始業式が近づくと,我が家はがぜん急がしくなる.
「いっ君,とにかくはやくして・・・」
妻の悲痛な叫びが聞こえる.
「ん~あとちょっとで漢字が終わる」
いっ君の宿題ラストスパートである.
おそい夕食をとっていると,妻が食卓に習字道具を用意し始めた.
「なにしとんの?」
「いっ君の書き初めの用意」
「そんな準備なんて,やらせって」
「もう時間ないし・・・・しょうがないわ・・・・」
すずりに墨汁をいれ,筆をおろし,文鎮の汚れを落とす母.
「いっ君,どういう字を書くんだっけ?」
「希望!」
習字紙に丁寧に折り目をつけた母は,自ら「希望」と書き始めた.
いちおう昔とった杵柄でそこそこの「希望」を書き上げ,本人も出来栄えに満更でもなさそう.
まさか・・・・ゴーストライター・・・・?
「なにしとんの?」
「見本!」
「はっ?」
「見本を書いてあげてんの!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・」
そこまでせんといかんのか~
・・・・・そうこうするうちに真打いっ君の登場だ.
いっ君はたっぷり墨をつけて「えいや」っと豪快にいくのだが,習字独特の「はね」とか「とめ」にはお構いなし.
自然,母はあれやこれや言いたくなる.
「・・・・そこ,とめてとめて・・・・・・あ~あ,もう・・・」っと,うるさく口を出す.
「しっかりこうハネて,ここしっかりトメて・・・もう」っとなんべんも言うのだが,そんなにうまくコトは運ばない.
「・・・・しょうがない,いっ君・・・・一回,一緒に書いてあげるから・・・・」と言った母は,いっ君の真後ろに陣取って,二人して筆を持ち,「希望」と書き始めた.
まさに「手取り足取り」である.
「ここはこうハネて・・・」二人して持った筆だが,よく見るとほとんど母が動かしている.
ついには「いっ君,もっと力抜いて!」などと言っている.
「で~きた~,まぁこれでいいや」
って,ほとんど母が書いただろうがっ!
「さぁ,いっ君,つぎつぎ・・・」
書き初めを終えたいっ君は勉強机に移動し,習字道具の後片付けは母の仕事となった.
こんなんじゃアカンわなぁ・・・・・・・・