「・・・・ちっ・・・ちがうやん・・・うっそぉ~」
朝一番に見始めた病理標本に「誤診」を見つけてしまった・・・・・・
誤診と思われる標本は「術中迅速の戻し」である。
「術中迅速」とは,手術最中に患者さんの病変から細胞を直に取って病理で調べる検査のこと。
具体的には,手術中に採取された細胞はすぐに病理へ提出→細胞を瞬間的に凍結させ,無理やり薄く切る→薄く切った組織を固定→染色→顕微鏡で見る→結果を外科医に報告・・・という過程を踏む。
この標本を作る全過程は15~20分程度の短時間で行われ,病理技師さんたちによるまさに「早業!」である。
「そんなことやっとるの,知らなんだわ~」と思われる諸兄も多いだろう。
西日本大学病院では,だいたい一日に20件弱の手術が行われているが,そのうち「術中迅速」検査が病理に提出されてくるのは2~3件程度で,そんなに多いものではない。
たとえば,病変が体の奥の方にあって細胞が取れない・・・とか,病変の広がりが分かりづらくって手術で全部取れたかどうか不安・・・とか,特別な理由がある場合に「術中迅速」が依頼される。
「術中迅速」検査では,出された細胞を見て,すぐに手術中の外科医に結果を知らせる必要がある。
なにしろまだ手術の真っ最中で,患者さんは手術台の上。
しかも,答える検査結果によって手術の方法が変わることもある。
そんな「待ったなし」な状態で「白か黒か」の正確な答えを求められる。
実際にやってみるとかなりのストレスを感じる。
術中迅速で標本にした「凍らせた細胞」はどうなるかというと,実はそれはまた溶かされて,通常のホルマリン固定(細胞を腐らないようにする」→蝋で固めて薄く切り→染色した病理標本とされる。
つまり,いつもやっているやり方で標本を作り直すことをする。
なぜそんなことをするか?というと,「術中迅速」で作った標本は「無理やり凍らせて」作ってあるので,正直見にくい。
細胞の形がいつもと違ってわかりづらい。
なので,「術中迅速」で標本がうまくできていたのか,その標本を間違えずに顕微鏡で診断することが出来ていたのか,といういわば「答え合わせ」のため・・・という意味もある。
この「答え合わせ」用に作られた病理標本を,「術中迅速」の「戻し」と呼んでいる。
っで,今日の朝に先日の術中迅速の答え合わせであるところの「戻し標本」を見たところ,見事に「ハズレ・・・」。
ガァ~~ン,ボロボロポトポト(崩れる自信の音)。
こういうことは病理をやっていると1年に1回はある。
なにも自分がダメ病理医というわけではない。
非常に少ない確率で起こってしまう避けられないことである。
今回のケースは,放っておくと耐えられない症状が出てくるので,手術で病変を出来るだけ取り除いた(この病変が術中迅速として提出された)ところ,病変内に手術前には想定されていなかったガンが含まれていた(術中迅速では血管芽腫に見えた)・・・というもの。
詳しい事情をちょっと横に置くが,とりあえず患者さんにとって取り返しのつかない結果にはならないようである。
ひとまず,ほっである。
病理医に限らず医師をしていると,こんな「首の皮一枚でなんとかつながった・・・」っていうような冷や汗モノの経験を誰もがしている。
「背負うモノ」が大きいと,それによる喜びも大きいが,ミスった時の喪失感も尋常じゃない。
一生懸命築き上げた自信が木っ端微塵にされて,また築き上げてもまた壊されて・・・・それを何度となくあきらめず繰り返していくうちに,土台がなんだかしっかりして壊れにくくなってくる・・・・・・。
一端の医師への道は,ホントに「地道」だと思う。