『しのゼミ』 -79ページ目

『しのゼミ』

日常で出会った「気付き・笑い・学び」を綴っています

お昼過ぎに,同級生で近所に開業している「ラン・クリニック」へとある用事にて訪れた.

今日は土曜なため午後は休診.

静かなクリニック内だが,この一週間も実は大変だったようである.


「あのなシノ,開業医ってさぁ,午前の診察が終わったら,昼間は昼寝でもしていて,目が覚めたらおもむろに夕方からの診察を始める・・・ってなふうに思うやろ?」

「まあね」

「じつは午後ってさぁ,書類書きとか,紹介状書きとか,調べもんしたりとか,薬屋さんと話したりでさぁ・・・・・・ほとんど休む暇なく仕事でつぶれるんや」

「へぇ~,知らなんだわ~」

「先日も午後のクソ忙しいときに,モッキーが突然来てさぁ・・・・」


モッキーとは,これまた近くでクリニックを開業している同級生の女医さんである.

ランとモッキーは同じ医局出身であり,いわば「同じ釜の飯を食った」間柄.

しかもクリニックがご近所同士で,何かと会っていろんな話をするらしい.


「しょうがないので,近くの○○って喫茶店に行ったワケよ・・・」

「あ~,あそこね」

「あそこって,このあたりのヒトがいっぱい来るんだわ」

「・・・そうそう,このあたりのヒト達のタマリ場的な店だよね・・・」

「あそこのマスターや女将さんも,うちのクリニックによく来てくれるワケよ・・・」


喫茶店○○は,場所が便利な所にあるので,なんやかんやでよく利用されるお店である.

お客さんの多くが地元民で占められている.


「で,カウンター席で開業の苦労話をしてたらさぁ,モッキーの声がまたでっかくなってきてさぁ」

「ふむふむ」


・・・以下,喫茶店での場面を再現・・・

   「あのなぁ,ランさん,私らは外科じゃん?患者さんを切って治してきたじゃん?」

   「まぁ,切ってナンボやからなぁ」

   「でもな・・・開業じゃあ,それではいかん!」

   「ほう?」

   「患者さんにはなぁ,いつも来てもらわないかん」

   「まぁ,そうやな」

   「だから,治したらあかんのや

   「はっ?」

   「そうしたら,みんないつまでも来てくれるやろ?」


・・・その時,ランは見たそうだ.

マスターのコーヒーを淹れる手が止まったのを.

しかも,店内にはクリニックの患者さんらしき数名もいた模様.


   「・・・・・・・・・・声でかいって (←小声のラン)・・・・・・・・・」

   「は~あ,治らん病気があったらええなぁ

   「・・・・でかいって・・・・」

   「は~あ,冗談冗談!あはは」


「まったく,あははじゃねえよ・・・・冗談っつうのがタイミング的に遅いって!・・・・・あの声デカ女め・・・・・」

「あはは・・・・(けっこうおもしろ)」

「それでさぁ,モッキーが帰ったあと,マスターに言い訳みたいなこと言わなきゃあかんかったし・・・・・っで,その日は何もできずに午後がつぶれてさぁ・・・」

「あはは・・・・(そりゃたいへん)・・・・っで,それから患者さんの数どう?」

「・・・気のせいか,モッキー効果で少し減ったかもしれん・・・」


・・・まぁ愚痴ならいつでも聞くが,二人仲良しでなによりでした.
(昨日の続き)県内病理医が集う研究会で,なんとかこわ~いC先生からコメントを頂きたい思うう自分・・・・.

先輩のJI先生に相談してみるが,スルドイ指摘を受けてしまった.


「おまえ,研究会でC先生に教えていただきたいって言ったなぁ?」とJI先生.

「えぇ・・・まぁ・・・」

「そもそも,研究会にC先生より早く来てたことあったっけ?」

「・・・・・・・・・・」

研究会は午後に始まるのだが,確かに自分は開始時間ギリギリに着いていた.

まぁ遅刻しなけりゃいいか・・・っくらいにしか考えていなかった.

