(『新・人間革命』第7巻より編集)
109
〈操舵〉 3
しかし、同志が雪で止まった列車にいることを思うと、自分の家の雪下ろしどころではなかった。
どの家も、自分たちの食事も早々に、炊けるだけの飯を炊き、大急ぎでオニギリをつくり始めた。
炊きあがったばかりの飯はまだ熱く、手はすぐに真っ赤になったが、手を水で冷やしながら、飯を握り続けた。
菓子箱やボウルなどに入れ、風呂敷で包み、急いで、吹雪の夜道を徒歩で宮内駅に向かった。
胸まで雪につかり、白い息を弾ませ、泳ぐようにして歩いた。場所によっては電柱が雪に埋まり、電線をまたぎながら、進んでいかなければならないところもあった。
長岡支部の人たち多くは、長岡駅の周辺に住んでいた。長岡駅から宮内駅まではおよそ三キロの道のりである。
普段なら、四、五十分の距離であったが、吹雪の夜道とあって、二時間余りかかった。
オニギリは、いったん宮内駅の近くの会員の家に集められることになっていた。この会員の家は鮮魚店で、仕出しも行っており、大きな釜や鍋、椀なども揃っていた。
ここにも、二十人ほどの人が集まり、味噌汁をつくっていた。
オニギリの数がまとまったところで、駅に止まっている列車に運び込まれた。時刻は、既に、午後十一時ごろであった。
「皆さん、長岡支部の方々がオニギリを届けてくれました。温かい味噌汁もあります。これから、お配りいたします!」
疲労と空腹で曇ったメンバーの顔に光が差し、歓声と拍手がわき起こった。
長岡支部の婦人が、車内に入り、オニギリと味噌汁を配り始めた。
「さあ、温かいうちに召し上がってください」
配り終えると、長岡の婦人は言った。
「皆さん、大変でしょうが、頑張ってください。私たちも、できる限りのことは応援させてもらいます。
必要なものがあったら、遠慮せずに言ってください」
車内の人びとの目が潤んだ。