この作品を読むのは、5年前の初読に続き、今回が二度目となる。
再読によって、文と更紗の関係性に対する理解が深まるかと思ったが、やはり彼らの感情に完全に寄り添うことはできなかった。
「幼い少女を連れていく」という行為の重さを知りながら、それでもそうしてしまう文の心情は、彼の立場に立たなければ分からない。
本能が湧き上がったとき、人はそれを理性で抑えられるのか──そんな問いが浮かんだ。
この物語が描く「事実」と「真実」の隔たりは、まるで月と地球ほどに遠く、曖昧で脆い絆の中に、愛とも恋とも呼びきれない感情が揺れている。
彼らの関係にぴたりと当てはまる言葉が見つからない。運命というにはあまりに不確かで、ただ「名づけ得ぬ何か」としか言いようがない。
十五年の歳月を経て、ふたりは再び出会う。
その間に現れた梨花という存在は、ふたりの間に静かに接着剤のような役割を果たしていた。
理解してくれる人がいることの幸福、そして、無為のようでいて有意義な時間を共に過ごすことの意味──梨花がもたらしたものは、救いであり、再生だったのだと思う。
読み終えたとき、私は願っていた。
文と更紗、そして時々梨花。三人で穏やかな日々を紡ぎながら、静かな幸せを育んでほしいと。
251P
「あ、あの、家内さん、もしでたらめだったとしたら、ぼくは抗議したほうがいいと思う。つらい思いをした人をさらに傷つけるなんて、そんなの許されないよ」
わたしはなにも答えられない。事実と真実の間には、月と地球ほどの隔たりがある。その距離を言葉で埋められる気がしない。黙って頭を下げているしかできなかった。
「ご迷惑をおかけしました」
謝罪しながら、頭の中が混乱していた。
一体わたしは、なんの罪で、誰に対して、なにを謝っているのだろう。
308P
これだけインターネットが発達した世の中で、ぼくと更紗が完全に忘れ去られることはないのだろう。生きている限り、ぼくたちは過去の亡霊から解き放たれることはない。それはもうあきらめた。あきらめることは苦しいけれど得意だ。
けれど悔し泣きをしている梨花と、その梨花を抱きしめている更紗を見たとき、そんな苦しさも、吐き出した息と一緒に空へと放たれていくように感じた。
事実と真実はちがう。そのことを、ぼくという当事者以外でわかってくれる人がふたりもいる。最初に更紗、次に梨花、ぼくは一時期関わった幼い少女ふたりの、今ではそれぞれ大人びた横顔を、ぼくは言葉にできない気持ちで見つめていた。
-もういいだろう?
-これ以上、なにを望むことがある?
<目次>
一章 少女のはなし
二章 彼女のはなしⅠ
三章 彼女のはなしⅡ
四章 彼のはなしⅠ
五章 彼女のはなしⅢ
終章 彼のはなしⅡ
凪良ゆうさん
滋賀県生まれ。“小説花丸”2006年冬の号に中編「恋するエゴイスト」が掲載される。翌年、長編『花嫁はマリッジブルー』で本格的にデビュー