う~ん,痛いところを突かれた・・・・・


「だいたいさぁシノ君,教えていただきたいのなら,開始時刻30分くらい前に来て待っているっていう姿勢が大事なんじゃねーのか?」

「まぁ確かに.でも,30分前はちと早すぎな気も・・・」

「気持ちの問題よ,姿勢って言ってもいいか」

「姿勢ですか・・・」

「そういう姿勢を数年続けてみろよ・・・まぁ,5年くらいしたら,標本は見てもらえるようになるかもな」

「ごっ,5年もかかりますか・・・・・」

「それにさぁ,シノ君は発表する標本を穴の開くまで見とるんか?」

「いえ,さすがにガラス標本に穴が開くまでは・・・・(インチキ超能力者じゃあるまいし)・・・・」

「自分が発表する標本くらい,隅から隅まで見て全部記憶するくらいにしておかなくて,どうすんじゃい」

「確かに・・・」

「自分はホントにここまで見て一生懸命考えたけれども,あとはわかりません.申し訳ありませんが教えていただけませんでしょうか・・・・・っちゅう謙虚な姿勢やな」

話好きなJI先生は,スルドイ指摘ができてまんざらでもなさそうである.

確かに先輩先生に教えてもらう姿勢としては,礼儀が足りなかったか.

C先生ポリシーその1:基本マナーがなっていないもの,教えるべからず


「・・・では,標本を見た感想というかコメントはどうでしょう?頂けるようになるでしょうか?」せっかくなのでとことん聞いてやれ.

「コメントをもらうにもな,時間がかかるぞ」

「はぁ」

「ようやく標本を見てもらえるようになれたとすると,それからあと5年はかかるな」

「また5年ですか・・・」

「そう,5年経ったらようやく,オレはこう思う・・・っと,ひとこと言ってもらえるようになれる.まぁ病理医が半人前になるにはそれくらいかかるっちゅうワケや」

一般に医師は経験がモノを言う.

中身の濃い経験と勉強を常日頃からしており,イザという時にそれらを適切に引き出すことができる・・・,まぁそれが一人前の医師であるし,確かにそんなレベルに達するには10年以上の継続が必要だろう.

C先生ポリシーその2:ある程度のレベルに達するまでは,教えるべからず


「・・・それからな,標本の見方があってるとか違ってるとか言ってもらえるようになれたとしても,その理由はなかなか教えてくれん」

「っということは,理由を教えてもらえるには,また5年ですか?」

「んっ?よくわかったな.そう,5年よ」

「結局C先生に標本を見て頂き,お考えを聞き,その理由をお教え願うには,15年かかるってことですね」

「まぁそういうこっちゃ」


・・・15年後って言われても・・・・・ねぇ?

あきらめて,他をあたろっかな.

先輩病理医のJI先生から電話がかかってきた.

JI先生は,市内にある県立病院の病理部長先生である.

シノより6年ほど先輩のJI先生からは,いつも厳しいアドバイスや後輩イジメ?をして頂いており,いつも大変お世話になっている.

仕事上のことは何でもよく知っているJI先生・・・,ちょっと脱線した世事にも詳しく,世間話が長いのがやや玉にキズ,かな.


「もしもしシノ君,今度の研究会なあ・・・」


自分の住む県では,難しい病理変化や教育的な症例を県内の病理医が持ち寄る研究会が定期的に開かれるのだが,どうやらその研究会の通知らしい.

研究会には,自分の出身医局の先生を中心にして,だいたい20名弱が集まる.

市中病院の病理の先生が多く,年齢も30代~70代まで幅広い.

ちなみに,病理医の世界は「高齢化社会」にすでに突入しており,日本の病理医の平均年齢は50歳を超えているという・・・.

自分は40歳を越しているが,まだまだ立派な若手である.



さて,世の中にはいろんなヒトがいるが,病理の世界とて例外ではない.

特に年輩の「大御所」先生には,威厳があっておそろしいっていうかこわいヒトが多い.

自分のような「若手」はまったく頭があがらず,はじめっからまったく相手にされていない様にも感じる.

C先生もそんなこわ~い一人である.

こわい逸話ならいくらでも出てくるC先生.

たとえば自分の場合は・・・・・・・

新米時代のとある検討会でのこと.

発表スライドの一枚目の説明が少しうまくいかなかったのだが,その場を取り仕切っていたC先生に「すぐやめろ!来月やり直せ!」っと一喝され,二枚目のスライドに辿り着けずに終了・・・・・・・・っとか.

医局同門会のご案内のお電話にて,同門会での「最初のスピーチ」をお願いしたところ固辞されたことがあり,「そこをなんとかお願いしますよ~」っと,ほんの少しだけ馴れ馴れしく,ほんの少しだけしつこめにお願いしたところ,「オレはやらん! ガチャーン (←電話を切る音)」・・・・・・・・っとか.

