神奈川に住んで40年あまり、弟に委ねた実家の処分も済んで、名古屋とは遠くなつたなと思つた折に、中学校の同窓会案内状が届いたのです。遠くないのだと思ひ直し先日、お墓参りを兼ねて2泊3日で行つて来ました。

 

65歳で生まれて初めて参加する同窓会。参加者約80名。しみじみよいものでした。装いは誰も華美でなく、普段着にスニーカーも着物姿もスーツもいろいろ、結構暑い日でしたので私はシャツに腕まくり。学歴や経歴を誇る者もなく、皆ごく自然に中学3年生に戻つてゐました。

 

あの空間と云ふのは、リアル・タイムスリップですね。面識のない同窓生も多いのですが、笑顔、笑顔、笑顔。男性も女性も親しく打ち解けて話せるのが驚きでした。全8クラス、iPadで撮りまくりましたので、帰つてから卒業記念アルバムと比べて、あれは○○さんと云ふのかなどゝひとりごちてゐます。

 

肖像権がありますので和やかなお祭りの写真は紹介できませんが、あなたもゝし機会がありましたらご参加をお勧めします。昔のよくない思ひ出とかこだはりなどで欠席するのはもつたいないです。

 

まア一杯いかう 好いことばかり思出して

よけいな心づかいなんか忘れつちまいな

 

『ルバイヤット』堀口梁歩譯(昭和22年南北書園刊)

 

さう、皆、いゝことばかり思ひ出すので、こころが浄化されてゐるものですから。

 


 

 

 

最終日は、富岡鉄斎の水墨画展を見に、三河湾に程近い碧南市現代美術館へ足を伸ばす。以前「長谷川利行展」を見たので2回目だ。昔から鉄斎の作品には注目してゐて、宝塚の清荒神清澄寺鉄斎美術館を見たいと思ひながら果たせずにゐた。

 

 

画集も3冊持つてをり、彼の掛け軸をフレスコ壁画で模写したことさへあつたのだが、実物は一度も見たことがなかつたのだ。

 

それで、実見した感想はといふと、これが想像を絶してゐた。

 

篆書、隷書、草書、行書、楷書、かなと書体は変幻自在、絵は写実性を超越したへたうまの理想郷と云ふような認識だつたのだが、実際は、怖ろしく腕が立つ絵描きであつた。上掲した私の模写「渓居清適図」の賛の部分は、

 

耳はつんぼにして眼はくらけれども腕に神あり

筆をとつてなほはらう硯田の塵

八旬に六を加へて(86才にして)遊戯をむさぼる

太平徒食の民たるをまぬがれず

 

と書かれてゐるのだが、「腕に神あり」とは大した自負だな、くらゐにしか思はなかつた。まさか、ねえ。

 

ところが彼の作品群を見た後ではさすがに首肯せざるを得ない。篆画、隷画、草画、行画、楷画、かな画とでも呼ぶべき、画体も変幻自在。お見せ出来なくて残念だが、海、波の表現。拙い我が筆では逆立ちしても敵はない。凄まじいものを見たものだ。

 


 

旅の最後は、名古屋市東区大曽根の徳川美術館である。

 

 

 

名古屋に育ちながら、徳川美術館に行つたことは一度もなかつたので、せつかくのこの機会に行かうと決めていた。「源氏物語絵巻」を東京の博物館の国宝展で昔見たやうな見ないやうな。今回はしつかり視るぞと乗り込んだ。

 

65才以上は1400円。おお!生まれて初めてのシニア割引。

 

絵と詞書の場面ごとに裁断された「源氏物語絵巻」

巻物のままでは絵具が剥離しやすいし、この方が鑑賞しやすいので是非もなからう。

 

 

 

 

写真撮影OKなのに驚いた。プライベートな展示品は不可で、フラッシュ光や音を発しないやう注意する必要はある。いづれにせよ、ガラス越しなので画集ほどには撮れないけれど。

 

鎌倉時代初期に描かれた国宝「源氏物語絵巻」の展示は、柏木一点のみだが、じつくり見られて満足この上なし。

 

 

 

これらは 、土佐光則(みつのり/1583~1638)の代表作「源氏物語画

おそろしく小さい。拡大鏡を用いて描いたらしい。絵のサイズをネット検索すると14.0x13.5cmとある。これもまた私の筆では描けさうにない極小世界であつた。

 

他にも見どころは多い。

 

 

 

 

これは十二単の再現展示(原寸大)

 

名古屋の方は是非どうぞ。かくて嬉しき3日間は終はり。