それは、僕の人生で一番自由で、そして一番不自由な時間だった。
僕は2011年3月、大学受験に失敗した。
高校三年生の頃の僕。初めての大学受験だ。今までの模試を受けた感覚も悪くない。第一志望の大学はわからないけれど、それより一つレベルを落としたところなら確実に受かるだろう。
そんなことを思いながら僕は2011年2月に東京にやってきた。たくさんの参考書を持って。僕は池袋駅にも行ったし、高田馬場駅にも行った。
全敗だった。
僕は北海道に戻った。志願していた大学に全て落ちた。想像していたことが現実になった。SNSでは皆の合格発表が目についた。僕はまるでどうすればいいかわからなかった。
すると、自宅に一通の封筒が届いていた。道内の国公立大学の合格通知であった。僕はセンター試験だけで受験できる方法でその大学に出願していたのだ。地元の国公立大学だ。北海道大学ほど有名ではないけれど、就職ではとても実績のあるすばらしい大学だ。僕はその大学の合格通知を手にした。
だけど僕はそこを蹴った。
僕は浪人することを選択したのだ。
今ではなぜそんなに浪人したかったのか覚えていない。ただ、当時の僕は自分の志望していた大学に落ちたという現実を受け止められなかったのかもしれない。志望している気持ちだけは誰よりも強い自信があった。当時の僕の目の前には、浪人すること そして 進学すること の二つの選択肢があった。進学すれば、実家通いになって、学費も安く、親にかける迷惑をなるだけ減らすことができる。
だけど僕は浪人することを選択したのだ。合格した大学を蹴ってまで。
「一年だけチャンスをくれ。一年頑張って、また落ちてしまったら。僕はどんな大学でも胸を張って進学する」
そう言って僕は母に誓った。
反対意見もあった。
「どうして進学しないのか?」「浪人に失敗して、今年受かった大学より下の大学になってしまったらどうする?」「浪人したからといって成績が上がるわけじゃない」「本当に一年間まじめに勉強できるのか」「もし全落ちしたらどうするんだ?」
それでも僕は首を振った。
僕は別に、受かった地元の大学に対して決してマイナスな印象は当時も無かった。当時の僕にとってもあの大学はすばらしい大学だったし、実際にあの大学を目指して受験勉強をしている人がたくさんいることも知っていた。でも当時の僕にとって問題はそういうものではなかった。
「もしあのとき浪人していたら___」
僕がそのまま受かった大学に進学したら、四年間ずっとこの思いが頭をよぎり続ける、そう思ったのだ。いや、四年間だけではない。死ぬ瞬間にそのことを後悔するかもしれない。
「もう一年間あれば、あの大学に行けたかもしれない」
ぼくは浪人しなければ、絶対に後悔すると思った。もし浪人に失敗しても、後悔して進学するよりよっぽどマシだ、とそう本気で考えていた。それが、高等教育を終えたばかりの18歳である。
僕は自分のお金で予備校に通った。幸い、現役時代に受けた模試の影響でいろいろ割引を受けて20万円くらいで通えるようになった。僕が母から受け取るお金は昼食代の500円のみとなった。
ずいぶんと苦学生みたいな書き方をしているが、僕はいまでもこれが正しいと思う。自分のことを自慢するわけではないけれど、予備校代は自分のお金で払うべきである。もちろん僕は今の大学の学費は親に全額払ってもらっている。絶賛スネかじりまくりだ。だけれど、大学の学費と、予備校代の学費ははっきり言って、まったく別物である。予備校に通うことになった原因は、人それぞれあろうが、99パーセント、自身の努力不足だからである。完全に自分のせいで、一年足踏みする。そんなふざけた学費は自分で払わなければいけないと思う。現実的に払うのが困難な場合でも、この事実を受け止める必要があると思う。それぐらい浪人するという行為は、生半可な気持ちでやってしまってはいけないものなのだ。この四月、浪人生は自分のことを徹底的に省みなくてはならない。なぜ、自分は浪人したのか。 自分を突き詰めなくてはならない。親に甘えてぬるぬるとした気持ちで浪人すると絶対に成功しない。
当時の僕も含めて、たいていの浪人生はこの時期、気持ちだけは相当に立派だ。自分は確実に一年後第一志望の大学に受かると信じて疑わない。だけれど、少なくとも、自分は負けたのだ、という事実をしっかりと受け止めなくてはならない。
選択を強いられるとき、人間はその思いが強ければ強いほど、その選択なんて関係ない。どちらを選んでも成功すると思う。だけれど、思いが曖昧なら、結局共倒れである。
浪人するには覚悟がいる、というのは本当で、その覚悟とは「自分は受験に一度負けた人間なのだ。これから一年間余分に親に迷惑をかけるのだ。だけど、私は、それでも、だとしても、どうしても行きたい大学があるのだ」
そんな強い覚悟。それが浪人生にこの時期求められるものなのだ。
またいつか自身の経験に絡めて浪人生活について書きたいと思います。
時期がくれば……。


