C先生のこわさはカミナリの如く瞬間的にくる.

典型的な瞬間湯沸かし器であり,次回にお会いするときれいさっぱり何もなかったかの如し・・・である.

そんなC先生も参加される研究会.

しかし,C先生の前で発表しても,なかなかC先生からコメントを頂けない.

「C先生,どう思われますか?」などとお聞きしようものなら,「10年早いわー,×△□!×△□!」っと叱られそう・・・・・.

お話をお聞きしたいのは山々なのだが,なんとなくズルズルと遠慮していた.

ひょっとするとJI先生なら解決策を教えてくれるかも・・・


「JI先生,ちょっと聞いてもいいですか?」

「なんや」

「研究会で発表した標本に対するC先生のご意見を聞きたいんですけれども・・・・」

「聞けばいいじゃん」

「それがですね・・・自分がプレゼンしても相手にされていないっていうか・・・・・」

「ふ~ん」

「なんでもいいからコメントしていただきたいって言うか・・・・・」

「ふ~ん」

「なんか言ってくださいよ・・・・・・」

「甘い!」

「甘い・・・ですか?」

「おまえなぁ,いったいぜんたいどういう気持で研究会に標本を持ってきてるワケ?」

「まぁ,教えてもらいたいなって言うか・・・・」

「教えてもらいたい・・・っちゅうふうには見えんな」

「?」

「教えを乞う姿勢に見えんっちゅうこっちゃ」

「・・・・・」

「おまえを見てると,標本を見ていただきたいっていうよりも,標本を見せてやるっていうふうに感じる時があるぜ」

・・・う~ん,ナルホド厳しい指摘.(続きは次回)
昨日の続き。「術中迅速」にてどうやら間違ってしまった自分であるが・・・・・


っで,次なる問題はこれをいかに上手に担当医に知らせるか・・・ということである。

誰もが仕事上でミス(この場合は厳密にはミスではないが・・・)はしたくない。

できればそんな間違いなど気付かないで欲しい。

気付いたヒトがいたらうやむやになって忘れて欲しい。

隠せるものなら,どっかにポイッとしたい・・・

しかし,今の厳し~い世の中ではそんなことは許されない。

って言うか,そんなことをしても隠し通すことは不可能だ。

自分ひとりで完結できる世界なら可能かもしれないが,現代医療はチーム化しており,自然に同僚(他科の医師)やコワーカー(看護師さんなど)の目に曝される。

それに患者さん自身の知る権利も拡大しており,かつ基本的な医療情報が手に入りやすい環境にある。

まぁヘタなうそなど簡単にバレてしまう。

自分の間違いはすぐに明らかにして,謙虚に謝るのが最善である。

正直者が最後は勝つっていうか,むしろこういうケースは,正々堂々と詫びた方が,その行為は良い意味で自分に返ってくる・・・(っと自分は思う)。

「術中迅速で間違えることは避けられないこと(ミスじゃない)なので,そう簡単に頭を下げちゃいかん!」っといろんなヒトから言われるが,これも性格である。

大袈裟にいえば,生き方っとしてもいいかもしれん。

間違いは大小に関わらずスイマセンじゃいかんのか。

とにかく自分はバカ正直にど真ん中ストレート!で謝ることにしている。


っと言うことで,今回の担当の某外科・M先生にさっそく連絡することにしたワケだ。

医者っていってもさまざまなヒトがいる。

当たり前だけれども,いろんな性格のヒトがいる。

特にこうしたちょっとしたトラブルの場合に,その先生の性格がぽろっとでるのがおもしろい。

まぁ考えてみれば,イヤなこと・ツライこと・ストレスフルなこと・腹が立つことにぶちあたった時,ヒトの性格が丸出しになるのも当然か?。

先日に書いた某外科のW先生の性格も,「喧嘩腰で」一緒に仕事をしてきてわかったことだ。

今度のケースの担当医M先生は先輩にあたる。

豪快を絵に描いたような風貌と,竹を割ったような性格で,学生時代から名が知られていた先生だ。

同級生のランの先輩にあたるので,その武勇伝はよく聞かされていた。

・・・・・あんまり直接しゃべったことないけど,M先生ってこわいかなぁ(学生時代はW先生よりも有名だったしなぁ)・・・・・

・・・・・イヤなこと考える前に電話しちゃえっと・・・・・・


「おはようございます,病理のシノと申します。M先生ですか?」

「お~シノ先生,先日の術中迅速ではお世話になりました・・・・」

「・・・実はその件なんですけど,あまりよくないお知らせです」

「はぁ?」

「先日の術中迅速のお答えですが,戻してみたらどうも間違ってました・・・」

「・・・・・・・・・・」

「術中迅速では○○と思ったんですが,やっぱり△△でした」

「・・・・・・・・・・」

「勉強になりました。スイマセンでした・・・・・・・・」







すると・・・・・







「・・・・・よう知らせてくれましたナァ。ありがとうございます~。患者さんには,ガンの可能性があることはもう伝えてあります~。△△は頭の片隅にはあったんですが,□○△□○△・・・・・・・・」

