シビル・ウォー アメリカ最後の日

CIVIL WAR    PG12

 

〔勝手に評価 = ★★☆ = どうしてSF??〕

 

2024年/アメリカ映画・イギリス映画/109分/監督・脚本:アレックス・ガーランド/製作:アンドリュー・マクドナルド/撮影:ロブ・ハーディ/出演:キルステン・ダンスト、ワグネル・モラウ、スティーヴン・マッキンリー・ヘンダーソン、ケイリー・スピーニー、ソノヤ・ミズノ、ニック・オファーマン ほか

 

【気ままに感想】

 

あの、ガーリー映画の雄(この日本語の表現って、変ですね。あえて言えば『雌』ってことですが、なぜここでジェンダーが…)、キルステン・ダンストが…こんな風な立派な「大人の女性」…というか、まあはっきり言ってしまえば“おばちゃん”になって…。

正直びっくり。

『パワー・オブ・ザ・ドッグ(2021)』でアカデミー賞助演女優賞にノミネートされるほど実力派女優になっている(とはいえ『パワー・オブ・ザ・ドッグ』は未見。カンバーバッチは何となく食指が動かないので…(汗))し、キルステン・ダンストも40代になっているので、実際にガーリーな女優ではなくなっているのはわかります。

むしろ、キャリアは長いしいくつもの大作に出演していて歳の割には大御所とさえ言える存在ですから、演技力に関しては十二分。本作でもオーラはきっちり感じます。

とはいうものの、逆に貫禄があり過ぎて、その上、“おばちゃん”演技が素晴らしいので(笑)、このイメチェンには度肝を抜かされます(大げさですね)。

キルステン・ダンスト、恐るべし(爆)

 

ところで、よくわからないのが、本作の設定。

タフでストイックな戦場カメラマン(キルステン・ダンスト)…本作では“フォトジャーナリスト”と呼ぶべきでしょう…を主人公にするのだから、当然殺伐とした“戦場”が舞台になるのはわかります。

だけど、それが、架空の、しかも「アメリカ合衆国でのクーデター」…というちょっと起こりそうもない“戦争”を題材にしているのはいったいどういう意図なのでしょう。

確かに、これまでも、悪い人たち(テロリストあるいは宇宙人だったり)が“正義の”大統領(ホワイトハウス)を襲う…というアクション映画はありました。

時には、現代アメリカ社会らしい“分断”によって市民同士が争うこともあるでしょう。

でも、“悪い”大統領が正義の市民から天誅を下されるって、それにしてもイマイチ面白味のない設定です。

言うまでもなく、リアルで深刻な“戦争”が現に各地で起きている世界で、リアリティの欠片もない“お遊び”のような諍いを舞台にするのは、何とも理解ができません。

女性たちのリアルな葛藤と成長の物語を描こうというのでれば、当然ですが背景となる舞台もシビアなものとするべきであった…と思います。

 

今まさに銃弾が飛び交い、ミサイルが降り注ぐ、ガザ地区やウクライナ…でなくても、中東の危険地帯やアフリカの中部、北方の危ない国など、まさに“シビリアン”が危険で厳しい生活を強いられている事例は現に至るところにあるし、まさに世界の危機とも言える時代になっているわけです。

そのような世界の危機、社会の対立に鋭いメスを入れよう…という趣が少しでもあったのであればわかります。

でも、本作では、自国のことばかり考えるようになった感がしてしようがない“ぬくぬくしたアメリカ”が舞台で、物語は、若くて素人に毛が生えたような新人フォトジャーナリスト(ケイリー・スピーニーが演じていますが、実は、こちらが本作の本筋のヒロイン)がベテランのジャーナリストたちに育てられながら一人前になっていく…という、極めてプライベートなお話ばかりで、本作における“戦争”は、単に背景化してしまっている。

また、2人の女性フォトジャーナリストとその仲間たちが、危険を押してワシントンDC(ホワイトハウス)に向かうのは、赤裸々に真実を暴き、社会的な何かを弾劾する…といった目的があるわけではなく、

単に「特ダネ(14か月インタビューに応じない大統領に独占インタビューをする)がほしい」だけ。

何とも、ジャーナリストとしてのプライドも倫理観もない、身も蓋もないような動機なので、感情移入もしにくい…という残念な作品になってしまっています。

 

