脚本『放課後泥棒』の解説(おまけ) | 交心空間

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◇ 希有な脚本家の創作模様 ◇

 ドラマ創作において登場人物のキャラクター表現は重要です。
 この作品解説の冒頭で「一ノ瀬の扱い方(展開やキャラクター)に問題あり。ドラマ性
は当然のこと、子どもらしさも壊している」と評しました。この中で“子どもらしさ”に
対し、作者(塾生Aさん)から次のような返答と質問がありました。
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    極端な環境に置かれた小学六年生ならば、一ノ瀬ぐらい極端でもいいんではない
    かと僕は思ってしまったのですが。
    また、(辻褄が合っている中で)現実にいそうにない個性のあるキャラクターが
    描けるのも、フィクションの醍醐味かなと思うのですが。
    例えば『ゴールデンスランバー』における、やたらませた中学生はどのように説
    明できるでしょうか?
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 私もAさんも小説『ゴールデンスランバー』(著者:伊坂幸太郎)を読んでいたので、
それに登場する中学生の入院患者(第二部「事件の視聴者」でチョロっと登場する脇役)
を引き合いに出した質問だと分かりました。
 読者として作者意図を分析してみましょう。
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    このシーンの目的(本筋)は『物語の背景として情報化だのテロだのといった社
    会情勢を伝えること』と推察します。
    入院患者の田中徹(35歳)と、やたら情勢に詳しく生意気な中学生を登場させて
    います。背景(伝える立場の二人の設定)として、ニュースを観た視聴者目線を
    利用しています。大人同士の会話にしてもいいのでしょうが、中学生を登場させ
    たのは“事件の関心度が様々な年代に浸透している”のを表現するためと推察し
    ます。現に老人(山田)もいます。最少人数で年代を表現しています。
    この会話を本筋に関する内容(社会情勢論議)だけで進展させたらと考えてみま
    しょう。つまりシーンの始め辺りで、登場した少年は“中学生の”としただけで、
    あとは社会情勢の会話だけが続くと想定したらです。
    中学生のませた口調や話す内容からすると、進むにつれて「大人か?」と誤解
    れかねません。最初に「“中学生の”と云っているではないか」と弁解しても、
    非常にに弱い“言い訳”です。
    そこで会話の途中に、田中徹の(中学生に対する)心境や台詞……
      「中学生が喫煙所にいるなよ」
      「おまえ、何でそんなに詳しいんだ?」
      「おまえさ、もっと中学生らしい話し方をしろよ」
      「偉そうだな、青少年」
    などで中学生であることを常に印象づけています。
    また中学生自らも「入院患者は暇だからだよ、田中君」と、中学生でも詳しいと
    いう根拠めいたものも覗かせています。中学生の口調がませているのは、一般病
    棟で大人に交じり入院して“背伸びした様子”や、本筋を伝えるのに“大人同士
    の会話らしさ”を表現するものと推察します。
    キャラクターを表現しつつ本筋をしっかり伝えて(進展させて)いるといえます。
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 本作品で、一ノ瀬における“子どもらしさ”の描き方は実に不十分です。
 キャラクターを設定しておきながらも《12歳》とト書きで伝えただけで、本文(台詞)
は一方的に理屈をこね回しただけです。ゴールデンスランバーの中学生は現実を語ってい
ます。田中徹との会話が成立しています。この違いもあります。
 確かに越前に対する(一ノ瀬の)所感を述べることで、越前の過去やイメージを暴露す
る目的らしきもの(これが本筋ではないのであえて「らしき」と表しておきます)は達成
しているかもしれませんが、一ノ瀬におけるキャラクターフォロー“○○しつつ”がない
ため、そのイメージは“大人(つまり子どもらしさを壊している)”としか受け取れませ
ん。
 盗用でなければ、何かを参考(手本)にするのはいいことです。しかしながら手本とす
る作品の本質を理解しないまま、上辺だけを型にはめて使ったのでは(この場合、ませた
子どもの設定)、逆にマイナス効果になりかねません。気をつけましょう。

         ※         ※         ※

 脚本は誰でも書けるでしょう。しかし“ドラマ脚本”となると限られた人にしか書けま
せん。そのためにも感覚(思いつき)だけで行き当たりばったりに書くのではなく、論理
思考や様々なテクニックを会得するのが、上達法の一案といえます。
 この作品と補作を通じて吸収してもらえたらと願う要点をあげておきます。
 各要点の下部にある、たとえば ◆1-A (1) は脚本対比表番号 1-A と解説の項目
番号 (1)を表しています。また1-Aの1は、記事タイトル“脚本『放課後泥棒』の補作
と解説(1)”の(1)に該当します。

(a) 論理的思考を養う
  ひとつの脚本の大半は論理的展開で成り立っています。意外性にしても、その言動を
  納得させるべく根拠、つまり論理が背景に存在します。したがって脚本創作において
  論理的思考は最大の糧(かて)、味方、武器、必需品、拠り所……といえます。
    ◆1-B (1) ◆1-C (3) ◆1-D (4) ◆1-E (3) ◆5-E (2)
    ◆5-F (3) ◆6-B (2)

(b) 核心(本筋)を把握する
  核心とは主人公にまつわりテーマを描く流れ(ストーリー)のことです。脚本を三人
  称(客観的視点)で書く以上、主人公が登場しないシーンやテーマへ繋げるための周
  辺エピソードなども存在しますが、“その間主人公は何をしているか”を脳裏に置き
  ます。つまり“主人公が登場しなくなってどれだけの時間(シーン数)が経過したか”
  “その間に展開した内容は主人公やテーマに関わるものか”“そのシーンやエピソー
  ドは本当に必要か(確かな意図はあるか)”を考えます。
    ◆1-D (7) ◆2-D (3) ◆3-A (2) ◆5-E (1) ◆5-F (1)
    ◆5-F (5) ◆6-A (2) ◆6-B (2) ◆7-B (1) ◆7-C (1)
    ◆7-C (2)

