魔女がいっぱい

THE WITCHES

 

〔勝手に評価 = ★★ = いうほどファンタジック?〕

 

2020年/アメリカ映画/104分/監督:ロバート・ゼメキス/製作:ロバート・ゼメキス、ジャック・ラプケ、ギレルモ・デル・トロ、アルフォンソ・キュアロン、ルーク・ケリー/原作:ロアルド・ダール/脚本:ロバート・ゼメキス、ケニヤ・バリス、ギレルモ・デル・トロ/撮影:ドン・バージェス/出演:アン・ハサウェイ、オクタヴィア・スペンサー、スタンリー・トゥッチ、ジャジール・ブルーノ、コーディ=レイ・イースティック、クリスティン・チェノウェス、クリス・ロック ほか

 

【気ままに感想】

 

『パンズ・ラビリンス(2006)』『シェイプ・オブ・ウォーター(2017)』のギレルモ・デル・トロ、『ハリー・ポッターとアズカバンの囚人(2004)』のアルフォンソ・キュアロンといったダークファンタジーの雄が製作側に名を連ねている本作。

どのくらいダークな内容なのかというと…いつもの?ロバート・ゼメキス作品。

相変わらずちょっとふわふわしたおとぎ話的なお話(今回は直球おとぎ話と言ってもよいでしょうか)に悪趣味な要素をとってつけたよう加えて、ハッピーエンドのようでスッキリしない終わり方…。

ある意味“健在!”です。

いずれにしても、なぜ今この作品なのか??

という趣旨がよくみえない。何をやりたかったのでしょうね?

 

貧困な黒人家庭とセレブとの経済格差問題を比喩的に批判している…というわけでもない。

事故で突然両親を失った主人公の黒人少年(ジャジール・ブルーノくんという男の子が可愛らしく演じています)は、可愛そうな孤児…というわけでもなく母方のおばあちゃん(オクタヴィア・スペンサー『ヘルプ~心がつなぐストーリー~(2011)』でアカデミー助演女優賞受賞が演じる)に引き取られるのですが、決して裕福ではないにしても、豪華なホテルのスイートルームに滞在させてもらえるくらい頼もしい友人が居て、何かに不自由をしている…というわけでもない。

主人公と同様に魔女の魔法によって“ネズミ”の姿に変えられてしまう男の子は白人のふとっちょくん(コーディ=レイ・イースティックという男の子がボーッとしたキャラクタを実に上手に演じています)で、こちらはどうやら裕福な家庭のおぼっちゃま…という設定のようですが、両親から盲目的な愛情を注がれているようでもなく、魔女によって主人公と同じ境遇=ネズミになってからはお友達になって、対立点はありません。

 

主人公サイドと対立的な立場にあるのが、アン・ハサウェイをボスとする、魔女の一団で、こちらは比喩的に、“セレブな悪役”として描かれていますが、魔女の仲間には(皆が着飾ったセレブだけれど)白人だけでなく黒人も居る。

しかも、魔女は手放しに恵まれた富裕層という訳ではなく、比喩的な表現のひどさ…という点では、主人公が黒人であったり、その友達がふとっちょくんだったりする以上に差別的です。

「魔女の手の指は3本」「魔女の足の指はなくて棘のような爪が生えている」「頭には髪の毛がなくていつもカツラで隠しているのでムレて潰瘍ができている」「子どもの臭いをかぎ分けるために鼻の穴がデカい」という設定の無神経さにはびっくりします。

さすがに、障がい者団体やパラリンピック委員会などからワーナー・ブラザーズに抗議があったそうですが(髪の毛が薄くて苦労をしている人も文句を言っていい)、そもそも、「魔女」という設定そのものが「魔女狩り」といった、女性に対する暗い差別の歴史を思い起こさせて居心地が悪くなるものですが、それに輪をかけた意味の分からない問題設定。

もともと原作があるといっても(3本指など映画オリジナルの設定のようですが)、この悪趣味さは“ダークファンタジー”の面白さ…というより、単なる“ダーク”

こういう雰囲気が好きな人が集まってできた作品とはいうものの、やっぱりちょっとどうなのか??