元気のいい関西弁が帰ってきた。

とりあえずふう~・・・ほっ である・・・(M先生って,多分ええヒトやなぁ)。
「・・・・ちっ・・・ちがうやん・・・うっそぉ~」

朝一番に見始めた病理標本に「誤診」を見つけてしまった・・・・・・


誤診と思われる標本は「術中迅速の戻し」である。

「術中迅速」とは,手術最中に患者さんの病変から細胞を直に取って病理で調べる検査のこと。

具体的には,手術中に採取された細胞はすぐに病理へ提出→細胞を瞬間的に凍結させ,無理やり薄く切る→薄く切った組織を固定→染色→顕微鏡で見る→結果を外科医に報告・・・という過程を踏む。

この標本を作る全過程は15~20分程度の短時間で行われ,病理技師さんたちによるまさに「早業!」である。

「そんなことやっとるの,知らなんだわ~」と思われる諸兄も多いだろう。

西日本大学病院では,だいたい一日に20件弱の手術が行われているが,そのうち「術中迅速」検査が病理に提出されてくるのは2~3件程度で,そんなに多いものではない。

たとえば,病変が体の奥の方にあって細胞が取れない・・・とか,病変の広がりが分かりづらくって手術で全部取れたかどうか不安・・・とか,特別な理由がある場合に「術中迅速」が依頼される。

「術中迅速」検査では,出された細胞を見て,すぐに手術中の外科医に結果を知らせる必要がある。

なにしろまだ手術の真っ最中で,患者さんは手術台の上。

しかも,答える検査結果によって手術の方法が変わることもある。

そんな「待ったなし」な状態で「白か黒か」の正確な答えを求められる。

実際にやってみるとかなりのストレスを感じる。

術中迅速で標本にした「凍らせた細胞」はどうなるかというと,実はそれはまた溶かされて,通常のホルマリン固定(細胞を腐らないようにする」→蝋で固めて薄く切り→染色した病理標本とされる。

つまり,いつもやっているやり方で標本を作り直すことをする。

なぜそんなことをするか?というと,「術中迅速」で作った標本は「無理やり凍らせて」作ってあるので,正直見にくい。

細胞の形がいつもと違ってわかりづらい。

なので,「術中迅速」で標本がうまくできていたのか,その標本を間違えずに顕微鏡で診断することが出来ていたのか,といういわば「答え合わせ」のため・・・という意味もある。

この「答え合わせ」用に作られた病理標本を,「術中迅速」の「戻し」と呼んでいる。

っで,今日の朝に先日の術中迅速の答え合わせであるところの「戻し標本」を見たところ,見事に「ハズレ・・・」。

ガァ~~ン,ボロボロポトポト(崩れる自信の音)。


こういうことは病理をやっていると1年に1回はある。

なにも自分がダメ病理医というわけではない。

非常に少ない確率で起こってしまう避けられないことである。

今回のケースは,放っておくと耐えられない症状が出てくるので,手術で病変を出来るだけ取り除いた(この病変が術中迅速として提出された)ところ,病変内に手術前には想定されていなかったガンが含まれていた(術中迅速では血管芽腫に見えた)・・・というもの。

詳しい事情をちょっと横に置くが,とりあえず患者さんにとって取り返しのつかない結果にはならないようである。

ひとまず,ほっである。

病理医に限らず医師をしていると,こんな「首の皮一枚でなんとかつながった・・・」っていうような冷や汗モノの経験を誰もがしている。

「背負うモノ」が大きいと,それによる喜びも大きいが,ミスった時の喪失感も尋常じゃない。

一生懸命築き上げた自信が木っ端微塵にされて,また築き上げてもまた壊されて・・・・それを何度となくあきらめず繰り返していくうちに,土台がなんだかしっかりして壊れにくくなってくる・・・・・・。 

一端の医師への道は,ホントに「地道」だと思う。