる前に、私はリコに抱き寄せられていた。

背中に手をまわし、二度と離さないと言わんばかりに必死に私を抱きしめるその力は、先ほどまで息も絶え絶えだった人間のものとは思えないほどで。
彼女の火照った体温を、速いままの鼓動を全身に感じて、電気が走ったように私の心と体はまたもや固まってしまっていた。

でもその感覚は、どこか安らぐような不思議なものだった。
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数人の大人――男だけでなく女もいた――が、コンビニの前でたむろしていた。


見た目からして私よりも年上。大学生か、もっと上か。どちらにしろ、大声を出して笑うその姿ははっきり言って品のあるものとは思えない。
毎日ではないがよく見かける光景。
直接何かをされたというわけではない。でも彼らの前を通るときはいつも、それだけで毛羽立った毛布で撫でまわされるような居心地の悪い気持ちになる。



いつか身に覚えのないことで絡んでくるかもしれない。それが私の勝手な思い込みだと分かってはいても、その緊張感は拭いきれなかった。
できるだけ視線の端にもかからないよう存在を消しつつ、いつもそうしているように足早に通り過ぎようとしたとき――――



「おい! お前――――」



突然、威嚇するような乱暴な声が辺り一体に響き渡った。
それだけで心臓が握りつぶされるようなのに、どうやらそれは私に向かって放たれたものらしい事実に頭が真っ白になる。



(う、嘘……なんで、よりによって!)
振り向こうにも動けない。このままではより大きな敵意が私に降り注ぐだろう、そう思う気持ちがさらに私を硬直させる。



グループのうちの一人が、私の方に向かって近づいてくる。
完全に足がすくんでしまって、一歩も動けない……



そんな時だった。私の手を引く誰かが現れたのは。



「――――あっ……」
そう声が出た次の瞬間には、私は走り出していた。
何もかもを振り切るように、目の前で私の手を掴んで走っていたのは……



リコだった。


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夕暮れと呼ぶにはまだ少し明るい時間。

やがて訪れる黄昏に向かって、少しずつ日が落ちていく。



学校を出て、家までの道のりをぼんやりと歩いていく。
私の家と学校とは決して近いとは言えない。
それでも自転車やバスを使う生徒にとっては徒歩で行き来できる分、いくらか恵まれている方と人によっては言うかもしれない。


私のお母さんも実家が田舎で学校も遠かったらしく、家から歩いて通える私を羨ましがる人間の一人だったが、私はというとそのまったく逆の考えだった。
自転車も使えるなら使いたいし、バスでの登下校にも正直言って憧れていた。


その理由はもちろん、歩くより乗り物を使った方が楽だから。
有希も里穂もバスでの通学のため、一緒に帰ると言ってもいつも途中で別れてしまって寂しいというのもある。
でも、徒歩通学をあまり好ましく思わないもう一つの理由もあった。
そしてそれは寄りにもよって今、私の目の前に現れたのだった。


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