低予算B級のカルト作品くらい露悪的に徹しているならまだしも、前述のようにふわふわした、ファミリー向けのメジャーな大作ファンタジー作品!だというのですから、何ともブラック(よく考えたらこの表現ももしかしたら問題表現なのかもしれませんね~)なジョークにしか感じられません。

何を主張したいのかよくわからない、不思議な大作になってしまいました。

 

さて、ここから先は結末に触れますので、モロ、ネタバレになりますのでご注意ください。

 

このチョコレートケーキに唐辛子を混ぜ込んだような作品の最大のキモはラストのオチ。

物語は、子どもたちに魔女の危険を語る“おじいさん”の声と昔ながらのスライド(カチャカチャやって切り替えるやつ…今では、そんなの見たことない子どもたちばかり…いや親もそうか…になっていますね)で始まるのですが、この声の“おじいさん”が主人公の男の子が歳をとった姿…という設定です。

男の子が8歳で事故に遭ったのが1968年。

2020年には60歳で還暦前後の計算ですが、イマドキそんなスライドの機械なんてそれ自体どこにもないよね…という違和感を覚えながら始まります。

で、ラストにわかるのが、実はおじいさんが話しているのは現代ではなくて、やっぱり70年代前後のまま…ということ。だから、カチャカチャさせるスライドでお話するのも当たり前。

つまり、魔女からネズミにされた男の子は…ネズミのままだった!

というのがショッキングなオチなわけです。

ネズミの寿命は短い。

男の子は人間に戻れないままに、あっという間に高齢者になってしまった…。

 

えっ??

それでいいの?

一緒にネズミにされてしまった、ふとっちょくん、おばあちゃんがくれたペットと思っていたハツカネズミももとは人間の女の子で、3人…3匹は、おばあちゃんと一緒にネズミのままに楽しく暮らして、そしてあっという間に老いて死んでいくのです。

「どんな境遇であっても、それを前向きに受け入れて、元気に生きて行くのが大切!」

というのがこの作品からのあたたかいメッセージです…っていうのですが、それは違うはずです!!

やっぱり“映画”なのですから、前向きメッセージであれば、それなりの“改善”があるべきで、「何もかわりませんでした」は決して、子ども向け、ファミリー向けのおススメ作品ではない。

確かに同じ境遇のネズミ友達との友情や協力は大事だし、おばあちゃんの暖かい愛情もありがたい。

でも、娘夫婦を事故で失って、さらに孫までも魔法で数年の寿命にされてしまったおばあちゃんが明るい気持ちで過ごせるとは、とても思えない。

製作者の意図としては、そんな前向きなメッセージとは思えず、むしろ

「魔女が退治されて魔法が解けてめでたしめでたし…と思ったでしょう?残念でした!!」という邪悪な思いであったに違いない!

どう考えても、観客に対して「あっかんべー」をしているような幼稚で悪質ないたずらをしかけたようにしか思えない。

「驚きと希望に満ちた、ファンタジー大作」「大人も子どもも楽しめるマジカルな感動作」…とはとても思えません。

“(将来の)希望が無くても今が楽しければそれでいいじゃないか!”という自暴自棄な感覚のみ感じさせる。

最後に、スライドを見た子どもたちと一緒に、魔女退治…というか“魔女狩り!”に飛び出していく老いたネズミさんたちの心境としては、正確には“希望に満ちた”というよりは、やっぱり戦いの中に身を置くことで、わが身の不幸を一時的に忘れている…戦いこそが生きがい!になっている…まるで、戦争に囚われてしまったどこかの国の病んだ兵士の姿のようです。

こんなの子どもに見せていいの??

何とも要注意な作品でした。

 

出演している2人の男の子たちは、途中からCGのネズミさんになってしまうのですが、実写場面でも上手に演じています。どちらも、はっきり言ってしまえば、ちょっとパッとしない、どこにでもいる子、という性格付けなのですが、そんなダサさがうまい!(笑)どんな役者として成長していくのでしょう?ちょっと興味。

話題になっているのは何と言っても、本作の実際の主役アン・ハサウェイ。

可愛らしい(役が多い)のになぜか嫌われている?アン・ハサウェイ。それならいっそ思い切り悪役やろう!という気概が感じられ、メイクもばっちり!…ですが、コメディエンヌというにはちょっと役者としての性格が違う。

宙に浮いたり、大げさな表情で演じてみたり、いわゆる「スラップスティック・コメディ」に近いキャラになるのですが、そういうのは違和感かなりあります。

言うほどはまり役ではなかった…やっぱり、ちょっとウザいくらいの可愛らしい役の方が似合っている。

自虐的に悪役を演じて世間に媚びを売るより、潔く、大きな目をうるうるさせて有無を言わせない演技力を見せつけてきっぱり世の人に嫌われていく路線を歩むべきではないかな~。どうでしょう?

そして、何より本作で一番魅せたのはおばあちゃん役のオクタヴィア・スペンサー。

万人から愛されるキャラクタを嫌味なく演じていました。

さすが!!

一番美味しいところを持っていきました。

 

★★★★★ 完璧!!生涯のベスト作品

★★★★  傑作!こいつは凄い

★★★   まあ楽しめました

★★    ヒマだけは潰せたネ

    失敗した…時間を無駄にした

 

☆は0.5