(c) 検討・構成を怠らない
  思いつきだけで書いた作品はムダが多かったり、何がいいたいのかも不明瞭になりが
  ちです。ともすれば“脚本内矛盾”を招きかねません。充分な検討としっかりした構
  成を経て執筆に入るよう心がけます。また、書き残す癖をつけ、要所要所で確認して
  展開にブレがないかをチェックします。
  執筆に入って、必ずしも構成どおりに展開させる必要はありませんが、逆に大幅に外
  れてしまうなら、その構成は甘い(不備)といえます。再検討再構成すべきです。
    ◆1-D (4) ◆1-D (7) ◆2-D (2) ◆2-D (3) ◆3-A (1)
    ◆6-A (1) ◆6-A (3) ◆6-B (1) ◆6-B (2) ◆7-C (3)

(e) 登場人物の個性を描く(構築と利用)
  設定したキャラクターに沿った反応や展開を主軸に考えます。人間性を描くうえでの
  基本です。意外性や偶発的展開を設定するにしても、特に核心に関わる言動ならば、
  それに対する明確もしくは想像できる範囲で匂わせる根拠が必要です。事前に伏線を
  貼っておくか、後の展開で“なぜそうしたか”を描きます。その際、説明的にならな
  いよう注意しましょう。
    ◆1-A (3) ◆1-C (1) ◆1-D (2) ◆1-D (4) ◆1-D (5)
    ◆1-D (6) ◆2-A (1) ◆2-C (2) ◆3-A (2) ◆4-D (2)
    ◆5-D (1) ◆5-D (2) ◆6-B (2) ◆7-B (3) ◆7-C (5)

(f) イメージしながら書く
  文章として書いた内容を映像・音声として具体的にイメージします。人物同士や物と
  の位置関係、状況などを把握します。内容に矛盾が発覚すると「その場の都合(雰囲
  気)だけで書き、状況把握ができていない、全体を通してイメージしてない」などの
  理由でマイナスポイントになりかねません。
    ◆1-A (1) ◆1-B (2) ◆1-E (2) ◆2-A (1) ◆2-C (1)
    ◆3-B (1) ◆3-D (1) ◆5-B (1) ◆5-F (4) ◆7-A (1)
    ◆7-B (2)

(g) 台詞のテクニックを磨く
  一言一句の必要性を検討し、ムダのない台詞を書きます。通常は(1行20字の原稿用
  紙として)1~2行で書き、長くとも3~5行程度を目処にします。長台詞の場合は
  台詞構成をしてから書くといいでしょう。
    ◆1-A (2) ◆1-C (3) ◆1-D (1) ◆1-D (2) ◆3-C (1)
    ◆3-D (1) ◆4-B (2) ◆6-B (3) ◆7-C (2) ◆7-C (4)

(h) 伏線のテクニックを磨く
  いかに先の展開を考えたうえでの事前の言動(台詞・行動・リアクション)か、つま
  り構成力(思いつきで書いてない)のアピールに繋がります。
    ◆1-D (5) ◆1-D (6) ◆1-D (7) ◆2-C (2) ◆4-B (1)
    ◆5-B (1) ◆5-D (1) ◆5-D (3) ◆5-F (5) ◆6-A (2)
    ◆7-B (3) ◆7-C (2)

(i) タイトルを活かしてドラマを生かす
  タイトルはドラマの看板・表札です。これを活用せずして展開させる手はありません。
  逆にタイトルが匂ってこない内容なら、そのタイトルは別に替えたほうがいいでしょ
  う。
    ◆1-D (3) ◆2-D (1) ◆6-B (3) ◆7-C (3) ◆7-C (5)

(j) 推敲のテクニックを磨く
  そもそも『推敲』とは“文章を練り直すこと”であり、“誤字脱字を修正すること”
  ではありません。後者だけなら『校正』と呼ばれる作業になります。
  よく考えながら書き上げた脚本であっても、まだ推敲の必要性はあります。何が不要
  で、何が必要か、どんな表現が適切か、一言一句、“てにをは”に至る表現まで、自
  作の完成度を高めることに努めます。
    ◆1-B (3) ◆1-C (2) ◆1-E (1) ◆2-B (1) ◆2-B (2)
    ◆3-D (1) ◆3-D (2) ◆4-A (1) ◆4-C (1) ◆4-D (1)
    ◆4-D (2) ◆5-A (1) ◆5-D (1) ◆5-F (2) ◆6-B (3)
    ◆7-A (2)

         ※         ※         ※

 ほかにも解説として伝えたいことはいろいろありますが、これで《了》とします。

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脚本『放課後泥棒』 作・塾生A (補作前の原作/2014年10月15日掲載)
脚本『放課後泥棒』の補作と解説(1) (2014年10月23日掲載)
脚本『放課後泥棒』の補作と解説(2) (2014年11月1日掲載)
脚本『放課後泥棒』の補作と解説(3) (2014年11月14日掲載)
脚本『放課後泥棒』の補作と解説(4) (2014年12月2日掲載)
脚本『放課後泥棒』の補作と解説(5) (2017年8月1日掲載)
脚本『放課後泥棒』の補作と解説(6) (2017年8月21日掲載)
脚本『放課後泥棒』の補作と解説(7) (2017年10月5日掲載)
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