もっとも、見どころが全くない…という作品と評価するのは酷でしょう。

少なくとも、本作が(高潔な理想はないものの)“まじめ”な作品であることは間違いないです。

テーマも“若者の成長”というくくりでみれば良質に作られているのは誰もが感じるでしょう。

そして何より主人公2人の女優が素晴らしい。

冒頭でキルステン・ダンストの変貌ぶりには触れましたが、重複になりますけど、すっかり実力派女優になっているその演技力には脱帽です。

さすがに、色々なクリエイタたちからも注目されてきた人です。

チャラチャラしたところのない、ストイックなベテランのフォトジャーナリストの、堂々とした風貌には、本当にこれがキルステン・ダンスト??と思うこと間違いなし。

男勝りのつけ入るスキのない様子の中に、繊細な女性らしさや戦場の恐怖を伝える心の機微をきっちり演じてみせる、巧みな演技力には全くもって舌を巻きます。

それから、先述しましたが、本作の本来の主人公はケイリー・スピーニーが演じる、駆け出し新米のフォトジャーナリスト…フォトジャーナリスト、というより、「フォトジャーナリストを目指している女子」で、米国の内戦の様子を撮影しながら、先輩方の教えも受けて現場で成長していく…という役。

現代風の女子なのだけれど、どこかしっかり芯があって、生死の境を経験して恐怖にも怯えつつ最後には何となく貫禄もできてくる。

その二人の立ち位置は、おそらく、実際のキルステン・ダンストとケイリー・スピーニーの立場にも重なります。

子役時代から頭角を現していた、ガーリーなキルステン・ダンストが本作で貫禄タップリの先輩を演じるほどの実力派女優となり、同じように、『パシフィック・リム:アップライジング(2018)』で新人デビューしたケイリー・スピーニーが今年公開される本作、そして『エリアン:ロムルス(2024)』で主役を演じて華々しく活躍する姿は、本作におけるベテランと新人のフォトジャーナリストの役柄と重ね合わされています。

しかも、キルステン・ダンストが本作でこれまでのガーリー女優から路線変更して無骨な役を演じているのは、イメチェンを図ろうとするチャレンジであり、年齢の問題も含めて、そうせざるを得ない葛藤や迷いがあったと想像され、その姿は、一見クールなベテランであるように見えながら、死の恐怖を人並みに恐れたり、台頭する新しい才能への嫉妬心や他人との競争に負けることへの不安など、ベテランはベテランなりの苦悩を抱えていることを、本作においても見事に演じています。

また、若手ながら脂がのってきているケイリー・スピーニーも、キルステン・ダンストとの掛け合いの真剣勝負はなかなか見ごたえがあります。決して、先輩女優に臆することなく、若手の軽率とも言える活発さと弱さをきっちり演じていて、なかなかのものです。

 

一方、繰り返しになりますが、その背景が実際の戦争ではなく、アメリカ国内の対立という架空の出来事としたために現実味が欠けてしまって、折角のリアルな成長物語がフワフワとしたものになってしまったのは本当に残念です。

人がリアルに死ぬシーンも無暗にふんだんに出てきますが、どうしてアメリカ国民同士が(大統領が気に入らないからと言って)ここのように殺し合いまでしなければならないのか、何とも分かりにくいので、単にグロいシーンが続くことに対する不快感ばかりが先に立ってしまいます。

おそらく、今後の選挙による社会の分断…ということも念頭に置いて比喩しているのでしょうが、そのことや対立点すらも曖昧にしている(なぜ大統領が気に入らないのか明確でない)ので、どうしてもファンタジックに感じてしまって、締まりがなくなっています。

A24作品…というと、ちょっとシニカルで捻りが利いたイメージがするのですが、それが本作では裏目に出て“小賢しい”作品になってしまった…というのが正直な感想です。

 

それでも、現在旬な二人の女優さんたちの熱演については、一見の価値ありの作品ではないか、と思います。

キルステン・ダンスト、ケイリー・スピーニー、二人の今後の活躍は要注目かもしれません。

 

★★★★★ 完璧!!生涯のベスト作品

★★★★  傑作!こいつは凄い

★★★   まあ楽しめました

★★    ヒマだけは潰せたネ

★     失敗した…時間を無駄にした

 

☆は0.5