(『新・人間革命』第7巻より編集)
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〈操舵〉 24
伸一は、戸田城聖の言葉を思い返した。
昭和三十二年七月、伸一が選挙違反という無実の容疑で逮捕され、出獄した彼に、戸田は関西本部でこう語ったのだ。
「今回の事件は、私が弟子たちを参議院に送ったことから起こったものだ。
国家権力は、新しい民衆勢力が台頭してきたことに恐れをいだいていた。民衆を組織した学会の団結が怖いのだよ。
民衆が力を合わせれば、どんな大きな力になるかを知っているから、学会を叩きつぶそうとしたのだ。
そこで、この戸田を逮捕しようとした。私を捕らえて、犯罪者にすれば、学会は極めて反社会的な、犯罪団体であるとのイメージをつくることができる。
伸一、君を逮捕し、責め立てたのも、私に捜査の手を伸ばしたかったからだ。
だが、君は、それを見破った。そして、罪を一身に被ろうとした・・・」
この時、戸田の目頭が潤んだ。その瞬間の光景が、伸一の心に焼きついて離れなかった。
戸田はそれから、強い口調で言った。
「今回のことは、君の人生にとっては、予行演習のようなものだ。やがて将来、権力は魔性の牙をむいて、本格的に襲いかかってくるにちがいない。
弾圧は、決して戦時中の昔の話ではないよ。
確かに、戦後、日本は民主主義の国家・・・。
しかし、権力のもつ、魔性の本質は何も変わっていない。それだけに、より巧妙な手口で、弾圧することになる。
権力にとっても、存亡をかけた攻防戦だけに、なりふり構わず、卑劣な攻撃を仕掛けてくるだろう。
その時は、君が狙われることになる。覚悟しておくことだ」